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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第14章 答えを出せない者たち

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殴れる悪、名を持つ終焉

宿場町の夜は、静かすぎた。


昼間は確かに動いていた。

人は歩き、物は運ばれ、声も交わされていた。

だが夜になると、そのすべてが“余熱”だけを残して消えていく。


誰かの決断があったわけじゃない。

誰かの指示があったわけでもない。


——結果だけが、そこにある。


「……気持ち悪いな」


ミリアが、小さく吐き捨てた。


町外れの空き地。

焚き火の残り香も薄れ、風だけが低く流れている。


「進んでるのに、進んだ感じがしない」


「それが、今の世界だ」


レインは、視線を落としたまま答えた。


戦場演算バトル・カリキュレーター》は、沈黙している。

敵影なし。殺意なし。明確な脅威なし。


それでも——

“何かが近づいている”という予測だけは、消えなかった。


リュカが、町の灯りを背に言う。


「さっきの“手先”……あれ、逃げじゃないな」


「うん」


レインは頷く。


「アバンドンは、最初から使い捨て前提だった」


エルドが、盾を地面に立てたまま静かに問う。


「なら、本命は?」


答えは、空気の変化として先に来た。


——ぴしり、と。


世界が、ほんのわずかに“割れた”感触。


魔力じゃない。

空間でもない。


人の感情が、まとめて一方向に引っ張られた感覚。


「……来る」


レインが、低く告げる。


その瞬間。

空き地の中央、何もなかった場所に——人影が“最初からいた”かのように立っていた。


長い外套。

無駄のない体躯。

顔立ちは整っているが、どこか輪郭が曖昧だ。


だが、目だけは違った。


確かに“人を見る目”。

恐怖も、評価も、最適化もない。


欲望の目。


「やあ」


男は、軽く手を挙げた。


「今のは、ちょっと失礼だったかな」


ミリアが、半歩前に出かけて止まる。

理由はない。ただ——危険だと分かる。


「……アバンドン=エンドロア」


レインが、名を呼んだ。


男は、満足そうに口元を歪める。


「覚えてもらえたか。光栄だね」


「手先を潰された感想は?」


「悪くない」


アバンドンは、あっさり答えた。


「むしろ、安心した」


ミリアの眉が、ぴくりと動く。


「……何が?」


「君たちが、“殴れる存在”だって分かったこと」


その言葉が、夜に落ちた。


敷設者の言葉とは違う。

評価でも、処理でもない。


敵としての言葉だった。


「敷設者は、世界を止める」


アバンドンは、ゆっくりと歩き出す。

距離を詰めるわけでも、離れるわけでもない。


「英雄は、世界に意味を与える」


「世界機関は、責任を配分する」


「蒼衡そうこうは、切る」


彼は、そこで足を止めた。


「でもね」


視線が、レインに刺さる。


「君たちは、どれでもない」


「意味を固定しない」

「責任を持たない」

「切りもしない」


「なのに——進ませる」


一拍。


「……腹が減るだろ?」


空気が、冷えた。


ミリアが歯を噛みしめる。


「世界を、餌みたいに言うな」


「餌だよ」


アバンドンは、即答した。


「歪みは、力になる」

「不安は、魔力になる」

「誰のものでもない成果は、欲望を生む」


両手を、軽く広げる。


「敷設者が削った“選択”の穴」

「君たちが広げた“意味の空白”」


「全部、ちょうどいい」


リュカが、低く言った。


「……だから来た」


「そう」


アバンドンは、笑った。


「だから——今回は、ちゃんと本人で来た」


その瞬間。

戦場演算バトル・カリキュレーター》が、初めて明確な警告を鳴らした。


敵性個体:確定


「いいね」


アバンドンは、その反応を楽しむように言う。


「その顔だ」


「その“殴る理由が成立した顔”を、見に来た」


ミリアが、拳を握る。


「……今すぐ殴る?」


「いや」


レインは、静かに首を振った。


「まだだ」


アバンドンの笑みが、わずかに深くなる。


「慎重だね」


「賢いとも言える」


「でも——」


一歩、前に出る。


「次は、もう少し“分かりやすく”行こう」


その言葉と同時に、

アバンドンの足元から影が伸びた。


さっきの手先とは、比べ物にならない濃度。

欲望と不安が、直接“形”を持ち始める。


「準備はいいかい、《非裁定ノーリトリート》」


アバンドン=エンドロアは、はっきりと言った。


「これは“問い”じゃない」


「前哨戦だ」


夜が、完全に沈んだ。


——次は、逃げ場がない。


空気が、重かった。


戦場演算バトル・カリキュレーター》は、

敵を“倒す手順”ではなく、

**「戦闘が成立する条件」**を必死に拾っている。


——殺意、あり

——敵意、あり

——だが、目的が不安定


(……こいつ)


レインは、アバンドンから目を離さない。


(敷設者と違う)


敷設者は、世界に干渉する“仕組み”だった。

論理で、工程で、最適化で削る。


だが、目の前の男は——


感情を、見ている。


「……始めるぞ」


ミリアが、低く告げた。


戦線確定バトル・ライン・フィックス》。


その瞬間、空間に一本の線が引かれる。

戦場という“枠”が、最低限成立する。


アバンドンは、わずかに眉を動かした。


「へえ」


「線を引くのか」


「意味を固定しないくせに、戦場は定義する」


「矛盾してると思わない?」


「思わない」


レインは、即答した。


「戦う場所を決めるのと、理由を決めるのは別だ」


「なるほど」


アバンドンは、楽しそうに笑った。


「じゃあ、実演だ」


次の瞬間。


影が、爆ぜた。


地面に張り付いていた黒が、

波のように立ち上がり、

人の足元へ絡みつく。


だが——


「エルド!」


「受ける」


エルドが、一歩前に出る。


受理領域アクセプト・ゾーン》展開。


影が触れた瞬間、

“恐怖になり切る前の感情”だけが、そこで止まった。


「……?」


アバンドンの口元が、わずかに歪む。


「欲望が、育たない?」


「当たり前だ」


エルドの声は低い。


「それは、“選ばせる前提”の力だ」


「ここじゃ——」


「育つ前に、受理される」


ミリアが、地を蹴る。


戦局重量バトル・ウェイト》。


空気が、沈む。


加速しない。

煽られない。

焦りが、武器に変わらない。


アバンドンが、舌打ちした。


「……効率、悪いな」


「そうだろ」


レインは、踏み込む。


認識剥離センス・ストリップ》。


アバンドンの内部が、

“構造”として浮かび上がる。


——欲望吸収

——不安増幅

——意味が生まれる直前で刈り取る回路


(……やっぱり)


(敷設者の“後”にいる存在だ)


「安定しすぎてる」


レインが、静かに言う。


「世界が歪むのを待つ前提の構造だ」


アバンドンは、肩をすくめた。


「待つのは嫌いでね」


「だから、今は“揺らし”に来てる」


影が、再び動いた。


今度は、一直線。

レインを狙う。


「レイン!」


ミリアが叫ぶ。


だが——


レインは、避けない。


因果遮断カウザル・ブレイク》。


切ったのは、影じゃない。

**「影が力として成立する理由」**だ。


影は、途中で“意味を失い”、霧散した。


アバンドンの目が、はっきりと見開かれる。


「……それは」


「効く」


レインは、短く答えた。


「お前は、欲望を“力に変える”」


「なら——」


「力になる前で切ればいい」


沈黙。


次の瞬間。


アバンドンは、笑った。


心底、楽しそうに。


「いいね」


「最高だ」


「やっぱり——」


一歩、距離を詰める。


「君たちは、ちゃんと殴れる」


ミリアが、拳を構え直す。


「だったら——」


「殴り合う?」


「いや」


アバンドンは、首を振った。


「今日は、ここまで」


その言葉と同時に、

空気が、急激に軽くなる。


戦場が、ほどける。


《戦線確定》が、意味を失う。


「逃げるのか!」


ミリアが叫ぶ。


アバンドンは、振り返らない。


「撤退だよ」


「殴れる相手だって分かったから」


最後に、肩越しに視線だけを向ける。


「次は——」


「もっと“分かりやすく”」


「君たちが、前に立たざるを得ない形で来る」


そして。


アバンドン=エンドロアは、

影と一緒に、夜へ溶けた。


静寂。


エルドが、盾を下ろす。


「……消えたな」


「うん」


レインは、拳を開いた。


「でも、分かった」


ミリアが、荒い息のまま言う。


「勝てる?」


「勝てる」


即答だった。


「敷設者みたいに、理屈で世界を止めてこない」


「欲望の側に立ってる分——」


一拍。


「殴れば、殴り返してくる」


それは、初めての感触だった。


**“世界そのもの”じゃない敵。

“倒して終わる”可能性のある敵。


リュカが、小さく笑う。


「……やっと、ボス戦の匂いだな」


遠く。

誰にも見えない場所で、

評価が、はっきりと更新される。


《対象:アバンドン=エンドロア》

《危険度:再評価》

《対抗勢力:非裁定ノーリトリート》

《結論:直接排除、要検討》


アバンドンは、確信した。


この相手は——

盤面じゃ殺せない。


そしてレインは、理解した。


次はもう、

思想じゃない。


——戦闘だ。


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