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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第14章 答えを出せない者たち

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選ぶ資格はない

グラディウスは、満足していた。


街の中央広場。

即席とは思えない演壇。

整然と並ぶ世界機関の職員。


そして——

自分に向けられる視線。


「落ち着いてください」


グラディウスは、片手を上げただけで場を制した。


声を張り上げる必要すらない。

人々は、**“決めてくれる存在”**に慣れ始めていた。


「皆さんの不安は、理解しています」


「だからこそ、私はここに立っている」


拍手が起きる。


遅れて、もう一度。


その光景を、少し離れた場所からレインは見ていた。


非裁定ノーリトリート》の仲間たちも、同じだ。


ミリアは腕を組み、

エルドは無言で立ち、

リュカは未来を見ないまま、現実だけを見ている。


「……あれが」


ミリアが小さく言う。


「“代理の選ぶ者”か」


「うん」


レインの声は、低い。


「でも……

 本人は、その自覚がない」


演壇の上で、グラディウスは続ける。


「危険区域は、私の判断で指定します」


「退避の優先順位も、

 すでに決めてあります」


「混乱は起こしません」


その言葉に、

また拍手。


「……言ってることは」


ミリアが苦々しく呟く。


「全部、“正しそう”なんだよね」


「正しい、というより」


リュカが、静かに補足する。


「楽なんだ」


選ばなくていい。

悩まなくていい。


誰かが決めてくれる。


「……グラディウス」


レインは、名前を口にする。


その瞬間。


歪みが、わずかに——

グラディウスの足元に集まった。


誰も気づかない。


本人すら、気づかない。


だがレインには、はっきりと見えた。


(……こいつ)


(“選んでる”つもりで)


(選ばされてる)


原初の飢餓は、

もう前に出てこない。


この男が、

勝手に“選ぶ役”を演じてくれるからだ。


グラディウスは、

胸を張って言い放つ。


「私は、恐れません」


「誰かが決断しなければ、

 世界は守れない!」


その瞬間——


一歩、前に出る影があった。


レインだ。


静かに、

しかし迷いなく。


「……それは違う」


広場が、ざわつく。


グラディウスが、初めてレインを見る。


「君は……?」


「《非裁定ノーリトリート》だ」


その名に、

一瞬だけ空気が張り詰める。


だがグラディウスは、笑った。


「なるほど」


「噂の、“選ばない人間”か」


余裕の笑み。


「君たちのやり方では、

 もう世界は救えない」


「だから、私が——」


レインは、遮る。


「違う」


一言。


「お前は、

 選んでいい側じゃない」


グラディウスの眉が、わずかに動いた。


初めての、違和感。


だがまだ——

殴られていない。


「選んでいい側じゃない、だと?」


グラディウスは、はっきりと嘲笑した。


「君は、自分が何を言っているか分かっているのか?」


演壇の上。

群衆の視線を背に受け、彼は一段高い位置に立つ。


それだけで、

自分が“上”にいると錯覚できた。


「私はな、数字を見ている」


「被害は減った。混乱もない」


「人々は救われている」


グラディウスは、腕を広げる。


「それとも何か?」


「君たちは、

 もっと多くの死者が出る方が正しいと?」


ざわめきが起こる。


民衆の多くは、

彼の言葉に頷いていた。


分かりやすい。

安心できる。

責任を引き受けてくれる。


「……ほら見ろ」


グラディウスは、勝ち誇ったように言う。


「人は、選ぶ者を必要としている」


「君たちの“選ばない”思想は、

 ただの自己満足だ」


その瞬間。


広場の端で、

一人の老婆が倒れた。


「……っ?」


どよめき。


医療班が駆け寄る。


だがレインの目には、

はっきりと見えていた。


歪みが、

グラディウスの足元から伸びている。


「……来たな」


レインが、低く言う。


「何か言ったか?」


グラディウスは、苛立ちを隠さず問い返す。


「……いや」


レインは、静かに首を振った。


「お前が、

 何も気づいてないだけだ」


グラディウスは、鼻で笑う。


「恐怖を煽るのはやめたまえ」


「私の判断は、

 すでに世界機関も支持している」


そのとき。


通信員が、慌てて駆け込んできた。


「グラディウス様!」


「先ほど指定した危険区域で……

 再発です!」


一瞬、空気が止まる。


「……何?」


「指定通り退避は完了しています!」


「ですが……

 “選別後”の区域で、同時多発的に……」


グラディウスの顔色が、初めて変わった。


「……あり得ない」


「私の判断に、

 間違いがあるはずがない!」


声が、少しだけ荒れる。


「再計算しろ!」


「優先順位を組み直せ!」


「切る範囲を——」


その瞬間。


歪みが、

はっきりとグラディウスを中心に収束した。


群衆の何人かが、

息苦しそうに胸を押さえる。


「……な、何だこれは……」


グラディウスが、足元を見る。


初めて、

自分の周囲だけ空気が重いことに気づく。


(……え?)


(おかしい……)


(私は、正しい……)


その思考を——

誰かが、なぞるように撫でた。


原初の飢餓。


直接ではない。

だが確かに、

「判断」を餌にしている。


レインは、一歩踏み出した。


「……分かったか?」


「お前は、選んでるんじゃない」


「“選ばされてる”」


グラディウスは、叫ぶ。


「黙れ!」


「私は! 世界のために——」


「違う」


レインの声は、静かだった。


「お前は、

 自分が上に立つ快感を選んだだけだ」


その言葉が、

決定的に突き刺さる。


歪みが、

さらに濃くなる。


群衆が、ざわつく。


「……何か、おかしくないか?」


「息が……」


「さっきから……」


グラディウスは、後ずさる。


「ち、違う……」


「これは、想定外で……」


そのとき。


ミリアが、剣の柄に手をかけた。


エルドが、一歩前に出た。


リュカが、静かに言う。


「……ここから先は」


「“完全に越える”」


グラディウスは、気づいた。


自分が——

舞台の中央に立たされていることに。


殴られる準備は、

もう整っていた。


歪みは、もはや隠れていなかった。


広場の中央。

グラディウスの足元から、

黒い影のような“圧”が立ち上る。


「……な、なんだ……これは……」


声が震える。


さっきまで壇上で、

世界を救う顔をしていた男は、

一歩も動けずに立ち尽くしていた。


群衆が、気づき始める。


「……息が、苦しい……」


「ここだけ……空気が重い……」


「さっき倒れた人と、同じ……?」


ざわめきが、不安へと変わる。


「ち、違う!」


グラディウスが叫ぶ。


「私は!

 世界機関の認可を受けた調整官だ!」


「私は、正しい判断を——」


その言葉を、

一歩の足音が遮った。


レインだ。


ゆっくりと、

だが迷いなく、

歪みの中心へ踏み込む。


非裁定ノーリトリート》。


選ばない。

退かない。

裁かない。


ただ、立つ。


その瞬間。


歪みが——

止まった。


完全ではない。

だが、

“広がらなくなった”。


「……な……」


グラディウスの口が、開いたまま固まる。


「……どうして……」


レインは、静かに答える。


「簡単だ」


「お前は、“選ぶ者”じゃないからだ」


一歩、近づく。


「お前は、

 誰かの上に立ったつもりで、

 責任から降りていた」


「決めた後、

 自分は安全な場所にいた」


「それを——

 世界のためだと、

 言い換えていただけだ」


グラディウスは、必死に首を振る。


「ち、違う……!」


「私は、

 被害を減らした……!」


「数字が——」


「数字は、

 “選ばれなかった側”を

 映さない」


レインの声は、

最後まで低いままだ。


「お前は、

 飢えに餌をやった」


「しかも、

 自分が正義だと思いながらな」


その瞬間。


歪みが、

グラディウスの背後に——

“形”を持ちかけた。


何かが、

彼を“持ち上げよう”とする。


選ぶ者。

代行者。

正しさの象徴。


原初の飢餓が、

最後に与える報酬。


「……やめろ……!」


グラディウスが、叫ぶ。


「私は……!」


だが。


ミリアが、一歩前に出た。


「もう、遅い」


剣は、振らない。


エルドが、盾を突き立てる。


逃げ場を、消す。


リュカが、淡々と言う。


「未来、

 一本に固定された」


「……終わりだ」


レインは、

グラディウスの正面に立つ。


「殴る理由は、一つでいい」


「お前は——

 選ばせた」


拳が、

振り抜かれる。


派手な技はない。

光も、爆発もない。


ただの——

一発。


だがそれは、

判断でも、裁定でもなく。


「資格の剥奪」だった。


グラディウスの身体が、

宙を舞い、

演壇の下へ転がる。


歪みが、

音もなく霧散する。


原初の飢餓は、

一瞬だけ——

満たされ損ねた。


群衆は、

声を失っていた。


レインは、背を向ける。


「……世界を救うのは」


「“選ぶ人間”じゃない」


非裁定ノーリトリート》は、

静かに、その場を去った。


残されたのは。


壇上から落ちた男と、

**二度と戻らない“安心感”**だけだった。

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