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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第14章 答えを出せない者たち

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選ぶ者の席

異変は、露骨ではなかった。


むしろ——

安心感として現れた。


「……助かった」


「今回は、早かったな」


被害の報告は、確かにあった。

だが、前回ほどではない。


そして何より——

混乱がなかった。


「対応が、はっきりしていたからな」


誰かがそう言った。


危険区域の指定。

退避の優先順位。

救助の順番。


すべてが、明確だった。


「……選んだんだ」


レインは、報告書を閉じながら呟いた。


「誰かが、

 “正しい順番”を決めてる」


ミリアが、眉をひそめる。


「でも……

 前より被害、減ってるよ?」


「うん」


レインは、否定しなかった。


「減ってる」


「だから、厄介なんだ」


世界機関の追加報告が入る。


——新たに任命された

《調整官》。


——現場判断の一元化。

——迅速な選別。

——住民からの支持、高。


「……“選ぶ役”を、

 作ったんだ」


リュカが、低く言う。


戦域把握バトルフィールド・リード》に、

微かな違和感が走っている。


「……変だ」


「未来が……

 一本に“寄せられてる”」


それは、

断絶裁定のときと似ていた。


だが、決定的に違う。


今回は——

人間が、選んでいる。


「……民衆の反応は?」


ミリアが、問いかける。


「好意的です」


通信の向こうの声は、明るい。


「決断してくれる人がいると、

 安心できる、と」


「責任を取ってくれる存在が、

 欲しかったんでしょう」


その言葉に、

誰も反論できなかった。


不安な世界。

止まらない異変。


誰かが選び、

誰かが決めてくれるなら——


人は、従える。


「……でも」


レインは、ゆっくりと息を吸う。


「それ、

 誰の“飢え”を満たしてる?」


答えは、返ってこない。


だが。


遠く離れた場所で、

何かが——

確かに、満たされ始めていた。


原初の飢餓は、

言葉を持たない。


だが今は。


“選ぶ者”を通して、

 世界に触れている。


それが、

どれほど自然で、

どれほど危険か。


まだ、

誰も気づいていなかった。


代理の“選ぶ者”は、

あっという間に名前を知られるようになった。


——《調整官》。


英雄でもない。

蒼衡(そうこう/アズール・バランス)でもない。

世界機関の上層でもない。


ただ、

現場で判断を下す役職。


それだけだった。


「判断が早い」


「迷いがない」


「被害が減った」


評価は、数字と一緒に積み上がる。


世界機関の会議室で、

報告は淡々と読み上げられた。


「異常発生件数、前週比マイナス三割」


「二次被害、顕著に減少」


「住民満足度、上昇傾向」


「……成功例だな」


誰かが、そう呟く。


否定できる者は、

いなかった。


蒼衡の観測官も、

静かに頷いている。


「切る判断が、

 事前に済んでいる」


「現場の混乱がない」


英雄の一人が、腕を組む。


「……助かってる命も、

 確かにある」


それは事実だった。


だからこそ。


「……違う」


レインの声は、

場にそぐわなかった。


視線が、集まる。


「何が違う?」


評議官が、静かに問い返す。


レインは、言葉を選んだ。


「……“決断が早い”んじゃない」


「“迷う余地が、

 最初から消えてる”」


リュカが、補足する。


「未来が、

 狭い」


戦域把握バトルフィールド・リード》が、

示す可能性が、

不自然に一本化されている。


「選択肢が、

 最初から削られてる」


「……それが、

 悪いことか?」


評議官の声は、冷静だ。


「結果は出ている」


「犠牲は、

 減っている」


「世界は、

 救われている」


ミリアが、口を開く。


「……“選ばれなかった人”は?」


一瞬、間が空いた。


「……最小限です」


評議官は、即答する。


「全体最適から見れば、

 許容範囲内」


その言葉が、

静かに落ちた。


レインは、確信する。


(……これだ)


原初の飢餓は、

もう“条件”を提示していない。


人間が、自分から選んでいる。


「……その調整官に、

 会わせてください」


レインが言う。


「現場を、

 一緒に見たい」


評議官は、少し考え——

頷いた。


「構いません」


「彼は、

 “正しい人間”ですから」


その言葉が、

何より不気味だった。


その頃。


どこでもない場所で。


“満たされないはずの飢え”が、

ゆっくりと——

満腹に近づいていた。


悲鳴ではない。

絶望でもない。


納得。


同意。


仕方がない、という諦め。


それらが、

静かに、確実に、

吸い上げられていく。


原初の飢餓は、

もう急がない。


選ぶ者が、

選び続ける限り。


現場は、整っていた。


混乱はない。

叫び声も、怒号もない。


人々は、列を作り、

指示を待っていた。


「次は、こちらの方」


《調整官》の声は、落ち着いている。


感情の起伏はない。

だが、冷たくもない。


「高齢者、負傷者を優先します」


「その後、家族単位で移動を」


誰も、反論しなかった。


誰も、暴れなかった。


「……すごいな」


ミリアが、思わず呟く。


「混乱、ゼロだよ」


「うん」


レインは、視線を外さずに答える。


「完璧だ」


その言葉は、賞賛ではなかった。


《調整官》は、即座に判断を下す。


・移送車両の割り振り

・退避先の指定

・残る人員の数の把握


すべてが、早い。


迷いがない。


「……この区域は、切ります」


その一言も、

まるで事務的な処理のようだった。


「危険度が高すぎる」


「これ以上、

 資源を割く意味がない」


切る。


蒼衡(そうこう/アズール・バランス)の判断と、

ほぼ同じ結論。


だが、

決定的に違う点があった。


「……行かないんですか?」


レインが、問いかける。


《調整官》は、少しだけ首を傾げる。


「私が?」


「はい」


「切ると判断した場所に、

 立たないんですか?」


一瞬の沈黙。


だが、困惑はない。


「……行く理由が、ありません」


淡々とした答えだった。


「判断は、

 すでに終わっています」


その瞬間、

レインの中で何かが、はっきりと崩れた。


(……ああ)


(これだ)


《調整官》は、

選んでいる。


だが——

自分は、選択の外にいる。


責任は取る。

だが、立たない。


結果は受け入れる。

だが、背負わない。


「……その判断で、

 誰が死ぬかは分かってますか」


ミリアの声が、震える。


《調整官》は、即答する。


「統計上は、把握しています」


「個人までは、

 必要ありません」


その言葉に、

周囲の職員は何も言えなかった。


理屈は、正しい。


世界機関も、

英雄も、

蒼衡も——


否定できない。


「……あなたは」


レインは、静かに言った。


「“正しい人”だ」


《調整官》は、少しだけ微笑む。


「そう言われることが、

 増えました」


その背後で。


誰にも見えない場所で。


原初の飢餓が、

初めて——

深く、満たされる。


叫びではない。

絶望でもない。


「仕方がない」という納得。

「正しい判断だ」という同意。


選ばれなかった側が、

自分を責める感情。


それらすべてが、

静かに、吸い上げられていく。


レインは、確信した。


(……こいつは)


(敵じゃない)


(装置だ)


原初の飢餓は、

もう前に出てこない。


この“選ぶ者”がいる限り。


そして、

それが最も恐ろしい。


非裁定ノーリトリート》は、

初めて理解した。


——この戦いは、

正しい人間を止める戦いだ。


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