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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第27章 英雄と英雄

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均衡と規律は、剣を交える

――一方その頃。


王都外縁、帝国側が管理する第二公式演習区画。


石畳は広く、障害物は最小限。

結界は薄いが、重ね掛けされている。

観測・制圧・撤退――すべてを想定した「実戦寄り」の場だ。


中央に立つのは、青を基調とした装束の一団。


蒼衡(そうこう/アズール・バランス)。


その正面に、隊列を一切崩さず並ぶ者たちがいる。


鋼律隊(こうりつたい/アイアン・コード)。


空気は、闘技場より静かだった。

だが、張り詰め方は比べものにならない。


「――確認する」


鋼律隊隊長、カイル=ヴァンロックが一歩前に出る。


「これは演習ではない。

 だが、戦争でもない」


視線は、蒼衡のリーダーへ。


セイン=ヴァルクスは、長槍を地に突き、穏やかに頷いた。


「理解している。

 こちらも同意だ」


「目的は?」


「理念のすり合わせ」


一瞬の沈黙。


鋼律隊副隊長、セレナ=リィスが口を挟む。


「ずいぶん曖昧ね。

 うちの規定では、曖昧さは危険因子よ?」


「均衡も同じだ」


セインは答える。


「曖昧さを排除しすぎると、

 世界は脆くなる」


「……ほら」


セレナが小さく笑う。


「もう噛み合ってない」


カイルは短く息を吐いた。


「なら、確認方法は一つだ」


剣を抜く。


「行動で示せ」


セインも、槍を構え直す。


「望むところだ」


合図はない。


同時に、踏み込んだ。


最初に動いたのは、鋼律隊前衛――

ドラン=ハルバード。


一直線。

迷いのない突進。


「《法槌一撃リーガル・スマッシュ》!」


振り下ろされる大剣。

ただの力技ではない。

「違法・反逆」と判定された対象に、追加ダメージが乗る。


――だが。


セインは退かない。


「《均衡再裁定バランス・ジャッジ》」


視界が、わずかに歪む。


ドランの剣が、**“当たるはずの未来”**を失った。


「……なに?」


一拍遅れて、剣が空を切る。


「未来を切り捨てた」


セインが静かに言う。


「被害が大きくなる分岐をな」


「未来を、選んだ?」


ドランが歯を食いしばる。


「選んだ未来以外を、捨てただけだ!」


次の瞬間。


鋼律隊後衛、ミレイア=トーンが動く。


「《被害最小化ミニマム・ロス》展開」


戦場全体に、数式のような光が走る。

衝撃波、余波、反動――すべてが数値で削減されていく。


「……なるほど」


蒼衡前衛、ガラン=ディオルが低く唸った。


「被害を減らす代わりに、

 自由度を削るか」


「事故は起きない」


ミレイアは静かに答える。


「その代わり、想定外も起きない」


「それが気に入らない」


ガランは大剣を構え、


「《断定斬デシジョン・スラッシュ》!」


一刀。


迷いのない一撃。


だが、その刃は――

途中で鈍った。


「……っ?」


セレナが目を細める。


「今の、威力が落ちたわね」


ミレイアは即答する。


「周囲被害が規定値を超えた」


「切ったの?」


「削っただけ」


蒼衡後衛、リィネ=フォルテが静かに詠唱を始める。


「《未来収束フューチャー・ロック》」


空気が、重くなる。


分岐が、消える。


「……嫌な感触だな」


カイルが呟く。


「未来を一つに固定する魔法か」


「不確定要素は、秩序を壊す」


リィネは淡々と言う。


「だから排除する」


「それは――」


カイルは剣を構え直す。


「現場で判断するものじゃない」


「判断を現場に任せるから、

 世界は壊れる」


言葉が、完全に交差した。


次の瞬間。


鋼律隊全体が、一斉に動く。


「《命令執行オーダー・エグゼクト》」


カイルの声が、場を貫いた。


隊員たちの動きが、一段階だけ鋭くなる。

自由度は下がる。

だが、失敗もしない。


「……これが規律か」


セインは、口元をわずかに緩めた。


「悪くない」


槍を構え直す。


「だが――」


視線が鋼律隊全員を捉える。


「均衡は、

 一人に責任を集中させる」


青い光が、セインを中心に集まる。


蒼衡の全員が、一歩退いた。


「来るわよ」


セレナが呟く。


セインが、宣言する。


「ここからは――」


「全未来を背負う」


空気が、震えた。


この戦いは、

勝敗を決めるものではない。


どちらの思想が、どこまで耐えられるか。


それを測るための、

静かで、重い衝突だった。


青い光が、まだ場に残っていた。


セイン=ヴァルクスの《均衡再裁定》は、

“発動した”というより、

常在しているようにそこにあった。


鋼律隊は、すでに理解している。


(踏み込みを誤れば、未来ごと削られる)


だが、止まらない。


止まれない。


「――散開、第三配置」


カイルの命令が、即座に全体へ伝播する。


命令執行オーダー・エグゼクト》。


隊員たちの動きが、再び揃う。

意思ではなく、命令が最優先。


「合理的だ」


セインが、率直に言った。


「個人の迷いを排除し、

 事故を減らす」


「事故は起こさない」


カイルは答える。


「代わりに、責任を曖昧にもしない」


「責任を、制度に預ける?」


「違う」


カイルは一歩踏み込む。


「任務に預ける」


その瞬間。


鋼律隊副隊長、セレナ=リィスが動いた。


「《規範演算ノーマ・カリキュレーション》」


戦場全体に、淡い数式が展開される。


・許容損害

・合法行動

・逸脱判定


それらが、即時に算出される。


「……面白いわね」


蒼衡の補助役、ユール=セティアが小さく息を吐いた。


「あなたたち、

 “正しいかどうか”を考えてない」


セレナは肩をすくめる。


「考えると遅れるから」


「冷たい」


「便利よ」


その直後。


ドラン=ハルバードが、再び前に出た。


「隊長、対象を――」


「許可」


短い一言。


ドランが踏み込む。


「《法槌一撃リーガル・スマッシュ》!」


だが今度は、狙いが違う。


セイン本人ではない。


地面。


均衡の魔力が最も濃い“節”を叩く。


――空間が、軋んだ。


「……なるほど」


セインが目を細める。


「均衡そのものを、

 戦場から引き剥がす気か」


「場を壊さず、機能だけ削る」


カイルの声は冷静だ。


「規律は、

 仕組みとして対処する」


蒼衡前衛、ガラン=ディオルが前に出る。


「なら、こちらも同じだ」


大剣を構える。


「《断定斬デシジョン・スラッシュ》」


今度の斬撃は、

**ドラン個人ではなく、隊列の“中心線”**を狙っていた。


「……っ!」


セレナが即座に判断する。


「配置誘導、発動!」


鋼律隊後衛、ミレイア=トーンが魔力を走らせる。


「《配置誘導フォース・ポジション》」


隊列が、無意識のうちにずれる。


斬撃は、誰にも直撃しない。


だが――


「動かされたな」


ガランが低く言う。


「選択肢を、奪った」


「事故を防いだだけ」


ミレイアは穏やかに返す。


「……それが」


ガランは、剣を下ろさずに言った。


「一番、信用ならない」


空気が、さらに重くなる。


その時。


蒼衡後衛、リィネ=フォルテが静かに詠唱を終えた。


「《未来収束フューチャー・ロック》――第二段階」


世界が、一拍だけ遅れた。


鋼律隊の動きが、

ほんの僅かに噛み合わなくなる。


「……っ」


カイルが歯を噛む。


(未来を固定されている)


(だが、まだ“完全”じゃない)


「セレナ」


「分かってる」


彼女は即答した。


「固定されてるのは、

 “結果”だけ」


「過程は、まだ自由」


カイルは、剣を構え直す。


「全隊」


深く、息を吸う。


「――命令解除」


一瞬。


《命令執行》が、切れた。


隊員たちの動きに、

わずかな“個”が戻る。


「……正気?」


セインが、初めて眉を動かした。


「事故率が上がる」


「承知の上だ」


カイルは、真っ直ぐ見る。


「現場で判断する」


「それは――」


セインが言いかけて、止まった。


鋼律隊は、

誰も躊躇っていなかった。


迷いはある。

恐怖もある。


それでも、立っている。


「……なるほど」


セインは、静かに笑った。


「君たちは、

 “選ばせない”側ではない」


槍を構え直す。


「選ぶ責任を、現場に返している」


その言葉に、

セレナが、ほんの一瞬だけ微笑んだ。


「やっと分かった?」


だが、次の瞬間。


セインの魔力が、跳ね上がる。


「なら――」


「その覚悟が、

 どこまで耐えられるかを試そう」


均衡が、再び動き出す。


この戦いは、

勝つためのものではない。


壊れずに、どこまで進めるか。


その限界を、互いに測り始めていた。


最初に異変が出たのは、音だった。


剣戟でも、爆音でもない。

呼吸音だ。


荒く、短く、整えようとして整わない。


「……っ」


ドラン=ハルバードが、思わず一歩下がる。


《法槌一撃》の反動が、

腕に、肩に、思考に溜まっている。


「どうした、前衛」


ガラン=ディオルが、剣を下げずに言った。


「さっきより、重いぞ」


「……均衡だ」


ドランは吐き捨てる。


「押し返してくる」


セイン=ヴァルクスの《均衡再裁定》は、

攻撃でも、防御でもない。


常に“調整”してくる。


力が出過ぎれば抑え、

出なければ補う。


だが――


それは同時に、

全員に同じ“負荷”を課す。


「……効率が、落ちている」


後衛のリィネ=フォルテが、静かに言った。


《未来収束》の視界が、揺れる。


固定したはずの未来が、

細かく分岐を始めている。


「数が多い」


「意思が、戻ってる」


「予測が、追いつかない……」


息が、浅くなる。


蒼衡側だけではない。


鋼律隊も、明確に疲弊していた。


「……隊長」


ミレイア=トーンが、かすかに声を落とす。


《被害最小化》が、

数字として警告を出していた。


――許容値、超過傾向。


「このままだと、

 “事故が起きない代わりに”

 全員が動けなくなります」


カイル=ヴァンロックは、答えない。


剣を支える腕が、

わずかに震えている。


命令を切った反動が、

今になって来ていた。


(自由は、重い)


(だが――)


「……それでも」


小さく、だがはっきり言う。


「止めない」


セインが、その様子を見ていた。


「限界が近いな」


槍を下ろす。


均衡の魔力が、

わずかに乱れている。


「均衡は、万能ではない」


彼は、淡々と続ける。


「全員が“最善”を選び続けると、

 逆に――」


一瞬、言葉が詰まる。


呼吸が、乱れた。


「……歪む」


蒼衡側でも、

ガランが大剣を地面に突いた。


「はっ……」


短く笑う。


「皮肉だな」


「選ばせるために、

 ここまで削るとは」


ユール=セティアが、

額の汗を拭う。


「ねえ、リーダー」


セインを見る。


「これ、続ける意味ある?」


セインは、答えなかった。


代わりに、

周囲を見渡す。


誰も倒れていない。

誰も逃げていない。


だが――


全員、限界だ。


その時。


空気が、変わった。


闘技場とは別の位相から、

やたらと大きな存在感が割り込んでくる。


「――実に嘆かわしい」


重く、芝居がかった声。


「秩序を理解せぬ者どもが、

 ここまで――」


全員が、同時に顔を上げた。


「……誰だ」


「今、忙しいんだけど」


「話、長いタイプだ」


次の瞬間。


黒いローブの“何か”が、

高台に姿を現す。


「我こそは――」


言い切る前に。


「うるさい」


セイン。


「今それどころじゃない」


「邪魔」


ガラン。


「場を壊すな」


カイル。


「未承認存在」


セレナ。


「排除対象」


リィネ。


「未来に要らない」


ドラン。


「殴っていい?」


ミレイア。


「被害最小で済むなら」


ユール。


「全員一致?」


その瞬間だった。


剣、槍、魔法、均衡、規律、未来。


全方向からの一斉攻撃。


「ま、待――」


黒幕らしき存在は、

悲鳴すら最後まで言えなかった。


――消滅。


静寂。


数秒後。


「……なんだったんだ、今の」


ガランが言う。


「黒幕っぽかったな」


ドラン。


「ぽかっただけ」


セイン。


全員が、その場に座り込む。


息が、荒い。


「……模擬戦だっけ」


ユールが呟く。


「もう関係ないな」


カイルが、空を見上げる。


均衡も、規律も、

今はただ重いだけだった。


遠くで、誰かが言った。


「今日は……休戦でいい?」


異論は、出なかった。


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