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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第14章 答えを出せない者たち

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選べない地平

異変は、同時に起きた。


場所は二つ。

距離は遠く、連絡は即時に取れない。


共通点はただ一つ。


——どちらも、

非裁定ノーリトリート》が

「立てば止まる」と判断した地点だった。


「……二箇所?」


リュカの《戦域把握バトルフィールド・リード》が、

初めて明確な破綻を示す。


「同時進行……?」


「そんなはずない」


ミリアが、即座に言った。


「今までのパターンなら、

 一点に立てば、他は遅れる」


「……今回は、違う」


エルドが、低く告げる。


存在係留そんざいけいりゅう》を張った瞬間、

返ってきた感触が、明確に変質していた。


「……両方とも、

 “ここに立つ”前提で来ている」


レインは、言葉を失った。


(……理解してる)


(俺たちのやり方を)


片方は、街道沿いの村。

人の数が多い。


もう片方は、山間の集落。

人数は少ないが、

倒れれば逃げ場がない。


「……分かれて立つ?」


ミリアが、苦しそうに言う。


「半分ずつでも……」


リュカは、首を振った。


「無理だ」


「どちらも、

 “全力で立つ”前提の圧だ」


「分散したら——

 両方、落ちる」


沈黙。


誰もが、

同じ結論に辿り着いていた。


どちらかしか、立てない。


それは命令でも、宣言でもない。


世界そのものが、

静かに条件を提示してきている。


「……選ばせる気だ」


ミリアの声が、震える。


「でも……

 それって……」


「うん」


レインは、ゆっくりと息を吸った。


「この敵は、

 喋らない」


「説明もしない」


「ただ——

 選ばなかった結果を、全部持っていく」


二つの地点で、

同時に人が倒れ始めたという報告が入る。


時間は、ない。


立てば止まる。

立たなければ、削られる。


だが今回は。


立つ場所を、選ばなければならない。


非裁定ノーリトリート》の前提が、

真正面から否定される。


レインは、歯を噛みしめた。


(……これは)


(思想を壊しに来てる)


空は、曇っている。


どちらの空も、

同じ色だった。


原初の飢餓は、

言葉を使わずに告げている。


——選べ。


——選ばなければ、

 もっと失う。


時間は、確実に減っていた。


二つの地点。

二つの報告。


どちらも、

非裁定ノーリトリート》が

「立てば止まる」と知っている場所。


だが——

同時には立てない。


「……レイン」


ミリアの声が、かすれる。


「どっちかに行けば、

 もう片方は……」


言葉にしなくても、

全員が理解していた。


「……行かない」


レインは、即答した。


「……え?」


リュカが、思わず聞き返す。


「どっちにも、

 行かない」


空気が、凍る。


「それって……」


ミリアの目が、大きく揺れる。


「……両方、

 見捨てるってこと?」


「違う」


レインは、首を振った。


「選ばない」


「選ばないことで、

 この構造そのものを壊す」


エルドが、静かに問い返す。


「……壊せる保証は?」


「ない」


レインは、はっきりと言った。


「でも、

 選んだ瞬間に、負ける」


原初の飢餓が作った条件は、明確だ。

•片方を守れば、もう片方が削られる

•両方に手を出せば、両方落ちる

•選ばなければ、被害は拡大する


どの選択肢にも、

救いはない。


「……それでも?」


ミリアの声が、震える。


「それでも、

 選ばないの?」


レインは、ミリアを見る。


仲間を見る。


そして、

見えない“向こう側”を見る。


「……俺たちが選んだら」


「この世界は、

 ずっと“選ばされる側”になる」


二つの地点で、

同時に悲鳴が上がったという報告が入る。


一人、また一人。


「……っ!」


ミリアが、歯を食いしばる。


「分かってる……!」


「分かってるけど……!」


拳が、震えている。


「今、助けられる人がいるのに……!」


レインは、何も言わなかった。


言い訳は、

ここでは一切通用しない。


代わりに、

一歩、前に出る。


「……エルド」


「了解」


エルドは、盾を地面に突き立てる。


存在係留そんざいけいりゅう

ではない。


“存在そのもの”を、戦場にする。


「……リュカ」


「戦域、

 全部“未確定”にする」


「最適解は出すな」


「了解」


戦域把握バトルフィールド・リード》が、

未来を捨てる。


配置を捨てる。


判断を、捨てる。


「……ミリア」


ミリアは、一瞬だけ俯き——

そして、顔を上げた。


「……前線、取らない」


「道も、作らない」


「“どこにも行かない”」


原初の飢餓が、

その瞬間、反応した。


歪みが、

二箇所から——

さらに一箇所、増える。


第三の地点。


「……来た」


リュカが、声を絞り出す。


「条件、

 上げてきた」


原初の飢餓は、

理解している。


“選ばない”という行為が、

 最も耐えられないことだと。


選ばないなら、

もっと選ばせる。


選ばせられないなら、

壊れるまで圧をかける。


「……レイン」


ミリアが、震える声で言う。


「これ……

 私たちが折れるまで、続くよ」


レインは、ゆっくりと息を吸った。


「……うん」


「だから——

 折れない」


歪みが、

三方向から、

同時に迫る。


世界が、

選択を強制する。


それでも、《非裁定ノーリトリート》は、

どこにも立たず、

どこも選ばず——


ただ、

“選べない状態そのもの”を

 維持しようとしていた。


歪みは、消えなかった。


三つの地点。

同時進行。


非裁定ノーリトリート》は、

立たない。

選ばない。

退かない。


ただ——

世界を“未決定のまま”保ち続けていた。


結果として。


「……被害、確認」


リュカの声は、

乾いていた。


「第一地点、死亡二名」


「第二地点、一名」


「第三地点……重傷者多数」


誰も、声を上げなかった。


泣き叫ぶ時間は、

もう過ぎている。


「……助けられなかった人は、いる」


ミリアが、震える声で言う。


「でも……

 選ばなかった」


レインは、ゆっくりと頷いた。


「うん」


「選ばなかった」


「だから——

 終わってない」


その言葉通りだった。


歪みは、

“消え去る”のではなく——

ほどけるように、離れていく。


飢えが、

満たされなかったのだ。


大量の絶望。

明確な選別。

確定した結論。


それらが、

一つも与えられていない。


原初の飢餓は、

初めて“失敗”した。


喋らない。

怒らない。

だが。


次の条件を、

 提示できない。


世界が、

静かに息を取り戻す。


その様子を、

別の場所から観測している者たちがいた。


――世界機関。


「……同時多発の異常が、

 自然消滅?」


評議官が、

信じられないという顔をする。


「切っていない」


「封鎖も、

 選別もしていない」


「それなのに……」


蒼衡(そうこう/アズール・バランス)の観測官が、

低く報告する。


「“確定”が、

 一切行われていません」


「犠牲は出ていますが……

 増殖していない」


会議室が、

ざわめいた。


「……あり得ない」


「理論上、

 最も被害が拡大する選択だ」


だが、現実は逆だった。


「……原初の飢餓は」


評議官が、

静かに呟く。


「“正しい判断”ではなく、

 判断そのものを喰っている……?」


一方、現場。


レインは、

倒れた人々を前に、膝をついた。


「……勝った、とは言えない」


「うん」


ミリアが、隣に座る。


「でも……

 負けてもいない」


エルドが、静かに言う。


「……次も、

 同じことをしてくる」


「うん」


レインは、空を見る。


曇っていた空が、

少しだけ割れていた。


「……だから、

 次はもっと厳しい」


「それでも——

 選ばない」


非裁定ノーリトリート》は、

初めて理解した。


この戦いは、

敵を倒す物語じゃない。


“世界に答えを出させない”

 物語だ。


そして原初の飢餓もまた、

理解し始めている。


——この存在は、

簡単には折れない、と。


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