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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第52章 黒巣(ブラック・ネスト)》――街の裏側は、いつも静かだ

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巣の入口

クロスロードの朝は、いつも通りだった。


露店が並び、

種族も職業も雑多な人々が行き交う。


昨日、裏で何が動いていたかなど、

誰も知らないし、気にもしていない。


「……静かだな」


ミリアが、通りを見渡しながら言った。


「嵐の前ってやつ?」


「嵐なら、

 もう少し騒がしい」


蒼衡《そうこう/アズール・バランス》は、

視線を路地の奥へ向けたまま答える。


「これは――

 “普段通り”を装っている」


エルドが、低く息を吐く。


「嫌な言い方だな」


「だが、

 当たってる気がする」


ノーリトリートの事務所から、

二つ隣の区画。


倉庫と酒場が背中合わせになった、

ごく普通の一角。


表向きは、

何の変哲もない。


「……ここ?」


エルフィナが、小声で聞く。


「ええ」


カイラが、端末を閉じる。


「流通記録は、

 全部“合法”」


「でも――」


一拍。


「数字が、

 綺麗すぎる」


リュカが、淡々と補足する。


「偶然では揃わない」


「誰かが、

 揃えている」


ミリアが、舌打ちした。


「つまり、

 黒巣の“入口”ってわけか」


「入口、

 かどうかは分からない」


蒼衡は、否定も肯定もしない。


「だが――

 触れる場所ではある」


そのとき。


倉庫の扉が、

内側から開いた。


中から出てきたのは、

若い男だった。


荷運び用の服。

汗ばんだ額。


一見すれば、

ただの労働者だ。


だが――

目が合った瞬間。


男の肩が、

わずかに跳ねた。


「……っ」


ミリアは、

その反応を見逃さなかった。


「――止まれ」


声は、低い。


男は、一瞬だけ迷った。


だが次の瞬間、

踵を返して走り出す。


「逃げた!」


「追う!」


ミリアが踏み出す。


だが――

蒼衡が、静かに制した。


「待て」


「は?」


「“逃げた”のは、

 正解だ」


蒼衡は、路地の先を見る。


「ここで捕まえたら、

 入口が閉じる」


「……面倒くさいな」


ミリアが、歯を鳴らす。


だが――

走り去る男の背中が、

角を曲がった瞬間。


路地の奥で、

別の影が動いた。


「……待ち伏せ?」


エルドが、盾を構える。


「違う」


ノウンが、静かに言う。


「“誘導”だ」


その瞬間。


倉庫の裏口から、

別の男が出てきた。


今度は――

明らかに、雰囲気が違う。


歩き方が落ち着きすぎている。

周囲を、

“確認する必要がない”動き。


「……」


男は、

ノーリトリートと蒼衡そうこうを見て、

ふっと笑った。


「なるほど」


「今日は、

 挨拶が多い日だ」


ミリアが、剣に手をかける。


「お前が、

 黒巣?」


「まさか」


男は、軽く首を振る。


「俺は――」


一拍。


「“入口の番人”だよ」


その言葉に、

空気が変わる。


倉庫の影。

屋根の上。

通りの向こう。


気配が、

一斉に増えた。


「……囲まれてる」


エルフィナが、息を呑む。


「数、

 昨日より多い」


カイラが、即座に判断する。


「……本気かよ」


ミリアが、低く呟く。


男は、

楽しそうに肩をすくめた。


「安心しな」


「今日は、

 殺し合いじゃない」


「ただ――」


目を細める。


「どこまで踏み込む気か、

 見せてもらうだけだ」


蒼衡そうこうは、

ゆっくりと剣を抜いた。


「悪いが」


「俺たちは、

 止まらない」


その言葉を合図に。


クロスロードの裏で、

“入口”が牙を剥いた。


黒巣は、

まだ全貌を見せない。


だが――

この街に、

確実に根を張っていることだけは、

はっきりした。


そしてそれは、

引き返せない一線でもあった。


路地の空気が、完全に変わった。


音が消えたわけではない。

人影が消えたわけでもない。


ただ――

この場所だけが、街から切り離された。


「……数、増えてるな」


エルドが盾を前に出し、低く言う。


「屋根、三

 路地奥、四

 裏口、二」


「逃げ道、

 ほぼ塞がれてる」


リュカが即座に補足する。


男――“入口の番人”は、

その様子を楽しむように眺めていた。


「正確だね」


「さすが、

 場数を踏んでる」


ミリアが、剣先を僅かに持ち上げる。


「で?」


「お前は何だ」


「時間稼ぎか?」


「それとも――」


一歩、踏み込む。


「死に役か?」


男は、肩をすくめた。


「どっちでもいいさ」


「俺の役目は――」


一拍。


「君たちを、ここで止めること」


蒼衡《そうこう/アズール・バランス》が、

静かに一歩前に出た。


「止められると、

 本気で思っているか?」


「思ってるよ」


男は、即答した。


「少なくとも――」


「今日の君たちは、ね」


その瞬間。


屋根の上から、

小さな金属音。


「来る!」


エルフィナが声を上げる。


次の瞬間、

閃光のような何かが落ちてきた。


「散開!」


ミリアの号令。


地面に突き刺さったのは、

刃でも、矢でもない。


小さな杭。


だが――

打ち込まれた瞬間、

空間が歪む。


「……拘束陣?」


カイラが息を呑む。


「簡易式だけど、

 数が多い!」


「つまり――」


ノウンが淡々と結論を出す。


「殺す気はない」


「捕まえるか、

 足止めするか」


男は、満足そうに笑った。


「正解」


「黒巣はね――」


「無駄な死を、

 好まない」


その言葉に、

ミリアが露骨に顔を歪める。


「反吐が出る」


「……お前らの“無駄”の基準は、

 誰が決めてんだ」


男は、答えない。


ただ、

一歩下がった。


その瞬間、

周囲の気配が、一斉に動く。


「来るぞ!」


エルドが盾を構える。


だが――

蒼衡が、剣を一段低く構えた。


「……ノーリトリート」


その声に、全員の視線が集まる。


「こいつは、

 “入口”だ」


「捕まえれば、

 情報は取れる」


「だが――」


一拍。


「ここで捕まえれば、

 巣は閉じる」


ミリアが、歯を鳴らす。


「じゃあどうすんだよ!」


「逃がすのか?」


蒼衡は、即答した。


「斬る」


空気が、凍った。


「……は?」


ミリアが、思わず聞き返す。


「ここで切れば、

 巣は“危険を認識する”」


「次は、

 もっと深い場所が動く」


「だが――」


蒼衡の目は、迷っていなかった。


「入口は、確実に潰せる」


「それが、

 俺たちのやり方だ」


沈黙。


ノーリトリート側の空気が、

わずかに軋む。


エルフィナが、

小さく首を振った。


「……それは……」


「街が、

 もっと荒れる……」


「承知の上だ」


蒼衡は、静かに言った。


「だからこそ、

 俺が来ている」


そのとき。


ノウンが、口を開いた。


「……捕まえる」


蒼衡が、視線を向ける。


「可能か?」


「完全ではない」


ノウンは、淡々と続ける。


「だが――

 “入口”としての役割は、

 失わせられる」


「情報は、

 取れるだけ取る」


「巣は、

 まだ閉じない」


ミリアが、

一瞬だけ笑った。


「いいね」


「そっちの方が、

 ムカつく顔が見れそうだ」


蒼衡は、数秒考え――

そして、頷いた。


「……了解した」


「だが、

 時間はやらない」


男は、

そのやり取りを聞きながら、

初めて表情を変えた。


「……なるほど」


「噂通りだ」


「ノーリトリート」


「“斬らない”のに、

 容赦がない」


ミリアが、

剣を構える。


「褒め言葉として、

 受け取っとけ」


次の瞬間。


戦闘が――

始まった。


これは殲滅ではない。

だが、見逃しでもない。


巣の入口を、壊す戦い。


そしてそれは、

黒巣ブラック・ネストにとって――


初めての、

本当の侵入だった。


戦闘は、長くならなかった。


それは拮抗していたからでも、

力が拮抗していたからでもない。


最初から、目的が違っていた。


「……っ!」


入口の番人が、地面を蹴る。


その動きは速い。

だが、逃げではない。


「右、来る!」


ミリアの声と同時に、

エルドが盾を構える。


衝撃。

だが、押し込まれない。


「……軽い」


「威力を殺してる」


エルドが低く言う。


「本気じゃない」


「最初から、

 本気で勝つ気はない」


ノウンの声は、冷静だった。


「役割は――

 “踏み込ませること”」


カイラが端末を操作しながら、歯を食いしばる。


「拘束陣、

 再展開されてる……!」


「逃走ルート確保用だ!」


蒼衡《そうこう/アズール・バランス》が、一歩踏み出す。


「……もう十分だ」


その声に、

入口の番人が笑った。


「そう言われると、

 少し悔しいな」


次の瞬間。


路地の奥に設置されていた杭が、

一斉に砕け散る。


拘束陣が――解除された。


「っ、しまった!」


ミリアが踏み込もうとする。


だが――

その足が、止まった。


エルフィナが、

小さく声を上げる。


「……待って……」


「……“切れ目”が……」


全員が気づく。


路地の奥。

空間の密度が、明らかに薄くなっている。


「転移……?」


リュカが、即座に判断する。


「簡易式だ」


「距離は短いが――

 確実に逃げられる」


入口の番人は、

一歩ずつ後退しながら言った。


「いい判断だったよ」


「捕まえられてたら、

 面倒だった」


「……逃がすかよ!」


ミリアが叫ぶ。


蒼衡が、低く言った。


「追うな」


「目的は達した」


「……何が?」


ミリアが振り返る。


蒼衡は、

番人を真っ直ぐ見据えた。


「黒巣に――

 “侵入者がいる”と、

 はっきり伝わった」


番人は、

その言葉に一瞬だけ動きを止めた。


「……さすがだ」


「その通り」


次の瞬間。


空間が、歪む。


番人の姿が、

影の中へと溶けていく。


消える直前。


彼は、はっきりと言った。


「次は――」


「“入口”じゃない」


「覚悟して来い」


そして、

完全に消えた。


沈黙。


路地に残ったのは、

破壊された杭と、

微かな魔力の残滓だけ。


「……逃げられたな」


エルドが言う。


「ええ」


蒼衡は頷く。


「だが――」


一拍。


「黒巣は、

 もう“静観”しない」


ノウンが、淡々と結論を出す。


「次は、

 “迎撃”が来る」


エルフィナが、

胸元を押さえた。


「……街が……

 揺れる……」


「揺れるな」


ミリアが、

剣を収めながら言った。


「でもさ」


「ここまで来たら――」


笑みを浮かべる。


「引き返す理由も、

 ねぇ」


蒼衡は、

ノーリトリートの面々を見た。


「覚悟はいいか?」


「巣は――」


「深いぞ」


レインのいない場所で、

戦いは進んでいる。


だが、

彼の選んだ立ち位置だけは、

確実にここにあった。


クロスロードの裏で、

黒巣ブラック・ネスト》は、

初めて“牙を向けられた”。


そして――

それは、始まりにすぎない。


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