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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第14章 答えを出せない者たち

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答えを出せない者たち

円卓は、久しぶりに満席だった。


英雄。

世界機関。

蒼衡そうこう――《アズール・バランス》。

そして、《非裁定ノーリトリート》。


立場も思想も違う者たちが、

同じ危機を前に集められている。


「……確認する」


世界機関代表が、重く口を開いた。


「宝珠由来ではない被害が、

複数地点で確認された」


「外傷なし。

魔物化なし。

争いも痕跡もない」


羊皮紙が、円卓に広げられる。


描かれているのは、

“生きているが、何も求めなくなった人々”。


「……生きる意思が、

抜け落ちている」


イリス=アークライトが、静かに呟く。


「光でも、癒しでも、

反応しない」


ヴァルハルト=レオンが、腕を組んだ。


「敵は?」


「……分からない」


その即答が、

場の空気を重くした。


「魔族ではないのか?」


「断定できない」


「宝珠の反動?」


「それも違う」


蒼衡のセイン=ヴァルクスが、

冷静に告げる。


「切り捨てられる対象が、存在しない」


「原因が個体でも集団でもない以上、

均衡処理は不能だ」


それは、

蒼衡にとっての敗北宣言だった。


視線が、自然とレインに向く。


「……レイン」


世界機関の者が、言葉を選ぶ。


「君は、どう見る?」


レインは、少しだけ考え――

首を振った。


「分からない」


即答だった。


「でも、一つだけ言える」


円卓を見渡す。


英雄も、蒼衡も、

誰一人として目を逸らさない。


「これは、

誰かを倒せば終わる話じゃない」


「切っても、

裁いても、

救っても……」


一度、言葉を切る。


「答えを出した瞬間に、負ける敵だ」


沈黙。


誰も反論しない。


できない。


ミリアが、小さく息を吸った。


「……じゃあ、どうするの?」


レインは、ゆっくりと答えた。


「まだ、決めない」


「決められない」


「だから――」


非裁定ノーリトリート》の名を、

はっきりと口にする。


「立ち続ける」


その言葉に、

賛同も反発も起きなかった。


ただ全員が、理解した。


ここから先は、

これまでのやり方が

一つも通用しないということを。


円卓の上で、

灯りが静かに揺れる。


世界は、

答えを求めている。


だが――

その答えを、

誰も出せない。


沈黙を破ったのは、ヴァルハルト=レオンだった。


「……要するにだ」


大剣を背に預け、腕を組む。


「殴れない。

斬れない。

敵かどうかも分からない」


「そんなものを相手に、

どう戦えと言う?」


英雄として、極めて正直な問いだった。


ライザ=クロウデルも肩をすくめる。


「正直、俺も同じだ」


「敵意がないなら、

囮にもならねぇ」


「守る相手が“何も欲しがらない”なら、

守りようもないしな」


イリスが、静かに言葉を挟む。


「……光も、意味を失う」


「癒す理由がないから」


その一言が、

場の空気をさらに重くした。


世界機関の代表が、資料を指で叩く。


「では、こう考えるのはどうか」


「宝珠流通を、

全面的に停止する」


「人々の欲望そのものを、

抑制する方向へ——」


その瞬間。


「却下だ」


セイン=ヴァルクスが、即答した。


「欲望を抑えれば、

別の場所で歪みが生じる」


「均衡は、

流れを止めることで保たれない」


世界機関が、眉をひそめる。


「では、どうする?」


セインは、淡々と告げた。


「原因が特定できない以上、

被害拡大要因を切り捨てる」


「宝珠、集会、

異常兆候地域——」


「すべて、

秩序側で管理・隔離する」


ミリアが、思わず声を上げた。


「それって……」


「人を、選ぶってこと?」


セインは、否定しない。


「必要ならな」


その瞬間、

空気が張り詰めた。


レインが、静かに口を開く。


「それは……

“答えを出す”やり方だ」


セインの視線が、レインを捉える。


「いつまでも答えを出さなければ、

世界は喰われる」


「選ばないという選択も、

また一つの選別だ」


レインは、一歩も引かない。


「でも、それは」


「誰かに“生き方を決めさせる”ことになる」


「それは、

今回の敵がやっていることと同じだ」


一瞬。


本当に一瞬だけ、

セインの眉が動いた。


「……詭弁だ」


「我々は秩序を守る」


「貴様らは、

理想を守る」


「守るものが違うだけだ」


ミリアが、拳を握る。


「違わない!」


「誰かを切る前提で守る世界なんて、

守ってない!」


「それは……」


言葉が荒くなる。


リュカが、珍しく口を挟んだ。


「……やめよう」


「このまま続けても、

結論は出ない」


エルドが、低く頷く。


「どちらも、

間違ってはいない」


「だからこそ、

噛み合わない」


沈黙。


英雄たちは、

そのやり取りを黙って見ていた。


やがて、

ヴァルハルトが深く息を吐く。


「……ガキの喧嘩だな」


ライザが、苦笑する。


「でもさ」


「剣を振れない敵って、

一番厄介だろ?」


イリスが、目を伏せたまま言った。


「……答えを急いだら、

負ける」


その言葉に、

全員が気づく。


この会議は、

何も決められなかった。


だが同時に、

一つだけ共有された。


――今までの正解は、

ここでは使えない。


レインは、静かに呟く。


「……まだ、立つしかない」


「答えを出さずに」


セインは、

それ以上何も言わなかった。


ただ、

視線を外した。


秩序と非裁定。


その距離は、

少しだけ、広がった。


会議は、結論を出さないまま終わった。


拍子抜けするほど、あっさりと。


世界機関の代表が、書類を閉じる。


「……本日の議題は、ここまでとする」


誰も異議を唱えなかった。

唱えられなかった、が正しい。


英雄も、蒼衡そうこうも、

非裁定ノーリトリート》も、

今は決められないことを理解していた。


「解散だ」


その一言で、円卓は役目を終える。


立ち上がる音が、静かに重なる。


ヴァルハルトが、レインの横を通り過ぎるとき、

ぽつりと呟いた。


「……厄介な敵だな」


「剣を抜く理由すら、奪ってくる」


レインは、小さく頷いた。


「はい」


「だから、

まだ立っていられるのかもしれません」


ライザが、後ろから肩をすくめる。


「立ってるだけでいい戦いなんて、

初めてだぜ」


イリスは、最後に振り返る。


「……無理はしないで」


「“答えを出さない”のは、

とても疲れるから」


ミリアが、少し驚いた顔で見る。


「イリスさん……」


「ええ」


「でも、必要な疲れよ」


蒼衡のセイン=ヴァルクスは、

何も言わずに会議室を出ていった。


その背中は、

いつもと変わらない。


だがレインには、

わずかに重く見えた。


会議室が空になる。


その直後、

世界機関の通信晶が、低く鳴った。


「……報告?」


担当官が顔を上げる。


「新たな異変を確認」


「場所は——

宝珠未流通地域」


全員が、同時に動きを止めた。


「内容は?」


「……同じです」


「争いなし。

被害痕跡なし」


「ただ、

“生きる理由を失った者”が増えている」


沈黙。


誰も、驚かなかった。


むしろ――

来たか、という空気だった。


レインが、静かに言う。


「……小さいですね」


「はい」


担当官が頷く。


「ですが、

確実に増えています」


ミリアが、唇を噛む。


「これ……」


「放っておいたら、

ダメなやつだよね」


レインは、否定しなかった。


「うん」


「でも、

今ここで答えを出すのも違う」


一歩、前に出る。


「だから――」


非裁定ノーリトリート》の名を、

もう一度、口にする。


「行って、立つ」


「切らない」


「裁かない」


「選ばせない」


「……それだけを、やる」


リュカとエルドが、無言で並ぶ。


ミリアが、深く息を吸って笑った。


「……分かった」


「また、心配かけるんでしょ」


「たぶんね」


「もう」


そう言いながらも、

彼女は一歩も引かなかった。


遠くで、

鐘の音が鳴る。


世界は、まだ回っている。


答えは、まだ出ていない。


だが。


出さないと決めた者たちが、

再び動き始めていた。


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