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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第27章 英雄と英雄

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英雄が英雄である理由

結界音が、三度目に鳴った。


今度は、警告ではない。

悲鳴だった。


「――結界、第四耐久域に到達!」


記録官の声が、裏返る。


「これ以上は……!」


言葉の続きを、誰も待たなかった。


ヴァルハルト=レオンが、息を吐く。

深く、重く。


「……なあ、グラディウス」


「何だ」


「正直に言え」


大剣を、地面に突き立てる。


「お前、楽しいだろ」


一瞬。


グラディウス=フェルツの剣先が、僅かに下がった。


「……否定はしない」


その答えに、ヴァルハルトが笑った。


「だろうな」


「最適化の先にあるのは――」


グラディウスが続ける。


「“完全な勝利”だ」


「違う」


ヴァルハルトは、剣を引き抜く。


「“完全な排除”だ」


踏み込む。


今度は、読みを拒む速度。

《戦域最適化》の“外”から叩き潰す。


「――っ!」


グラディウスの足が、初めて乱れた。


結界に、亀裂が走る。


同時に。


「……っ、下がって!」


イリス=アークライトが、叫ぶ。


彼女の光は、すでに“魔法”の域を越えていた。

感情が、術式を押し上げている。


「もう、これ以上は――」


「下がりません」


セシリア=ノクティスの声は、震えていた。


だが、引かない。


《聖規光輪ホーリー・オーダー》が、さらに拡張される。


「私は!」


セシリアが叫ぶ。


「正しくあろうとしただけです!」


「分かってる!」


イリスが、歯を食いしばる。


「だから腹が立つの!」


二つの光が、激突する。


白が白を拒み、

正義が正義を否定する。


その衝撃が、

闘技場全体を揺らした。


「全域危険!」


医療班が後退する。


「観客退避、間に合わない!」


その時だった。


「――十分だ」


低く、だが圧倒的な声。


闘技場の中心に、

一人の男が立っていた。


レオニス=アウグスト。


帝国英雄の象徴。


剣は抜いていない。

だが、その存在だけで、空気が縫い止められる。


「模擬戦は終わりだ」


「終われない!」


ヴァルハルトが、即座に吠える。


「まだ――!」


「終わりだ」


レオニスの声が、重なる。


それだけで。


ヴァルハルトの身体が、止まった。


力ではない。

圧でもない。


**“背負ってきたものの重さ”**が、違った。


「……くそ」


ヴァルハルトは、剣を下ろす。


「やっぱ、王国の英雄は」


笑う。


「一番、面倒なとこで止めに来るな」


「帝国の英雄も同じだ」


レオニスは、視線を巡らせる。


グラディウス。

セシリア。

ユリウス。


誰もが、息を荒げている。


「君たちは、正しかった」


レオニスは言う。


「だが――」


一拍。


「“正しいまま、進みすぎた”」


セシリアの肩が、震えた。


「……それは」


「罪ではない」


レオニスは、静かに告げる。


「だが、英雄の仕事は」


視線が、王国側へ移る。


「正義を通すことではない」


ライザ=クロウデルが、腕を組む。


「じゃあ、何だ?」


「正義が衝突した時に」


レオニスは、答えた。


「世界を壊さずに立ち止まることだ」


沈黙。


重い。


その言葉が、

ここにいる全員に刺さっていた。


そして。


場の外。


《非裁定(ひさいてい/ノーリトリート)》。


誰も剣を抜かず、

誰も光を放たず、

誰も命令しない者たち。


レインは、静かに思う。


(……英雄は)


(正義を振るう存在じゃない)


(正義が壊れる瞬間を――)


(見届ける存在だ)


王と皇帝が、高台で視線を交わす。


もう、逃げられない。


制度でも、規定でも、

模擬戦という言葉でも。


この場で起きた“事実”から。


闘技場に、静寂が戻る。


だがそれは、

解決の静けさではない。


決断を迫る静けさだった。


静寂は、長く続かなかった。


英雄たちは、互いを見て――

ほぼ同時に、ため息を吐いた。


「……はぁ……」


「……っ、肺が痛い……」


「……もう一戦やれって言われたら、断る……」


ヴァルハルト=レオンが、大剣を地面に突き刺したまま座り込む。


「くそ……模擬戦で息切れとか……」


グラディウス=フェルツも、剣を下ろして膝に手をつく。


《戦域最適化》は解除されていた。

集中が、完全に切れている。


「……最短を積み重ねすぎた」


小さく、独り言。


セシリア=ノクティスは、杖を支えに立っていた。


《聖規光輪ホーリー・オーダー》は、光を失い、消えている。


「……正しさも……疲れるのですね……」


イリス=アークライトは、地面に座り込んで笑った。


「でしょ……だから言ったのに……」


ユリウス=クラウゼンは、眼鏡を外して額を押さえる。


「……規定外の事象が……多すぎる……」


ノインは、召喚陣の残滓を見つめて肩を落とした。


「……結局、一体も呼べなかった……」


誰も勝っていない。

誰も負けていない。


そして――

全員、限界だった。


その時。


空気が、歪んだ。


「――フフフ……」


不快に粘つく声。


闘技場の中央、

黒い靄が人の形を取り始める。


「ようやくだ……」


声は、酔っていた。


「正義がぶつかり……英雄が疲弊し……」


姿が、はっきりする。


「今こそ――私が表に――」


「うるさい」


一斉。


本当に、一斉だった。


ヴァルハルトの大剣が、反射で飛ぶ。

グラディウスの剣が、最短距離で突き出される。

セシリアの光が、条件反射で収束する。

イリスの魔法が、八つ当たり気味に炸裂する。

ユリウスの拘束光が、法令第七条を無視して放たれる。

ノインの召喚が、今さら成功する。


そして――


《非裁定(ひさいてい/ノーリトリート)》。


レインは、能力を使わない。


ただ、石を拾って投げた。


ミリアも投げた。

エルドは盾ごと突っ込んだ。

リュカは「記録上邪魔だから」と言って魔導具を起動した。


――ドン。


音も、悲鳴もなかった。


黒幕だった“何か”は、

存在を主張する前に、消えた。


…………


…………


数秒後。


「……今の、何?」


立会人が、震える声で聞いた。


ヴァルハルトが、地面に寝転がったまま答える。


「知らん」


「出てきたから」


イリスが続ける。


「黙らせただけ」


セシリアが、小さく頷く。


「……不適切なタイミングでした」


グラディウスが、真顔で付け足す。


「最短で排除した」


ユリウスが言う。


「正当防衛と判断する」


ノインが叫ぶ。


「今さら来るなよ!!」


沈黙。


次の瞬間――


誰かが、吹き出した。


「……はは」


ミリアだった。


「……ごめん」


笑いが、止まらない。


「緊張してたのに……」


エルドが、肩を揺らす。


「……英雄って」


「案外、短気だな」


リュカが、記録を閉じながら言った。


「でも――」


顔を上げる。


「今のは、全会一致だ」


レインは、空を見上げる。


(裁定も)


(正義も)


(黒幕も)


全部、後回し。


今はただ。


「……疲れたね」


その一言で。


闘技場に、

**本当の意味での“終わり”**が訪れた。

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