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第七話 静かな反撃

第七話前書き


【登場人物】

ロベリア

白い髪と、青紫の瞳を持つ幼い少女。

故郷と母を失い、森での小さな暮らしを経て、今は外の世界へ踏み出そうとしている。

青紫の瞳には“精霊眼”と呼ばれる特別な力が宿っており、他の者には見えない気配や魔力の偏りを感じ取ることがある。

また、自らの内に眠る冷たい質の魔力に、少しずつ触れはじめている。


アズリス

白銀の神獣のもとに遺された、小さな幼獣。

ロベリアに名を与えられ、その傍らで日々を共にしてきた。

まだ幼く頼りないが、ロベリアとは不思議な感覚の繋がりを持ち、ときに青紫の宝石のブローチの中へ身を隠すこともできる。


セヴラン

森の中でロベリアが出会った、黒いローブを纏う死霊術師。

死の気配や魔の残滓を辿る術を持ち、ロベリアに外の世界の知識や、自らの力を知るための手がかりを与えた。

その教えは短くぶっきらぼうながら、ロベリアの旅立ちへ少なからず影響を残している。


エドガル・フェイン

ラドルを拠点に周辺の村や街を行き来する商人。

実務的で頭の回転が速く、商人らしい計算高さを持ちながらも、礼を失わない大人の男。

ロベリアが外の世界の仕組みに触れるきっかけとなる人物。


【用語・設定】

精霊眼

ロベリアの一族に伝わる、青紫の瞳に宿る特別な力。

魔力、精霊、妖精、霊など、この世ならざるものの気配や存在を見通すことができるとされる。

幼い今はまだ不安定だが、魔力の流れや危険の兆しを捉えることがある。


青紫の宝石のブローチ

ロベリアの母が遺した、青紫色の宝石のブローチ。

精霊や妖精にまつわる力が宿ると伝えられており、高位の妖精あるいは精霊が神秘の力で作り出した古代の遺物、アーティファクト。

母の形見であると同時に、アズリスがその内へ出入りできるなど、不思議な器としての性質も見せはじめている。


神獣の魔石

白銀の神獣が遺した、魔力を内包する特別な石。

青紫の光を秘め、アズリスやブローチとどこか近しい気配を持つ。

ロベリアにとっては、神獣から遺されたもうひとつの大切な存在である。


魔力

この世界に満ち、人や獣、妖精/精霊、遺物にも宿る力。

ロベリアの中にも“冷たい質”を帯びた魔力が眠っており、今はまだ未熟ながら、氷としてその片鱗を現しはじめている。


死霊術師

死や、その痕跡にまつわる術を扱う者。

死の気配や残滓、想いの残響のようなものに触れ、読み取る術を持つとされる。

外の世界では“ネクロマンサー”とも呼ばれ、セヴランもそのひとりである。

外の世界

双子山と森の外側に広がる、ロベリアの知らない広い世界。

人の国、街、術、信仰、さまざまな種族や生き方が存在し、森の中の常識だけでは生きていけない場所でもある。

ロベリアは今、その入口へ足を踏み入れようとしている。

ラドル

ロベリアが目指す街のひとつ。

森の外にある人の街であり、商人や冒険者たちが行き交う場所。

ロベリアにとっては、未知の世界と新たな生き方へ繋がる最初の足場となる。


冒険者ギルド

魔物討伐、護衛、採集、運搬など、さまざまな依頼を仲介する組織。

魔石や素材の買取も行い、登録すれば身分証となるギルドカードが発行される。

身寄りのない者にとっては、稼ぎと身分を得るための現実的な道のひとつでもある。


魔石

魔物の体内などに生まれる、魔力を宿した結晶。

武具や魔道具の素材として扱われ、状態や大きさに応じて換金することもできる。

神獣の遺した特別な魔石とは異なり、外の世界では資源や価値ある品として流通している。

 村を出てから、ロベリアは厚手の白いローブを羽織っていた。

 少し大きめのそれは、幼い身体をすっぽり覆い隠してくれる。雪晒しのような淡い白はところどころ薄くくすみ、長く使われてきた布地らしい擦れもあったが、そのぶん旅の道具としての現実味があった。厚く織られた布は風を通しにくく、何よりフードを深く被れば髪も耳も顔立ちも影の中へ沈む。

 声を聞けば子どもだとはわかる。

 体格も隠しきれない。

 それでも、何も隠さず歩くよりはずっとよかった。

 人のいる場所では、アズリスもブローチの中へ隠している。胸元にある青紫の宝石の奥には、白銀の気配が静かに眠っていた。母の形見であるその石は、ただの装飾品ではない。高位の妖精か精霊の手によって作られた古い遺物――そんなことを言葉として知っているわけではなくても、触れれば分かる。あれは、ありふれた石ではない。

 村で教えられた通り、ロベリアはラドルへ続く街道を進んでいた。

 森の小道とは違い、踏み固められた土には荷車の轍と馬蹄の跡が残っている。人の行き来がある道だ。知らない誰かの生活が、目に見える形でここを通っている。

 ロベリアはフードの奥から周囲を窺いながら歩いた。

 人影が見えれば道の端へ寄る。

 遠くで話し声が聞こえれば、すれ違うまで視線を伏せる。

 必要以上に見られないように、覚えられないように。

 幼い一人旅など、それだけで不自然だ。

 だからこそ、歩き方ひとつにも気を張る。

 日がやや傾きはじめた頃だった。

 街道の先に、不自然に止まっている馬車が見えた。

 ロベリアは足を止める。

 一台の荷馬車が、道の真ん中で斜めに止まっている。馬は怯えたように首を振り、荒い鼻息を漏らしていた。御者台の脇では、馭者らしき男が片腕を押さえて崩れかけている。指の隙間から、赤黒い血が流れていた。

 荷台の陰には、もう一人。

 身を低くして隠れている、商人らしき人影。

 そして、その周囲を取り囲むように数体の魔物がいた。

 狼に似たもの。

 獣の輪郭を保ちながら、瘴気に侵されたように毛並みは乱れ、黄色く濁った目だけが異様に光っている。

 その光景を見た瞬間、ロベリアの呼吸が止まりかけた。

 血の匂い。

 倒れた人。

 囲まれた誰か。

 脳裏に、あの日の集落の光景がよみがえる。

 地に伏したまま動かない人々。

 冷たくなった身体。

 何もできずに見ているしかなかった自分。

 喉がひりつく。

 足が一瞬、地面に縫い止められたように動かなくなる。

 また、同じになる。

 そう思いかけた時、馭者の男が苦痛に顔を歪めながらも、それでも荷台の陰を庇うように身体をずらした。

 まだ生きている。

 まだ、間に合う。

 ロベリアは息を吸い込んだ。

 怖い。胸の奥が軋む。今すぐ逃げたい気持ちもある。

 それでも、泣いている時間はなかった。

 その時、青紫の瞳の奥で、景色の輪郭がわずかに変わった。

 精霊眼が、魔力の流れを捉える。

 魔物たちの脚へ力が集まる瞬間。

 飛びかかろうとする気配の偏り。

 怯えた馬から散る不安定な熱。

 傷を負った馭者の命の揺らぎ。

 ロベリアはそれらを一息のうちに見た。

 ローブの裾を掴み、地を蹴る。

 馬車へ向かって駆け出した。

 一体の魔物がこちらへ気づき、唸り声を上げる。ほかの魔物も一斉に振り返った。濁った目が自分へ向く。

 ロベリアは足を止めず、右手を前へ突き出した。

 胸の奥の冷気を引き上げる。

 以前、魔物へ止めを刺した氷のつぶて。

 前へ。

 まっすぐ。

 突き刺す。

 淡青の光が右手の先へ集まり、氷の結晶がひとつ生まれる。今度は、意図して作れた。その事実に一瞬だけ安堵がよぎる。

 けれど、照準は甘かった。

 放たれたつぶては先頭の魔物をわずかに外れ、その背後、群れの中心近くの地面へ突き刺さる。乾いた音とともに氷片と土が散った。

 外した。

 だが、立ち止まらない。

「……下がってください」

 馬車へ駆け寄りながら、荷台の陰の商人へ短く告げる。自分でも驚くほど、声は静かだった。

 次の瞬間、ロベリアは両手を地へ向ける。

 馬車を中心にした周囲の地面。

 轍の刻まれた土。

 魔物の足元。

 そこ一帯を凍らせる。

 そう思った瞬間、白い冷気が地を奔った。

 ロベリアの足元から放たれた冷気は、馬車の周囲へ扇状に広がり、半径十メートルほどの範囲を一気に白く染める。霜のような薄い膜が重なり合い、次の瞬間には淡く光る氷の地面へ変わった。

 魔物たちの足が止まる。

 一体は前脚を大きく滑らせて転び、別の一体は後脚の先を凍りつかせて唸った。完全に封じたわけではない。力任せに踏み砕こうとするものもいる。だが足場を奪われれば、動きは確実に鈍る。

 場の流れが止まった。

 ロベリアは息をひとつ吐く。

 恐怖は消えない。けれど、その奥で頭だけが不思議なほど冷えていた。

 まだ動けるものがいる。

 馭者は立てない。

 商人は無事そうだが隠れたまま。

 馬は怯えている。

 先に、動けるものを止める。

 魔物の一体が、凍った地面を引き裂くようにしてこちらへ向かおうとする。ロベリアは結晶を頭上へ作って落とすことも考えた。だがそれでは決め手に欠ける、とすぐにわかった。

 落とすのでは足りない。

 もっと近く、もっと確実に。

 その時ふいに思い出したのは、ゼヴランが腰に下げていた短剣だった。

 森の中で、護身用として常に身につけていた短い刃。

 飾りではなく、使うための武器。

 ロベリアは右手を見る。

 ここに、刃を。

 そう意識した瞬間、空気が変わった。

 氷とも、魔力ともつかない淡い粒子が、右手のひらへ引き寄せられる。白く、青く、微かにきらめくそれらは掌の上で渦を巻き、ゆっくりと一本の形を結んでいった。

 柄。

 鍔。

 そして、刃。

 それは短剣と呼ぶにはあまりに透き通り、美しすぎる氷の刃だった。

 青紫の淡い光を宿し、金属にはない冷ややかな透明感を放つ。武器というより、凍てついた意思そのもののように見えた。

 ロベリアはそれを握り直す。

 冷たい。

 けれど、手には不思議と馴染んだ。

 最も近い魔物が、牙を剥いて身を起こす。

 ロベリアは躊躇わず踏み込んだ。

 派手な声は出さない。

 叫びもしない。

 恐怖も震えも、今は全部胸の奥に沈める。

 足元を取られた魔物の懐へ入り、首筋へ氷の刃を走らせる。鈍った動きでは避けきれず、魔物は苦鳴を漏らして崩れた。

 次の一体へ身体を返す。

 今度は顎の下へ、短く鋭く刃を突き上げる。

 一体、また一体。

 必要なだけ。

 それ以上はなく。

 フードの奥で、ロベリアの青紫の瞳だけが静かに敵を見ていた。怒りも興奮も表に出ない。ただ止めるべきものを止めるためだけに動いている、その静けさがかえって年齢不相応な冷たさを帯びていた。

 最後の一体がなお身をよじって立ち上がろうとした時、ロベリアは一歩だけ距離を取る。

 右手の短剣を構える代わりに、左手を前へ差し出した。

 前方に、氷のつぶてを。

 今度は迷わない。

 落ちるだけではない。

 飛ぶための形。

 貫くための意思。

 淡青の結晶が空気の中に生まれ、そのまま矢のように打ち出される。

 ひゅっ、と鋭い音。

 氷のつぶてはまっすぐ最後の魔物の喉を穿ち、その身体を後方へ弾き飛ばした。

 それで、終わった。

 街道に静けさが戻る。

 馬の荒い息だけが妙に大きく聞こえた。

 ロベリアはその場に立ったまま、すぐには気を抜かなかった。精霊眼で周囲を確かめる。まだ動くものがいないか、隠れた気配はないか。視界の奥に残る魔力の揺らぎは、もう薄れていくばかりだった。

 右手の短剣は、役目を終えたように静かに粒子へほどけ、消えていった。

「……まだ、動けますか」

 最初に声をかけたのは馭者へだった。

 馭者の男は呆然とロベリアを見返したあと、痛みに顔をしかめながら頷いた。

「あ、ああ……腕をやられたが、死ぬほどじゃねえ……」

「血が出ています。押さえてください」

 短く告げて、ロベリアは荷台の陰へ目を向ける。

「そちらは」

 ゆっくりと顔を出したのは、恰幅のよい中年の男だった。質は良いが旅用に実務的な外套を羽織り、整えた口髭の奥で乾いた唇を舐めている。怯えてはいるが、目だけはまだよく動いていた。状況を見る目を失っていない。

「た、助かった……。私は無事ですとも。いやはや、本当に」

 男はそう言ってから、倒れた魔物の骸を見回した。驚きと安堵のあと、その視線には商人らしい計算の光が一瞬だけ宿る。

「話はあとで。まだ血が」

 ロベリアがそう言うと、男は一瞬目を丸くして、それから苦笑した。

「これは失礼。ええ、その通りですな」

 言われてすぐ馭者のもとへ向かうあたり、頭の回転は速いらしい。

 応急処置がひとまず済み、馬も多少落ち着きを取り戻した頃、男は改めてロベリアへ向き直った。

「改めて礼を。私はエドガル・フェイン。ラドルを拠点に、周辺の村と街を行き来している商人です」

 胸に手を当て、丁寧に一礼する。

 言葉遣いは柔らかいが、へつらう軽さではない。相手が子どもであっても、命の恩人として扱うだけの礼節があった。

「……ロベリアです」

 ロベリアは少しだけ間を置いて名乗った。余計なことは言わない。

「ロベリア殿、ですか。いやはや、お若いのに見事なお手並みでした」

 エドガルはそう言いながら、倒れた魔物の一体へ歩み寄った。そして慣れた手つきで小刀を取り出す。

 ロベリアはわずかに目を細めた。

「……何を」

「魔石ですよ」

 エドガルは手を止めずに答える。

「魔物の体内にできる核のようなものでしてね。弱い個体のものでも、武具や魔道具の素材に使える。ですから、こうして倒したあとは回収するんです」

 やがて彼は、小さく濁った結晶のようなものを取り出した。完全な透明ではなく、不純物を含んだような鈍い輝き。それでも内側には魔力めいた光が宿っている。

 エドガルはそれを袋へ入れ、別の死骸からも同じように取り出していく。

「魔石はお金になります。冒険者ギルドへ持ち込めば、状態と大きさに応じて買い取ってもらえますよ。弱い魔物のものでも価値はあります。数をまとめれば、それなりの額になる」

 ロベリアは黙って見つめた。

 魔物を倒したあとに、そんなものが残るとは知らなかった。

 すべて回収し終えると、エドガルは袋の口を結び、それをロベリアへ差し出した。

「これはあなたの取り分です。仕留めたのはロベリア殿ですから」

「……私に?」

「当然でしょう。私は真っ当な商人ですので、命の恩人から戦利品まで掠め取ったりはしませんとも」

 口元に少しだけ笑みを浮かべる。その言い回しは軽いが、渡す手には迷いがなかった。

 ロベリアは少しためらってから、袋を受け取った。

 見た目以上に、わずかに重みがある。

 馬車が再び動き出したのは、それからしばらく後だった。

 ロベリアは荷台の隅に座る。フードは深く被ったまま。白い布の影が顔の上半分を覆い、幼い輪郭だけがかすかに覗く。アズリスはまだブローチの中に隠れている。

 対面では、エドガルが馭者の様子を確かめてから、こちらへ向き直った。

「先ほども少し触れましたが、あの魔石はギルドで換金できます。冒険者ギルドというのは、依頼の斡旋だけでなく、そうした魔物由来の品の買取もしているんですよ」

「……冒険者ギルド」

「ええ。魔物討伐、護衛、採集、運搬。そういった仕事を仲介して、冒険者へ回す組織です。ギルドに登録すれば身分証になるカードも発行される。街へ入る時にも役立つことがあります」

 そこで一度言葉を切り、エドガルは指を折った。

「ラドルのような街へ入る方法は、大きく三つ。紹介状など身分を証明できるものを持っているか、冒険者のギルドカードを見せるか、あるいは通行料を払ったうえで身元を保証する保護人を立てるか、です」

 ロベリアは膝の上で袋を握る。

 街へ着けばそれで終わりではない。外には外の仕組みがある。

「魔石は、武具や魔道具の素材になると言いましたね。逆にそうした素材を調達したければ、自分で狩るか、魔物のドロップ品や素材を扱うギルド商会へ行くのが早い」

「ギルド商会……?」

「ええ。名前の通り、ギルドが運営している商会です。一般の商会より出所がはっきりしていて、鍛冶師や魔道具師、冒険者なんかも利用します」

 エドガルはそこで少しだけ声を落とした。

「ただし、珍しいドロップ品や希少素材となると話は別です。ギルドが買い取ったそうした品は、原則として国で管理することになっている。ですから滅多に市井には出回りません」

 ロベリアはフードの影の下で顔を上げる。

「出回らないのに……必要なら?」

「その場合は、入手した本人が自分で使うか、非公認の競りに流れるか、あるいは秘密裏に売買されることもあります」

 そこまで言ってから、エドガルは口髭を指で撫で、小さく笑った。

「もちろん、私は真っ当な商人ですよ。裏の話を知らぬほど世間知らずではありませんが、わざわざ足を突っ込むつもりもない」

 その言葉には冗談めいた響きがある。

 けれどロベリアには、そこに一本筋の通ったものも感じられた。

 利益の匂いがしても、何でもかんでも手を出すわけではない。

 そういう種類の大人なのだろう。

「……街に入るなら、ギルドカードがある方がいいんですね」

 ロベリアがそう言うと、エドガルは少し目を細めた。

「そうですね。身寄りのない者、紹介状を持たない者、どこかに属していない者には特に。冒険者という生き方は危険もありますが、身分と稼ぎを同時に得られる道でもあります」

 身寄りのない者。

 その言葉は、静かに胸へ落ちた。

 森の中では、生き延びることだけでよかった。

 けれど外では、食べるための金がいる。街へ入るための身分がいる。居場所を得るための肩書きがいる。

 冒険者。

 その言葉が、ぼんやりではなく少しだけ現実味を持ち始める。

 仕事を受け、魔物を倒し、魔石を換金し、身分を得る。

 それは森を出たばかりのロベリアにも、かろうじて手が届くかもしれない道だった。

 エドガルは少し身を乗り出す。

「もっとも、今すぐ決める必要はありませんとも。ラドルへ着けば、街の空気もわかる。ギルドも見られる。その上で考えればいい。必要なら、登録の段取りくらいは私が口添えしても構いません」

 ロベリアは小さく頷いた。

「……はい」

 短い返事。

 だがエドガルは、それ以上無理に話を引き出そうとはしなかった。

 馬車は揺れながら街道を進んでいく。

 窓の外には、見知らぬ空と、知らない土地が続いていた。

 怖さはまだ消えない。過去も消えない。

 それでも今日、ロベリアは血の光景から目を逸らさなかった。

 泣き崩れず、立ち尽くさず、静かに飛び込み、止めるべきものを止めた。

 その事実が、胸の奥で冷たく静かに残っている。

 ロベリアは膝の上の魔石の袋へそっと触れた。

 そこには、外の世界で初めて自分の力が得た、目に見える価値が入っている。

 白いローブのフードの奥で、青紫の瞳を伏せる。

 まだ幼い顔立ちのまま、その横顔だけがひどく静かだった。

 ラドルの街は、もう遠くない。

第七話後書き

※作中では魔術名は表記していません。

※読者の方にイメージしやすいよう、後書きでは便宜上、名称を付けて記載しています。

【ロベリアの使用魔術】

氷の魔術

《アイスショット》

氷の結晶を打ち出す攻撃術。

小さな氷弾をまっすぐ飛ばし、対象を貫く。

《フリーズ》

地面や足元を凍らせて敵の動きを止める術。

広範囲を一気に凍結させ、足場を奪うことができる。

《アイスウエポン『短剣』》

氷粒を凝縮し、氷の短剣を生成する術。

近接戦闘に用いるための氷の武器であり、使用後は粒子へほどけるように消える。


最後まで読んで頂きありがとうございます。

続きは次回更新をお待ちください。

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