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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第14章 答えを出せない者たち

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背負うと決めた者

最初に壊れたのは、建物じゃなかった。


街の中央にある石橋。

物流と生活を繋ぐ、唯一の動脈。


そこに——

人が立っていた。


「……俺がやる」


誰に命じられたわけでもない。

誰かに選ばれたわけでもない。


だが、

全員がその言葉を待っていた。


「この橋を守らなきゃ、

 下流の街が終わる」


「でも、

 橋に異変が出てるのも事実だ」


「世界機関の対応は、

 まだ来ない」


「……だから」


男は、一歩前に出る。


「俺が、

 “背負う”」


その瞬間、

周囲の空気がわずかに緩んだ。


誰も、止めない。

誰も、賛成しない。


ただ——

安心した。


(ああ)


(この人が、

 やってくれるんだ)


その感情が、

言葉より早く共有される。


男の名は、グレイ。


特別な英雄でも、

選ばれた存在でもない。


ただ、

橋の補修を請け負っていた

普通の職人だった。


「……何をすればいい?」


誰かが、恐る恐る聞く。


グレイは、少し考える。


「分からない」


「でも——」


橋に、手を当てる。


「この橋が、

 “壊れない理由”になればいい」


その言葉に、

位相が揺れた。


目に見えない歪みが、

男の背後に集まっていく。


原初の飢餓ではない。

問いでも、選択肢でもない。


“期待”が、形を持ち始める。


「……おい」


「今の、見たか?」


誰かが、声を潜める。


グレイの影が、

橋の上に不自然に伸びていた。


重い。

異様に、重い。


それは力ではない。


責任の質量だった。


その頃。


街道を走る影がある。


「……来たな」


レインが、足を止める。


非裁定ノーリトリート》の全員が、

同時に気づいていた。


「“代理”だ」


リュカが、淡々と告げる。


「しかも——」


ミリアが、歯を食いしばる。


「自分から、

 背負っちゃってる」


エルドが、盾を構える。


「……止めないと」


「でも」


レインは、視線を橋へ向けたまま言う。


「もう、

 “話し合いで下りる段階”じゃない」


橋の上で。


グレイが、深く息を吸う。


「……大丈夫だ」


「俺が、

 全部受ける」


その瞬間。


歪みが、

はっきりと形を持った。


人が、

“代理の背負う者”に変わる瞬間だった。


レインは、低く告げる。


「……行くぞ」


「初めてだ」


「止めに行くために、

 殴る」


非裁定ノーリトリート》は、

橋へ向かって走り出した。


これは、救出戦ではない。

討伐でもない。


背負うという行為そのものを、

 叩き潰す戦いの始まりだった。


橋の上で、グレイが踏みしめた瞬間。


石畳が、沈んだ。


「……っ!?」


衝撃でも、爆発でもない。

ただ、重さだけが増した。


橋が耐えきれずに壊れそうになったわけじゃない。

むしろ逆だ。


橋が、

グレイを支えようとしている。


「……なんだ、これ」


グレイ自身が、戸惑っていた。


腕に力を入れたわけでもない。

魔力を流した覚えもない。


それなのに。


一歩、踏み出すだけで、

橋の歪みが、静かに修復されていく。


だが同時に——

周囲の空間が、軋んだ。


「……橋だけじゃない」


リュカが、息を呑む。


「この人、

 “街全体の負荷”を引き受け始めてる」


ミリアが、声を荒げる。


「それ、

 やばいよ!」


「一人で背負える量じゃない!」


だが、グレイは聞こえていない。


いや——

聞こえていても、止まらない。


「大丈夫だ」


グレイは、繰り返す。


「今までだって、

 俺はこの橋を直してきた」


「今回も、

 少し重いだけだ」


その言葉に応じるように、

影が、はっきりと輪郭を持つ。


背中に、

見えない“荷”が積み上がっていく。


「……来る!」


エルドが、盾を前に出す。


次の瞬間。


重圧が、波のように放たれた。


攻撃ではない。

敵意もない。


ただ、

「支える」という行為の副作用。


街道にいた人々が、

一斉に膝をつく。


「……っ、息が……」


「なんで……

 何もしてないのに……」


「……これが」


レインは、歯を食いしばる。


「背負う力の、暴走」


ミリアが、踏み込む。


前線確定ぜんせんかくてい》——最小。


斬らない。

押し返さない。


ただ、

“これ以上、前に出るな”という位置取り。


「グレイ!」


ミリアが、叫ぶ。


「止まって!」


グレイは、彼女を見る。


その目は、

まだ“人”だった。


「……止まれない」


「俺が止まったら、

 この橋が壊れる」


「下流が、

 巻き込まれる」


「だから——」


一歩、前に出る。


それだけで、

地面が、軋む。


「……くそ」


ミリアが、歯を食いしばる。


「善意が、

 攻撃になってる……!」


レインは、前に出た。


剣は、抜かない。


「グレイ」


静かな声で、呼びかける。


「それは、

 “責任”じゃない」


「……何が分かる!」


グレイの声が、初めて荒れる。


「誰かが、

 やらなきゃいけないんだ!」


「分かってる」


レインは、頷く。


「だから——」


一歩、踏み出す。


「俺が割り込む」


《戦場演算》が、回る。

答えは、出さない。


代わりに、

“背負う行為そのもの”を観測する。


「……エルド」


「来る」


エルドが、盾を地面に突き立てる。


存在係留そんざいけいりゅう》——最大。


守るためじゃない。


“ここに別の存在がいる”と、

 世界に示すため。


重圧が、二つに割れる。


「……!?」


グレイが、よろめいた。


「重さが……

 分かれた……?」


「違う」


レインが、答える。


「背負えなくなった」


「……なに?」


レインは、目を逸らさない。


「お前が背負ってるのは、

 街の命じゃない」


「期待だ」


「それを、

 背負う必要はない」


重圧が、さらに歪む。


暴発寸前だった力が、

行き場を失い始めた。


だが——

まだ、止まらない。


グレイは、叫ぶ。


「じゃあ、

 誰がやるんだ!」


その問いが、

橋の上に響く。


レインは、

はっきりと言った。


「誰もやらない」


「壊れるなら、

 俺が割り込んで壊す」


「背負わせない」


それは、

宣告だった。


影が、震える。


戦いは、

まだ終わらない。


橋の上で、

重圧が限界まで膨れ上がっていた。


グレイの足元の石畳が、

耐えきれずにひび割れる。


それでも、彼は踏みとどまる。


「……まだだ」


「まだ、

 俺は立てる」


その言葉は、

意地ではなかった。


責任に縛られた誠実さだった。


「……だからこそだ」


レインは、一歩、前に出る。


剣を抜かない。

構えもしない。


ただ、

真正面に立つ。


「グレイ」


「お前が今、

 背負ってるものは」


「街でも、

 橋でもない」


「“壊れたら困る”っていう

 恐怖の代理だ」


グレイの目が、揺れる。


「……違う」


「俺は、

 皆を守ってるだけだ」


「違わない」


レインは、否定しない。


「でも——」


「それを

 お前一人に預けた時点で」


「もう、

 守りじゃない」


重圧が、

一瞬、止まった。


世界が、

“聞いてしまった”。


レインは、続ける。


「期待は、

 誰かに預けた瞬間」


「責任に変わる」


「責任は、

 一人に集中した瞬間」


「災厄になる」


エルドが、盾を地面に突き立てる。


《存在係留》が、

さらに広がる。


ミリアが、

前線を広げる。


《前線確定》——最小。


リュカが、

周囲の“間”を調整する。


《戦域把握》は、

最適解を出さない。


ただ、

逃げ場を作る。


重圧の行き場が、

増えていく。


グレイの背中に積まれていた“荷”が、

分散され始めた。


「……っ!?」


グレイが、膝をつく。


「軽……い……?」


「そうだ」


レインは、静かに言う。


「下ろした」


「俺たちは、

 背負わせない」


「だから」


一歩、踏み出す。


「割り込む」


無裁定連鎖むさいていれんさ》が、

静かに起動する。


因果を切らない。

結果を消さない。


ただ、

集中を解く。


重圧は、

爆発しなかった。


霧が晴れるように、

消えていく。


橋は、壊れなかった。

街も、無事だった。


そして——

グレイは、

人のままだった。


「……俺は……」


グレイが、息を整える。


「……何を、

 してたんだ……」


ミリアが、

そっと近づく。


「頑張ってた」


「でも、

 頑張りすぎた」


グレイは、

顔を覆う。


「……皆が、

 期待してる気がして……」


「気がしただけだ」


レインは、言う。


「でも」


「それで、

 壊れる必要はない」


遠く。


敷設者の観測が、

明確な異常を検知していた。


「……背負わせる構造が、

 成立しなかった」


「解除手段が、

 確認された」


誰かが、低く呟く。


「……厄介だな」


「殺さず、

 折らず、

 役を消す」


「これは——

 再利用が難しい」


評価が、更新される。


非裁定ノーリトリート》——

危険度、再修正。



橋の上。


夜風が、吹き抜ける。


グレイは、

地面に座り込んでいた。


生きている。

壊れていない。


それが、

答えだった。


レインは、背を向ける。


「……行こう」


ミリアが、少しだけ笑う。


「初勝利だね」


「勝ちじゃない」


レインは、首を振る。


「通しただけだ」


だが。


その“通し方”は、

確かに世界を変えた。


背負わせない。

選ばせない。


そして——

殴ってでも、下ろす。


非裁定ノーリトリート》の戦い方は、

ここで、形になった。


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