↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冷遇された後妻ですが、義理の息子を守っていたらいつの間にか家族になっていました  作者: 秋月 爽良


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/36

第二十三の手 スキル覚醒は気絶と共に

 部屋の中には、薬草を煎じた匂いがほんのりと漂っていた。

 薄暗い灯りの下、テオはうっすらと汗をかきながら眠っている。


「奥様、坊ちゃまは先ほどよりも、また少し顔色が悪くなっているように見えます……」

 

 マリネが眉をひそめながら、テオの額にそっと触れる。

 私は黙ったまま、薬瓶のラベルをひとつひとつ確認していた。

 

「出された薬に間違いはないの……ウォルターが目を光らせてるおかげで、細工もできないようね」

「それならどうして坊ちゃまの具合が良くならないのでしょう。他にも何かされているということですか……?」


「その可能性はあるかもしれないわね。私たちが見落としてることがあるはず」


 声を潜めて話しあっていると、テオが小さくうめき声をあげ、体をぎゅっと縮こまらせた。


「テオ、どうしたの……大丈夫!?」

「母しゃま……おなか、いたい」


 その声に、部屋の空気が凍りついた。

 私はすぐに顔を上げ、マリネに向かって指示を飛ばす。


「マリネ、すぐにお医者様を呼んで! それから——」

「はいっ、すぐに!」


 どうして……気を付けてたのに。

 薬も食事も何度も確認して、みんなにも協力してもらってた。

 

「テオ、テオ……!」


 ベッドに駆け寄り、必死に声をかける。

 強く握り返された手に、焦りと震えが止まらない。


 前の人生では、薬は信じて疑わないものだった……だけどここは違う。

 毒を仕込むなんて、簡単にできてしまう。


 でも、まだそうと決まったわけじゃないでしょ!?


 ふたつの考えが消えては浮かび、お互いを打ち消し合いながら、頭の中をグルグルと駆け巡る。

 ただ今は、医師の判断を仰ぐしか。


「どうか、女神様……この子を守って」


 汗を拭き取りながら、視界に表示されるテオの数値は赤く点滅していて、心細くなった私はシーツをぎゅっと握り締めた。


 ガタンと廊下から大きな音がして、慌ただしい足音が近づいて来る。


「エ、エリシア……テオ!」 


 勢いよく扉を開け、息を切らせながら駆け込んできたのは、ボロボロの姿のレオニスだった。


「え……旦那様?」


 なんでこんなに早く帰ってきたの?

 予定はまだ先だったはず……それに今は、それどころじゃないの。


「今、戻った……テオに何かあったのか!?」


 レオニスのマントはボロボロで、靴は泥にまみれていた。

 彼は荒い息を吐きながら扉の側に立ち尽くし、私の言葉を待っているようにも見える。


 なんで遠慮しているの?

 それに戦場って、こんなになるんだ……って、今は冷静に観察してる場合じゃないから!


「お帰りなさい、旦那様! でも今、こっちは手一杯なんです! マリネ、準備できた!?」

「奥様! できました!」


 私が声をあげると、レオニスはハッと我に返ったように顔を上げ、なぜか少し嬉しそうに部屋へ足を踏み入れようとした。


「駄目です! お風呂に入って、身体を綺麗にしてきてください!」

「えっ!? あ、ああ、わかった。そうする」


 泥だらけの身体でテオに近づいたら、この子に影響があるかもしれない。

 名残惜しそうに扉の前で立ち止まるレオニスに、私はきっぱりと言い放った。


「旦那様、先にお風呂へ行ってください!」


 マリネが急いで持ってきてくれた水と布を受け取り、そっとテオの額の汗をぬぐう。

 目の前に浮かぶ数値は、真っ赤に点滅している。


 ごめんね、ごめんね、テオ。

 どうか、持ちこたえて……!


 私の不安をよそに、数値はどんどん上がっていく。

 

 また、守れないかもしれない。

 そんな考えが頭をよぎると、自分自身の無力さに腹が立ってくる。


 何なのよこのスキル……全然役に立たないじゃない。


「白き手か何か知らないけど、どうせなら治療法ぐらい表示しなさいよ……!」


 憎らしげに呟くと、目の前の数値はまたフリーズした。

 今までのエリシアや自分の記憶が、フラッシュバックのように一気に流れ込んでくる。


 私は意識を失いそうになるのを何とか堪えた。


「エリシア!」

「奥様!?」


 レオニスが駆け込んできて、私の身体を支えてくれる。


「大丈夫か!? おい、医者を呼べ!」

「お……」


「ん? 何だエリシア、言ってみろ!」

「……お風呂……入って」


 そのまま私は、レオニスの腕の中で意識を手放した。


 ◇


「……あれ、ここは?」


 目覚めたとき、まだぼんやりとしている視界に最初に映ったのは、見慣れた天井だった。

 重く感じるまぶたをどうにか持ち上げると、すぐ横に座っている人影が目に入る。


「……エリシア、目が覚めたのか?」


 低く、かすれた声の持ち主がレオニスだと気づいた瞬間、心臓が飛び跳ねた。

 

「だ、旦那様! あ……あの子は!?」


 慌てて辺りを見回すと、テオが小さな寝息を立てて眠っていた。

 無理矢理腕を伸ばし、そっと額に触れる。


 頬の赤みは少し引いていたけど、まだ油断はできない。

 目の前の数値はオレンジに点滅し、注意が必要だと知らせていたから。


「熱は少し下がったようだ。マリネたちがずっと看病してくれた……君は、丸一日眠っていたんだ」


 そう言った彼は視線を落とし、何か複雑な表情をしている。

 私から見える横顔は、いつもの冷たい仮面じゃなかった。


 疲れ切って、それでも彼なりに悩んでいるような、そんな顔に見えた。


 そっか……やっぱり自分の息子の具合が悪いんだもの、心配だよね。

 私は倒れちゃったみたいだし、そりゃビックリするよ。


 でも、テオが無事で良かった。

 あの子に何かあったら、悔やんでも悔やみきれないから……。


「ありがとうございます、旦那様。ご迷惑をおかけしました」

 

 急に礼を言われて、彼はほんの一瞬驚いたように目を見開いたけど、すぐ不器用に視線を逸らした。


「……君は」

「はい? どうかされましたか?」


「いや……なんでもない」


 なんなの……変な人。


「それより旦那様。お疲れのようですし、少しお休みになったらどうですか?」


 自分でもわかってる。

 そばについててくれたこの人に対して、声が少しだけ冷たくなったのを。

 

 でも、そう簡単に許せないこともやっぱりあるから。

 それに、私は私で守るべきものを決めたの……。


「ここにいたら邪魔か?」

「いえ、そんなことは……」


 口ごもると、ふと視界の端に光が走った。


 『白き手のスキル、1段階レベルアップです! 新機能追加! 是非クリック、クリック!』


「……え?」


 目の前で、チカチカと矢印が点滅し始める。

 ちょっと待って、これ、どうやってクリックすんの……いや、不親切すぎない!?


「……シア。エリシア」

「ハッ! えっ、何ですか!?」


「いや、君の顔が……次々と複雑に変化しているから」

「……ぶはっ! あっ、ごめんなさい、つい。ずいぶん遠回しな言い方をするんですね」


「そんな風にも笑えるのか……」


 吹き出した私を見て、レオニスは目を丸くする。


「あーこれは、ええと……」

「いや、いい……テオも落ち着いてるようだから、とりあえず休め」


 彼はそう言って立ち上がり、部屋から静かに出て行った。


「……なんだろ? まあ、いっか」


 急いでベッドを抜け出し、テオの小さな頬にそっと手を当てる。


「新しいスキルとやらを、試してみようじゃないの」


 浮かび上がった数値の下に、さらに小さな文字が、かなりのスピードで流れていく。


「いや、小さすぎるし早いって。もっとゆっくり、大きく表示して」


 口にしてからハッと気づいて、慌てて周りをキョロキョロ見回した。

 ひとりでブツブツ呟いているところを見られたら、頭がおかしくなったと思われそうだもの。


「あ、仕様が変わってる……って私が気付いてなかったのかな」


 文字は、それを注視すると拡大できるようになった。

 

「これ、赤く点滅してる……こっちは、薬になる成分ってこと?」


 先にこの成分が含まれている物を探さないと。


「マリネ、いる?」

「奥様、どうかされましたか?」


「ここに書いてあるものをすぐに用意して」


 運良くそれは私も知っている成分で、簡単に手に入るものにも含まれていた。

 煎じた薬を飲んだテオは、やがてすうすうと寝息を立て始める。


「テオ、もう大丈夫だからね」


 またあの書庫へ入らないと……それには彼の許可がいる。

 さっきのレオニスの不器用で、でも思い詰めたようなあの表情が脳裏をよぎる。

 

 彼の驚いて目を丸くした瞬間を思い出すと、ふっと笑いが込み上げた。


「……これ、レオニス本人も巻き込めばいいんじゃないの?」


 我ながらいいことを思い付いた、とニヤリと笑って、さっそく私はマリネに彼を呼びに行ってもらった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。