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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第13章 同じ死体を見ている

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英雄は、処理されない

夜明け前の街道。


宝珠の行商隊は、

“予定通り”に進んでいた。


護衛は十分。

結界も張ってある。

何より――

背後には、グラディウス配下の実働部隊。


「……問題なし」


魔族兵が、淡々と告げる。


「本日中に、

第三流通点へ到達」


その瞬間。


地面が、割れた。


轟音。


衝撃波。


魔族兵の一体が、

言葉を発する前に――消失する。


「――なっ!?」


遅れて、声が届く。


瓦礫の向こうから、

巨躯が現れた。


大剣を、肩に担いだ男。


ヴァルハルト=レオン。


英雄。

力の信奉者。


「処理だとか、

計画だとか――」


剣を、地面に突き立てる。


「朝っぱらから耳障りだ」


次の瞬間。


大剣が、横薙ぎに振るわれた。


信奉撃しんぽうげき


理屈も魔力も関係ない。


“当たったものが壊れる”という

世界の原則だけが、そこにあった。


魔族兵三体が、

まとめて吹き飛ぶ。


悲鳴すら、上がらない。


「……英雄だ!」


残った兵が、即座に陣形を組もうとした――

その背後で、音がした。


「遅い」


短い声。


首が、落ちる。


いつの間にか、

隊列の“外側”が沈黙していた。


ライザ=クロウデル。


双短剣。

生存最優先の遊撃。


「撤退判断が出た時点で、

もう詰みだよ」


倒れた兵の影から、

次の影へ。


生存最優先遊撃サバイブ・レイド


逃げ道。

連絡役。

後方支援。


すべてが、

気づいた時には消えている。


「……包囲されている!?」


魔族兵の声が、

初めて恐怖を帯びた。


だが――

逃げ場は、ない。


空が、白く染まった。


「ここまでよ」


穏やかな声。


だが、

慈悲はない。


イリス=アークライトが、

光を掲げる。


光域補正こういきほせい


戦場全体が、

“正しい位置”に引き戻される。


歪められた結界が、

一瞬で剥がれる。


「秩序は、

弱者を切り捨てる免罪符じゃない」


光が、落ちる。


魔族の魔力が、

理想という名の光で上書きされていく。


そこへ――


「行くぞ」


静かな声。


非裁定ノーリトリート》が、前に出た。


レインを中心に、

ミリア、リュカ、エルド。


守る者が、

前に立つ。


「――今日は」


レインは、はっきりと言った。


「誰も、言い訳させない」


英雄が殴り、

ノーリトリートが封じる。


処理は、

成立しない。


魔族配下は、

理解した。


――これは、

“処理対象”じゃない。


――世界そのものが、怒っている。


魔族配下は、まだ“処理”を信じていた。


「陣形を立て直せ!」


「英雄相手でも、

想定内だ!」


声を張り上げた瞬間――

足元が、消えた。


「……?」


踏み出した先が、ない。


戦域把握バトルフィールド・リード

退路設計エスケープ・ライン


リュカが、淡々と“道”を書き換えていた。


「逃げ道は、

最初から存在しない」


「……な、何をした!」


答えは、

正面から返ってきた。


「立つ場所を、

消しただけだ」


エルドが、盾を前に出す。


受理領域アクセプト・ゾーン

被害集束ダメージ・ギャザー


魔族の魔力弾が、

一点に集まり――潰れる。


「馬鹿な……!」


「防御じゃないのか!?」


「違う」


エルドの声は、静かだった。


「受けただけだ」


次の瞬間。


前線が、消し飛ぶ。


「――邪魔だ」


ヴァルハルト=レオンが、

一歩踏み込む。


大剣を、

真上から叩き下ろす。


信奉撃しんぽうげき


魔族兵ごと、

地面が割れた。


血も、悲鳴も、

意味を成さない。


「処理対象は、

砕く」


それだけだ。


「……撤退を!」


誰かが叫んだ。


だが――

遅い。


「判断が遅れたね」


ライザ=クロウデルの声が、

背後から聞こえる。


生存最優先遊撃サバイブ・レイド


通信役が、倒れる。

結界術師が、沈む。

宝珠を運んでいた荷車が、

影の中で静かに崩れる。


「……宝珠が!」


「守れ!」


守れない。


守るべきものが、

もうない。


空気が、

完全に変わった。


魔族配下は、

悟る。


――切り捨てられた。


――ここで全滅しても、

上は痛くも痒くもない。


その絶望を、

光が叩き潰す。


「終わりです」


イリス=アークライトが、

静かに杖を掲げる。


光域補正こういきほせい

理想照射イデア・レイ


歪められた魔力が、

“あるべき形”に戻される。


魔族の結界が、

音もなく砕け散る。


「秩序は」


イリスの声は、

戦場に響く。


「人を選別するために

存在するものじゃない」


光が、落ちる。


魔族配下の魔力は、

完全に霧散した。


残ったのは――

逃げ遅れた一体。


震えながら、

地面に這いつくばる。


「……ま、待て……!」


「我々は……

命令に従っただけだ……!」


その前に、

レインが立つ。


非裁定ノーリトリート》の中心。


「知ってる」


淡々と告げる。


「だから――

裁かない」


一歩、踏み込む。


「でも」


成立破棄エスタブリッシュ・ノー


魔族の“役割”が、

音を立てて崩れる。


「ここでは、通さない」


結果だけが、残った。


魔族配下――

全滅。


宝珠は、

すべて回収された。


街道に、

静寂が戻る。


ヴァルハルトが、

大剣を肩に担ぎ直す。


「……スッとしたな」


ライザが、

息を整えながら笑う。


「たまには、

こうじゃないと」


イリスが、

光を収める。


「これで、

一つ“正しさ”は否定できました」


レインは、

遠くを見ていた。


「……でも」


「本命は、

まだ奥だ」


誰も否定しない。


これは、

完全ざまぁだ。


だが同時に――

開戦の合図でもあった。


敗報は、

静かに届いた。


石造りの円卓。

燭台の火だけが揺れる、魔族会議の間。


「――全滅、です」


報告役の魔族が、

そう告げた瞬間。


誰も、驚かなかった。


ただ一人を除いて。


「……英雄が?」


女魔族が、くすりと笑う。


玉座に足を組み、

頬杖をついたその姿は、気だるげで――愉悦に満ちていた。


「ふぅん。

 やっぱり来たかぁ」


リュクシア。


魔族幹部。

観測記録担当。


「ノーリトリートだけなら、

 まだ遊べたんだけど」


指先で、宝珠の欠片を転がす。


「英雄が三人揃うと、

 流石に“処理”は無理だね」


別の幹部が、低く唸る。


「計画に支障が出る」


「出ないよ」


リュクシアは、即答した。


「だって――

 人間側は止まらない」


宝珠の映像が、

宙に投影される。


街。

村。

路地裏。


願いを叶え、

歪み、

崩れ、

魔物になる人間たち。


「ほら」


「英雄が宝珠を回収すればするほど、

 “知らないところ”で被害は増える」


「世界機関は?」


「疑ってる。

 でも、止めきれない」


リュクシアは、

楽しそうに目を細めた。


「だってこれ、

 善意で広がってるから」


「禁止すれば、

 不満が爆発する」


「放置すれば、

 被害が増える」


「……最高でしょ?」


沈黙。


その空気を、

別の声が裂く。


「では――

 次は?」


リュクシアは、

宝珠を握り潰した。


「次は」


ゆっくり、

噛みしめるように言う。


「“英雄のいない場所”」


「集会。

 避難所。

 宝珠未使用者の集まり」


「守ろうとする場所ほど、

 壊れた時の絶望は甘い」


――愉悦。


「レインくん?」


「彼、面白いよね」


「裁かない。

 選ばせない」


「だからこそ――

 一番、壊しがいがある」


会議は、終わった。


戦争は、

まだ始まっていない。


だが――

遊びは、もう終わった。



その頃。


街道に立つレインのもとへ、

世界機関の伝令が駆け寄る。


「……各地で、

 新たな被害報告が」


「宝珠未使用者の集会が、

 襲撃された可能性があります」


ミリアが、

拳を握り締める。


「……守ろうとしてた人たちじゃない……!」


リュカが、

静かに告げる。


「狙いが、

 はっきりしたね」


エルドが、

一歩前に出る。


「……行くか」


レインは、

深く息を吸った。


「うん」


「今度は――

 守る側が、狙われる」


英雄たちは、

まだ街にいる。


だが、

すべてを守れるわけじゃない。


夜風が、

冷たく吹いた。


これは、

完全のその先。


――本当の戦争が、始まる。

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