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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第27章 英雄と英雄

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満足する者たち、笑う者たち

闘技場の喧騒が、ようやく収まり始めた頃。


高台の奥、視界と結界で隔てられた観覧席では、

二人の為政者が並んで腰掛けていた。


王国の王は、深く息を吐き、口元を緩める。


「……いやはや」


苦笑混じりに、隣を見る。


「英雄というのは、

 やはり“型”には収まりませんな」


皇帝は、低く笑った。


「だからこそ、価値がある」


視線は闘技場全体へ。


まだ整地されきっていない地面。

崩れた結界柱。

あちこちに残る、魔力と剣圧の痕。


「規律も、均衡も、

 限界が見えた」


皇帝は言う。


「悪くない」


「……満足そうですな」


王が言うと、

皇帝は否定もしなかった。


「想定より、

 多くが“自分で止まった”」


「命令でも、裁定でもなく」


「疲れで、だ」


二人は同時に、笑った。


それは冷酷ではない。

むしろ――安堵に近い。


「世界は、まだ壊れていない」


「ええ」


「少なくとも、

 今日のところは」


――その少し下。


闘技場の外縁。


非裁定ノーリトリート》は、

並んで座り込み、完全に気を抜いていた。


「はー……」


ミリアが、地面に仰向けになる。


「久しぶりに、

 全員“同時にうるさい”現場だった」


エルドは苦笑する。


「方向性は違うが、

 本気度は同じだったな」


リュカは肩をすくめた。


「黒幕まで出てきて、

 即消えるとは思わなかった」


「一番判断が一致した瞬間だったね」


ミリアが笑う。


誰も否定しない。


そして、レイン。


少し離れた場所で、

壊れかけた結界柱にもたれ、

その光景を眺めていた。


「……楽しそうだな」


背後から声。


振り返ると、

王国側の英雄――ヴァルハルトとライザ。

帝国側からは、ガランとセシリアが立っている。


「なあ」


ヴァルハルトが言う。


「結局さ」


「今日の模擬戦」


ニヤリとする。


「どっちが強かったと思う?」


一瞬、空気が止まった。


レインは、少し考える素振りを見せてから――


笑った。


「うーん」


「みんな、強かったよ」


「それじゃ答えにならん」


ガランが即座に言う。


「じゃあさ」


レインは肩をすくめる。


「最後まで立ってたのは、

 “制度”じゃなくて――」


一拍。


「人だったろ?」


沈黙。


セシリアが、ふっと目を伏せる。


ライザは、鼻で笑った。


「逃げたな」


「はぐらかした」


「専門です」


レインは、悪びれない。


遠くで、王と皇帝が談笑している。


近くで、英雄たちが疲れた顔で笑っている。


誰も勝者を決めず、

誰も敗者を作らなかった一日。


だが確かに、

何かは前に進んだ。


そのことだけが、

この場に残っていた。


闘技場の後始末は、思ったより静かだった。


医療班が動き、記録官が破損状況を書き留め、

結界技師たちが無言で魔力線を再構築していく。


英雄たちは、全員が同じ表情をしていた。


――疲労。

それも、身体より先に来る種類のものだ。


「……くそ」


ヴァルハルト=レオンが、大剣を地面に突き立て、腰を下ろす。


「全力で振って、

 誰も倒れてねえってのは……」


「健全だろ」


隣で、ライザ=クロウデルが水袋を投げる。


「少なくとも、

 戦争よりは」


「比較対象が悪い」


ヴァルハルトは受け取りながら、鼻で笑った。


少し離れた場所では、

帝国側の英雄たちも、同じように武装を解いている。


グラディウス=フェルツは、剣を布で拭きながら言った。


「戦域の損耗率は、

 想定内に収まっている」


「……それ、今言う?」


セレナ=リィスが、額を押さえる。


「全員息切れしてるのに」


「息切れは、正常な反応だ」


「そういう話じゃないのよ」


セレナは、ちらりと《非裁定》の方を見る。


「彼らは?」


「戦っていない」


グラディウスは即答した。


「だが――」


少し間を置く。


「最も多くの選択肢を、

 場に残した」


その言葉を、

ミレイア=トーンが静かに聞いていた。


「……皮肉ですね」


「何がだ」


「秩序を守る側が、

 選択肢を削って」


「壊さない側が、

 残している」


グラディウスは、返答しなかった。


否定できないからだ。


一方、《非裁定》。


ミリアは、壊れた結界柱を指で叩きながら言う。


「ねえレイン」


「うん?」


「今日のこれ、

 “成功”でいいの?」


レインは、即答しなかった。


闘技場を見回す。


英雄たち。

兵士たち。

技師たち。

王と皇帝。


全員が、

自分の役割を果たした顔をしている。


「……成功ってさ」


レインは、ゆっくり言った。


「誰かが満足したら、

 誰かが不満になるんだ」


「今回は?」


「全員が、

 ちょっとだけ不満」


ミリアは、目を丸くしてから笑った。


「それ、最高じゃん」


「だろ?」


エルドが、腕を組む。


「全力で殴り合って、

 それでも決着がつかない」


「制度も、力も、

 万能じゃないって分かった」


リュカが、静かに付け加える。


「……だからこそ、

 次が怖い」


その言葉に、

場の空気が一瞬だけ締まった。


王国英雄と帝国英雄。

互いに距離を保ちつつも、

視線が交差する。


理解はした。

だが、納得はしていない。


正義は、まだ譲っていない。


「なあ」


ヴァルハルトが、再びレインを見る。


「次があったらさ」


「今度は、

 ちゃんと“勝ち”を決めようぜ」


レインは、少し困ったように笑った。


「その時は――」


「またはぐらかす?」


「たぶんね」


その答えに、

帝国側からも、王国側からも、

小さな笑いが漏れた。


だが、それは和解ではない。


ただの、

一時停止だ。


闘技場の上空を、

修復途中の結界光が静かに覆っていく。


その下で、

誰もが同じことを思っていた。


――今日で終わりではない。


次は、

もっとはっきりした形で来る。


それでも。


今日は、剣を収めた。


それだけで、

十分だった。


日が、傾き始めていた。


闘技場の影が長く伸び、

壊れた結界柱の影が、地面に歪んだ線を描く。


修復は、まだ終わっていない。

だが、今日の出来事は――

もう誰にも消せなかった。


王と皇帝は、立ち上がる。


「今日は、ここまでだな」


王が言う。


「ええ」


皇帝は頷く。


「十分に見た」


二人の視線が、

同時に《非裁定(ひさいてい/ノーリトリート)》へ向く。


レインは、それに気づいていたが、

視線を合わせなかった。


合わせる必要がないからだ。


評価されるために、

ここに立っているわけではない。


英雄たちが、

それぞれの陣営へ戻っていく。


王国側。

帝国側。


互いに背を向けながらも、

完全には切れていない距離感。


――次がある。


それだけは、全員が理解していた。


「……行くか」


エルドが言う。


ミリアが、軽く伸びをする。


「今日はもう、

 走りたくない」


「走らなくていい」


レインは、微笑んだ。


「今日は、

 ちゃんと立ってた」


リュカは、記録帳を閉じる。


「書けることが、

 多すぎるな」


「いいことじゃん」


「いや……」


リュカは、空を見る。


「これから先、

 書かないといけないことが、

 増えた」


レインは、立ち止まり、

もう一度だけ闘技場を振り返った。


剣がぶつかり、

光が衝突し、

正義が正義を否定した場所。


それでも、

誰も死ななかった。


誰も、

“正しい側”にならなかった。


(……たぶん)


(これが、

 俺たちのやり方なんだろう)


《完全模写理解(かんぜんもしやりかい/フル・アナライズ・コピー)》は、

静かだった。


使う必要は、なかった。


代わりに、

見て、聞いて、覚えた。


それで十分だった。


「なあ、レイン」


ミリアが、歩きながら言う。


「もしさ」


「次に、

 “決めなきゃいけない日”が来たら」


少しだけ、声が低くなる。


「その時も、

 はぐらかす?」


レインは、

少し考えてから答えた。


「……たぶん」


「でも」


一拍。


「一人じゃやらない」


ミリアは、

満足そうに笑った。


「それでいい」


夕焼けが、

全員の背中を照らす。


答えは出ていない。

正義も決まっていない。


それでも――


今日、

世界は壊れなかった。


それだけで、

十分な“成果”だった。

続きが気になったら良ければブックマークでも…!

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