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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第14章 答えを出せない者たち

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終焉は、前に出ない

夜明け前の宿場町は、奇妙な静けさに包まれていた。


騒ぎは終わっている。

被害もない。

倒れた者もいない。


それなのに——

町全体が、深く息を詰めたままのようだった。


「……後味、最悪だな」


ミリアが、丘の上から町を見下ろしながら呟く。


「勝ったのに、勝った気がしない」


「それが正常だ」


レインは、淡々と答えた。


戦場演算バトル・カリキュレーター》は沈黙している。

敵影なし。

干渉なし。

だが、“終了”を示す判定だけが、意図的に出ていなかった。


(戦闘は終わった。でも——)


(盤面は、終わってない)


リュカが、周囲を一瞥する。


戦域把握バトル・フィールド・リード》が拾っているのは、敵ではない。


——期待値の偏り。


町の人々は動いている。

荷を運び、橋を修繕し、倉庫を整理している。


だが、その動きに「誰かのおかげ」という感情が、決定的に欠けていた。


「……感謝が無い」


リュカが、低く言う。


「恐怖も無い。怒りも無い。けど——」


「満足も、無い」


エルドが盾を背負い直し、静かに頷いた。


「結果だけがある世界だ」


「それは、人が一番“疑い始める”状態でもある」


ミリアが、眉をひそめる。


「疑う?」


「誰がやったか分からない成果はな」


エルドの声は重い。


「人は必ず、“裏”を探す」


「理由が無ければ、勝手に理由を作る」


その言葉に、レインの視線が鋭くなる。


(……来るな)


敷設者とは違う。

あれは、問いを投げる側だった。


だが、今この町に溜まり始めているのは——

答えを欲しがる感情だ。


「レイン」


ミリアが、小さく声を落とす。


「アバンドン、姿を見せなかったよね」


「ああ」


レインは頷く。


「だからこそ厄介だ」


アバンドン=エンドロア。

終焉を語り、欲望を喰らう魔族。


だが、彼は“前線”に出ない。


英雄の前にも出ない。

ノーリトリートの前にも、まだ出ない。


「本人は——」


レインは、はっきりと言った。


「“殴られる理由”が育つのを待ってる」


沈黙が落ちる。


ミリアが、歯を噛みしめる。


「……卑怯だな」


「賢いんだ」


レインは、感情を挟まず続けた。


「敷設者は、管理で世界を止めた」


「アバンドンは——」


一拍。


「感情で、世界を動かす」


リュカが、低く唸る。


「じゃあ、次は?」


「次は——」


レインは、町の中心を見る。


誰も見上げない場所。

誰も注目しない成果。


そこに、**“不満になる前の違和感”**が溜まり始めている。


「誰かが言い出す」


「“これでいいのか”って」


「その瞬間を、アバンドンは喰う」


エルドが、盾を強く握る。


「止める方法は?」


「一つだけある」


レインは、静かに答えた。


「英雄を立てない」


「正義を名乗らない」


「犯人を決めない」


「そして——」


視線が、仲間たちに戻る。


「俺たち自身も、“勝者”にならない」


ミリアが、少しだけ笑った。


「……本当に、面倒な戦い方」


「でも」


拳を握る。


「嫌いじゃない」


夜明けの光が、町に差し込み始める。


世界は、今日も動き出す。


だがその裏側で——

終焉は、まだ一歩も前に出ていなかった。


それが、何よりの宣戦布告だった。


宿場町に、はっきりとした変化が現れたのは、正午を過ぎてからだった。


最初は、取るに足らない一言だった。


「……結局、誰がやったんだ?」


倉庫前で荷を数えていた男が、独り言のように呟いた。


誰に向けた言葉でもない。

責める調子でもない。


だが、その一言は——

確実に“意味を探す方向”へ空気を押した。


「そりゃあ、英雄様じゃないのか?」


「いや、英雄は何もしてないって話だぞ」


「じゃあ蒼衡そうこうか?」


「切った様子は無かったって聞いた」


言葉が、言葉を呼ぶ。


結果だけが残っていた世界に、

遅れて“解釈”が流れ込み始めた。


レインは、丘の上からその様子を見下ろしていた。


戦場演算バトル・カリキュレーター》が、静かに数値を更新する。


敵影なし。

戦闘判定なし。


——だが。


不満生成率:上昇

責任探索傾向:発生


(来たな)


「始まった?」


ミリアが、低い声で聞く。


「うん」


レインは即答した。


「アバンドンの“飯”が育ち始めた」


リュカが、町の中心を睨む。


戦域把握バトル・フィールド・リード》が拾っているのは、人の動線じゃない。


——視線の偏り。


人々の視線が、無意識に“答えを持っていそうな場所”へ寄り始めている。


英雄が泊まっていた宿。

世界機関の簡易詰所。

そして——ノーリトリートが陣を張っている丘。


「……向いてるな」


リュカが、吐き捨てるように言う。


「疑いの矛先が、ここに来る」


「当然だ」


エルドが、盾を地面に立てる。


「誰も名乗らない成果は、必ず“代役”を探す」


「それが英雄でなければ——」


「俺たちだ」


ミリアが、舌打ちする。


「最悪」


だが、その瞬間だった。


町の中央、井戸のそばで——

小さな口論が起きた。


「だから言ってるだろ!

 誰かが勝手に動かしたんだ!」


「勝手って何だよ。助かったじゃねえか!」


「助かったからって、全部許されるわけじゃない!」


声が、少しずつ大きくなる。


怒鳴り合いではない。

だが、感情の“向き”が揃い始めている。


レインは、目を細めた。


(このままだと——)


(誰かが“代表”にされる)


「ミリア」


「分かってる」


ミリアは、一歩前に出る。


だが——

前に出る理由を、作らない。


前線確定バトル・ライン・フィックス

発動。


「ここから先は、戦場」


その宣言は、町の人々に向けられていない。

“状況”に向けたものだ。


戦場になった瞬間、

感情は武器になる前に——重さを持つ。


「……あれ?」


井戸のそばの男が、言葉に詰まる。


怒りはある。

だが、吐き出す勢いが削がれている。


リュカが、即座に重ねる。


戦局重量バトル・ウェイト》。


空気が、沈む。


「……なんだよ」


「急に、言いづらくなった」


それは錯覚じゃない。


“誰かを責める言葉”が、

言葉として成立しにくくなっている。


エルドが、静かに前へ。


受理領域アクセプト・ゾーン》。


怒りでも、恐怖でもない。

**“責めたい衝動になる直前”**の感情だけを、受け止める。


「……あ」


井戸のそばの女が、息を呑む。


「……別に、誰かを責めたいわけじゃないのよ」


その一言で、空気がわずかに緩んだ。


だが。


レインは、背筋に走る“別の違和感”を見逃さない。


(……増えてる)


責める言葉は止まった。

だが、疑問そのものは消えていない。


むしろ——

抑えられた分、内側で膨らんでいる。


その瞬間。


戦場演算バトル・カリキュレーター》が、警告を吐いた。


外部干渉:低出力

方向性:感情誘導

発信源:未特定


ミリアが、歯を食いしばる。


「……来てる」


「うん」


レインは、はっきり言った。


「アバンドンだ」


姿は無い。

声も無い。


だが——

“考えさせる方向”だけが、わずかに誘導されている。


(上手いな)


(直接煽らない)


(“自分で考えた”と思わせる)


リュカが、低く唸る。


「これ、止められるか?」


「止めない」


レインは、即答した。


「止めた瞬間、“止めた理由”が必要になる」


「それは——」


「アバンドンの餌だ」


エルドが、短く息を吐く。


「じゃあ、どうする」


レインは、地面に視線を落とした。


因果再配置カウザル・リロケーション

準備。


動かすのは、人じゃない。

感情でもない。


——役割だ。


「疑うなら、疑わせる」


「でも——」


視線を上げる。


「“誰か”じゃなく、“状況”をな」


その瞬間。


町の中央で、誰かが言った。


「……この町、少しずつ変わってないか?」


別の声が続く。


「確かに。前より、動きやすい」


「でも、理由が分からない」


レインは、静かに力を流した。


疑問の矛先が、

“人”から“環境”へ——ずれる。


小さなずれ。

だが致命的なずれ。


遠く、誰にも見えない位相で。


評価が、僅かに乱れた。


——《誘導効率:低下》


アバンドンは、気づいた。


ノーリトリートは、

感情を消さない。


ただ——

刃になる前に、持ち替えさせる。


ミリアが、小さく笑った。


「……イラついてるね。今の」


「うん」


レインは、拳を握る。


「だから次は——」


一拍。


「もっと分かりやすい“敵”を、出してくる」


それは予告だった。


次の段階は、もう避けられない。


——“殴っていい相手”の提示。


そしてそれは、

本格的な戦闘の始まりを意味していた。


町の空気が、わずかに変質した。


それは恐怖ではない。

怒りでもない。


——期待だ。


「……なあ」


倉庫前にいた若者が、ぽつりと漏らす。


「今度こそ、何か起きる気がしないか?」


その言葉に、理由は無い。

だが、周囲の数人が無意識に頷いた。


レインの背中に、冷たい感覚が走る。


(来る)


戦場演算バトル・カリキュレーター》が、はっきりと告げていた。


敵影:生成中

性質:感情依存型

定義:局所的個体


ミリアが、低く息を吸う。


「……今回は、分かりやすいね」


「ああ」


レインは頷く。


「アバンドンは、“殴れる敵”を出してきた」


町外れ。

人目につかないはずの空き地。


だが今は、そこに——

人の視線が自然と集まっていた。


理由はない。

ただ、“見ていい場所”になっている。


そこに、影が立つ。


人の形。

だが、輪郭が曖昧だ。


胸元に渦巻くのは、恐怖でも怒りでもない。


——「期待されたい」という欲。


「……あれ」


町の誰かが、声を上げる。


「誰だ?」


影が、ゆっくりと顔を上げる。


目が合った瞬間、

人々の胸に“納得”が生まれた。


「……あいつが、原因だ」


誰かが言った。


誰も、反論しない。


理由はない。

だが——責任を置ける場所が、そこにあった。


ミリアが、歯を食いしばる。


「最悪の置き方……」


「でも」


レインは、静かに前に出る。


「これで、戦える」


非裁定ノーリトリート》が、前線に立つ。


英雄でもない。

世界機関でもない。

蒼衡そうこう/アズール・バランスでもない。


——選ばせないまま、止めに行く存在。


「エルド」


「受ける」


エルドが、盾を構える。


受理領域アクセプト・ゾーン》——最大展開。


影から溢れ出す“期待”と“依存”を、

感情になる前で受け止める。


影が、初めて歪んだ。


「……なんだ?」


「お前ら」


声が出た。

個体だ。


「邪魔するなよ」


「俺は、ここに“立つ”って決められたんだ」


ミリアが、一歩踏み出す。


前線確定バトル・ライン・フィックス》。


「ここから先は、戦場」


その瞬間。


影の動きが、わずかに遅れる。


“戦場”という概念を削るには、

もう一手、必要だ。


「リュカ」


「重くする」


戦局重量バトル・ウェイト》。


空気が沈む。


期待は、軽い。

依存は、軽い。


——重くなった瞬間、武器にならない。


「……ッ!」


影が、呻いた。


「なんだこれ……!」


「思ったより、動けねえ!」


レインは、もう迷わない。


認識剥離センス・ストリップ》。


見えた。


この個体は——

人々の「誰かに任せたい」という感情を媒介に、

一時的な“敵役”として成立させられた存在。


(アバンドンの即席)


(でも——)


(構造は、単純)


レインは、一歩踏み込む。


因果遮断カウザル・ブレイク》。


切ったのは、命じゃない。


「期待されることで力になる」因果。


影の輪郭が、音もなく崩れた。


「……あ?」


理解が追いつく前に。


ミリアの拳が、正面から叩き込まれる。


前線穿断フロント・ピアース》。


「立つな」


「立たせるな」


「勝手に代表ヅラすんな!」


鈍い衝撃。


影は、地面を転がる。


もう、立てない。


町の人々が、はっとしたように息を呑む。


「……あれ?」


「今の……何だったんだ?」


責任を置く場所が、消えた。


だが——

世界は、止まらない。


誰かを責めなくても、

町は動いている。


レインは、はっきりと言った。


「敵は倒した」


「でも——」


「英雄の勝利じゃない」


「世界機関の判断でもない」


「蒼衡の切断でもない」


ミリアが、強く頷く。


「《非裁定ノーリトリート》の仕事だ」


その瞬間。


遠い位相で、

評価が——明確に乱れた。


《期待収束:失敗》

《代理個体:破棄》

《対象:非裁定ノーリトリート

《危険度:再評価》


アバンドン=エンドロアは、理解した。


——英雄を排除しても、勝てない。

——意味を薄めても、喰い切れない。


この存在は、

殴れる敵を“敵として消費させない”。


だから——


次は、

もっと大きな賭けに出る。


町に、夜が降りる。


人々は、いつも通りに眠りにつく。


だがその裏で、

世界は確実に次の段階へ進んでいた。


非裁定ノーリトリート》は、勝った。


けれど——

本当の戦争は、これからだ。


次に来るのは、

「個体」ではない。


——終焉そのものが、盤面に降りてくる。

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