表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第52章 黒巣(ブラック・ネスト)》――街の裏側は、いつも静かだ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

943/1040

夜が割れる

クロスロードの夜は、

相変わらず静かだった。


灯りはある。

人もいる。


だが――

音がない。


その静けさを、

最初に破ったのは合図でも叫びでもなかった。


“消失”だった。


北区画の裏路地。

黒巣の中継拠点として使われていた倉庫が、

何の前触れもなく、沈黙した。


魔力反応が、

一斉に途切れる。


「……一つ目、落ちたな」


蒼衡《そうこう/アズール・バランス》が、

短く言う。


その隣で、

セインが拳を鳴らした。


「派手さはねぇが、

 綺麗な切り口だ」


「抵抗は?」


「なし」


セインは、肩をすくめる。


「“動く前に終わってた”

 って顔してた」


同時刻。


南区画――

ノーリトリート側も、動いていた。


「……ここ、

 匂う……」


ミリアが、

路地の奥を睨む。


倉庫。

古い。

だが、人の出入りが多い。


「物流拠点、

 間違いないな」


エルドが、

盾を構えたまま言う。


「見張りは?」


「……いない……」


エルフィナが、

小さく答える。


「……でも……」


「……中……

 いっぱい……」


カイラが、

端末を操作する。


「黒巣の“声奪い”に

 使われてる術式反応」


「……ここ、

 “沈黙処理場”だ」


一瞬、

空気が凍る。


「……クソが」


ミリアが、

低く吐き捨てる。


ノウンが、

淡々と告げる。


「予定通り」


「ここは――

 “壊す”場所だ」


合図は、ない。


ミリアが、

扉を蹴り破る。


「行くぞ!」


中にいたのは、

戦闘員ではなかった。


帳簿。

魔術器具。

そして――

声を奪われたまま、

作業を強いられていた人間たち。


「……っ」


エルフィナが、

息を呑む。


誰も、叫ばない。

叫べない。


だが、

目だけが、一斉に向く。


「……大丈夫だ」


エルドが、

低く、はっきり言った。


「ここは、

 終わりだ」


その瞬間。


倉庫の奥で、

何かが“動いた”。


床下。


隠し区画。


「来るぞ!」


ミリアが叫ぶ。


床が割れ、

黒巣の戦闘員が現れる。


だが――

数が、少ない。


「……おかしい」


カイラが、即座に判断する。


「配置、

 薄すぎる」


ノウンが、

結論を出す。


「誘導だ」


「黒巣は――」


一拍。


「ここを、

 “捨てている”」


同時に。


遠くの空で、

赤い光が上がった。


一つ。

二つ。

三つ。


蒼衡側の区画だ。


「……始まったな」


ミリアが、

歯を食いしばる。


エルドが、

盾を前に出す。


「これが、

 全面戦争かよ」


ノウンは、

静かに言った。


「いいや」


「これは――」


「街を賭けた、

 解体作業だ」


クロスロードの夜が、

ついに割れた。


黒巣は、

もう隠れない。


そして――

ノーリトリートも、

蒼衡も。


引き返さない。


黒巣ブラック・ネストの下層区画は、

地上の喧騒とは切り離されたように静かだった。


湿った石壁。

魔導灯の光は弱く、影の輪郭だけがやけにくっきりしている。


「……ここが“流通線”の一つか」


リュカが低く呟く。


足元の床には、魔導刻印が幾重にも重なっていた。

倉庫、隠蔽、転送――

単独では意味を持たない符が、連結することで“巣”を形作っている。


「連携が異常だな」


エルドが盾を構えたまま言う。


「末端の構築じゃない。

 これは……幹部級が直接手を入れてる」


ノーリトリート側が慎重に進む中、

少し後方――影の境目に、蒼衡《そうこう/アズール・バランス》の部隊が並ぶ。


無言。

だが、立ち位置に一切の無駄がない。


蒼衡は一歩前に出て、短く言った。


「ここからは、俺たちが前に出る」


ミリアが眉をひそめる。


「……は?

 いや、まだ索敵途中――」


「違う」


蒼衡は振り返らない。


「“反応がない”のが、もう答えだ」


次の瞬間。


空気が、切り替わった。


リュカの《戦況記録術・段階認識》が、遅れて警告を吐く。


「――来る!」


だが、敵は姿を現さない。


代わりに――

空間そのものが、詰まる。


「……っ」


エルフィナが息を詰める。


感情の波が、強制的に“平坦”にされていく。

恐怖でも混乱でもない。

“余白を奪われる感覚”。


「未来排他……」


ノウンが小さく呟く。


「固定された結果以外を、許容していない」


その瞬間、蒼衡が踏み込んだ。


一歩。

だが、それは攻撃の踏み込みではない。


――配置の確定。


「来い」


短い一言。


次の瞬間、

影の中から黒巣の実働部隊が“現れた”。


数は多くない。

だが、全員が同じ呼吸、同じ角度で動く。


「統制型……!」


ミリアが剣を構えるより早く、

蒼衡の剣が走った。


断定連斬チェイン・デシジョン


――斬撃は、一太刀。


だが、その結果が連鎖する。


一人を斬った“判断”が、

隣の敵、さらにその後方へと伝播する。


「……!」


黒巣の兵が、抵抗の姿勢を取る前に崩れ落ちる。


倒れ方が、同じだ。

同じ角度、同じ間。


「判断そのものを切ってる……?」


リュカが息を飲む。


だが、敵もただでは終わらない。


床の刻印が光り、

“あり得た配置”が次々と閉じられていく。


「来るぞ、強制配置!」


エルドが盾を前に出す。


だが――

蒼衡は止まらない。


「配置される前に、斬る」


次に振るわれたのは、

均衡再裁定リバランス・ジャッジ》。


過去に下された判断、

この場で“最適”とされた配置――


それらを一度、全部なかったことにする。


「……は?」


敵の動きが、明確に遅れた。


迷いではない。

再計算だ。


その隙を、ノーリトリートは逃さない。


ミリアが前に出る。


《古戦闘術・断界踏エッジブレイク・ステップ


踏み込まない。

だが、前線が“そこにある”と認識させる。


エルドが盾を打ち据える。


迎撃防盾カウンター・シールド


衝突ではない。

拒否だ。


エルフィナが息を整え、静かに広げる。


生命線維持ライフ・ラインキープ


誰も倒れない。

ただ、削れない。


数秒後。


黒巣の部隊は、撤退判断すら出せず、

“流れ”ごと切断された。


沈黙。


蒼衡が剣を納める。


「……甘いな」


その言葉に、ノーリトリートの全員が視線を向ける。


「こいつらは“使われてる側”だ」


「本体は――

 もっと深い」


遠くで、

何かが“動いた気配”がした。


黒巣は、

こちらを見ている。


そして――

次は、

もっと本気で来る。


同じ頃。

クロスロードの地下、さらに深部。


そこは“拠点”とは呼べない。

倉庫でも、会議室でもない。


観測室だ。


円形の空間。

壁一面に張り巡らされた魔導結晶が、淡く明滅している。

映し出されているのは、つい先ほどまでの戦闘ログ。


蒼衡とノーリトリートの動き。

断定連斬の軌跡。

均衡再裁定によって“消えた配置”。


その中央に、椅子が一つ。


座っているのは、黒巣の幹部の一人――

いや、“幹部”という言葉では足りない。


「……想定より、二段階上」


低く、乾いた声。


顔は仮面で覆われている。

感情を隠すためではない。

最初から、外に出すものがない。


蒼衡アズール・バランスが前線に出たのは想定外か?」


背後で、別の声が応じる。


「いいえ。

 “出る可能性”は織り込み済みです」


「ならば?」


「問題は――

 ノーリトリートが、そこに“噛み合った”ことです」


沈黙。


映像の中で、ミリアが踏み込み、

エルドが盾を構え、

エルフィナが生命線を張る。


「個の性能ではないな」


仮面の幹部が言う。


「連携の“位相”が、こちらの制御を拒否している」


「はい。

 未来排他が、完全には効いていません」


「理由は?」


一拍。


「……彼らは、未来を信じていない」


空気が、わずかに冷えた。


「信じないから、縛れない。

 固定しないから、削れない」


「なるほど」


仮面の幹部は、ゆっくりと立ち上がる。


「では、次だ」


指が、宙をなぞる。


結晶の一部が暗転し、

別の映像が浮かび上がる。


――クロスロード、地上。

人通りの多い区域。

物流、貧民街、裏市場。


「正面から叩く必要はない」


「……“巣”らしく、ですか」


「そうだ」


仮面の幹部は淡々と続ける。


「彼らは正義を語らない。

 だが、守ろうとはする」


「ならば?」


「守れないものを、用意する」


一瞬、誰かが息を呑んだ。


「人的資源を動かせ」


「末端を?」


「“末端だけ”を」


冷たい断定。


「切られても構わない。

 むしろ、切らせろ」


「……ノーリトリートに?」


「いいや」


仮面の向こうで、かすかに“笑った気配”。


「蒼衡に、だ」


空間が静まり返る。


「彼らは、判断が早い。

 だからこそ、後悔を挟む余地がある」


「理解しました」


結晶が一斉に明滅する。


次の準備が、始まった。


その頃。


クロスロードの夜空の下、

何も知らない人々が行き交っている。


仕事を探す者。

帰る場所を持たない者。

今日を生きるだけで精一杯の者。


その“流れ”の中に、

黒巣は静かに、巣を広げていく。


そして――


遠く離れた場所で、

誰にも聞こえない声が、低く呟いた。


「……次は、選ばせる」


「斬るか。

 見捨てるか」


黒巣ブラック・ネストは、

まだ本気を出していない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ