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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第27章 英雄と英雄

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親善模擬戦(※ただし因縁はくだらない)

その視線の先にいるのは、

聖規の光を纏う女――セシリア=ノクティス。


「規範を守ることは、悪ではありません」


穏やかな口調。

しかし、その穏やかさが逆に“譲らない”ことを示していた。


「問題が起きた時、“正しい制度”が人を救う。私はそう信じています」


「へぇ」


イリスは、わざとらしく眉を上げる。


「じゃあ、私が“規範違反”であなたの視界を眩ませても、許容範囲ってこと?」


セシリアの瞳が、わずかに細くなる。


「挑発は規範違反です」


「ほらね。すぐ規範」


「あなたは、何でも“軽く”扱いますね」


「軽く扱わないと、世界が重すぎて潰れちゃうから」


――その会話の温度だけが、じわりと上がる。

周囲の英雄たちが、まだ笑っている間に。


いっぽう中央では、ヴァルハルトが大剣を肩から降ろし、地面に軽く当てて鳴らした。

金属音が、闘技場の空気を一段引き締める。


「さぁ、グラディウス。今日は“軽微”で済むんだよな?」


「当然だ」


グラディウスは迷いなく答える。


「模擬戦だ。規定以上の力は使わない」


「規定って言葉、便利だよなぁ」


ヴァルハルトは笑いながら、剣先をわずかに持ち上げる。


「じゃあ俺も、“規定通り”に恨み言を言うわ」


「恨み言は規定にない」


「追加しろよ」


「却下する」


その瞬間、観客席の笑いが大きくなる。

立会人が頭を抱えた。


「だから! 親善だって言ってんだろ!」


叫びは、もう儀式みたいなものだ。


帝国側の陣に、もう一つの冷たい“整然”があった。

黒衣を纏った男――ユリウス=クラウゼン。法の代行者。

視線だけで人を仕分けするような鋭さがある。


その前に、王国側の召喚士――ノイン=フェルツが、やれやれと肩を落とす。


「……君さ、さっきから“視線”が裁判所なんだよ」


「観察だ」


ユリウスは淡々と言った。


「戦闘前に、対象の危険度を分類している」


「分類って……」


ノインは小さく笑う。


「やめてくれない? 俺、書類仕事が嫌いで召喚士やってるのに」


「理解できない。嫌なら改善すればいい」


「改善できない種類の嫌いってあるんだよ」


ノインの後ろで、ライザが片手をひらひら振る。


「おいノイン、そいつ“分類好き”だから無理だ。たぶん寝る前も“合格/不合格”で羊数えてる」


ユリウスが、初めて眉を動かした。


「不合理だ」


「だろ? だから“分類”やめろって」


「だが、分類しないと世界が崩れる」


言い切るユリウスの声に、別の声が重なる。


「崩れない」


帝国側の中央から、一歩前に出た男がいた。


帝国英雄の象徴――レオニス=アウグスト。

制度を背負う英雄。顔は穏やかだが、立っているだけで“場の温度”が変わる。


「世界は、誰かが“背負う”から保つ。分類は手段であって目的ではない」


ユリウスは、僅かに顎を引く。

従っているのではない。整列しているだけだ。


対して王国側の英雄たちは、空気が変わったのを敏感に嗅ぎ取った。

ライザが肩を回し、口元に笑いを残したまま目だけを細くする。


「……あー、来た来た。親善の皮を剥いだら一番ヤバいのが出てくるパターン」


「親善だって言ってるでしょ」


ノインが言うが、声はもう半分本気ではない。


ヴァルハルトは逆に嬉しそうだった。


「いいねぇ。皇帝の盾が来るなら、串焼き事件も“軽微”じゃなくなる」


「だからその話を続けるな!」


立会人が叫ぶ。


だが、止まらない。


セシリアはイリスの挑発を受け流すように、両手を胸前で合わせた。

淡い光が指先に集まり、輪郭だけの“光輪”を作る。


「規範は人を縛るためではなく、守るためにある」


「理想論だね」


イリスは、杖を軽く鳴らす。

光に対して、同じ光で返すのではない。

彼女の光はもっと“遊び”がある。眩しさと角度で相手の視界を奪う、いたずらみたいな術式。


「守るなら、眩しさに耐えてみなよ。ほら、“聖規”って眩しいんでしょ?」


セシリアの光輪が僅かに強くなる。


「あなたの揶揄は、他者を損ないます」


「損なってない。笑ってるだけ」


「笑いで済む損害もあります」


――その言葉が、イリスの癇に触れた。


「へぇ。じゃあ聞くけど」


イリスは一歩踏み出す。


「“串焼き事件”の時、あなたはどこにいたの? 規範の光で助けてあげた?」


観客席が再びざわつく。

ヴァルハルトが「おっ」と声を漏らした。


「なんだイリス、お前も串焼き事件に関係あんのか?」


「私は関係ない。……ただ」


イリスはセシリアを見据える。


「帝国英雄って、被害を“数値化できない”で切り捨てる癖があるでしょ」


セシリアは、ほんの一瞬だけ黙った。

その沈黙が、闘技場に“薄い緊張”を落とす。


グラディウスが、ヴァルハルトに向けて言う。


「開始前だ。挑発は不要」


「挑発じゃない。確認だ」


ヴァルハルトは大剣の柄を握り直す。


「俺は今日、確認しに来た。“帝国は俺を串焼きにしたまま忘れてるのか”をな」


「忘れていない。記録がある」


「記録じゃなくて“心”で覚えろよ!」


「数値化できない」


またそれだ、と観客席から笑いが漏れる。

だが笑いは、どこか乾いていた。


立会人が、深呼吸して手を上げる。


「……よし! じゃあ、第一組!

 王国:ヴァルハルト=レオン!

 帝国:グラディウス=フェルツ!

 同時に第二組!

 王国:イリス=アークライト!

 帝国:セシリア=ノクティス!

 ――開始!」


合図の瞬間、空気が“動いた”。


ヴァルハルトが踏み込む。

大剣の重量が地面を割る勢いで前に出る。


「まずは軽微に――ドカンといくぞ!」


「矛盾している」


グラディウスは低い構えのまま、ほんの半歩だけずらす。

それだけで、ヴァルハルトの剣先が空を切る。


空気が裂ける音。

観客席の笑いが消える。


ヴァルハルトの口元だけが笑っていた。


「……おいおい、避け方が“規定通り”すぎるだろ」


「最適解だ」


「最適解って言葉、嫌いだなぁ!」


二撃目。三撃目。

派手で、重い。なのに、当たらない。


その横で、イリスの光が舞う。

眩い粒子が弧を描き、セシリアの視界を狙う。


「聖規の人、見えてる? まぶしい?」


「見えています」


セシリアの光輪が回転し、イリスの光を“正面から”受け止めた。

眩しさが相殺される。

だがその相殺の仕方が、あまりに正確で冷たい。


「……ほんとに、そういうとこよね」


イリスの声が、さっきより低い。


セシリアの声もまた、さっきより低い。


「あなたの光は、人を遊ばせます。

 私の光は、人を正します」


「正す、ね」


イリスが笑う。

でもその笑いは、冗談の笑いじゃない。


「じゃあ、正してみなよ。――“私のやり方”を」


次の瞬間、イリスの光が“線”になる。

ただ眩しいだけじゃない。

結界の隙間、地面の反射、観客席の光――あらゆる光源を拾って、セシリアの正面に“眩惑の壁”を作った。


観客席から、息を呑む音。


セシリアの光輪が、一段強くなる。


「規範違反です」


「違反上等。模擬戦でしょ?」


「模擬戦は、模擬であるべきです」


「……その言い方」


イリスは、ほんの少しだけ歯を見せた。


「まるで、私が“模擬じゃない”みたいじゃん」


セシリアが、初めて一歩踏み込む。

その踏み込みは静かだ。

だが静かすぎて、逆に怖い。


「あなたが模擬を逸脱するなら――」


光輪が、増える。二重、三重。

聖規の輪が空間を区切り、イリスの光を“規定の幅”に押し戻していく。


ヴァルハルトとグラディウスの剣戟が鳴る。

イリスとセシリアの光がせめぎ合う。

闘技場は確かに安全に作られている。結界も、医療班も、記録官もいる。


――でも。


この場にいる八人の英雄は、全員が知っている。


「安全」って言葉は、

強い奴らが本気を出さないことを前提にしてる。


そして今、ほんの僅かに――

その前提が、揺れた。


観客席の端。

ノインが小さく息を吐く。


「……レオニスが、動くかもしれない」


ライザが、笑ってない目で呟く。


「動いたら、こっちも動く。

 そういう空気だな」


帝国側の中央で、レオニスが静かに手袋を直す。

視線は闘技場の中心――ヴァルハルトとグラディウスの間にある“間合い”に落ちていた。


そして誰にも聞こえないくらい小さく、言った。


「……“軽微”で済ませるには、熱が上がりすぎた」


その言葉が合図みたいに、

ヴァルハルトの剣が一瞬だけ“本気の軌道”を描く。


グラディウスの瞳が、初めて鋭くなる。


「――規定を上げる」


「やっと来た!」


ヴァルハルトが笑う。


結界が、かすかに鳴った。

立会人の顔が青くなる。


「お、おい! 規定ってなんだ規定って!

 親善! 親善だからな!?」


誰も返事をしない。


闘技場の熱が、確実に一段上がったところで――

次の“組み合わせ”を待っている二人が、互いに目を合わせる。


王国の召喚士、ノイン。

帝国の法の代行者、ユリウス。


そして、ライザが肩を回す。

レオニスが一歩、前に出る。


模擬戦のはずなのに。

くだらない因縁のはずなのに。


――英雄同士が向き合うと、

それだけで“本気”が混ざってしまう。

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