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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第13章 同じ死体を見ている

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愉悦の死は、予定通り

その報告は、

歓声も悲鳴も伴わなかった。


「――観測個体リュクシア、消失を確認」


魔族会議の間。

黒曜石の床に、静かに声が落ちる。


沈黙。


誰も、目を伏せない。

誰も、動揺しない。


「……少し、早かったな」


低く呟いたのは、

契約逸脱個体管理を司る魔族だった。


「だが、誤差の範囲だ」


別の席から、淡々と続く。


「宝珠流通率は依然として上昇」


「未使用者保護による分断も、想定通り進行中」


「人間側は、

“善意のまま”内部摩耗を始めている」


水面のような魔力投影に、

人間界の街が映し出される。


英雄の勝利。

喝采。

安堵。


そして、その裏で――

宝珠を握りしめる手。


「リュクシアは、愉悦を優先しすぎた」


観測記録担当が、無感情に告げる。


「蒼衡(そうこう/アズール・バランス)の介入は、

観測上“想定内”」


「均衡維持機構が、

感情を切り捨てることは予測済みだった」


誰かが、鼻で笑った。


「人間の秩序装置は、

結局“切る側”に回る」


「切らない連中がいる限り、

いずれ衝突する」


円卓の中央で、

一つの影が、ゆっくりと形を持つ。


言葉が、落ちた。


「――で、何が失われた?」


空気が、わずかに張る。


答えは、すぐに出た。


「前線愉悦担当一名」


「宝珠計画への影響、軽微」


「情報漏洩なし」


「後継配置、すでに完了」


影は、満足したように頷いた。


「なら、問題はない」


一拍。


「むしろ――

人間側は“勝ったつもり”だ」


水面に、別の像が映る。


宝珠未使用者を守る集会。

英雄。

非裁定ノーリトリート》。


「裁かない者」


「切らない者」


「選ばせない者」


声が、わずかに低くなる。


「……面白い」


「だが」


「飢えは、

裁定も均衡も待たない」


空気が、重くなる。


「次は、

“英雄のいない場所”だ」


「《非裁定ノーリトリート》が

“守れなかった結果”を、

人間に見せろ」


会議は、それで終わった。


誰も立ち上がらない。

誰も命令しない。


だが、世界はもう

次の段階へ踏み出していた。


愉悦の死は、予定通り。


本番は――

これからだ。


魔族会議の間に、

新たな魔力反応が満ちていく。


それは、

誰かが入ってきた、という感覚ではない。


最初から、そこに在ったものが、

意識を向けた――

ただそれだけだ。


円卓の影が、

一段、深くなる。


「……観測を開始する」


声ではない。

命令でもない。


それは、

**世界の底から滲み出た“欲求”**だった。


「宝珠計画、

第二収束段階へ移行」


映像が変わる。


宝珠を使う者。

宝珠を拒む者。

守ろうとする者。

切り捨てる者。


どれも、

“正しい”。


「だが、

足りない」


影が、わずかに動く。


「願いでは、

飢えは満たせない」


宝珠が生まれた理由。

願いを叶えるため?


違う。


「人間は、

叶えたあとに何をする?」


沈黙。


誰も答えない。


「――さらに欲しがる」


影が、

水面に“一点”を映し出す。


一人の少年。

否。


一人の青年。


非裁定ノーリトリート》の中核――

レイン。


「裁かない」


「切らない」


「選ばせない」


その言葉が、

ゆっくりと咀嚼される。


「……奇妙だ」


「人間は通常、

どれかを選ぶ」


「だが、

この個体は違う」


影の“視線”が、

はっきりと定まる。


「守ることで、

欲望の循環を止めようとしている」


「それは――

飢えを拒む行為だ」


魔族たちが、

初めて沈黙の質を変えた。


畏怖。


「観測継続」


「直接接触、不要」


「だが――」


影が、

ほんのわずかに笑った。


「この個体が“選ばせない”限り、

飢えは濃くなる」


「守れば守るほど」


「満たされぬ者が、

増える」


宝珠が、

次々と映し出される。


願いを叶えた者の顔。

その裏にある、

空白。


「次は」


影が、静かに告げる。


「“守れなかった結果”ではない」


「守った結果が、

人を喰う様を見せろ」


命令ではない。

指示でもない。


自然現象だった。


会議の空気が、

元に戻る。


影は、

再び“最初からそこにあったもの”へと沈む。


最後に、

一言だけが残った。


「――飢えは、

必ず答えを要求する」



その頃。


街道を歩くレインが、

ふと立ち止まった。


理由は、分からない。


ただ、

胸の奥が、

冷たく撫でられた気がした。


「……?」


ミリアが、振り返る。


「どうしたの?」


レインは、首を振る。


「……なんでもない」


だが。


空は、晴れている。


宝珠は、

今日も光っている。


それなのに――

世界が、

何かに空腹になった気がしていた。


最初に異変が報告されたのは、

宝珠の流通がほとんどない寒村だった。


「……何も、奪われていない」


世界機関の簡易報告書を見て、

レインはそう呟いた。


家畜は無事。

穀倉も荒らされていない。

宝珠の反応も、確認されていない。


それでも。


「人が……動かなくなった?」


ミリアが、眉をひそめる。


報告書には、

簡素な記述が並んでいた。


――朝、起きなかった。

――声をかけても反応がない。

――外傷なし。

――魔物化兆候なし。


ただ、

“生きる意思”が、抜け落ちている。


「……これは」


リュカが、ゆっくりと言葉を選ぶ。


「宝珠由来の異変じゃない」


「宝珠なら、

願いか反動が残る」


「でもこれは……

空っぽだ」


エルドが、低く呟いた。


「……食われた、みたいだな」


その言葉に、

誰も否定しなかった。


レインは、報告書を閉じる。


「宝珠は、願いを叶える」


「でも……

これは“願う前”を奪ってる」


外では、

行商人が宝珠を売っている。


光は、いつも通り美しい。


それなのに――

報告書の村には、

光を欲しがる者すらいなかった。


「……関係ない場所で起きてる」


ミリアが、小さく言う。


「宝珠を使ってない村で」


「うん」


レインは、静かに頷いた。


「だから、

これは宝珠じゃない」


「宝珠の“次”だ」


その夜。


別の地域でも、

同じ報告が上がった。


誰も争っていない。

誰も絶望していない。


ただ、

何かを求める力だけが、

ごっそり抜け落ちている。


世界は、

静かに“痩せ始めて”いた。


遠く。


魔族会議の間で、

あの影が、再び意識を向ける。


「……始まったな」


それは、

満足でも期待でもない。


当然の帰結だった。


「飢えは、

願いよりも先に来る」


その言葉が、

誰に向けられたのかは分からない。


だが。


レインは、同じ夜に夢を見た。


光のない地平。

宝珠のない世界。


そこに立つ、

巨大で、名を持たない“何か”。


声はない。


ただ、

確かに伝わってきた。


――満たせ。

――選べ。

――答えを出せ。


レインは、目を覚ました。


冷や汗が、背中を伝っている。


「……これは」


呟きは、

誰にも聞かれなかった。


だが、

確信だけは残った。


非裁定ノーリトリート》が

これまで立ち向かってきたものとは、

次元が違う。


宝珠でも。

魔族でも。

英雄でもない。


――“原初の飢餓”。


それは、

世界に問いを突きつける存在。


答えを出さなければ、

すべてを喰うもの。


夜明けは、

いつも通り訪れる。


だが世界は、

もう以前のままではいられなかった。


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