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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第16章 旅の始まりと、名を騙る者たち

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選ばれた者の残骸(ヒーロー・アフターイメージ)

世界機関・中央合同会議室。


重厚な円卓を囲む顔ぶれは、奇妙な均衡を保っていた。

世界機関の調整官。

蒼衡そうこう/アズール・バランスの統括代理。

英雄派遣を担う管理局の代表。

そして——場違いなほど静かに座る、《非裁定ノーリトリート》。


レインは、腕を組んだまま一言も発していない。

ミリアも、リュカも、エルドも同様だ。


議題は単純だった。


「代行者ギルドの増加について」


世界機関の報告官が、淡々と資料を読み上げる。


「各地で確認されているのは、

 “英雄の名”や“英雄の権限”を騙る代行集団です」


「問題は被害そのものより——」


一拍。


「彼らが正義を代行していると自称している点です」


英雄管理局の男が、わずかに顔をしかめた。


「……英雄の名を騙る行為は、重罪です」


蒼衡そうこう側の代理が、冷静に切り返す。


「問題は、騙れていることだ」


「英雄の名が、現場で“通用している”」


沈黙。


それはつまり——

英雄という肩書きが、本人不在でも機能しているということだった。


「取り締まりは?」


調整官が問う。


「難しいです」


報告官は、即答した。


「彼らは“判断”をしていない」


「助けた、殴った、裁いた——

 いずれも“英雄ならやるだろう行為”として処理されています」


「誰も、責任を追及していません」


空気が、重くなる。


その時だった。


「……変だな」


場違いなほど、穏やかな声。


全員の視線が、レインに集まる。


彼は、初めて口を開いた。


「英雄の名を使ってるのに」


一拍。


「英雄じゃなくても、成立してる」


誰も、すぐに意味を掴めなかった。


レインは続ける。


「英雄ってさ」


「“選ばれた者”だったはずだろ」


「力とか、実績とか、覚悟とか——

 色々理由はあるけど」


視線を、英雄管理局の男へ向ける。


「今は違う」


「英雄は、“使える肩書き”になってる」


英雄管理局の男が、反論しかけて口を閉じた。


レインの言葉は、責めていない。

糾弾でもない。

ただ——事実を並べているだけだ。


「英雄が前に立たなくても」


「英雄の名だけで、人は動く」


「それってさ」


一拍。


「英雄が“人”じゃなくなってるってことじゃないか?」


沈黙が落ちた。


蒼衡そうこうの代理が、低く呟く。


「……象徴化、か」


「違うな」


レインは、首を振る。


「象徴なら、まだマシだ」


「今は——」


視線を伏せる。


「代理可能な記号だ」


その言葉に、会議室の温度が一段下がった。


ミリアが、堪えきれず口を開く。


「それで、元英雄の噂が出てきてるんだよね」


「名前を捨てた人」


「英雄だったけど、英雄じゃなくなった人たち」


世界機関の調整官が、慎重に頷く。


「……確認されている」


「引退ではない」


「失職でもない」


「ただ——」


言葉を選ぶ。


「英雄として扱われなくなった者たちです」


レインは、静かに息を吐いた。


「なるほど」


「じゃあ次に出てくるのは——」


誰もが、続きを待った。


「“英雄じゃなくなったのに、

 英雄として扱われ続ける人間”だ」


沈黙。


それは、誰も口にしたくなかった未来だった。


レインは、立ち上がらない。

剣も抜かない。


ただ、淡々と結論を置く。


「代行者ギルドは、偶然じゃない」


「英雄制度の“残骸”が、

 勝手に歩き出してるだけだ」


《非裁定ノーリトリート》は、まだ前に出ない。


だが——

この瞬間、はっきりした。


次に壊れるのは、敵ではない。


——英雄という概念そのものだ。


会議室の照明が、わずかに落とされた。


世界機関・運用調整官が、卓上の水晶板に指を置く。

空中に、淡い光の文様が展開された。


「……では、ここからは“未公開情報”になります」


その一言で、場の空気が変わる。


英雄管理局の男が、わずかに眉をひそめた。

蒼衡そうこう/アズール・バランスの代理は、表情を一切変えない。


《非裁定ノーリトリート》の面々も、無言で視線を上げた。


光の中に、名前が浮かぶ。


数は多くない。

だが、どれも——重い。


「これらが、“元英雄”と分類された人物です」


調整官の声は、事務的だった。


「死亡、失踪、裏切り——いずれでもありません」


「彼らは今も生存し、活動しています」


「ただし」


一拍。


「英雄としては、扱われていない」


ミリアが、思わず口を開く。


「……どういう基準で?」


「基準は一つです」


調整官は、即答した。


「“選ばれなくなった”」


沈黙。


レインの眉が、わずかに動いた。


「……選ばれなくなった?」


「はい」


調整官は、淡々と続ける。


「英雄は、本来“象徴として選ばれ続ける存在”です」


「力や実績だけではない」


「人々が“この人に託したい”と感じるかどうか」


「それが、英雄を英雄たらしめる条件でした」


光の中で、いくつかの記録が拡大される。


救助の映像。

討伐の報告。

拍手と歓声。


——だが、途中で途切れている。


「彼らは、失敗していません」


「罪も犯していない」


「ただ——」


言葉が、少しだけ重くなる。


「“次はこの人じゃない”と、

 世界に判断されただけです」


リュカが、低く吐き捨てた。


「……それ、首切りと何が違う」


「違います」


調整官は、否定した。


「首切りは、組織の判断です」


「これは——」


視線を伏せる。


「世界の空気です」


英雄管理局の男が、歯を噛みしめる。


「……だから、代行者ギルドが」


「はい」


調整官は、頷いた。


「英雄という“記号”だけが残り、

 “人”が抜け落ちた結果です」


「元英雄たちは、

 英雄としては扱われないが——」


一拍。


「英雄の名が生む“影”からも、逃げられない」


ミリアの拳が、震えた。


「……それで」


「それで、どうなったの」


調整官は、次の資料を展開する。


そこには、代行者ギルドの活動ログと、

“元英雄”とされる人物の動向が、重ねて表示されていた。


一致率は、高い。


「一部の代行者ギルドは」


「元英雄の協力、あるいは黙認を得ています」


「理由は、単純です」


「彼らは——」


言葉を選ぶ。


「英雄として扱われなくなった自分を、

 英雄の名で肯定したい」


空気が、凍った。


エルドが、低く言う。


「……それは、利用だ」


「はい」


調整官は、否定しない。


「代行者ギルドは、元英雄を利用している」


「そして——」


視線が、レインへ向く。


「元英雄もまた、

 代行者ギルドを利用している」


レインは、しばらく黙っていた。


《戦場演算バトル・カリキュレーター》が、

静かに答えを弾き出している。


だが、彼はそれを口にしない。


代わりに、問いを投げた。


「……世界機関は」


「この人たちを、どうするつもりだ?」


調整官は、即答しなかった。


それが、答えだった。


蒼衡そうこう/アズール・バランスの代理が、

初めて口を開く。


「切れないな」


「切れば——」


視線を巡らす。


「“選ばれなかった者”を、

 切り捨てたことになる」


英雄管理局の男が、苦しそうに呟く。


「英雄は……」


「英雄は、人だ」


レインが、静かに遮った。


「でも今の制度は、人じゃなくて——」


一拍。


「役割だけを見てる」


会議室に、言葉が落ちる。


《非裁定ノーリトリート》は、

まだ前に出ない。


だが——

全員が理解していた。


代行者ギルドは、ただの悪党じゃない。

元英雄は、ただの被害者でもない。


これは——


英雄という制度が生んだ、

行き場の無い人間たちの話だ。


そして次に起きるのは、きっと。


——“力を取り戻したい元英雄”が、

一線を越える瞬間。


事件は、

あまりにも普通に起きた。


王都から三日ほど離れた、川沿いの中規模集落。

交易路の要所でもなく、政治的価値もない。


だからこそ——

世界機関も、英雄も、最初は気づかなかった。


最初の報告は、簡素だった。


「代行者ギルドによる“紛争仲裁”の失敗」


被害、軽微。

死者、なし。


ただし——

「住民間の恐怖反応、異常値」。


世界機関の速報を見た瞬間、

レインは《アナライズ・コピー》を、ほとんど反射で走らせていた。


能力をコピーする気はない。

読むのは——構造だ。


(……仲裁、じゃない)


(これは——演出だ)


詳細報告が、遅れて届く。


代行者ギルドは、

「元英雄の名を騙る人物」を“仲裁役”として派遣していた。


剣を抜いたわけじゃない。

魔法を撃ったわけでもない。


ただ、こう言っただけだ。


「俺が“あの英雄”だ」


「俺が出てきた以上、逆らえばどうなるか分かるよな?」


その瞬間、

場の空気が凍りついた。


誰も反論しなかった。

誰も問いたださなかった。


英雄の名は、

それだけで“結果を先に出す”。


だが——

そこに、ひとつだけ誤算があった。


その場にいた若者が、

震えながら、こう言ってしまった。


「……英雄って、こんな脅しする人でしたっけ?」


一瞬の沈黙。


次の瞬間——

代行者ギルドの“仲裁役”は、若者を殴り倒した。


殺してはいない。

だが、迷いなく、力でねじ伏せた。


それを見て、

周囲の住民が“理解”してしまった。


(ああ——英雄って、こういう存在だったのか)


その誤解が、

その場で固定された。


数刻後。


現場に駆けつけた蒼衡そうこう/アズール・バランスの先遣観測員は、

即座に異常を察知した。


「……切れない」


「だが——危険だ」


問題の“仲裁役”は、逃げていなかった。

むしろ堂々と、代行者ギルドの支部に座っていた。


理由は単純だ。


彼は、自分が“正義側”だと信じていた。


蒼衡の報告は、

世界機関にも、英雄管理局にも、

そして《非裁定ノーリトリート》にも、同時に届いた。


ミリアが、報告書を握り潰す。


「……これ」


「もう、“ただの代行者”じゃないよね」


「うん」


レインは、静かに頷いた。


「英雄の名を使って」


「恐怖を作って」


「それを“正しい結果”として固定してる」


リュカが、低く言う。


「一線、越えたな」


エルドが、盾を握り直す。


「……だが、本人は自覚していない」


「“選ばれなかった英雄”が」


「“英雄であり続けよう”としているだけだ」


沈黙。


それが、一番厄介だった。


世界機関は、即断できない。

蒼衡そうこうは、切る理由が成立しない。

英雄は——前に出れば、意味が固定される。


そして。


《非裁定ノーリトリート》だけが、

この事件を“事件として扱える”。


レインは、静かに言った。


「次は——」


「代行者ギルドそのものじゃない」


「“元英雄”本人に、会いに行く」


ミリアが、即座に頷く。


「話、通じるかな」


「通じなくてもいい」


レインは、淡々と答えた。


「選ばせない」


「英雄でも、悪でもなく」


「ただ——」


一拍。


「人として向き合う」


その時。


遠く離れた場所で、

代行者ギルドの支部にいる“元英雄”が、

初めて自分の手を見下ろした。


震えていた。


力を使った。

英雄の名を使った。


——なのに、満たされない。


その背後で、

誰にも見えない“気配”が、静かに嗤う。


(欲しいだろう)


(本当の力が)


(もう一度、選ばれる力が)


その囁きに、

元英雄は、まだ答えていない。


だが——

時間の問題だった。


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