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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第59章 未確定の王たち

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是正と未確定の境界

 空は、すでに空ではなかった。


 裂け目は閉じている。


 だがそこに残った“線”が、

 この場のすべてを変えている。


 ***


 一直線。


 歪みのない軌道。


 揺らぎを許さない構造。


 それが、

 王都全体に薄く張り付いている。


 ***


 《天環執行者》アストラエル。


 その存在は、

 ただそこに立っているだけで、


 “正しさ”を押し付けてくる。


 ***


「確認」


 声が落ちる。


 遅れはない。


 思考と同時に、

 世界が応答する。


「未確定領域」


「原初座干渉」


「不適合群集」


 一拍。


「――是正を開始する」


 ***


 言葉は短い。


 だが。


 その一文で、

 この場の意味が固定される。


 ***


 ミリアが舌打ちする。


「……勝手に決めてんじゃねぇよ」


 剣を握る。


 だがまだ振らない。


 振れない。


 ***


 エルドは動かない。


 盾は構えられる。


 だが構えない。


 今は“受ける段階”ではないと分かっている。


 ***


 エルフィナの指先が、

 かすかに震える。


 繋ごうとする。


 だが繋がらない。


 流れが整いすぎて、

 介入の余地がない。


「……余白が、ありません」


 ***


 リュカは、空間を見ている。


 数値が出ない。


 いや。


 出ている。


 だが固定されている。


「……観測じゃない」


 一拍。


「決定だ」


 ***


 カイラの思考が止まる。


 最適解が出ない。


 違う。


 出させてもらえない。


「……選ばせない気か」


 ***


 ノウンが告げる。


「選択肢、収束中」


 一拍。


「分岐削減」


 つまり。


 “可能性の切り捨て”。


 ***


 ピコだけが、変わらない。


 ぽよ、と跳ねる。


 光の線の上に乗る。


「……つるつる」


 その一言で。


 ほんの僅かに、

 線が歪む。


 ***


 アストラエルは反応しない。


 視界に入れていない。


 それは無視ではない。


 “定義外”。


 ***


 レインは、息を吐く。


 ゆっくりと。


 深く。


 ***


 理解する。


 これは戦いではない。


 もっと前の段階。


 ***


 “前提の押し付け”。


 ***


「是正ってのは」


 レインが言う。


「何を直すって意味だ」


 ***


 アストラエルは、即答する。


「逸脱」


「不確定」


「未定義」


 一拍。


「秩序に反する全要素」


 ***


「俺たちか」


 ***


「肯定」


 迷いはない。


 感情もない。


 ただの処理。


 ***


 レインは、少しだけ笑う。


 軽く。


 ほんの少し。


「便利だな」


 一拍。


「決めれば、全部楽になる」


 ***


 ミリアが横から言う。


「ふざけんなよ」


 だが怒鳴らない。


 空気がそれを許さない。


 ***


 レインは続ける。


「進むか退くか」


「正しいか間違いか」


「敵か味方か」


 一拍。


「全部、決めちまえばいい」


 ***


 アストラエルは、微動だにしない。


 その言葉は、

 否定ではない。


 肯定でもない。


 ただ処理対象。


 ***


「それが秩序だ」


 短く。


 断定。


 ***


 レインの目が、わずかに細くなる。


「でもな」


 一拍。


「それ、途中で止まるだろ」


 ***


 初めて。


 アストラエルの環が、

 わずかに揺れる。


 ***


「未確定を消したら」


 レインは続ける。


「次は、何を消す?」


 一拍。


「少しでもズレた奴か?」


「まだ決まってない奴か?」


「決めきれない奴か?」


 ***


 空気が、ほんの僅かに歪む。


 王都の崩壊が、

 微かに意味を持ち始める。


 ***


「最終的に」


 レインは言う。


「全部同じになるだろ」


 ***


 沈黙。


 ***


 アストラエルは、静かに答える。


「問題ない」


 一拍。


「完全一致は、理想状態」


 ***


 エルフィナが、小さく息を呑む。


 その言葉は。


 救いではない。


 ***


 カイラが、低く呟く。


「……終わりだな、それ」


 ***


 リュカが補足する。


「変化が消える」


 一拍。


「つまり、進まない」


 ***


 ミリアが笑う。


 乾いた笑い。


「つまんねぇな」


 ***


 レインは、静かに言う。


「俺たちは違う」


 一拍。


「決めない」


 ***


 その瞬間。


 空間が、きしむ。


 ***


 アストラエルの環が、

 一斉に回転を上げる。


「確認」


「不確定意思、維持」


 一拍。


「――是正対象、優先度上昇」


 ***


 光が強くなる。


 線が増える。


 分岐が削られる。


 ***


 世界が。


 “一本道”になる。


 ***


 ヴァルは、動かない。


 ただ見ている。


 興味深そうに。


 ***


 レインは、一歩踏み出す。


 ***


 補正がかかる。


 最適な位置へと誘導される。


 だが。


 ***


 わずかに、ずれる。


 ***


 完全には従わない。


 完全にも抗わない。


 その“半歩”。


 ***


 それが。


 未確定。


 ***


「これでいい」


 小さく言う。


 ***


 ピコが、ぽよ、と隣に来る。


「……うん」


 ***


 アストラエルの環が、

 さらに加速する。


 ***


「誤差、増加」


 ***


 その一言で。


 戦闘前段階は終わる。


 ***


 次は。


 削る段階。


 ***


 “是正”が、

 本格的に始まる。


 光が、増える。


 ***


 一本だった線が、

 二本に。


 三本に。


 やがて。


 無数に。


 ***


 空間を埋めるのは、

 直線。


 曲がらない軌道。


 逸れない意思。


 ***


「是正工程、第一段階」


 アストラエルの声が落ちる。


「――分岐削減」


 ***


 その瞬間。


 “選択肢”が削られる。


 ***


 ミリアが踏み込む。


 踏み込もうとする。


 だが。


 足が、止まる。


「……っ!」


 ***


 前に出る。


 その動きは“最適ではない”。


 だから補正される。


 ***


 剣の軌道が、歪む。


 振り抜けない。


 強制的に、

 “正しい角度”へと引き戻される。


 ***


「ふざけんな!」


 叫びながら。


 それでも振る。


 ***


 だが。


 当たらない。


 当たるはずの軌道が、

 途中で“消える”。


 ***


 エルドが前に出る。


 一歩。


 盾を構える。


 ***


 だが。


 その角度すら、

 固定される。


 ***


 防御の位置。


 守る範囲。


 守る順序。


 すべてが提示される。


 ***


「……押し付けが過ぎるな」


 低く言う。


 だが。


 その“最適防御”に従うしかない。


 逸脱すれば。


 防げない。


 ***


 エルフィナが手を伸ばす。


 繋ぐ。


 繋ごうとする。


 ***


 だが。


 繋がりが“固定”される。


 ***


 強すぎても罪。


 弱すぎても罪。


 “適切な補助”しか許されない。


 ***


「……自由が、ありません」


 それでも。


 細く。


 ぎりぎりの線で繋ぐ。


 ***


 リュカが視界を歪める。


 観測をずらす。


 意図的に。


 ***


 だが。


 補正が入る。


 ***


 “正しい観測角”へ戻される。


 誤差が許されない。


「……観測じゃない」


 一拍。


「強制だ」


 ***


 カイラの思考が走る。


 無理やり。


 最適解を出す。


 ***


 だが。


 その瞬間。


 上書きされる。


 ***


 空間が提示する最適。


 それに置き換えられる。


 ***


「……やめろ」


 低く言う。


 初めて。


 明確な拒絶。


 ***


 ノウンが告げる。


「全員、行動補正下」


 一拍。


「逸脱、即時修正」


 ***


 ピコが、ぽよ、と跳ねる。


 光の線の上。


 そのまま歩く。


 ***


 補正がかからない。


 削減されない。


 ***


「……なんで?」


 ミリアが叫ぶ。


 ***


 ノウンが答える。


「未定義対象」


 一拍。


「処理対象外」


 ***


 アストラエルは、

 視線を向けない。


 存在しないものとして扱う。


 ***


 レインは、動く。


 一歩。


 ***


 補正がかかる。


 位置が修正される。


 最適へ。


 ***


 だが。


 止まる。


 ***


 半歩だけ、

 ずれる。


 ***


 その“ズレ”に、

 空間が反応する。


 ***


「誤差、検出」


 ***


 レインは、さらに動く。


 今度は横へ。


 ***


 補正。


 修正。


 収束。


 ***


 それでも。


 わずかに残る。


 ***


 ズレ。


 ***


「……それでいい」


 静かに言う。


 ***


 ミリアが叫ぶ。


「レイン、どうすんだこれ!」


 ***


「そのままやれ」


 即答。


「全部、少しずらせ」


 ***


 一瞬の沈黙。


 だが。


 従う。


 ***


 ミリアが踏み込みを外す。


 ほんの少し。


 わざと。


 ***


 エルドが盾の角度を、

 意図的にずらす。


 ***


 エルフィナが、

 繋ぎの距離を変える。


 ***


 リュカが観測を外す。


 ***


 カイラが演算に乱れを混ぜる。


 ***


 その瞬間。


 ***


 空間が、大きく揺れる。


 ***


 線が、乱れる。


 直線が、

 わずかに歪む。


 ***


「……誤差、増加」


 アストラエルの声。


 初めて。


 わずかな遅れ。


 ***


 ヴァルが、笑う。


 小さく。


 ***


「いいな」


 一拍。


「壊れてきた」


 ***


 アストラエルの環が、

 高速回転する。


 ***


「是正工程、第二段階へ移行」


 ***


 光が、収束する。


 線が、集まる。


 ***


 今度は。


 削るのではない。


 ***


 “固定する”。


 ***


 逃げ場が消える。


 揺らぎが許されない。


 ***


 レインは、息を吐く。


 ***


「来るぞ」


 ***


 ノーリトリートは、

 崩れない。


 だが。


 押されている。


 ***


 そして。


 次の段階が、始まる。


 光が、収束する。


 ***


 拡散していた直線が、

 一点へ集まる。


 逃げ場を削るのではない。


 今度は。


 “固定”。


 ***


「是正工程、第二段階」


 アストラエルの声が落ちる。


「――確定化」


 ***


 その瞬間。


 空間が、止まる。


 ***


 風が消える。


 音が消える。


 揺らぎが消える。


 ***


 ミリアの剣が、

 振りかけたまま止まる。


「……っ!?」


 動ける。


 だが。


 “続き”が存在しない。


 ***


 エルドの盾も、

 押し出したまま固定される。


 力は入る。


 だが進まない。


「……これは」


 一拍。


「まずいな」


 ***


 エルフィナの繋ぎが、

 途中で“完成”してしまう。


 それ以上も、それ以下もない。


「……閉じてる」


 ***


 リュカが、目を見開く。


「分岐……消失」


 一拍。


「結果しか残ってない」


 ***


 カイラの思考が、

 完全に停止する。


 選択がない。


 だから演算ができない。


「……終わり方だけ、決まってる」


 ***


 ノウンが告げる。


「全行動、確定状態」


 一拍。


「変更不可」


 ***


 ピコだけが、動く。


 ぽよ、と。


 固定された空間を、

 普通に跳ねる。


「……なんでとまってるの?」


 ***


 アストラエルは答えない。


 その必要がない。


 ***


「誤差、収束」


 ***


 環が、完全な速度で回転する。


 ズレが消える。


 未確定が削られる。


 ***


 レインは、動かない。


 動けない。


 だが。


 考える。


 ***


 これは。


 “結果の押し付け”。


 ***


 途中がない。


 選択がない。


 だから。


 ***


「……つまらないな」


 小さく言う。


 ***


 その一言で。


 ほんの僅かに。


 空気が揺れる。


 ***


 ヴァルが、笑う。


「言うな」


 一拍。


「怒るぞ」


 ***


 アストラエルの環が、

 わずかに揺れる。


 ***


「評価不要」


 一拍。


「是正対象、排除へ移行」


 ***


 光が、さらに収束する。


 今度は。


 消す。


 ***


 ミリアの身体に、

 細い線が走る。


 触れてはいない。


 だが。


 “切断結果”だけが先にある。


 ***


 エルドの盾にも、

 見えない亀裂。


 まだ割れていない。


 だが。


 割れた未来が固定されている。


 ***


 エルフィナの繋ぎが、

 途中から消える。


 切られたのではない。


 最初から繋がらなかったことにされる。


 ***


 リュカの視界から、

 情報が消える。


 観測不能ではない。


 観測“済み”として削除される。


 ***


 カイラの演算結果が、

 存在しなかったことになる。


 出す前に終わる。


 ***


 ノウンが、初めてわずかに間を置く。


「……排除工程、確認」


 一拍。


「不可逆」


 ***


 ピコが、中央で跳ねる。


 ぽよ。


 光を踏む。


 ***


 その瞬間。


 ほんの僅かに。


 “結果”がずれる。


 ***


 アストラエルの声が止まる。


 ***


「……誤差」


 ***


 環の回転が、

 一瞬だけ乱れる。


 ***


 ヴァルが、ゆっくりと口を開く。


「ほらな」


 一拍。


「完全じゃない」


 ***


 アストラエルの視線が、

 初めてヴァルへ向く。


 ***


「原初座」


 一拍。


「優先権、干渉確認」


 ***


 ヴァルは肩をすくめる。


「してない」


 一拍。


「見てるだけだ」


 ***


 だが。


 空間は、わずかに揺れている。


 ***


 レインの指が、

 ほんの僅かに動く。


 ***


 完全に固定されていたはずの指先。


 それが。


 ***


 “半歩だけ、ずれる”。


 ***


 アストラエルの環が、

 強く光る。


 ***


「誤差、増加」


 一拍。


「是正率、再計算」


 ***


 その声に。


 初めて。


 “遅れ”が混じる。


 ***


 レインは、息を吐く。


 ***


「……まだ、決まってない」


 ***


 空間が、軋む。


 ***


 完全なはずの世界に、

 ズレが残る。


 ***


 アストラエルが、告げる。


「是正率――」


 一拍。


「九十八・七パーセント」


 ***


 わずかに足りない。


 完全ではない。


 ***


 ヴァルが笑う。


「足りてないな」


 ***


 その一言で。


 戦いは。


 次の段階へ進む。


 ***


 未確定は、まだ残っている。

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