表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第27章 英雄と英雄

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

402/1040

規定値上昇、親善終了

結界が、低く唸った。


音としては微かなはずなのに、

闘技場にいる全員が「聞いてしまった」と理解した音だった。


「――結界反応、上昇!」


記録官が叫ぶ。


「規定出力、第二段階に移行!

 ……って、誰が許可出した!?」


返答はない。


代わりに、

ヴァルハルト=レオンの大剣が、地面を削りながら振り抜かれた。


「おらァ!」


重い。

最初から最後まで“重さ”しかない一撃。


だが、ただ重いだけじゃない。


剣筋が、妙に通っている。


グラディウス=フェルツは、それを正面から受けなかった。

受ける直前で、わずかに剣をずらす。


《戦域最適化》。


ヴァルハルトの踏み込み角度。

重心移動。

筋肉の連動。


すべてを「最短で無力化する位置」へ誘導する。


「……っ」


ヴァルハルトの剣が、空を切った。


「またそれかよ!」


「最短だ」


グラディウスの剣が、返す。


速い。

模擬戦の“許容速度”を、確実に越えている。


金属音が弾け、火花が散る。


観客席から、悲鳴に近い息が漏れた。


「おいおい……」


ライザ=クロウデルが、歯を鳴らす。


「完全に“勝ちに来てる”動きだぞ」


「違う」


隣でノインが首を振る。


「“負けないための動き”だ」


その言葉が、妙に重かった。


ヴァルハルトが、踏み込みを止める。

一瞬だけ、笑みが消えた。


「なぁ、グラディウス」


「何だ」


「お前さ」


大剣を肩に担ぎ直す。


「“俺がどう動くか”より先に、

 “俺が失敗する形”を作ってないか?」


グラディウスは、即答しなかった。


剣を構えたまま、ほんの一拍。


「――無駄を排除しているだけだ」


「それを“操作”って言うんだよ」


ヴァルハルトの目が、鋭くなる。


「選択肢を残せ」


「残す必要がない」


その瞬間、

ヴァルハルトの大剣が、明確に“狙い”を変えた。


《最適化》の外側。


わざと、無駄な角度。

わざと、非効率。


「だったら!」


地面を蹴る。


「無駄で殴る!」


衝突。


結界が、悲鳴を上げた。


「結界耐久、低下!」


医療班が一斉に身構える。


同時に。


反対側の円。


光が、軋んでいた。


イリス=アークライトの光は、もはや“眩惑”だけじゃない。

空間全体を揺らし、観客席の反射光すら巻き込んでいる。


対するセシリア=ノクティス。


《聖規光輪ホーリー・オーダー》が、三重に展開されていた。


「……これ以上は危険です」


セシリアの声は、まだ穏やかだ。


だが、穏やかすぎる。


「危険なのは――」


イリスが、杖を強く握る。


「あなたの“安全”よ」


光が、真正面からぶつかる。


白と白。

同質だからこそ、拒絶する。


「あなたは!」


セシリアの声が、初めて強くなる。


「“選ばせる”と言いながら、

 最も不安定な選択を人に強いている!」


「違う!」


イリスが叫ぶ。


「“選ばせない”のが、あなたでしょ!」


《聖規光輪》が、周囲へと広がる。


観客席の人間が、無意識に後退する。

恐怖ではない。

“正しい判断”だと、体が理解してしまう。


「……っ」


イリスの表情が歪む。


「それ、気持ち悪い」


「救済です」


「違う!」


イリスが、光量をさらに上げる。


「それは――」


杖を振り上げる。


「“安心という名の檻”よ!」


光が、爆ぜた。


結界の内側で、白い衝撃が走る。


「停止!」


立会人が叫ぶ。


「停止だ! これは模擬戦だぞ!」


誰も、止まらない。


帝国側の外縁。


ユリウス=クラウゼンが、冷静に一歩前へ出る。


「違反を確認」


指を上げる。


「未承認高位魔術、複数展開。

 観客席への影響、発生」


ノイン=フェルツが、歯を食いしばる。


「……だから言っただろ」


「言っていない」


「言った気がする!」


ノインは、両手を広げた。


召喚陣が、半自動で展開される。


「こっちも止める!

 強制遮断用の――」


「停止」


ユリウスの声が、被せる。


《帝国裁断インペリアル・ヴァーディクト》。


光が落ちる。


召喚陣が、強制的に分解された。


「……は?」


ノインが固まる。


「おい、今の――」


「法令違反だ」


ユリウスは、淡々と告げる。


「模擬戦であっても、

 未承認存在の介入は違法」


「だから遮断用だって言ってんだろ!」


「理由は関係ない」


ノインの拳が、震える。


「……お前さ」


低く言う。


「“止める”って言葉を、

 一番暴力的に使うよな」


「必要な暴力だ」


即答。


そのやり取りを、

帝国英雄の象徴――レオニス=アウグストが見ていた。


表情は変わらない。


だが、一歩、前へ出る。


それだけで、空気が変わる。


「……ここまでだ」


低い声。


だが、よく通る。


ヴァルハルトとグラディウスの剣が、同時に止まる。


イリスとセシリアの光が、わずかに緩む。


「親善模擬戦の域を越えた」


レオニスは、全体を見渡す。


「これ以上は――」


「待て」


王国側から、別の声。


ライザ=クロウデルが、前に出た。


「それ、帝国が言う?」


レオニスの視線が、ライザを捉える。


「貴方方も、制御を失っている」


「違うな」


ライザは、肩をすくめる。


「“制御されるのを拒否してる”だけだ」


場が、静まる。


「……英雄とは」


レオニスが言う。


「制度を信じ、背負う存在だ」


「王国の英雄はな」


ライザは、にやりと笑った。


「制度が人を潰しそうなら、

 制度の方を疑う」


その言葉に、

観客席の空気が、ざわりと揺れた。


そして。


闘技場の外側。


誰も戦っていない場所。


非裁定ノーリトリート》は、動かない。


ミリアが、小さく息を吸う。


「……これ、もう」


「うん」


エルドが答える。


「“模擬”じゃない」


レインは、黙って見ていた。


剣。

光。

法。

規範。

最適化。


すべてが、

「正しい形」でぶつかっている。


だからこそ――

誰も、引けない。


レインは、静かに思う。


(ほら)


(選ばせる正義は、

 こうやって――)


(人を、追い詰める)


結界が、再び鳴った。


次に動くのは、

誰か。


それはもう、

立会人でも、王でも、皇帝でもない。


英雄自身だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ