表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第14章 答えを出せない者たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

177/1040

背負わせないという選択

夜明け前の空は、まだ暗かった。


上流集落の外れ。

人の気配が消えた場所で、レインは一人立っていた。


井戸のある広場は、遠くに見える。

あの青年は、もうそこにはいない。


「……結局」


レインは、低く呟く。


「俺たちは、

 “選ばせない”ことはできた」


「でも——

 “背負わせる”のは、

 止められなかった」


非裁定ノーリトリート》の思想は、

これまで確かに機能してきた。


切らない。

裁かない。

選ばせない。


選択肢が起動する“前”に立つ。

誰かが判断する“瞬間”を消す。


それで、世界は一度、詰まった。


だが。


(……人は)


(選択肢がなくても、

 責任を探す)


(誰かが背負えば、

 それで楽になる)


青年は、自ら進み出たように見えた。

だが本当は違う。


期待が、押し出した。


「……俺は」


レインは、拳を握る。


「立てる場所に、

 立つだけで満足してた」


「それで、

 誰も選ばなければいいって」


背後から、足音がする。


「……気づいたか」


ジル爺が、杖を鳴らしながら現れた。


「今回は、

 少し遅かったの」


レインは、振り返らない。


「……ああ」


「分かった」


ジル爺は、レインの隣に立つ。


「“選ばせない”は、

 立派な思想じゃ」


「だがな」


一拍、置く。


「それは、

 強い者が前に立てる時だけ

 成立する」


「立てぬ場所では、

 人は勝手に“役”を作る」


レインは、ゆっくりと息を吐いた。


「……だから」


「次は、

 “立つ”だけじゃ足りない」


ジル爺が、目を細める。


「ほう?」


レインは、顔を上げる。


「背負わせない」


「誰かが、

 “行く役”になる前に」


「“役そのもの”を、

 消す」


それは、

選択肢を消すよりも、

ずっと難しい。


関係を壊すかもしれない。

期待を裏切るかもしれない。

誰かに、嫌われるかもしれない。


それでも。


「……嫌われてもいい」


レインは、はっきりと言った。


「正しさを説明して、

 納得させるんじゃない」


「最初から、

 背負えない状況を作る」


ジル爺が、静かに笑う。


「……ようやくじゃな」


「“立つ者”から、

 “割り込む者”に

 なる気か」


「そうだ」


レインは、頷く。


非裁定ノーリトリート》は、

変わらない。


裁かない。

退かない。

選ばせない。


だが——

一つ、加わる。


背負わせない。


それは、

優しさでも、理想でもない。


人の関係が、

答えを作る前に踏み潰す覚悟だった。


レインは、静かに歩き出す。


(……次は)


(選ばされる“前”に、

 俺が出る)


空の端に、

朝日が差し始めていた。


次の現場は、早かった。


上流集落の件から、三日後。

別の地域で、同じ兆候が出始めていた。


規模は小さい。

だが、構造は同じ。


「……代表を決めようって話が、

 もう出てる」


リュカが、淡々と報告する。


「“誰が世界機関に訴えに行くか”」


「“誰が責任を持つか”」


「……もう、

 押し付け合いの前段階だ」


レインは、即座に動いた。


今回は、待たない。


村の集会所。

人が集まり始めた、その最初に。


「ちょっと、待って」


レインの声が、空間を切った。


全員の視線が、集まる。


「……誰だ?」


「世界機関か?」


「違う」


レインは、首を振る。


「俺は、

 《非裁定ノーリトリート》だ」


その名前に、

ざわめきが走る。


「選ばせない連中か……」


「じゃあ、

 答えを出してくれるのか?」


期待が、

一瞬だけ生まれる。


レインは、はっきりと否定した。


「出さない」


空気が、凍る。


「……は?」


「答えは、

 誰にも出させない」


怒りではない。

困惑が広がる。


「じゃあ、

 どうするんだ!」


年配の男が、声を荒げる。


「誰かが行かなきゃ、

 このままじゃ……!」


「行かない」


レインは、被せる。


「誰も、行かない」


沈黙。


それは、

提案ではなかった。


遮断だった。


「……無責任だ!」


誰かが、叫ぶ。


「責任を取らないのか!」


レインは、視線を逸らさない。


「取る」


「ただし——」


一歩、前に出る。


「俺が取る」


空気が、揺れた。


それは、

“選ばされる”のと、違う。


自分から、背負う。


だが。


「それは……」


若い女が、戸惑いながら言う。


「あなたが、

 “代表”になるってこと?」


「違う」


レインは、即答した。


「代表を消す」


「この件は、

 個人の訴えにしない」


「全員で、

 全員分の記録として出す」


「一人の顔も、

 前に出さない」


理解が、

追いつかない。


「……そんなの」


「聞いてもらえるわけが……」


「聞かせる」


レインは、言い切る。


「割り込む」


「手順に、

 関係に、

 “責任役”が生まれる前に」


その言葉に、

集会所が静まり返る。


誰も、

賛同していない。


だが——

誰も、立ち上がれない。


期待を押し付ける先が、

消えたからだ。


リュカが、耳元で囁く。


「……嫌われるぞ」


「構わない」


レインは、短く答える。


「嫌われた方が、

 “役”は生まれない」


外で、

風が吹く。


歪みは、

起きなかった。


選択肢も、

立ち上がらない。


ただ——

人の感情だけが、軋んだ。


ミリアが、静かに呟く。


「……これ」


「正しいかどうか、

 分かんないね」


「分からなくていい」


レインは、答える。


「背負わせなかった」


それだけで、

十分だ。


だが。


遠く。


敷設者の視線が、

確かに動いた。


歪みは、起きなかった。


村は静かで、

人々は不満を抱えたまま、解散した。


怒りも、納得も、

どちらにも至らない。


——宙吊り。


それが、敷設者にとっての異常だった。



どこか。


場所も、距離も意味を持たない領域で、

観測が更新される。


「……反応が、途切れた?」


冷ややかな声が、低く響いた。


「歪曲値が上がらない」


「問いが、

 成立していない」


別の声が、静かに返す。


「選択肢は敷かれていた」


「責任役が生まれる直前だった」


「だが——

 “割り込み”があった」


情報が、共有される。


誰かが、

代表になる前に。


誰かが、

背負わされる前に。


構造の外側から、

役そのものを消された。


「……なるほど」


最初の声が、わずかに興味を示す。


「“選ばせない”だけではないな」


「これは——」


「背負わせない」


沈黙。


それは、

これまで想定していなかった行動だった。


選択肢を消す。

判断を保留する。


そこまでは、理解できる。


だが。


「責任を引き受けるのではなく」


「責任の形式を、

 無効化する……?」


「……面倒だな」


誰かが、呟く。


「これは、

 正しさでは崩れない」


「嫌われる覚悟がないと、

 できない動きだ」


評価は、即座に定まった。


「危険度、上方修正」


「《非裁定ノーリトリート》の中核——

 レイン」


「単独思想体として、

 正式に識別」


名が、記録される。


それは、

“敵としての認識”ではない。


対策対象としての登録だった。



一方、村を離れる道すがら。


ミリアが、ぽつりと言う。


「……あの人たち」


「たぶん、

 私たちのこと好きじゃないよ」


「だろうな」


レインは、即答した。


「期待を、

 裏切ったから」


「……それで、いいの?」


ミリアの声は、

少しだけ揺れている。


レインは、足を止めた。


「いい」


「好かれると、

 役を背負わされる」


「嫌われれば、

 背負わせられない」


「……でも」


ミリアは、拳を握る。


「それ、

 孤立するよ」


レインは、

少しだけ笑った。


「もう、

 してる」


非裁定ノーリトリート》は、

選ばせない。


そして今。


背負わせない。


その思想は、

敵に届いた。


だから——

次は、

もっと露骨に来る。


嫌われてもいい。

理解されなくてもいい。


それでも。


誰かが、

 勝手に“答え役”にされる世界だけは、

 許さない。


空の向こうで、

新しい“問い”が、準備され始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ