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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第52章 黒巣(ブラック・ネスト)》――街の裏側は、いつも静かだ

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黒巣は、沈黙しない

異変は、

戦場が静まり返った直後に起きた。


派手な爆発でも、

悲鳴でもない。


むしろ――

音が、消えた。


「……静かすぎない?」


ミリアが、眉をひそめる。


黒巣の制御室。

さきほどまで唸っていた魔術式が、

今は規則正しく、何も主張しない光を放っている。


「制御、切られてない」


カイラが端末を見たまま言う。


「むしろ逆」


「……最適化されてる」


「最適化?」


エルドが聞き返す。


「自壊前提の構成に、だよ」


カイラは短く息を吐いた。


「この拠点、もう“使い捨て”」


「追跡も、逆探知も、

 ここからは一切取れない」


ノウンが、静かに付け足す。


「つまり――」


「黒巣は、

 ここを失う前提で動いていた」


空気が、冷える。


「……幹部が死ぬのも、想定内?」


エルフィナが、小さく問う。


「当然だ」


答えたのは、蒼衡《そうこう/アズール・バランス》。


表情は、変わらない。


「黒巣は“人”を資産として見ていない」


「使えるか、使えないか」


「それだけだ」


そのとき。


制御室の奥、

壁面の魔術陣が――一斉に消えた。


「……切り替え?」


リュカが即座に反応する。


「違う」


「これは――

 外部からの遮断」


「……やられたな」


ミリアが舌打ちする。


同時だった。


通信石が、

一斉に沈黙する。


クロスロードの闇と繋がっていた

細い糸が、

全部、断ち切られた。


「……街が」


エルドが、低く言う。


「口、閉ざしたな」


情報屋、運び屋、

裏の案内人。


今この瞬間、

クロスロードの“影”が――

一斉に息を潜めた。


ノウンが、淡々と状況を整理する。


「黒巣は、

 反撃していない」


「だが――」


「“逃げ場”を全部、消した」


「俺たちの、か?」


ミリアが問い返す。


「違う」


ノウンは、首を振る。


「黒巣自身のだ」


その言葉に、

一瞬、全員が理解に遅れる。


だが――

すぐに、意味が落ちてくる。


「……なるほど」


蒼衡が、静かに笑った。


「もう、

 引く気がない」


「中途半端な逃走は、

 切り捨てる」


「街ごと、

 盤面にする気だ」


エルフィナが、

胸元で手を握る。


「……それって……」


「市街戦?」


「いや」


蒼衡は、即答する。


「もっと、厄介だ」


「日常を、

 戦場にする」


ミリアが、剣を肩に担ぐ。


「……クソ野郎ども」


「上等じゃん」


「望むところだろ?」


エルドが、盾を叩いた。


「逃げねぇ敵の方が、

 分かりやすい」


カイラは、端末を閉じる。


「でも――」


「相手は、

 もう“組織戦”に切り替えてる」


「次は、

 現場じゃない」


「人の繋がり、

 仕事、

 生活――」


「全部、狙ってくる」


沈黙。


誰も、否定しない。


蒼衡《そうこう/アズール・バランス》は、

ゆっくりと背を向けた。


「ノーリトリート」


「覚悟は、いいか?」


ミリアが、即答する。


「今さら」


エルフィナも、頷く。


「……守る……」


エルドは、短く言った。


「潰す」


ノウンが、淡々と締める。


「黒巣は――」


「こちらを、

 “対等な敵”として認識した」


「それだけで、

 十分だ」


制御室の照明が、

完全に落ちる。


黒巣は、

もうここにいない。


だが――

街の中に、溶け込んだ。


戦いは、

次の段階へ移る。


最初に異変に気づいたのは、

エルドだった。


「……おい」


低く、短い声。


全員が、

その視線の先を見る。


制御室の外。

通路の奥――


人が、倒れていた。


「……誰だ?」


ミリアが、慎重に近づく。


倒れているのは、

クロスロードの運び屋だ。


顔に見覚えがある。

裏で情報を流す代わりに、

表では真っ当に商売をしている男。


「……死んでる?」


エルフィナが、声を震わせる。


エルドが、首を振った。


「生きてる」


「だが……」


男の胸元を確認し、

眉をひそめる。


「……喋れない」


喉元に、

細い魔術刻印。


血はない。

傷もない。


だが――

“声を出す”という機能だけが、

きれいに奪われている。


「……口封じ」


カイラが、即座に判断する。


「さっきの幹部と、

 同系統の術式」


「でも――」


端末を操作し、

唇を噛む。


「殺してない」


ノウンが、静かに言った。


「見せしめだ」


「……見せしめ?」


ミリアが、男を見る。


恐怖で、

白目を剥きかけた視線。


「そう」


ノウンは、淡々と続ける。


「殺せば、

 情報は止まる」


「だが――」


「“喋れないまま生かす”と、

 恐怖は連鎖する」


その瞬間。


遠くで、

何かが崩れる音がした。


「……今度は何だ?」


リュカが、顔を上げる。


「市街方向だ」


蒼衡《そうこう/アズール・バランス》が、

即座に判断する。


「行くぞ」


全員が、

無言で走り出す。


――――


現場は、

思ったよりも“普通”だった。


店が、ある。

人も、いる。


だが――

空気が、異様だ。


「……誰も、喋らねぇ」


ミリアが、低く呟く。


露店の商人。

行商人。

冒険者。


視線を合わせても、

誰も言葉を発しない。


「……通信、全部死んでる」


カイラが、端末を見ながら言う。


「魔術通信、

 非公式回線、

 全部――遮断」


「……黒巣、

 やりすぎだろ」


エルドが、歯を食いしばる。


「違う」


蒼衡は、周囲を見回しながら言う。


「これは――」


「“支配”だ」


エルフィナが、

胸元を押さえる。


「……怖がってる……」


「……街、

 息してない……」


そのとき。


路地の奥で、

誰かが倒れ込む。


ノーリトリートが駆け寄る。


若い少年だ。

運び屋の見習い。


目は、開いている。


だが――

震えて、声が出ない。


「……同じ刻印」


カイラが、確認する。


「黒巣は、

 “情報を持つ人間”を

 片っ端から潰してる」


「でも殺さない」


「……選別してる」


ノウンが、静かに結論を出す。


「話す者は、

 “無力化”」


「逃げる者は、

 “消す”」


「街を使って、

 敵の視界を奪っている」


ミリアが、拳を握りしめる。


「……卑怯すぎる」


「そうだな」


蒼衡は、否定しない。


「だが――」


「それが、

 “巨悪”だ」


一拍。


「正義も、

 悪意も使う」


「だから――」


視線を、

ノーリトリートの全員に向ける。


「ここからは、

 覚悟がいる」


「黒巣は、

 俺たちの“日常”を壊しに来た」


「中途半端な覚悟じゃ、

 街ごと削られる」


沈黙。


誰も、視線を逸らさない。


ミリアが、

ゆっくりと剣を握り直した。


「……じゃあさ」


「壊される前に、

 壊すしかないよな?」


エルドが、

盾を鳴らす。


「全面的に、

 やるぞ」


エルフィナが、

小さく、でもはっきり言う。


「……守りたい……」


「……この街……」


ノウンが、

淡々と締める。


「黒巣は、

 もう“闇”じゃない」


「街の構造に、

 食い込んだ“癌”だ」


「切除には――」


一拍。


「時間と、

 犠牲が出る」


クロスロードは、

まだ立っている。


だが――

静かに、追い詰められていた。


夜が、

クロスロードに降りた。


灯りは、ある。

酒場も、店も、いつも通り開いている。


だが――

音が、ない。


笑い声も、

口論も、

値切りのやり取りも。


ただ、

人の気配だけが、

薄く流れている。


「……街が、

 “息を止めてる”な」


エルドが、低く言った。


ノーリトリートは、

屋上から街を見下ろしていた。


その隣に、

蒼衡《そうこう/アズール・バランス》の一団。


「黒巣は、

 夜に動く」


蒼衡が、淡々と告げる。


「だが今夜は違う」


「今夜は――

 “見せる夜”だ」


ミリアが、眉をひそめる。


「見せる?」


「そう」


蒼衡は、

街の中央区画を指さした。


「怯えろ、と」


「喋るな、と」


「逆らうな、と」


「……それを、

 街全体に示す」


カイラが、端末を閉じる。


「さっきまで、

 裏の物流回線が

 生きてた」


「今は、

 完全に死んでる」


「……黒巣が、

 本気で締めに入った」


ノウンが、

視線を細める。


「つまり――」


「これ以上、

 待てば待つほど」


「末端が、

 消えていく」


エルフィナが、

胸の前で手を握った。


「……声を……

 奪われるの……」


「……耐えられない……」


ミリアが、

ゆっくりと息を吐く。


「なぁ」


「黒巣のトップ、

 どこだ?」


蒼衡は、

一瞬だけ、黙った。


そして――

はっきりと言う。


「今までは、

 “移動式”だった」


「だが――」


「今日、

 固定した」


全員の視線が、

一斉に集まる。


「固定……?」


「そう」


蒼衡は、

短く笑った。


「街を締めるには、

 中心が要る」


「幹部も、

 リーダーも」


「今夜は――

 同じ場所にいる」


空気が、

一段、重くなる。


「……つまり」


エルドが、

低く言う。


「一気に、

 叩けるってことか」


「叩ける」


蒼衡は、肯定する。


「だが――」


「簡単じゃない」


ノウンが、

すぐに続ける。


「罠がある」


「戦力も、

 相当だ」


「しかも――」


一拍。


「街を盾にする可能性が高い」


沈黙。


ミリアが、

剣の柄を握りしめる。


「……最低だな」


「巨悪ってのは、

 そういうもんだ」


蒼衡は、

淡々としている。


「正義も、

 秩序も、

 人の命も」


「“使えるもの”として

 並べる」


そのとき。


路地の奥から、

小さな物音がした。


全員が、

一斉に身構える。


だが――

現れたのは、

一人の老婆だった。


荷車を押し、

震える手で、

道を渡ろうとしている。


声は、出ない。


それでも、

目だけで、必死に訴えている。


「……通りたい」


「……生きたい」


言葉にならない、

願い。


エルフィナが、

一歩、前に出た。


「……大丈夫……」


「……通って……」


老婆は、

何度も、何度も頭を下げる。


ノーリトリートが、

道を開ける。


老婆は、

振り返らずに去っていった。


その背中を見送ってから。


ミリアが、

低く言った。


「……もうさ」


「これ、

 “仕事”じゃないよな」


ノウンが、

静かに頷く。


「“街そのもの”だ」


蒼衡は、

剣に手をかける。


「明日の夜」


「黒巣の中枢を、

 叩く」


「ノーリトリート」


視線を向ける。


「お前たちは――」


一拍。


「壊せるか?」


レインは、

いない。


だが――

答えは、揃っていた。


「壊す」


ミリアが言う。


「止める」


エルドが続く。


「救えるところまで、

 救う」


エルフィナが、

震えながらも言う。


ノウンが、

最後に告げた。


「裁かない」


「だが――」


「放置もしない」


蒼衡は、

小さく笑った。


「……いい」


「じゃあ、

 やろう」


クロスロードの夜は、

まだ静かだ。


だが――

次の夜。


この街の“裏”は、

確実に、血を流す。


それが、

終わりの始まりだと――

誰も、疑っていなかった。


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