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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第27章 英雄と英雄

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模擬戦という名の確認

――場面は変わる。


王都北側、公式演習闘技場。


円形に整えられた地面。

簡易結界。

医療班と記録官が所定位置に並ぶ。


すべてが「安全」を前提に組まれていた。


「えー、再確認する!」


王国側の立会人が、やや砕けた声で叫ぶ。


「本件は親善模擬戦!

 勝敗は参考記録!

 死者・重傷者は即中止!」


形式的な宣言。

だが、誰も気を抜いてはいなかった。


王国側の陣。


大剣を肩に担ぐ男――ヴァルハルト=レオンが、欠伸混じりに言う。


「……で?」


視線は、向かいの帝国英雄に向いている。


「お前が、

 俺の“串焼き事件”の相手でいいんだな?」


観客席が、ざわつく。


「またその話か……」


同じ王国英雄のライザ=クロウデルが、呆れた声を出す。


「三年前だぞ」


「三年前“だから”だろ」


ヴァルハルトは笑う。


「忘れてないってのが、

 英雄の器ってもんだ」


対する帝国側。


前に立つのは、戦術完成型の英雄――

グラディウス=フェルツ。


剣はすでに抜かれているが、構えは低い。


「その件は、

 当時の行動記録に“軽微な衝突”として残っている」


「記録に残すな」


ヴァルハルトが即座に返す。


「しかも“軽微”って何だ」


「被害がなかった」


「被害は俺の心だ」


「数値化できない」


淡々とした返答。


観客席から、笑いが漏れる。


「……ほら」


王国側の魔導士――イリス=アークライトが、帝国側を見て肩をすくめる。


「帝国英雄って、

 ほんとそういうとこよね」


その視線の先にいるのは、

聖規の光を纏う女――セシリア=ノクティス。


「規範を守ることは、悪ではありません」


穏やかな口調。


「問題が起きないようにするのは、

 正義の一形態です」


「そういう言い方」


イリスが、少しだけ目を細める。


「人が嫌われる原因だって、

 知ってる?」


セシリアは一瞬だけ言葉に詰まり、

それでも微笑んだ。


「……理解はしています」


「理解してるなら、

 改善しなさいよ」


軽口。

だが、空気は少しずつ変わり始めていた。


開始の合図が鳴る。


「――模擬戦、開始!」


最初の一歩は、互いに様子見だった。


ヴァルハルトの大剣が、

あえて半拍遅れて振り下ろされる。


重い。

だが、殺気は抑えられている。


グラディウスは、最短距離で受けた。


剣がぶつかり、

乾いた音が響く。


「おっ」


ヴァルハルトが目を細める。


「思ったより、柔らかいな」


「力を抑えている」


「へえ」


二合、三合。


まだ“模擬”の範疇だ。


観客席の空気も、どこか余裕がある。


だが――


「……おい」


ライザが、低く呟いた。


「グラディウス、だっけ」


「何だ」


「さっきから、

 俺たちの“動き”を見てるな」


グラディウスの視線が、一瞬だけ動く。


「当然だ」


「評価してる?」


「最適化している」


その言葉に、

王国側英雄たちの笑みが、僅かに消えた。


「……模擬戦だぞ?」


ヴァルハルトが言う。


「勝ちに来てないよな?」


「勝敗は参考記録だ」


グラディウスは答える。


「だが――」


剣を構え直す。


「無駄な動きは、排除する」


次の一撃。


それは、

明らかに“模擬”の速度ではなかった。


風が割れる。


ヴァルハルトが、反射的に大剣を振り上げる。


「――っ!」


衝撃。


足元の地面に、細かな亀裂が走る。


観客席が、一瞬静まり返った。


「……あれ?」


立会人が、戸惑った声を出す。


「今の、

 ちょっと――」


遅れて、

帝国側の英雄――ユリウス=クラウゼンが、低く言う。


「接触速度、規定値超過」


「……え?」


「模擬戦の域を、

 越え始めている」


セシリアが、ぎゅっと杖を握る。


イリスも、魔力の流れを整えた。


笑いは、もうない。


ヴァルハルトが、歯を見せて笑った。


「……なるほど」


「やっぱりだ」


「帝国英雄ってのは――」


大剣を構え直す。


「加減をやめると、顔が出る」


グラディウスは、表情を変えない。


だが、剣の位置が、確実に変わった。


模擬戦。


その看板は、

すでに音もなく剥がれ落ちていた。


剣の衝突音が、闘技場の空気を裂いていた。


だが、それとは別に。

もう一つの“戦い”が、静かに始まっていた。


「……危険です」


帝国英雄、セシリア=ノクティスが、前に出る。

杖を構えるが、攻撃の姿勢ではない。


視線の先にいるのは、

王国英雄、イリス=アークライト。


「光量が過剰です。

 観客席への影響が出ています」


その声は穏やかで、責める色はない。

純粋な――配慮だった。


「……抑えてるわ」


イリスは即答する。


「これ以上落としたら、

 向こう側が見えなくなる」


指先に集う光が、わずかに揺れる。


「怪我人が出てからでは遅いの」


セシリアは一歩踏み込む。


「正しい行動を取れば、

 誰も傷つかずに済む」


その瞬間だった。


――淡い光の輪が、セシリアの足元から広がる。


聖規光輪ホーリー・オーダー》。


結界のようでいて、結界ではない。

それは行動を“正しい方向”へ補正する光。


観客席で、誰かが自然と席を立つ。

無意識に、より安全な場所へ移動していた。


「……?」


イリスが、眉をひそめる。


自分の補助魔法が、

“勝手に”最適化されている。


「……あなた」


声が、少しだけ低くなる。


「今、何をしたの?」


「何も」


セシリアは、はっきり言った。


「“正しい選択”が、

 自然に行われただけです」


「自然……?」


イリスは、光の流れを読む。


魔法式が、書き換えられている。

自分の意思とは関係なく。


「それ、

 人に選ばせてないわよね」


一瞬、セシリアの呼吸が止まった。


「……選ばせています」


「嘘」


イリスは、はっきり言った。


「あなたの光は、

 “迷う余地”を消してる」


観客席のざわめきが、大きくなる。


「だって、迷いは危険です」


セシリアは、譲らない。


「正しい道があるなら、

 そこへ導くのが救済でしょう?」


「導く、じゃない」


イリスが、杖を強く握る。


「押してるの」


光が、二人の間でぶつかる。


柔らかなはずの光が、

互いを拒むように軋んだ。


「……模擬戦だぞ!」


立会人の声が飛ぶ。


だが、二人は聞いていない。


「あなたの正義は、

 綺麗すぎる」


イリスが言う。


「傷つく前提を、

 最初から消してる」


「それの、何が悪いのですか?」


セシリアの声も、わずかに震え始めていた。


「人は、選択を誤る。

 なら――」


「誤る自由も、

 生きてる証拠よ」


その言葉が、

決定的に空気を変えた。


《聖規光輪》が、強く輝く。


同時に、イリスの光も出力を上げた。


「……止めろ!」


誰かが叫ぶ。


だが、もう遅い。


善意と善意が、

正義と正義が、

真正面から噛み合ってしまった。


模擬戦という言葉は、

完全に意味を失っていた。


そして、闘技場の端で。


《非裁定(ひさいてい/ノーリトリート)》は、

誰も止めず、誰も裁かず、

ただ――その光景を見ていた。


レインは、思う。


(これだ)


(選ばせる正義が、

 こうやって人を追い詰める)


剣の音。

光の衝突。

観客の悲鳴。


すべてが重なり始めた。


この模擬戦は、

もう“練習”では終わらない。


最初に限界へ近づいたのは、光だった。


セシリア=ノクティスの《聖規光輪ホーリー・オーダー》は、

もはや“周囲を安全に導く”範囲を越えていた。


観客席の人々が、

自分の意思とは無関係に、整然と後退していく。


悲鳴はない。

混乱もない。


ただ――

選ばされている。


「……っ」


イリス=アークライトが、歯を噛みしめる。


「それ、もう救済じゃない」


光を重ねる。

本来なら、調和するはずの属性。


だが、今は違う。


「救えない選択を、

 最初から排除しているだけ!」


「排除しなければ、犠牲が出ます!」


セシリアの声も、強くなっていた。


「正しさを示すのが、英雄の役目です!」


「違う!」


イリスが叫ぶ。


「迷いながらでも、

 選ばせ続けるのが英雄よ!」


二つの光が、真正面から衝突する。


衝撃波が走り、

闘技場の結界が悲鳴を上げた。


――同時刻。


別の円の中心。


ヴァルハルト=レオンの大剣が、

地面を叩き割る。


「ははっ!」


笑っている。


だが、その目は、もう冗談じゃない。


「お前、

 俺の動き“読む”のやめろ!」


グラディウス=フェルツは、無言で剣を構える。


彼の足元に、

見えない線が走っていた。


《戦域最適化》。


戦場を、最も効率的な配置へ再構築する能力。


「読みではない」


グラディウスが言う。


「最短だ」


次の瞬間。


ヴァルハルトの踏み込みが、

“わずかに”遅れる。


本人の意思ではない。


「……ちっ!」


それに気づいた瞬間、

ヴァルハルトの笑みが消えた。


「なるほどな」


大剣を握り直す。


「これが帝国の英雄か」


「自由を、

 削るのが得意らしい」


「自由は、無駄を生む」


グラディウスは、淡々と答える。


「無駄は、死に繋がる」


「だから切る?」


ヴァルハルトが、低く唸る。


「俺はな」


剣を振り上げる。


「無駄の中で、生き残ってきた!」


衝突。


今度は、明確に殺気が混じっていた。


――さらに。


闘技場の外縁。


空間が、歪んだ。


「……出るぞ」


王国英雄、ノインが呟く。


召喚陣が展開される。


だが――


「停止」


冷たい声。


帝国英雄、ユリウス=クラウゼンが、指を上げた。


「未承認高位存在の召喚を確認」


「模擬戦だろ!?」


ノインが叫ぶ。


「想定内だ!」


「法令第七条」


ユリウスは、感情を一切挟まない。


「模擬戦であっても、

 違法行為は違法だ」


光が落ちる。


召喚陣が、強制的に解体された。


「……は?」


ノインが、愕然とする。


「おい、待て!」


「待たない」


ユリウスは告げる。


「止めるのが、

 私の役割だ」


――止める正義。


それが、

一番容赦がなかった。


そして。


場の外側。


誰も戦っていない場所。


《非裁定(ひさいてい/ノーリトリート)》は、

そのすべてを見ていた。


ミリアが、震える声で言う。


「……全部、正しい」


「だから止まらない」


リュカが、苦く言う。


「どの判断も、

 間違ってない」


エルドが、拳を握る。


「……なのに」


「壊れていく」


レインは、視線を逸らさなかった。


《完全模写理解(かんぜんもしやりかい/フル・アナライズ・コピー)》は、

使っていない。


だが、見えてしまう。


選ばせる正義。

最適化する正義。

止める正義。


それぞれが、

自分の役割を完璧に果たしている。


だからこそ。


「……模擬戦じゃない」


誰かが、呟いた。


立会人だ。


声が、震えている。


「これは……」


言葉が続かない。


その時。


高台の方から、

重い気配が落ちてきた。


王と、皇帝。


二人の視線が、

同時に闘技場を捉える。


もはや、

“練習”とは呼べない光景を。


レインは、静かに思う。


(ほら)


(誰も裁定できない)


(だから――

 ここまで来た)


剣も、光も、法も。

止まらない。


この戦場は、

制度が壊れる音を立て始めていた。



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