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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第51章 深層迷宮編 境界を越える者たち

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境界を斬る者

境界維持者バウンダリー・キーパーは、

もはや“守護者”の形を保っていなかった。


定義は崩れ、

固定は乱れ、

空間そのものが「次」を選びかねている。


それでも、

それはまだ“境界”として立っていた。


「……まだ残るか」


蒼衡《そうこう/アズール・バランス》は、静かに呟く。


剣を持つ手に、力は入っていない。

だが、迷いもない。


その背後に――

蒼衡のメンバー全員が、名を持って立っていた。


前列、右。


セイン=ヴァルクス

蒼の外套を揺らし、視線だけで戦場を測る男。


「固定が崩れたな。

 だが“役割”は、まだ残っている」


左、半歩後ろ。


ガラン=ディオル

巨大な刃を肩に担ぎ、低く息を吐く。


「だったらよ、

 役割ごと斬るしかねぇだろ」


後方、詠唱も構えも取らずに立つ。


リィネ=フォルテ

未来を見る女は、首を横に振った。


「いいえ。

 これは“未来を残さない構造”」


「切るなら――

 今、この瞬間だけ」


最後に、全体を覆うように立つ。


ユール=セティア

視線を巡らせ、配置を“確定”させる。


「逃走経路、なし。

 戦場、ここで固定」


境界維持者が、

最後の“再配置”を行おうとした、その瞬間。


蒼衡が、一歩前に出た。


「――もういい」


声は、低い。

だが、戦場の“基準”を塗り替えるには十分だった。


「俺たちは、

 お前が守っている“境界”のために来たんじゃない」


剣を、構える。


「超えるためでもない」


一拍。


「――斬るために来た」


セインが、口元だけで笑う。


「甘さはないな」


「当然だ」


蒼衡は、振り返らない。


「敵が何者であろうと、

 斬るべきものなら、斬る」


次の瞬間。


蒼衡の剣が振るわれた。


それは技ではない。

奥義でも、能力でもない。


“均衡を断つ”という行為そのもの。


境界維持者の“定義”が、

一斉に剥がれ落ちる。


ガランの刃が追撃する。


「――判断終了だ」


リィネが、未来を閉じる。


「起こり得た可能性、排除」


ユールが、最後に告げた。


「配置解除」


そして――


境界維持者バウンダリー・キーパーは、

完全に消滅した。


崩壊ではない。

残骸も、痕跡もない。


“存在しなかった”と再定義された。


静寂。


迷宮は、もはや何も語らない。


蒼衡は、剣を収める。


「……まだまだだな」


その言葉は、

敵ではなく――

別の誰かに向けられていた。


翌日。


ノーリトリートの事務所前に立った瞬間、

ミリアは言葉を失った。


「……なぁ」


「昨日まで、

 ここ――

 空き地だったよな?」


そこにはあった。


石造りで、無駄に広く、

無駄に整っていて、

無駄に“公式感”のある建物。


看板には、迷いのない文字。


――蒼衡そうこう

――王国認定・境界対処機関


「……は?」


カイラが、思わず端末を二度見する。


「登記……昨日付……」


「建築許可……即日……?」


「ちょっと待って、

 この速度おかしい」


エルドが、腕を組む。


「……喧嘩売ってんのか?」


ノウンは、淡々と状況を整理する。


「距離、三歩」


「意図的に、

 “隣”を選んでいる」


その瞬間。


蒼衡の事務所の扉が、

何でもない顔で開いた。


最初に出てきたのは、

ガラン=ディオル。


肩を鳴らしながら、

こちらを見て、にやりと笑う。


「お、

 ご近所さんじゃねぇか」


「……ご近所だと?」


ミリアの眉が、ぴくりと動く。


続いて、

ユール=セティアが出てくる。


視線を巡らせ、

ノーリトリートの面々を一人ずつ確認する。


「位置、把握」


「騒音、想定内」


「苦情は、受理しない」


「する気満々じゃねぇか!」


ミリアが即ツッコむ。


さらに奥から、

リィネ=フォルテ。


一瞬だけ、

事務所の奥――

レインが眠っているであろう方向を見る。


「……まだ、目覚めていない」


エルフィナが、思わず一歩前に出る。


「……分かるの?」


リィネは、首を横に振った。


「未来が、

 “そこ”で止まっているだけ」


最後に。


扉の影から、

セイン=ヴァルクスが姿を現す。


蒼衡の外套を翻し、

興味なさげに周囲を見回す。


「……狭いな」


「隣がうるさそうだ」


その一言で、

空気が一気に張り詰めた。


「は?」


ミリアが、剣の柄に手を掛ける。


「誰がうるさいって?」


「事実を言ったまでだ」


セインは、視線を向けない。


「感情が多い」


「配置が甘い」


「……それと」


一瞬だけ、

ノーリトリートの事務所の奥を見る。


「寝てる奴」


「無理はするな」


エルドが、低く言う。


「……レインを知ってるのか」


「多少な」


セインは、肩をすくめる。


「せいぜい――

 早死にしないことだな」


その瞬間。


「言っていいことと

 悪いことがあんだろ!!」


ミリアが、完全にキレた。


「昨日まで敵斬ってたからって

 調子乗ってんじゃねぇ!!」


「待ってミリア、

 これは言い争いじゃなくて――」


「うるさいカイラ!」


「最初に喧嘩売ってきたの

 あっちだろ!」


ガランが腹を抱えて笑う。


「ははっ、

 ガキの喧嘩じゃねぇか」


「言ったな!!」


ユールが、即座に割って入る。


「殴り合いは禁止」


「だが――」


「口論は、

 許可されている」


「許可制なのかよ!!」


ノーリトリート側も、

完全にヒートアップ。


エルフィナは泣きそうで、

カイラは頭を抱え、

エルドは止めに入る気配もなく、

ノウンは無言で観測している。


その様子を、

セインは一歩引いた位置から眺め――


小さく、鼻で笑った。


「……やはり甘い」


「だが――」


踵を返す。


「嫌いじゃない」


それだけ言って、

蒼衡の事務所へ戻っていった。


残された空気は、

最悪。


「……なぁ」


ミリアが、息を荒くしながら言う。


「あいつら、絶対許さねぇ」


ノウンが、静かに補足する。


「隣人トラブル、

 確定」


エルフィナは、

事務所の奥を見る。


「……でも」


「レインが起きたら……」


「絶対、

 面白がる……」


誰も否定しなかった。


二つの事務所。


二つの思想。


境界を斬る者と、

退かない者。


――静かな戦争は、

もう始まっていた。


――最初に動いたのは、指だった。


ほんの、わずか。


シーツの上で、

何かを探すように、指先が震えた。


「……?」


エルフィナが、息を止める。


「……レ、イン……?」


次の瞬間。


「……ん……」


かすれた声。


確かに、聞き慣れた声。


「……ここ……?」


その一言で。


「――――!!」


ミリアが、椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がった。


「起きた!!」


「起きた起きた起きた!!」


「レイン!! レイン!!」


「ちょ、ミリア落ち着いて!!」


エルフィナも、慌てて前に出る。


「レイン……!」


「……分かる……?」


「……私……誰……?」


「それ聞く前に

 名前呼んでよぉ!!」


レインは、ゆっくり瞬きをして――

二人を見た。


ミリア。

エルフィナ。


そして、困ったように笑う。


「……ああ……」


「……戻ったのか……」


その瞬間。


ミリアが、

思いきりレインの胸ぐらを掴んだ。


「戻ったじゃねぇ!!」


「戻ったじゃねぇよ!!」


「どんだけ心配させたと思ってんだ!!」


「ちょ、ミリア、

 引っ張りすぎ……!」


エルフィナも、

反対側からレインの腕を抱える。


「……レイン……」


「……もう……」


「……一人で……

 行かないで……」


声が、震えている。


涙を、必死に堪えている。


レインは、

その二人を見比べて――


少しだけ、目を伏せた。


「……ごめん」


その一言で。


「……っ」


エルフィナの涙腺が、決壊した。


「……ずるい……」


「……そんな顔で……」


「……謝らないで……」


ミリアは、一瞬だけ黙り――

次の瞬間。


「……あーもう!!」


「泣くな!!」


「お前が泣くと

 俺が悪者みたいだろ!!」


「実際悪いんだよ!!」


エルフィナが、即ツッコむ。


「二人とも……

 近すぎ……」


そのとき。


レインが、

ふらっと上体を起こした。


「……なぁ……」


「……ちょっと……

 距離……」


――ぎゅっ。


ミリアとエルフィナ、

同時に抱きついた。


「離れねぇ!!」


「離しません!!」


「どっちが先だよ!!」


「私です!!」


「いや俺だ!!」


「性別で言うな!!」


ノウンが、

ドアの横で淡々と告げる。


「……酸素、足りていない」


カイラが、額を押さえる。


「……目覚めて五秒で

 修羅場作らないで……」


エルドは、

腕を組んで一言。


「……生きててよかったな」


レインは、

二人に挟まれたまま、

苦笑した。


「……起きたら……」


「……騒がしいな……」


ミリアが、

鼻を鳴らす。


「当たり前だろ」


「お前が中心だったんだから」


エルフィナも、

小さく頷く。


「……もう……」


「……中心、

 独り占めしないで……」


その言葉に、

レインは一瞬、目を見開き――


そして、

ゆっくり息を吐いた。


「……ああ」


「……今度は……」


「一人じゃ、やらない」


その瞬間。


部屋の空気が、

ほんの少しだけ、

やわらいだ。


外では。


新しい隣人が、

新しい境界を構えている。


だが今は。


ここは――

確かに、戻る場所だった。


「……とりあえず」


カイラが、言う。


「安静です」


「絶対安静」


「恋愛戦争は、

 後日です」


「誰が後日だ!!」


「今だろ!!」


――騒がしさは、

今日も通常運転。


だが。


レインは、

その中心で、

確かに目を覚ましていた。

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