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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第58章

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揺らぐ天秤

 円環が、歪む。


 天界の残響が、

 不規則に明滅する。


 削除圧は止まった。


 だが、

 干渉は終わっていない。


 ***


 深層域の裂け目から、

 光が降りる。


 直線ではない。


 細い、糸のような光。


 観測。


 確認。


 補正。


 ***


 ノウンが静かに言う。


「上位干渉、再接続」


 一拍。


「対象、堕天体」


 グラヴィエル。


 ***


 堕天使の翼が、

 軋む。


 黒と白がせめぎ合う。


「……見るな」


 低い声。


 怒りではない。


 拒絶。


「私は、拒んだ」


 だが光は降りる。


 裁定でも断罪でもない。


 “確認”。


 堕天が、

 再評価される。


 ***


 ミリアが剣を構える。


 だが踏み込めない。


 空間が揺れる。


 今は敵が二つ。


 目の前の堕天。


 上からの視線。


「……気に食わねぇ」


 短く吐く。


 ***


 エルドが盾を立てる。


 今度は守る方向が違う。


 正面ではない。


 上。


「来るなら来い」


 だが、

 光は触れない。


 観測するだけ。


 ***


 エルフィナの接続が、

 再びざわつく。


 上位干渉が、

 繋ぎを読み取ろうとする。


「……覗かれてる」


 気配が冷たい。


 選別の視線。


 ***


 リュカが、

 息を整える。


「対象は、グラヴィエルだけじゃない」


 一拍。


「俺たちも、見られてる」


 評価。


 記録。


 可能性。


 ***


 カイラの演算が、

 新しい値を拾う。


「……干渉圧、上昇」


 天界側が、

 確定を補強しようとしている。


 グラヴィエルの揺らぎを、

 修復するために。


 ***


 ピコが、

 円環の揺らぎを見上げる。


「……あれ、こわい」


 一拍。


「でも、さびしそう」


 観測は冷たい。


 だが、

 意志は感じられない。


 機構。


 秩序の装置。


 ***


 グラヴィエルが呻く。


「触れるな……!」


 翼が暴れる。


 黒が白を侵食し、

 白が黒を抑える。


 堕天と天界が、

 一体の中で衝突している。


 ***


 レインが、

 静かに前へ出る。


 《完全模写理解》が、

 位相の奥へ触れる。


 天界式。


 全域確定の中心。


 そこに、

 意思はない。


 あるのは、

 “整える機構”。


 だから。


 堕天を修正しようとする。


 ***


「……戻れと言ってる」


 レインが呟く。


 グラヴィエルの瞳が揺れる。


「戻らない」


 即答。


 だが。


 声に迷いがある。


 ***


 光の糸が、

 グラヴィエルの翼へ絡みつく。


 白が増える。


 黒が抑え込まれる。


 断罪圧が、

 再び安定しかける。


 ***


 ミリアが歯を食いしばる。


「戻したら、終わりだろ」


 裁定でも断罪でもない。


 全域確定。


 可能性の停止。


 ***


 エルドが言う。


「選べ」


 短く。


「戻るか、崩れるか」


 盾は揺れない。


 ***


 エルフィナが、

 細い繋ぎをグラヴィエルへ伸ばす。


 拒絶される。


 だが切れない。


「……まだ、切れてない」


 堕天は、

 完全に天界へ戻っていない。


 ***


 リュカが、

 視線を上へ向ける。


「介入、強まる」


 一拍。


「このままだと、修正される」


 修正。


 堕天が、

 なかったことにされる。


 ***


 カイラが、

 演算を回す。


「時間がない」


 位相安定まで、

 残りわずか。


 ***


 ピコが、

 ぽよ、と跳ねる。


 円環の糸に触れる。


 未定義が、

 観測線を歪ませる。


 光が一瞬だけ乱れる。


 ***


 深層域の裂け目の奥。


 影が、揺れる。


 今度は明確だ。


 人型。


 杖のようなもの。


 静かに立つ。


 観測している。


 介入はしない。


 だが。


 圧がある。


 ***


 レインの喉が、

 わずかに震える。


 知っている。


 だが、名は呼ばない。


 今はまだ。


 ***


 グラヴィエルが、

 最後の力で抗う。


「私は、戻らない」


 翼が大きく裂ける。


 白と黒が爆ぜる。


 天界の糸が、

 張り詰める。


 ***


 このままでは、

 堕天は修正される。


 それは、

 全域確定への第一歩。


 ***


 レインが息を吐く。


「……選ばせるな」


 一拍。


「決めさせるな」


 ノーリトリートの思想。


 裁定しない。


 選ばせない。


 だが立つ。


 ***


 天界の糸が、

 完全収束へ向かう。


 次の瞬間、

 どちらかが確定する。


 戻るか。


 崩れるか。


 天界の糸が、張り詰める。


 白い光が、

 グラヴィエルの翼を縫い合わせるように絡みつく。


 修正。


 再定義。


 堕天の“誤差”を、整えようとする。


 ***


「戻れ」


 声ではない。


 構造が、命じる。


 秩序の装置が、

 堕天を“例外処理”しようとする。


 ***


 レインが一歩、踏み出す。


「させるか」


 《完全模写理解》が、

 天界式の流れを読む。


 干渉点。


 補正点。


 再定義の起点。


 そこへ、立つ。


 遮るのではない。


 割り込む。


 ***


 ミリアが、

 グラヴィエルと天界糸の間へ跳ぶ。


 剣を振る。


 糸を斬る。


 だが完全には断てない。


 それでも。


「決めんな!」


 刃が、逸脱する。


 確定値を、ずらす。


 ***


 エルドが盾を掲げる。


 守る対象は、グラヴィエル。


 敵であっても。


「選ばせない」


 短い言葉。


 盾が、天界の光を受け止める。


 押し返せない。


 だが通さない。


 ***


 エルフィナが、

 堕天へ接続を伸ばす。


 拒絶される。


 だが今度は引かない。


「戻らなくていい」


 一拍。


「崩れなくてもいい」


 繋ぐ。


 評価でも修正でもない。


 ただ“在る”ことを許容する繋ぎ。


 天界糸が揺らぐ。


 ***


 リュカが叫ぶ。


「観測、固定しない!」


 断定をやめる。


 確率を出さない。


 未来を確定させない。


 観測の自由を、保つ。


 天界式が、

 わずかに乱れる。


 ***


 カイラが、

 演算式を崩す。


「最適化、停止!」


 わざと誤差を増やす。


 定義を曖昧にする。


 修正値を出さない。


 天界干渉が、

 補正点を見失う。


 ***


 ノウンが淡々と告げる。


「未定義領域、拡張」


 空間の中に、

 曖昧さを増やす。


 定義不能の“余白”を作る。


 天界糸が、

 絡みきれない。


 ***


 ピコが、

 ぽよ、と天界の糸へ触れる。


「……きめなくていいよ」


 未定義が、

 定義へ触れる。


 光が歪む。


 糸が震える。


 完全な修正が、

 成立しない。


 ***


 グラヴィエルが、

 苦しげに呻く。


「私は……」


 白が増える。


 黒が押し返される。


 だが。


 完全には戻らない。


 ***


 レインが言う。


「選ばせない」


 一拍。


「戻るか、崩れるか」


 その二択を、

 拒否する。


 ***


 天界の糸が、

 強制収束する。


 修正完了まで、あとわずか。


 その瞬間。


 深層域の裂け目の奥で、

 影が、一歩前へ出る。


 空気が変わる。


 圧が増す。


 観測が、止まる。


 ***


 天界糸が、

 一瞬だけ、緩む。


 “観測者”が、

 介入した。


 だが攻撃ではない。


 命令でもない。


 ただ。


 止めた。


 ***


 グラヴィエルの翼から、

 天界糸が弾かれる。


 修正が、未完了で止まる。


 白と黒が、

 拮抗する。


 ***


 深層域に、

 静寂が落ちる。


 天界の円環が、

 一瞬だけ、曇る。


 観測が、

 揺らぐ。


 ***


 影は、まだ名を持たない。


 だが立っている。


 静かに。


 見ている。


 ***


 レインの胸が、

 小さく鳴る。


 懐かしい圧。


 だが今は、呼ばない。


 まだ。


 ***


 グラヴィエルが、

 ゆっくりと息を吐く。


 修正は、失敗した。


 戻らなかった。


 崩れもしなかった。


 未確定のまま、残った。


 ***


 天秤は、揺れ続ける。


 次は。


 堕天自身が、選ぶ番だ。


 静寂が、落ちる。


 天界の糸は、張り詰めたまま止まっている。


 修正は未完了。


 堕天は未回収。


 確定は、成立していない。


 ***


 グラヴィエルが、ゆっくりと顔を上げる。


 白と黒が拮抗する翼。


 崩れたままの光輪。


 未確定のままの存在。


「……戻らない」


 低い声。


「だが、崩れもしない」


 天界の糸が、微かに震える。


 修正を再試行しようとする。


 ***


 レインが言う。


「選ぶな」


 一拍。


「戻るか、崩れるか、その二択を」


 グラヴィエルの瞳が揺れる。


 恐怖が残っている。


 だが。


 恐怖は、もう隠していない。


 ***


 ミリアが剣を下ろさないまま言う。


「怖いなら怖いでいいでしょ」


 一歩、前に出る。


「全部まとめるな」


 逸脱は、続いている。


 ***


 エルドが盾を立てたまま頷く。


「守れないなら、守れないでいい」


 一拍。


「全部守るな」


 完全秩序を、否定する。


 ***


 エルフィナが、細い繋ぎを保つ。


「切れても、繋ぎ直せます」


 未確定を、恐れない。


 ***


 リュカが視線を上へ向ける。


「断定しない」


 未来を固定しない。


 観測を、保留する。


 ***


 カイラが静かに言う。


「最適じゃなくていい」


 誤差を、許容する。


 ***


 ノウンが淡々と告げる。


「未定義は、存在可能」


 定義不能は、排除理由にならない。


 ***


 ピコが、中央へ一歩。


「……きめなくていいよ」


 一拍。


「きめなくても、いるよ」


 未定義が、肯定を持つ。


 ***


 天界の糸が、再び収束を始める。


 今度は強制。


 修正を完遂するための圧。


 深層域が、再び震える。


 ***


 その瞬間。


 裂け目の奥の影が、完全に姿勢を変える。


 一歩、前へ。


 杖を軽く地面へ突く。


 音はない。


 だが。


 空間が、止まる。


 ***


 天界の糸が、凍りつく。


 収束が、止まる。


 円環が、明滅をやめる。


 観測が、停止する。


 ***


 影が、初めて声を出す。


「――そこまでだ」


 静かな声。


 怒りでも威圧でもない。


 ただ、確信。


 ***


 グラヴィエルが、目を見開く。


「……」


 言葉が出ない。


 白と黒が、一瞬で静まる。


 天界の残響が、後退する。


 修正が、完全に止まる。


 ***


 レインの胸が、強く鳴る。


 知っている。


 何度も感じた圧。


 だが今は、名を呼ばない。


 呼ばなくても分かる。


 ***


 影は、堕天を見る。


 裁定でも断罪でもない視線。


 評価でも修正でもない。


 ただ、見る。


「未確定は、罪ではない」


 静かな宣言。


 天界の円環が、わずかに揺らぐ。


「確定もまた、救いではない」


 白い糸が、完全に解ける。


 修正は、終了。


 介入は、打ち切られる。


 ***


 グラヴィエルの翼から、

 天界の光が抜け落ちる。


 白と黒が混ざったまま、

 安定する。


 堕天は、戻らない。


 崩れもしない。


 未確定のまま、立つ。


 ***


 深層域の裂け目が、

 ゆっくり閉じ始める。


 天界の残響が、遠ざかる。


 観測が、消える。


 ***


 影は、まだ名を持たない。


 だが杖を持つ老いた姿は、

 誰の目にも明らかだ。


 静かに、立っている。


 ***


 レインが、ようやく息を吐く。


 選ばせなかった。


 確定させなかった。


 未確定は、残った。


 ***


 グラヴィエルが、ゆっくりと膝をつく。


 敗北ではない。


 崩壊でもない。


 抗いを、やめた。


 ***


 影が、ほんのわずかに口元を緩める。


「……よくやった」


 誰に向けた言葉かは、

 分からない。


 だが。


 その声は、確かにそこにあった。


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