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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第27章 英雄と英雄

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口論の末に、均衡(そうこう)は剣を選んだ

王都外縁、白石の広場。


本来なら、ただの通過点のはずだった。

だが今日は違う。


非裁定ノーリトリート》の一行の前後を、

帝国御用達冒険者パーティ――**鋼律隊こうりつたい**が固めていた。


「……護衛、厚すぎない?」


ミリアが、半眼で後方を見る。


そこには、隊列を一切乱さない鋼律隊。

その中心に立つのは、隊長――カイル=ヴァンロック。


「規定通りだ」


カイルは淡々と言った。


「王都内における非正規勢力の移動には、

 準軍事監督が付く。例外はない」


「非正規って言われた」


ミリアが即座に噛みつく。


「私たち、王国公認なんだけど?」


「王国の認可と、帝国の規定は別だ」


横から、副隊長のセレナ=リィスが皮肉混じりに口を挟む。


「それに……あなたたち《非裁定》は、

 “選ばせない”行動を取る」


視線が、まっすぐレインに向く。


「制度にとって、一番扱いにくい」


空気が、わずかに張り詰めた。


「……それ、褒めてないよね」


ミリアが言う。


「評価だ」


カイルは即答した。


「危険ではない。

 だが、規格外だ」


エルドが、静かに一歩前に出る。


「で? 護衛の名目で囲って、

 次は何だ。進路指定か?」


「当然だ」


今度は前衛のドラン=ハルバードが言った。


「命令があるなら、迷わない。

 迷う奴は、現場を壊す」


「……ほんと分かり合えない」


ミリアが吐き捨てる。


その時だった。


「やめよう」


レインが、前に出た。


鋼律隊の視線が、一斉に集まる。


「護衛も監督も理解してる」


静かな声だった。


「でも、このまま進んでも、

 俺たちは何も決められない」


カイルが、眉をひそめる。


「決定権は、上にある」


「だから行く」


レインは、はっきり言った。


「王と、皇帝のところへ」


一瞬、沈黙。


「……直談判、か」


セレナが小さく笑う。


「無謀ね」


「ううん」


レインは首を振る。


「無謀なのは、

 選択肢があるふりを続けることだ」


その言葉に、鋼律隊の後衛――ミレイア=トーンが、かすかに目を伏せた。


「……カイル」


彼女が、静かに言う。


「この人たち、壊そうとしてない」


「分かっている」


カイルは答えた。


「だからこそ厄介だ」


彼は、レインを見る。


「だが、直談判は前例がない」


「前例は作るものだ」


レインは即答した。


「拒否されるなら――」


一拍。


「その時は、

 **蒼衡そうこう**に任せる」


その名が出た瞬間、空気が変わった。


「……アズール・バランスか」


ドランが低く唸る。


帝国と王国、双方に認められた“均衡の代理”。

戦争を止めるために、戦う存在。


「話が早いな」


背後から、落ち着いた声が響いた。


青を基調とした装束。

長槍を携えた男――セイン=ヴァルクス。


蒼衡そうこうのリーダー。


「口論で終わらせる気は、最初からないんだろ?」


レインは、振り返る。


「ええ」


「なら決闘だ」


セインは、あっさり言った。


「王と皇帝に直談判する資格を、

 剣で示せ」


ミリアが、思わず笑った。


「話、早すぎない?」


「均衡は、

 言葉だけじゃ動かない」


セインは肩をすくめる。


「安心しろ。殺し合いじゃない」


視線が、鋼律隊へ。


「そしてこれは、

 敵対じゃない」


カイルが、一歩前に出る。


「確認する」


「何を?」


「これは、秩序を壊すための戦いか?」


レインは、即答した。


「違う」


「壊さないためだ」


その言葉に、カイルは一瞬だけ目を閉じ――


「……護衛任務、ここまでだ」


そう告げた。


鋼律隊が、一斉に道を開く。


「勝て」


それが、彼なりの譲歩だった。


レインは、蒼衡の面々を見る。


均衡を選ぶ者たち。


選ばせるために、切り捨てる者たち。


「……行こう」


非裁定ノーリトリート》は、

言葉ではなく、場で答えを示しに行く。


夜は、思ったより静かだった。


決闘を翌日に控えた野営地。

焚き火の火は低く、誰も大声を出さない。


非裁定ノーリトリート》と

蒼衡そうこうは、距離を保ったまま同じ空を見ていた。


敵ではない。

だが、仲間でもない。


その曖昧さが、夜を重くする。


「……不思議だね」


最初に口を開いたのは、ミリアだった。


「明日、剣を交える相手と、

 こうして同じ火を見てるの」


向かい側、蒼衡の後衛――ユール=セティアが、柔らかく笑う。


「均衡の仕事は、いつもそんなものです」


「割り切れる?」


ミリアの問いに、ユールは少し考えた。


「割り切ってはいません。

 ただ……慣れただけです」


その言葉に、ミリアは小さく息を吐く。


「それ、一番怖いやつだ」


少し離れた場所では、

エルドと蒼衡の前衛――ガラン=ディオルが、無言で剣を手入れしていた。


同じ大剣。

同じ重心。


だが、手つきが違う。


「なあ」


エルドが、ぽつりと言う。


「お前の剣、

 迷いがないな」


ガランは、顔も上げずに答えた。


「迷うものは、切り捨てる」


「……自分もか?」


「危険と判断すれば、当然だ」


即答だった。


エルドは、それ以上聞かなかった。


聞いてしまえば、

自分の剣が鈍る気がしたからだ。


焚き火の反対側。


レインは、蒼衡のリーダー――セイン=ヴァルクスと向かい合っていた。


言葉を選ぶ必要はない。

互いに、それを理解している。


「君たちは、選ばせない」


セインが、静かに言う。


「選択そのものを、壊す」


「違う」


レインは首を振った。


「“操作された選択”を、壊す」


セインの目が、わずかに細くなる。


「結果は同じだ」


「同じじゃない」


レインは、譲らない。


「均衡は、

 “最も被害が少ない未来”を選ぶ」


「その時、切り捨てられた未来は?」


セインは、少しだけ黙った。


「……存在しなかったことになる」


「それが嫌なんだ」


レインは、焚き火を見る。


「選ばれなかった可能性を、

 最初から“無かった”ことにするのは」


「それでも世界は回る」


「回るよ」


レインは、認めた。


「でもそれは、

 誰かの上に立って回る世界だ」


沈黙。


風が、火を揺らす。


「君は、世界を信じすぎだ」


セインが言う。


「人は、選択を誤る」


「だから壊す?」


「だから誘導する」


セインは、はっきり言った。


「均衡は、

 “選ばせるふり”をして、秩序を作る」


レインは、静かに答える。


「俺たちは、

 “選べない状況”を、露わにする」


「それで?」


「王と皇帝に突きつける」


「制度は、万能じゃないって」


セインは、しばらくレインを見てから、苦笑した。


「厄介だな」


「よく言われる」


その時、セレナ=リィスが、鋼律隊の陣からこちらを見ていた。


隣には、カイル=ヴァンロック。


「……勝っても、楽にはならないぞ」


カイルが、低く言う。


「分かってる」


レインは答えた。


「楽になるために、

 立ってるわけじゃない」


カイルは、それ以上何も言わなかった。


彼なりに、答えを受け取ったのだろう。


夜が、深くなる。


誰もが知っている。


明日の剣は、

勝敗以上のものを、切り分ける。


均衡か。

非裁定か。


選ばせる世界か。

選べない現実を晒す世界か。


その境界線は、

もう引かれていた。


あとは――

踏み込むだけだ。


夜明けは、唐突だった。


誰かが起こしたわけではない。

合図もない。


ただ、空の色が変わった。


焚き火はすでに熾火になり、

煙だけが細く立ち上っている。


蒼衡そうこうの陣が、静かに動き出す。

誰も声を出さない。

だが、全員が同じ方向を向いていた。


白石の広場。


均衡が試される場所。


「……来たな」


ガラン=ディオルが、大剣を担ぎ直す。


「逃げない」


エルドが短く返す。


「逃げる理由がない」


ミリアは、欠伸を噛み殺しながら立ち上がった。


「朝イチで決闘とかさ、

 もうちょい雰囲気ってもんが――」


「それは均衡じゃない」


ユール=セティアが、穏やかに遮る。


「時間帯も、感情も、

 判断には不要です」


「……あ、はい」


ミリアは一瞬だけ黙った。


鋼律隊も、距離を保ったまま動いていた。

護衛ではない。

監督でもない。


“立ち会い”だ。


カイル=ヴァンロックは、

広場の端で足を止める。


「ここから先は、記録対象だ」


誰に言うでもなく、そう告げた。


セレナ=リィスが、苦笑する。


「どっちが勝っても、

 面倒な報告書になるわね」


「最初からだ」


カイルは淡々と返す。


白石の広場に、

蒼衡そうこうと《非裁定ノーリトリート》が向かい合う。


距離、二十歩。


剣は抜かれていない。

魔力も、まだ動いていない。


だが――

もう始まっている。


セイン=ヴァルクスが、一歩前に出た。


「確認する」


その声は、広場全体に通る。


「これは、

 均衡を守るための決闘だ」


視線が、レインに向く。


レインは、ゆっくりと頷いた。


「違う」


一拍。


「これは、

 均衡が“選ばせているもの”を、

 表に出すための場だ」


セインは、わずかに笑った。


「やはり、厄介だ」


「言っただろ」


レインも、笑う。


剣の柄に、手をかける。


「俺たちは、

 選ばない」


「でも――」


視線が、王都の方角へ向く。


「見せることはできる」


風が、広場を吹き抜けた。


白石の上に、

二つの思想が、並び立つ。


均衡か。

非裁定か。


その答えは、

もう言葉じゃない。


「――始めよう」


セインの声と同時に、


世界が、

一歩だけ前に出た。


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