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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第59章 未確定の王たち

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王のいない王都

 クロスロードを出た時点で、空気は変わっていた。


 目に見える変化ではない。


 だが確かに、

 “整っていない”感じがする。


 ***


 街道は、途中で途切れている。


 崩れた石畳。

 風に削られた標識。

 読めなくなった地図。


 誰かが放棄した場所ではない。


 最初から、

 続く必要がなかったかのような断絶。


 ***


 ミリアが足を止める。


「……なんだここ」


 周囲を見回す。


 敵はいない。

 魔物もいない。


 だが静かすぎる。


「音、薄くねぇか」


 ***


 エルドが地面を軽く踏む。


 砂がわずかに沈む。


「踏み応えはある」


 一拍。


「だが、残らんな」


 足跡が消える。


 風でもない。


 時間でもない。


 ただ、

 “残らない”。


 ***


 エルフィナが、小さく息を吐く。


「……記録されていませんね」


 振り返る。


 来たはずの道が、

 すでに曖昧になっている。


「戻れなくなる可能性があります」


 警告。


 だが誰も止まらない。


 ***


 リュカが紙を取り出す。


 何かを書こうとして、

 止まる。


「……定義できない」


 座標が固定できない。


 距離も測れない。


 ここは地図の上に存在しない。


 ***


 カイラが視界を細める。


 最適化が働かない。


 ルートが出ない。


「……誘導がない」


 一拍。


「自分で進むしかない」


 珍しい状態。


 だが不安はない。


 むしろ、

 少しだけ軽い。


 ***


 ノウンが告げる。


「座標不定領域」


 一拍。


「分類不能区域に近似」


 つまり。


 世界にあるが、

 世界に属していない。


 ***


 ピコが、ぽよ、と跳ねる。


「……おもしろい」


 その一言だけ。


 だが、

 この場所の本質を突いている。


 ***


 レインは、周囲を見渡す。


 理解はできない。


 だが感じる。


 ここは、


 “整えられていない場所”。


 ***


 さらに進む。


 道はない。


 だが進める。


 誰も案内していない。


 だが辿り着く方向だけは、

 なぜか分かる。


 ***


 やがて。


 視界が開ける。


 ***


 そこには、


 崩れた王都があった。


 ***


 城壁は半壊。


 塔は折れ、

 屋根は落ちている。


 だが完全な廃墟ではない。


 “崩れたまま保たれている”。


 ***


 門は開いている。


 閉じられた形跡はない。


 防衛の意思が存在しない。


 ***


 ミリアが小さく言う。


「……入っていいのか、これ」


 誰も答えない。


 だが止まらない。


 ***


 門をくぐる。


 その瞬間。


 わずかに空気が変わる。


 圧ではない。


 視線でもない。


 ただ。


 “場に入った”感覚。


 ***


 街は静かだ。


 人の気配はない。


 だが完全な無ではない。


 何かが、いる。


 ***


 中央へ進む。


 瓦礫を越え、

 崩れた通りを抜ける。


 やがて見える。


 ***


 王城。


 ***


 玉座の間は、壁が半分崩れている。


 天井は抜け、

 空が見える。


 だが。


 玉座だけは残っている。


 ***


 その前に。


 王冠が落ちている。


 磨かれていない。


 だが壊れてもいない。


 ***


 そして。


 玉座に座る男。


 ***


 片足を組み、

 肘を肘掛けに乗せる。


 視線は、こちらに向いている。


 だが動かない。


 ***


 誰も、声を出さない。


 理解している。


 これが、


 原初座。


 ***


 男が、ゆっくりと口を開く。


「王を名乗らぬ者が」


 一拍。


「王に会いに来たか」


 その声は静かだ。


 だが。


 場の“優先”が、

 一瞬で書き換わる。


 ***


 レインは、ただ立つ。


 膝をつかない。


 頭も下げない。


 ただ。


 見る。


 ***


「……名乗らない」


 短く答える。


「決めないからな」


 ***


 男の口元が、わずかに歪む。


 笑っているのか、

 試しているのか。


「いい」


 一拍。


「少しは面白い」


 ***


 王冠は、まだ床にある。


 拾われない。


 被られない。


 それが。


 この王の在り方。


 ***


 崩壊王都跡。


 王のいない王都。


 そして。


 支配しない王が、そこにいる。


 玉座の間は、風が抜けている。


 天井は崩れ、

 空がそのまま落ちてくる。


 だが。


 場の中心は、そこではない。


 玉座。


 そして、

 そこに座る男。


 ***


 《零冠魔王》ヴァル=アド=ネメス。


 王冠は床にある。


 拾わない。


 視線も向けない。


 それが、

 この場のすべてを支配している。


 ***


 ミリアが一歩前に出る。


「……で、何だよ」


 遠慮はしない。


 だが踏み込みすぎない。


「王様ごっこしてんのか?」


 ***


 ヴァルは、わずかに肩をすくめる。


「していない」


 一拍。


「ごっこは、冠を被る側だ」


 床の王冠を、指先で軽く弾く。


 音は、やけに乾いて響いた。


 ***


 エルドが低く言う。


「じゃあ何だ」


 盾は構えない。


 だが、降ろしきってもいない。


 いつでも動ける位置。


 ***


「王だ」


 あっさりと。


 断定でも誇示でもない。


 ただの事実のように。


 ***


 リュカが目を細める。


「統治していない」


「命令もしていない」


 一拍。


「それでも王か」


 ***


 ヴァルの視線が、ほんの僅かにリュカへ向く。


「統治とは何だ」


 問い返す。


 答えは求めていない。


 定義を崩すための問い。


 ***


 リュカが沈黙する。


 言語化できる。


 だが、この場では意味を持たない。


 ***


 エルフィナが、静かに言う。


「……誰も縛っていませんね」


 一拍。


「それでも、ここはあなたの場です」


 ***


 ヴァルの目が、わずかに細くなる。


「よく見ている」


 ***


 カイラが一歩だけ前に出る。


 視界に、何も出ない。


 最適解も、

 戦術ルートも。


「……支配ではない」


 一拍。


「優先権だけがある」


 ***


 ヴァルが、軽く笑う。


「それでいい」


 ***


 ノウンが告げる。


「空間優先権、単独保持」


 一拍。


「命令なしで成立」


 異常。


 だが確定できない。


 ***


 ピコが、ぽよ、と王冠の近くへ跳ねる。


「……これ、いらないの?」


 指先でつつく。


 転がる。


 止まる。


 ***


 ヴァルは視線すら向けない。


「重いだろう」


 一拍。


「拾いたいなら、拾えばいい」


 ***


 ピコは少し考えて、


「……いらない」


 とだけ言う。


 ***


 ヴァルの視線が、初めてピコに向く。


 一瞬。


 ほんの一瞬だけ。


「……そうか」


 その一言で。


 空気が、わずかに揺れる。


 ***


 レインは、動かない。


 前にも出ない。


 引きもしない。


 ただ、立っている。


 ***


「王ってのは」


 静かに言う。


「決める奴のことだろ」


 ***


 ヴァルが、わずかに首を傾ける。


「そう思うか」


 ***


「違うのか」


 ***


 ヴァルは、ゆっくりと足を組み替える。


 玉座が、わずかに軋む。


「王とは」


 一拍。


「決めなくていい者だ」


 ***


 沈黙。


 その言葉は、軽い。


 だが重い。


 ***


 ミリアが眉をひそめる。


「は?」


 理解できない。


 理解する気もない。


 ***


 ヴァルは続ける。


「決めるのは、下だ」


 一拍。


「王は、決めさせる」


 ***


 レインの目が、わずかに細くなる。


 その構造。


 理解できる。


 だが。


 ***


「俺たちは違う」


 即答。


「決めさせない」


 ***


 空気が止まる。


 風が抜ける音すら消える。


 ***


 ヴァルの口元が、ゆっくりと歪む。


「いい」


 一拍。


「それは、王ではない」


 ***


「知ってる」


 レインは答える。


「だから来た」


 ***


 玉座の間に、静かな圧が満ちる。


 敵意ではない。


 試されている。


 見られている。


 ***


 ヴァルが、ゆっくりと立ち上がる。


 王冠は、まだ床にある。


 踏みもしない。


 避けもしない。


 ただ、そこにある。


 ***


「ならば」


 一歩。


 その瞬間。


 場の優先が、わずかに変わる。


 全員がそれを感じる。


 ***


「見せろ」


 一拍。


「お前たちの“未確定”を」


 ***


 試験ではない。


 命令でもない。


 ただの要求。


 だが拒否もできる。


 ***


 レインは、息を吐く。


「いい」


 一拍。


「見せる」


 ***


 その瞬間。


 王都の空気が、わずかに揺れる。


 遠く。


 空の奥。


 何かが“整い始める”。


 ***


 ヴァルの視線が、そちらへ動く。


 わずかに。


「……来たな」


 ***


 風が止まる。


 音が整う。


 空が、直線的に裂ける。


 ***


 天界の“順序”が、降りてくる。


 空が、裂ける。


 ***


 音はない。


 だが。


 “順序”だけが、落ちてくる。


 ***


 雲は動かない。


 風も吹かない。


 それでも、


 空間が“整列”する。


 ***


 一直線の光。


 歪みのない軌道。


 揺らぎのない降下。


 ***


 ミリアが、歯を鳴らす。


「……またかよ」


 嫌悪。


 だが恐怖ではない。


 知っている。


 これは“上からの正しさ”だ。


 ***


 エルドが、わずかに盾を上げる。


 だが構えない。


「来るな」


 短い言葉。


 状況はすでに確定している。


 ***


 エルフィナの呼吸が浅くなる。


「……整いすぎている」


 乱れがない。


 余白がない。


 “許されない”。


 ***


 リュカの視界に、

 数値が“固定”される。


「……誤差、ゼロ」


 それは観測ではない。


 決定だ。


 ***


 カイラの演算が、

 強制的に同期する。


 拒否できない。


「……来た」


 一拍。


「天界の“正解”」


 ***


 ノウンが告げる。


「天界構造侵入確認」


 一拍。


「序列上位個体」


 ***


 ピコだけが、変わらない。


 ぽよ、と跳ねる。


「……まっすぐ」


 その一言だけ。


 ***


 レインは、空を見る。


 理解は追いつかない。


 だが感じる。


 これは――


 “決める側”。


 ***


 光が収束する。


 空間に、円が浮かぶ。


 完全な円。


 歪みのない、輪。


 ***


 その中心に。


 “それ”は立っていた。


 ***


 白。


 だが光ではない。


 形はある。


 だが輪郭は揺らがない。


 ***


 背後に、環。


 頭上に、環。


 足元に、環。


 三つの円環が、完全な位置で回転している。


 ***


 《天環執行者》アストラエル。


 ***


「確認」


 声が落ちる。


 遅れはない。


 空間と同時。


 ***


「未確定領域」


「不適合集団」


「原初座接触」


 一拍。


「――是正対象」


 ***


 空気が凍る。


 否。


 “整う”。


 ***


 ミリアが、剣を握る。


「……勝手に決めんな」


 だが踏み出せない。


 圧ではない。


 “確定”が足を止める。


 ***


 エルドが前に出る。


 一歩。


 それだけで。


 空間が補正しようとする。


 だが。


 踏みとどまる。


「……重いな」


 ***


 エルフィナが、繋ぎを試みる。


 だが流れない。


 整列してしまう。


「……通らない」


 ***


 リュカが吐き捨てる。


「観測不能」


 一拍。


「いや――観測させない」


 ***


 カイラの演算が、

 完全に停止する。


 最適解が出ない。


 違う。


 “出させてもらえない”。


「……これが、上」


 ***


 ノウンが告げる。


「行動選択、制限中」


 一拍。


「自由度、低下」


 ***


 ピコだけが、変わらない。


 環を見上げる。


「……きれい」


 ***


 アストラエルの視線が、

 初めてピコに向く。


 一瞬。


 そして。


 無視する。


 ***


 視線が、ヴァルへ向く。


 ***


「原初座」


「介入を確認」


 一拍。


「排除を提案」


 ***


 ヴァルは、動かない。


 玉座の前に立ったまま。


 王冠は、まだ床。


 ***


「提案か」


 小さく言う。


「ずいぶん丁寧だな」


 ***


 アストラエルの環が、

 わずかに回転速度を上げる。


「命令に変更可能」


 ***


 ヴァルが、笑う。


 初めて、はっきりと。


「やってみろ」


 ***


 その瞬間。


 “優先”が、ぶつかる。


 ***


 空間が、軋む。


 整列と未整列。


 確定と未確定。


 ***


 アストラエルの環が、

 一斉に光る。


「是正、開始」


 ***


 その瞬間。


 ヴァルが、一歩踏み出す。


 ***


 何も起きない。


 光も出ない。


 圧もない。


 ***


 ただ。


 空間の“前提”が、ずれる。


 ***


 環の回転が、わずかに狂う。


 光の軌道が、ほんの僅かに外れる。


 ***


 アストラエルが、初めて止まる。


 ***


「……誤差」


 ***


 ヴァルは、ただ言う。


「ここは、俺の場だ」


 一拍。


「整えるな」


 ***


 それだけで。


 王都の崩壊が、意味を持つ。


 ***


 完全ではない。


 だからこそ。


 侵食できない。


 ***


 アストラエルの環が、

 再び回転を上げる。


「誤差、修正」


 ***


 だが。


 完全には戻らない。


 ***


 レインは、それを見ている。


 理解する。


 ここは。


 “決められない場所”。


 ***


 ヴァルが、振り返らずに言う。


「どうする」


 一拍。


「見せるんだろ」


 ***


 天界と原初座。


 その間に立つ。


 ***


 レインは、息を吐く。


「……ああ」


 ***


 決めないまま。


 動く。


 ***


 それが。


 ノーリトリート。


 ***


 天環が光を増す。


 王都が、軋む。


 そして。


 戦いが、始まる。


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