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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第52章 黒巣(ブラック・ネスト)》――街の裏側は、いつも静かだ

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巣は動き、街は露出する

夜明け前のクロスロードは、いつもより静かだった。


人がいないわけじゃない。

灯りが消えたわけでもない。


ただ――

流れが、止まっていた。


「……静かすぎるな」


ミリアが、屋根の上から街を見下ろしながら呟く。


「この時間なら、

 裏通りに一人や二人は

 動いてるはずだろ」


「動いてる」


ノウンが、即座に返す。


「ただし――

 “仕事をやめた”動き方だ」


エルドが、盾を背負い直す。


「逃げてる?」


「隠している」


ノウンは、路地の奥を指した。


「同時に」


目を凝らすと分かる。

倉庫街の一角で、微かに煙が立ち上っている。


火事にしては、静かすぎた。


「……焼いてるな」


カイラが、端末を操作しながら言う。


「中身だけ、

 丁寧に」


「証拠隠滅か」


ミリアが、舌打ちする。


「派手にやれよ。

 そういうとこ、ケチだな」


「派手にできない事情がある」


ノウンは、淡々と続けた。


「街に溶け込みすぎている」


「だから――

 痕跡だけ消す」


エルフィナが、胸元に手を当てる。


「……嫌な感じ……」


「誰かが、

 “切られてる”」


その言葉通りだった。


次の路地。

いつもなら顔を出す情報屋の小屋は、空っぽだった。


血はない。

争った形跡もない。


だが、床に残された一つの印だけが、

妙に整いすぎている。


「……消されたな」


ミリアが低く言う。


「黒巣が?」


「違う」


ノウンは、首を振った。


「黒巣が――

 急いでいる」


カイラが、端末を止める。


「おかしい……」


「今まで、

 こんな一斉処理はなかった」


「下っ端を切るにしても、

 段階があるはずなのに」


エルドが、眉をひそめる。


「つまり?」


ノウンは、結論を出す。


「入口を潰されたことで、

 黒巣は理解した」


一拍。


「もう隠れていられない」


その瞬間。


遠くの倉庫街で、

小さく爆ぜる音がした。


火柱は上がらない。

だが、確実に――何かが消えた。


ミリアが、剣に手をかける。


「動くか?」


「まだだ」


ノウンは、視線を街全体へ走らせた。


「黒巣は、

 自分で街に“線”を引き始めている」


「その線が――

 どこへ集まるかを見る」


エルフィナが、静かに頷く。


「……巣が……

 自分で形を……」


クロスロードは、

今日も普通に朝を迎える。


だがその裏で、

黒巣ブラック・ネスト》は

初めて“焦り”という動きを見せていた。


そしてそれは――

狩る側にとって、

何より分かりやすい兆候だった。


クロスロード南区、運河沿い。


倉庫街の端にあるその建物は、

外から見れば、どこにでもある積み荷保管庫だった。


だが――

入口に立った瞬間、空気が変わる。


「……ここか」


蒼衡《そうこう/アズール・バランス》が、低く呟いた。


「人の出入りは少ない。

 だが、気配は新しい」


背後で、仲間が散開する。


重装の前衛、

感知役、

後方支援。


どれも、王国で名を知られる冒険者だ。


「王都世界機関の依頼じゃ、

 “違法密売の調査”だったな」


誰かが言う。


「調査にしちゃ、

 護衛が多すぎる」


蒼衡は否定しない。


「だからこそ、

 調査だ」


扉に手をかける。


鍵は――

かかっていなかった。


「……開いてる?」


「逃げた後だな」


蒼衡は、ゆっくりと中へ入る。


中は、異様なほど整っていた。


箱は並び、

床は掃除され、

血も争った跡もない。


だが――

“匂い”だけが残っている。


「焼却の残り香だ」


「証拠を、

 全部持ち出したか」


「いや」


蒼衡は、壁際を指した。


そこに残っていたのは、

削りきれなかった刻印。


黒い巣を模した、歪な紋章。


「消し忘れだ」


「……雑だな」


「雑になった」


蒼衡は、そう言い切る。


「余裕がなくなった証拠だ」


奥へ進むと、

床に落ちた一冊の帳簿があった。


中身は、半分以上が破られている。


だが――

残った数行だけで、十分だった。


「番号管理……」


「拠点名じゃない。

 役割名だ」


「輸送、洗浄、中継、隔離……」


誰かが息を呑む。


「これ、

 一つの組織じゃないぞ」


蒼衡は、帳簿を閉じた。


「最初から、

 街に溶け込ませる前提だ」


「潰されても、

 “そこ”が消えるだけ」


「全体は残る」


仲間の一人が、苦く笑う。


「厄介なやつだな」


「だが」


蒼衡は、外を見た。


遠くで、別の倉庫から

同じように煙が上がっている。


「動いた」


「そして――

 動いたことで、

 繋がりが見え始めた」


蒼衡は、剣に手をかける。


「ここは、

 もう用済みだ」


「次は――」


視線が、街の中心へ向く。


「“中”だ」


その頃。


別の区画で、

同じ結論に辿り着いている者たちがいることを、

蒼衡はまだ知らない。


だが――

クロスロードという街が、

一つの“巣”として浮かび上がり始めていることだけは、

確信していた。


クロスロードは、何も知らない顔をしていた。


市場は開き、

子どもが走り、

冒険者が酒場に集まる。


昨日と同じ朝。

いつも通りの街。


――だが、

“流れ”だけが、確実に変わっていた。


ノーリトリートの事務所。


簡易地図が机の上に広げられている。

赤い印と、消された印が、

街の各所に点在していた。


「……線が、

 はっきりしてきたな」


エルドが、腕を組む。


「バラけてるようで、

 中心に寄ってる」


「“寄せてる”」


ノウンが、淡々と訂正する。


「黒巣は、

 拠点を畳みながら、

 人を移している」


「守る場所を、

 一点に絞った」


カイラが、端末を閉じた。


「合理的……」


「でも、

 悪手でもある」


ミリアが、剣を壁に立てかける。


「一度に叩ける」


「その代わり」


ノウンは、視線を上げる。


「叩く側も、

 “街の中”に踏み込むことになる」


エルフィナが、静かに呟いた。


「……巻き込まれる人……

 出る……よね……」


否定できる者はいなかった。


その頃。


街の反対側――

運河沿いの高台。


蒼衡《そうこう/アズール・バランス》は、

同じ街を、別の角度から見ていた。


「……重なってきたな」


仲間が、地図を見下ろす。


「動線が、

 全部――

 この辺りに」


「隠れ家じゃない」


蒼衡は、即座に言った。


「拠点だ」


「しかも――

 “見せる前提”の」


「囮?」


「いや」


蒼衡は、首を振る。


「誇示だ」


「ここまで来れるなら来い、

 という形だ」


誰かが、苦く笑う。


「随分、

 偉そうな密売組織だ」


「力があるからだ」


蒼衡は、剣の柄に手を置く。


「だからこそ――

 斬る価値がある」


その瞬間。


街の中心方向で、

微かに、だが確実に、

“気配”が揺れた。


魔力でも、殺気でもない。


――人が、大量に動いた感覚。


蒼衡は、即座に理解する。


「……始めたな」


同時に。


ノーリトリートの事務所でも、

ノウンが顔を上げた。


「動いた」


「黒巣が?」


「違う」


ノウンは、短く息を吐く。


「街全体だ」


視線が合う。


同じ結論に、

別々の場所から辿り着いた。


「……じゃあよ」


ミリアが、剣を握る。


「そろそろ――

 合流のタイミングじゃねぇか?」


ノウンは、少しだけ考え、頷いた。


「蒼衡も、

 同じ場所を見ているはずだ」


「黒巣は――

 自分で舞台を作った」


エルフィナが、胸元を押さえる。


「……戦う場所……

 選ばされた……」


「それでも」


ノウンは、淡々と言う。


「選ぶのは、

 こちらだ」


クロスロードは、

まだ平穏な顔をしている。


だが、

街の裏側では――


黒巣ブラック・ネスト》という名の

**巨大な“影”**が、

ついに形を持ち始めていた。


そしてそれを、

同時に睨み据える二つの集団がいる。


まだ、剣は交わらない。


だが――

次に動くとき、

 もう隠れる場所はない。


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