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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第14章 答えを出せない者たち

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正しい刃を、前へ

世界機関の判断は、早かった。


グラディウスの失脚から、半日も経っていない。


感情的な糾弾はない。

責任の押し付け合いもない。


ただ、事実だけが整理された。


「個人判断への依存は、リスクが高い」


評議官の声は、淡々としている。


「よって、

 今後の異常対応は——

 蒼衡(そうこう/アズール・バランス)に一元化する」


異論は、ほぼ出なかった。


蒼衡は、

•組織として完成している

•判断基準が明確

•現場対応力が高い

•そして——“切る覚悟”がある


世界機関にとって、

これ以上ない選択だった。


「……妥当だな」


英雄の一人が、短く言う。


「感情で揺れない」


「迷わない」


「判断が遅れない」


誰も否定しなかった。


その場にいたレインだけが、

沈黙していた。


非裁定ノーリトリート》の仲間たちも、

同じだ。


「……レイン」


ミリアが、低く声をかける。


「これ、

 間違ってはないよね」


「うん」


レインは、ゆっくり頷く。


「間違ってない」


それが、

何より厄介だった。


「蒼衡は、

 “立つ”こともできる」


評議官が続ける。


「必要とあらば、

 自ら前線に出る」


「責任は、

 必ず引き受ける」


——完璧だ。


だからこそ。


「……それで」


レインは、静かに口を開いた。


「“選ばれなかった側”は?」


一瞬、空気が止まる。


評議官は、即答しなかった。


だが、

視線を逸らしはしなかった。


「……最小限に、抑えます」


「抑える?」


レインは、言葉を繰り返す。


「救う、じゃなく?」


「……現実的に、

 全ては救えません」


その言葉は、

冷たいものではなかった。


むしろ、

誠実だった。


蒼衡の代表が、前に出る。


「我々は、

 切るべき時に切る」


「だが——

 切った責任からは逃げない」


「それが、

 秩序を守るということだ」


レインは、

その目を見る。


嘘はない。

逃げもない。


だから、

否定できない。


(……だからこそ)


(この人たちは、

 “代理”として完璧すぎる)


原初の飢餓が、

また一段——

賢くなる予感がした。


「……前線指揮は、

 明日から開始する」


評議官が、木槌を鳴らす。


軽い音。


だがそれは、

世界が——

より鋭い刃を選んだ音だった。


レインは、立ち上がる。


「……俺たちも、

 前に出る」


評議官が、頷く。


「ええ」


「《非裁定ノーリトリート》も、

 重要な戦力です」


レインは、

小さく息を吐いた。


(……戦力として、か)


蒼衡は、

正しい。


世界機関も、

正しい。


それでも——

胸の奥に、

嫌な感覚が残る。


正しい刃ほど、

 よく血を吸う。


非裁定ノーリトリート》は、

その刃の隣に立つことになった。


次の現場で、

何が起きるかを知りながら。


現場は、静かだった。


異常発生の報告から、

蒼衡(そうこう/アズール・バランス)の部隊が到着するまで、

わずか十五分。


配置は即座。

退避経路は事前に確保。

住民の誘導に迷いはない。


「南区画、封鎖完了」


「西側、退避終了」


「異常反応、範囲固定」


通信は、無駄がなかった。


蒼衡の指揮官が、短く指示を飛ばす。


「切る」


一言。


だが、その中身は粗暴ではない。


「危険度が臨界を超える区域を限定」


「内部の人員は、

 既に退避済みだ」


「被害は——

 ここで止まる」


事実、その通りだった。


歪みは、

指定された範囲で“止まる”。


拡大しない。

横にも、下にも、伸びない。


「……すごいな」


ミリアが、思わず呟く。


「完璧だよ」


「うん」


レインは、否定しなかった。


「完璧だ」


非裁定ノーリトリート》が

立つ必要すらない。


蒼衡が、

“先に結論を出している”からだ。


「……これなら」


エルドが、低く言う。


「誰も、

 迷わなくて済む」


その言葉が、

胸に引っかかる。


迷わなくて済む。


それは——

考えなくて済む、ということでもある。


現場は、収束した。


死者は、出ていない。

重傷者も、最小限。


数字だけ見れば、

理想的な結果だった。


蒼衡の指揮官が、

レインの前に立つ。


「……ご覧の通りだ」


「被害は抑えられている」


「これが、

 秩序ある対応だ」


レインは、視線を逸らさずに答える。


「……切った場所は?」


「廃棄区画として、

 今後立ち入りを禁止する」


「再発の兆候があれば、

 同様に処理する」


「……そこに、

 人は戻らない?」


一瞬の沈黙。


だが、指揮官は即答する。


「戻す理由がない」


正しい。

否定のしようがない。


その背後で。


レインは、

“何か”を感じていた。


歪みは、

確かに消えている。


だが——

残滓が、濃い。


切られた場所に、

静かに溜まっている。


「……レイン?」


ミリアが、声をかける。


「この現場、

 終わったよね?」


「……ああ」


レインは、頷いた。


「終わった」


「でも……」


言葉を、続けられなかった。


原初の飢餓は、

ここでは暴れていない。


満たされている。


選別。

隔離。

切断。


誰かが、

“正しく選んだ”結果。


それが、

確実に供給されている。


「……蒼衡は」


レインは、低く呟く。


「俺たちより、

 ずっと上手くやってる」


「……でも」


その先の言葉は、

飲み込んだ。


蒼衡の指揮官が、

最後に告げる。


「次の現場でも、

 同様に対応する」


「世界は、

 これで守れる」


その背中を見送りながら、

レインは確信していた。


(……このまま行けば)


(原初の飢餓は、

 もっと“静かに”、

 もっと“深く”なる)


完璧な指揮。

正しい刃。


それは——

敵にとって、

 最も扱いやすい形だった。


報告は、成功だった。


世界機関に集まる数値は、

どれも“理想的”と言っていい。


「異常発生件数、減少傾向」


「死亡率、前期比で大幅改善」


「住民の不安指数も、低下しています」


評議官たちは、

静かに頷き合った。


「……これなら」


「長期運用も、現実的だな」


誰も声を荒げない。

誰も楽観もしない。


冷静な成功。


それが、

世界機関にとって最も信頼できる結果だった。


一方、現場。


蒼衡(そうこう/アズール・バランス)の指揮官は、

最後の確認を終えていた。


「……今回の判断で、

 問題は?」


レインは、すぐには答えなかった。


非裁定ノーリトリート》の仲間たちも、

同じだ。


誰も、

「間違っている」とは言えない。


だからこそ。


「……このやり方で」


レインは、ゆっくりと口を開く。


「異変は、

 “なくなりますか”?」


指揮官は、即答しなかった。


だが、逃げもしない。


「……減ります」


「制御下には、置ける」


「完全な解消は、

 現時点では困難だ」


誠実な答えだった。


「……切り続ける、ということですね」


「そうなる」


「切らなければ、

 もっと失う」


レインは、視線を落とす。


「……切った場所は」


「誰の記憶にも、

 残らなくなる」


「地図から消え」


「戻る理由も、

 消える」


指揮官は、淡々と告げた。


「それが、

 秩序だ」


ミリアが、唇を噛む。


「……でも」


「そこにいた人たちは?」


指揮官は、少しだけ目を伏せた。


「……生き延びている」


「だが、

 戻る“居場所”はない」


沈黙。


それが、

このやり方の代償だった。


「……蒼衡は」


レインは、まっすぐに指揮官を見る。


「“選んだ結果”を、

 最後まで背負える」


「でも——」


一瞬、言葉を区切る。


「選ばれなかった側は、

 どこへ行けばいい?」


指揮官は、答えなかった。


答えが、

用意されていなかった。


「……それが」


レインは、静かに続ける。


「原初の飢餓が、

 一番好きな空白だ」


その言葉に、

指揮官の目が、わずかに揺れた。


「……君は」


「このやり方を、

 否定するのか?」


レインは、首を振る。


「否定しない」


「正しい」


「必要だ」


「……でも」


一歩、前に出る。


「これが続けば、

 “誰も疑問を持たなくなる”」


「それが、

 一番危ない」


指揮官は、

しばらく沈黙した後、言った。


「……我々は」


「疑問よりも、

 結果を選ぶ」


「それが、

 蒼衡だ」


レインは、頷いた。


「分かってる」


「だから——

 俺たちは、

 隣に立つ」


「切らない側として」


その言葉は、

宣戦布告でも、否定でもなかった。


立ち位置の宣言だった。


蒼衡は、

前に出る。


非裁定ノーリトリート》は、

横に立つ。


同じ現場で。

同じ敵を前に。


だが——

見ているものは、違う。


遠くで、

原初の飢餓が、静かに蠢く。


切られる世界。

残されない場所。

戻れない人々。


それらが、

ゆっくりと——

次の“条件”へ変換されていく。


正しい刃は、

確かに世界を守っている。


だが同時に。


次の飢えを、

 確実に育てていた。


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