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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第13章 同じ死体を見ている

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英雄は“正面”から来る

宝珠未使用者の集会は、本来なら静かなものだった。


恐怖に怯え、欲望から距離を取ろうとした者たちが、

せめて互いの無事を確かめ合うために集まっただけの、小さな広場。


——そこへ。


空気が、裂けた。


「……来るぞ!」


リュカの《戦域把握バトルフィールド・リード》が即座に警鐘を鳴らす。

空間の上方、瓦礫の影、建物の縁。

宝珠に歪められた魔物化個体と、

それを統率する魔族配下が、同時に姿を現した。


「ちっ、集会狙いかよ……!」


ミリアが前に出ようとする、その瞬間——


大剣が、空から落ちた。


否。

落ちたのではない。


“叩きつけられた”。


轟音。

地面が沈み、衝撃波が魔物の群れをまとめて吹き飛ばす。


「——遅れてすまん」


砂煙の向こうから現れたのは、

巨剣を肩に担いだ男。


ヴァルハルト=レオン。


「英雄案件だと聞いてな」


次の瞬間、左右から影が走る。


「前線は任せろ!」


双短剣が閃き、魔族配下の喉元を次々に裂く。

殺さない。

だが完全に戦闘不能にする、洗練された遊撃。


ライザ=クロウデルが、笑いながら駆け抜けていた。


「ほらほら、動くなよー。

 生き残りたきゃ、ちゃんと倒れとけ!」


空が、白く染まる。


「——《光域補正こういきほせい》展開」


静かな声と同時に、光が降り注ぐ。

魔物化個体の動きが鈍り、宝珠由来の歪みが抑え込まれていく。


イリス=アークライト。


「宝珠の影響……想定以上ね。

 でも、ここでは通さない」


英雄三人が揃った瞬間、

戦場の“格”が変わった。


魔族配下が焦りを見せる。


「ば、馬鹿な……!

 英雄が、こんな辺境に——!」


「運が悪かったな」


ヴァルハルトが一歩踏み出す。


信奉撃しんぽうげき

剣が振り下ろされるたび、

“不要と判断された魔物”がまとめて消える。


ライザが隙間を縫い、

イリスの光が逃げ道を塞ぐ。


完璧な連携。

圧倒的な制圧。


レインたち《非裁定ノーリトリート》は、

一歩引いた位置から、それを見ていた。


「……すげぇな」


ミリアが思わず呟く。


「これが、“英雄が本気で動く”ってことか」


だが。


レインだけが、違和感を覚えていた。


(……おかしい)


(配下は多い。でも——指揮官がいない)


宝珠事件の規模に対して、

出てきた魔族が“軽すぎる”。


まるで——


「時間稼ぎ……?」


その呟きは、戦場の喧騒にかき消された。


英雄たちは勝っている。

完璧に。

派手に。

誰の目にも明らかな“正義の勝利”。


——だが。


この戦場の外側で、

別の“秩序”が動いていることを、

まだ誰も知らなかった。


英雄たちが戦場を制圧している、その頃。


街の外れ。

崩れた修道院跡の地下。


光も歓声も届かない場所で、

別の戦いはすでに終盤に入っていた。


「……なるほど」


低い声が、冷たく響く。


瓦礫の向こう。

血を流しながら、なお余裕の笑みを浮かべる女がいた。


魔族幹部――リュクシア。


「人間にしては、よく嗅ぎつけたわねぇ?」


「宝珠を辿って? それとも私を?」


舌なめずりするその姿は、

恐怖も焦りも演技じみている。


愉悦。

追い詰められることすら、彼女にとっては“遊び”だった。


「英雄たちは表でド派手にやってる頃かしら?」


「いいわねぇ……希望がある顔って」


「壊しがいが——」


その言葉は、最後まで続かなかった。


「質問は終わりだ」


前に立つ男が、淡々と告げる。


セイン=ヴァルクス。

蒼衡そうこう/アズール・バランス》の指揮官。


「貴様は“逸脱要因”と判定された」


リュクシアが、初めて目を細める。


「あら……裁定?」


「それ、あの子たちの役目じゃなくて?」


「《非裁定ノーリトリート》……だったかしら?」


嘲るような視線。


「彼らは甘いわ」


「裁かない? 切らない? 選ばせない?」


「そんなの——」


セインは、静かに剣を構えた。


「だからこそ、我々がいる」


周囲に、気配が増える。


大剣を引きずる音。

魔導陣が無言で展開される。

立ち位置そのものが、逃げ道を塞ぐ。


蒼衡そうこう/アズール・バランス》

四人が、すでに配置を終えていた。


「世界は、均衡によって守られる」


セインが告げる。


「秩序維持のための犠牲は、許容される」


リュクシアが、口元を歪める。


「……あは」


「いいわ。嫌いじゃない」


「じゃあ——どこまでできるかしら?」


彼女が一歩、踏み出した瞬間。


「《未来収束(みらいしゅうそく/フューチャー・ロック)》」


リィネ=フォルテの魔導が発動する。


空間が、一つの結末に固定された。


「な……っ?」


「逃走、反撃、交渉——」


「すべて排除済みだ」


「《配置誘導(はいちゆうどう/フォース・ポジション)》」


ユール=セティアが指を鳴らす。


リュクシアの立ち位置が、

“斬られる位置”へと強制的に収束する。


「ちょ……待ちなさい!」


愉悦が、焦りに変わる。


「私はまだ——!」


「《断定斬(だんていざん/デシジョン・スラッシュ)》」


ガラン=ディオルの大剣が、迷いなく振り下ろされた。


危険。

不要。

排除。


その一撃に、感情は一切乗っていなかった。


血が、床に広がる。


リュクシアは、膝をつく。


「……っ、は……」


「つまらない……」


最後まで、笑おうとして。


——首が、落ちた。


静寂。


誰も、勝利を宣言しない。


セインは、剣を収めて言った。


「我々は《非裁定ノーリトリート》ではない」


「甘さは、秩序を壊す」


「——それだけだ」


外では、英雄たちが喝采を浴びている。


この場所で起きたことを、

知る者はほとんどいない。


だが。


この“均衡の刃”は、

確実に次の波紋を生んでいた。


戦いは、完全に終わっていた。


宝珠に歪められた魔物化個体はすべて排除され、

魔族配下も拘束、あるいは逃走。


広場には、生き残った人々の安堵と、

英雄たちへの感謝の声が満ちている。


「……助かりました、英雄様!」


「もう、宝珠なんて二度と……!」


イリスは静かに頷き、

ライザは軽く手を振り、

ヴァルハルトは大剣を地面に突き立てて空を仰いだ。


「ふん……後始末は終わりだな」


その少し後方で、

非裁定ノーリトリート》は集まっていた。


「……指揮役が、いなかった」


リュカが、低く言う。


「この規模で動かすなら、普通は前線指揮が要る」


「なのに、最初から統制が甘かった」


エルドが、盾に手を置いたまま続ける。


「“時間稼ぎ”だった可能性が高い」


ミリアが、レインを見る。


「……レイン、気づいてた?」


レインは、少しだけ遅れて頷いた。


「うん」


「たぶん……別の場所で、別の決着がついてる」


その直後。


蒼衡そうこうからの連絡が入った。


簡潔な報告。

淡々とした文面。


――魔族幹部一名、排除完了。


名前を見て、レインは息を止めた。


「……リュクシア」


英雄たちも、表情を変える。


「聞いたことがある名だな」


ヴァルハルトが眉をひそめる。


「今回の一連、裏で糸を引いていた可能性が高い幹部だ」


ライザが口笛を吹く。


「へぇ……やるじゃん、蒼衡」


イリスは、少しだけ視線を落とした。


「……もう、話を聞くことはできないのね」


沈黙が落ちる。


誰も、「間違っている」とは言わなかった。


同時に、

誰も「正しい」とも言わなかった。


ミリアが、ぽつりと呟く。


「……私たちだったら」


その先を、言葉にしなかった。


レインが、静かに答える。


「捕まえたと思う」


「問い詰めて、暴いて……」


「それでも、切らなかった」


「……うん」


ミリアは、拳を握る。


「それが甘いって、言われるんだろうね」


「たぶんね」


レインは、空を見上げた。


英雄たちが守った空。

秩序が保たれた世界。


でも、その裏側で、

誰かは静かに切り捨てられている。


「……子供の喧嘩、みたいなもんだ」


レインが、苦笑する。


「どっちが正しいかなんて、決めきれない」


「でも——」


一歩、前に出る。


「僕は、僕のやり方を変えない」


「裁かない」


「退かない」


「選ばせない」


ミリアが、隣に立つ。


リュカとエルドも、何も言わず並ぶ。


その少し離れた場所で、

英雄たちは彼らを見ていた。


ヴァルハルトが、低く言う。


「……面倒な連中だ」


ライザが笑う。


「だから嫌いじゃない」


イリスは、静かに目を閉じた。


この世界は、まだ平和だ。


だが。


均衡と非裁定。

切る者と、切らない者。


その溝は、

確実に、深くなっていた。


——次に割れるのは、

どちらの“正しさ”か。


それは、まだ誰にも分からない。


※ここまで読んで面白いと感じた方は、

ブックマークで続きを追ってもらえると嬉しいです。

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