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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第27章 英雄と英雄

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軽い確認

その話は、会議でも、裁定でもなかった。


ただの雑談だった。


玉座の間――ではなく、昼下がりの執務室。

窓は開け放たれ、風が書類の端をわずかに揺らしている。


皇帝は、報告書を読み終えたあと、指先で紙を軽く叩いた。


「王国側の英雄、最近評判がいいそうだな」


誰に向けたとも知れない言葉。


侍従が一拍遅れて答える。


「はい。各地での戦果は確かと」


「ふむ」


皇帝は椅子に深く座り直す。


「帝国の英雄たちも、暇ではないが……」


言葉を切り、少しだけ笑った。


「――確認してみたくはあるな」


空気が、ほんの一瞬止まる。


「確認、とは……?」


「強さだ」


即答だった。


「どちらが上か、ではない。

 “どこまで出来るか”の確認だ」


侍従は慎重に言葉を選ぶ。


「模擬戦、という形でしょうか」


「うむ。正式な行事としてな」


皇帝は軽く肩をすくめる。


「民も喜ぶ。英雄も名誉を得る。

 損はないだろう?」


損。


その言葉に、誰も反論しなかった。


制度上も問題はない。

外交上も摩擦は最小。

あくまで“模擬”。


すべてが整っている。


「……では、調整を」


「任せる」


皇帝はそれ以上興味を示さなかった。


書類に視線を戻し、次の案件へ進む。


その背中は、

何かを壊す人間のものではない。


ただ、軽かった。



その頃。


《非裁定(ひさいてい/ノーリトリート)》の拠点では、

いつも通りの報告会が行われていた。


「帝国からの正式通達?」


ミリアが眉を上げる。


リュカが端末を操作しながら頷く。


「英雄交流模擬戦。

 名目は、親善と技術共有」


「……交流?」


エルドが低く鼻を鳴らした。


「武器持って?」


「持つ」


「全力?」


「“想定内”で、だってさ」


誰も笑わなかった。


レインは、黙って通達文を読んでいる。


言葉は丁寧。

条文も整っている。


どこにも――

拒否理由が書いていない。


「……これ」


ミリアが言う。


「嫌なやつ?」


レインは、少し考えてから答えた。


「嫌、というより」


紙を伏せる。


「軽い」


それだけだった。


軽い決定。

軽い動機。

軽い確認。


だからこそ――

止める理由が、どこにもない。


非裁定ノーリトリート》は、

裁定を下さない集団だ。


だが今回は、

裁定されないまま、舞台に呼ばれている。


レインは思う。


(これは、選択じゃない)


(流れだ)


そして、流れはいつも、

人を置き去りにして進む。


「……行くしか、ないか」


エルドの言葉に、誰も否定しなかった。


こうして。


誰も悪くないまま、

誰も間違えていないまま、


英雄同士が向かい合う準備が、

静かに始まった。


それが、

非裁定ノーリトリート》という名が、

“戦いの前提”として呼ばれる最初の瞬間だった。


会場は、帝都外縁の演習区画だった。


整地された平地。

幾重にも張られた結界。

医療班と記録班が、等間隔に配置されている。


――戦うための場所だ。


だが、《非裁定(ひさいてい/ノーリトリート)》は、

その中心には立たなかった。


結界の内側。

だが、開始線の外。


「……立ち位置、そこ?」


ミリアが、帝国側の配置を見て言う。


帝国英雄団――

レオニス=アウグストを中心に、四人が整然と並んでいる。


完璧な布陣。

隙がない。


「こちらは、参加しない」


レインが、事前に通達していた言葉を、もう一度繰り返す。


「観測のみだ」


役人が、一瞬だけ言葉に詰まる。


「……それは」


「規定違反ではない」


リュカが、端末を示す。


「“親善模擬戦”への参加義務は、

 英雄登録者のみ」


事実だった。


ノーリトリートは、

英雄でも、制度の一部でもない。


「……了解しました」


役人は、そう言うしかなかった。


その様子を、

帝国英雄たちは静かに見ている。


「戦わないのか」


グラディウス=フェルツが、短く言った。


問いではない。

確認だ。


「戦わない」


レインは、即答した。


「俺たちは、

 強さを示しに来たわけじゃない」


ユリウス=クラウゼンが、無表情で言う。


「ならば、何をしに来た」


「見る」


それだけだった。


「……観客か」


誰かが、小さく笑う。


だが、

その笑いは続かなかった。


セシリア=ノクティスが、

ノーリトリートの四人を見る。


「……不思議ね」


穏やかな声。


「そこに立っているだけで、

 “戦わせない”気配がある」


ミリアが、肩をすくめる。


「別に、

 止める気はないよ」


「ただ」


レインが、続ける。


「勝敗が“裁定”になるなら、

 それは俺たちの仕事じゃない」


レオニスが、ゆっくりと口を開いた。


「……戦わない選択も、

 一つの立場だ」


視線が、真っ直ぐにレインへ向く。


「だが、

 戦う者たちは、

 そこに理由を求める」


「求めなくていい」


レインは、静かに言う。


「理由は、

 戦いが終わった後に

 必ず残る」


その言葉に、

帝国英雄団の空気が、僅かに張りつめる。


開始の合図が、近づく。


ノーリトリートは、動かない。


武器も、構えない。


ただ、

裁定の外側に立ち続ける。


それだけで、

この模擬戦は――

最初から“普通の戦い”ではなくなっていた。


開始の鐘が鳴る。


英雄と英雄が、向かい合う。


そして、《非裁定ノーリトリート》は、

戦場の端で、静かに見届ける。


――

戦わない存在がいる、という事実そのものを。


王都外縁、演習用に整えられた広場。


視界の向こうに、四つの影が現れた瞬間――

空気が、変わった。


「……あ」


ミリアが、素直に声を漏らす。


「来たね、英雄」


レインは一歩下がり、視線だけで確認する。

――王国側英雄パーティ。


先頭に立つのは、ヴァルハルト=レオン。

大剣を肩に担いだ、いかにも“英雄像”そのもの。


その隣、光を纏う女魔導士――イリス=アークライト。

後方に、双短剣の男 ライザ=クロウデル。

そして召喚術師、ノイン=フェルツ。


「……で、なんで帝国側もいるんだ?」


ライザが、半目で言った。


それに応じるように、帝国側英雄も前に出る。


白銀の装束、静かな威圧感。

レオニス=アウグスト。


その背後に、


戦場を睥睨するような眼差しの グラディウス=フェルツ。

法衣を纏った ユリウス=クラウゼン。

柔らかな光を帯びた セシリア=ノクティス。


数秒の沈黙。


――そして。


「……お前」


ヴァルハルトが、レオニスを指差した。


「まさか、あの時の……」


レオニスは一瞬だけ考え、静かに言う。


「……港湾都市リーヴァ。

演武祭の観覧席、三列目」


「そうだ!!」


ヴァルハルトが叫んだ。


「俺の剣が振り下ろされる直前に!

『動線が危険です』って理由で止めた奴!!」


「事実です」


レオニスは即答した。


「観客席に被害が及ぶ確率が、規定値を超えていた」


「英雄の必殺技だぞ!?」


「だからです」


ぴし、と空気が固まる。


横でイリスが、セシリアを見て目を細めた。


「……あなた」


「はい?」


「聖堂都市で、私の詠唱を

“過剰光量による視界阻害”って理由で止めたわよね?」


セシリアは少し困ったように微笑む。


「……結果的に、信徒が転倒しましたので」


「転倒!?」


その横で、ノインがユリウスを凝視している。


「……帝国法廷の補助席で」


「はい」


「俺の召喚陣を

“未承認高位存在の可能性あり”で無効化したの、あんただな?」


「規定通りです」


「あれ、羊だぞ!?」


最後に。


ライザが、グラディウスを見て鼻で笑った。


「……演習場で」


「……ああ」


「俺が仕留めかけた魔獣、

“勝敗が未確定”とか言って結界で区切ったよな?」


グラディウスは、低く言う。


「感情的追撃は、被害を拡大させる」


「その後、逃げたんだけど?」


「想定内だ」


――沈黙。


次の瞬間。


「……おい」


ヴァルハルトが、剣の柄に手を置く。


「こいつら、英雄の邪魔しかしてねぇぞ」


帝国側も、一斉に気配を強める。


だが。


「――待て」


レオニスが、静かに手を上げた。


「本日は、比較と視察のみ」


「戦闘は、規定外だ」


レインが一歩前に出る。


《非裁定(ひさいてい/ノーリトリート)》は、武器を構えない。


ただ、見ている。


ミリアが、ぼそっと言った。


「……因縁、くだらなすぎない?」


リュカが頷く。


「でも、全員覚えてる」


「英雄だな」


エルドが苦笑する。


視線が交錯する。


怒りでも、憎しみでもない。

――“忘れられてない”という事実だけが、そこにあった。


「次は」


ヴァルハルトが言う。


「邪魔、させねぇからな」


レオニスは、淡々と返す。


「次は、事前に計画を提出してください」


火花が散る。


その中心で、レインは思う。


(……なるほど)


(英雄同士は)


(戦う前から、もうぶつかってる)


そして。


この“くだらない因縁”が、

やがて国を揺らす衝突に変わることを――

誰も、まだ笑っていられる段階だった。

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