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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第16章 旅の始まりと、名を騙る者たち

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選ばせる者の仕事

王都から伸びる街道の途中、交易の要衝であるはずの宿場街が、妙に“静か”になった。


壊れていない。焼けてもいない。死体も転がっていない。

なのに——人々の声だけが、どこか萎んでいる。


「最近さ、“英雄さま”って言葉、口にすると空気が悪くなるんだよ」


路地の露店で、パンを並べる女がぼやいた。


「助けてくれる人はいる。でも、助け方が……ね」


隣の男が目を逸らす。


「言うな。聞かれたら面倒だ」


その“面倒”の中心にあるのは、看板だった。


《英雄代行者ギルド・紅剣団》


英雄の名を模した紋章。

英雄の逸話を切り貼りした宣伝文句。

そして何より——「英雄が来ない場所」を狙う嗅覚。


英雄本人が現れない。

世界機関は、責任の所在を曖昧にしたがる。

非裁定ノーリトリート》は、前線には出るが“象徴”にはならない。


その隙間に、代行者は入り込む。


「英雄の名で依頼を受け、英雄の名で金を取り、英雄の名で脅す」


それが、今回の案件だった。



世界機関・調整局。臨時連絡室。


広い部屋に、四人だけが立っている。

蒼衡そうこう/アズール・バランス。


先頭に立つ男——セイン=ヴァルクスは、資料を一枚だけ持っていた。

文字数は少ない。だが、情報は十分だった。


「代行者ギルドによる恫喝、過剰請求、私刑。各地で同様の事例」


報告官が付け足す。


「直接死者は出ていません。ですが、住民の協力率が低下しています。治安維持の“合意”が崩れ始めている」


ガラン=ディオルが、腕を組んで笑う。


「合意が崩れりゃ、あとは早い。クズほど先に吠えるからな」


ユール=セティアは表情を変えずに言った。


「英雄の名が汚れると、“選ぶ理由”が失われる。世界の秩序が揺れます」


リィネ=フォルテが小さく頷く。


「選ばせる装置が、壊れる」


セインは静かに結論を置いた。


「なら、汚れを落とす」


報告官が少しだけ戸惑う。


「……蒼衡そうこうは“切る組織”と聞いています。今回、切る対象は明確ですが——政治的反発も」


「政治は世界機関が受けろ」


セインは淡々と言った。


「我々は秩序を維持する。やり方は一つだ」


ガランが肩を鳴らす。


「つまり、分かりやすい“ざまぁ”ってやつか?」


「違う」


セインは否定する。冷たい声だが、迷いがない。


「これは“見せしめ”ではない。再発防止だ」


ユールが、窓の外——王都の街並みを見た。


「英雄が前に出ない世界で、英雄の名だけが歩き回る。……不健全ですね」


リィネが続ける。


「だから彼らは、英雄が“来ない場所”を選ぶ」


セインは頷いた。


「なら、我々が行く」


蒼衡そうこう/アズール・バランス。出動。


——英雄の代わりではない。

——英雄の名を守るためでもない。


ただ、世界を“選ばせる”ために。


彼らが宿場街へ向かった時点で、代行者ギルドの運命は、もう一つに収束していた。


宿場街に入った瞬間、蒼衡そうこう/アズール・バランスは“歓迎されていない”ことを理解した。


人々は視線を逸らす。

物音が減る。

扉が、わずかに早く閉まる。


「……空気が汚ねえな」


ガラン=ディオルが、鼻で笑った。


「怯えと諦めが混じってる。殴る前に心が折れてるやつの街だ」


リィネ=フォルテは、足元の石畳を見ながら言う。


「英雄の名を借りた暴力は、抵抗の理由を奪う。“逆らえば英雄に逆らうことになる”って思わせるから」


「つまり」


ユール=セティアが淡々と続ける。


「ここでは、すでに“選ばされている”」


選択肢はない。

逆らえば悪。従えば安全。

そう思い込まされている。


その構造が、蒼衡にとっては切るべき歪みだった。



《英雄代行者ギルド・紅剣団》の建物は、やけに立派だった。


英雄像を模した石像。

剣と盾の紋章。

そして正面には、堂々と掲げられた看板。


中に入ると、男たちが笑っていた。


「いやー、最近は仕事が多くてさ」


「英雄が来ねえ地域ほど、需要がある」


「住民も分かってるんだよ。俺たちに逆らったら、次は“助けが来ない”ってな」


それを聞いた瞬間。


ガランが、一歩前に出た。


床が、わずかに軋む。


「……お前ら、英雄の名前が何だと思ってる?」


男の一人が、鼻で笑う。


「は? 名前? ブランドだろ」


「英雄が戦って、死んで、名が残った。それを使うのが賢いやり方だ」


別の男が、酒をあおりながら続ける。


「第一よ、英雄本人が来ねえなら、誰が本物かなんて分かんねえだろ?」


その瞬間。


リィネの足元に、淡い光が走った。


《切断準備》

だが、まだ切らない。


セイン=ヴァルクスは、静かに問いかけた。


「君たちは、自分たちが何をしているか理解しているか?」


男たちは一瞬だけ黙り、すぐに嗤った。


「脅しか? 役人さん」


「世界機関も英雄も動かねえのに、誰が俺たちを止める?」


ユールが、視線を上げる。


「……確認完了」


その言葉は、合図だった。



外にいた住民たちが、気づく。


建物の中から、音が消えた。


悲鳴も、怒号もない。

ただ、空気が“切り替わった”。


次の瞬間。


扉が開き、男たちが膝をついて転がり出てきた。


血は出ていない。

骨も折れていない。


だが——

“英雄の名を使って振る舞っていた理由”だけが、完全に切られていた。


「……な、なんだこれ」


「俺たち……なんで、ここに……?」


英雄の名を口にしようとして、言葉が詰まる。

脅そうとすると、身体が動かない。


ガランが、住民の方を振り返る。


「聞こえるか?」


誰も、すぐには答えない。


セインが、前に出た。


「彼らは英雄ではない」


「英雄の名を使って、選ばせていただけだ」


「もう、それはできない」


リィネが続ける。


「彼らは“切られた”。だが、命は残した」


「これは罰ではない。再発防止だ」


住民の一人が、恐る恐る言った。


「……もう、怯えなくていいんですか」


ユールが、短く頷く。


「英雄が来なくても、世界は回る」


「だが、英雄の名を使って世界を縛る者は——」


セインが、はっきりと言った。


蒼衡そうこうが切る」


その一言で、街の空気が変わった。


英雄でもない。

世界機関でもない。


“選ばせる構造”を断ち切る存在が、はっきりと示された瞬間だった。



代行者ギルドの男たちは、その場で拘束された。

英雄の名は、もう彼らの口から出てこない。


だが。


リィネが、ふと小さく呟く。


「……これで終わり、ではないですね」


セインは頷いた。


「英雄の名を騙る者が増えるということは——」


ユールが、結論を置く。


「“本物だった者”が、堕ち始めている可能性がある」


ガランが、歯を鳴らす。


「つまり、クズの次は——」


「元英雄、か」


宿場街の問題は、解決した。


だが、蒼衡は理解していた。


これは始まりだ。


英雄の名を“使う側”から、

英雄だったはずの者が“欲しがる側”へ。


——歪みは、次の段階へ進んでいる。



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