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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第58章

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堕天の臨界

 刃が、落ちる。


 それは光ではない。


 位相。


 層そのものを断つ刃。


 深層域の空間が、

 真っ直ぐに裂ける。


 音は、遅れて消える。


 ***


 ミリアが踏み込む。


 迎え撃つ。


 剣を振る。


 だが。


 触れた瞬間、

 刃の“意味”が変わる。


 金属を断つ刃ではない。


 存在を断つ刃。


「――っ!」


 衝撃が腕を貫く。


 刃が弾かれる。


 身体が吹き飛ぶ。


 ***


 エルドが盾を差し込む。


 正面から受ける。


 だが防御概念が

 ずらされる。


 守る対象が

 切断される。


 盾が、半ば透過する。


「……これは」


 衝撃。


 膝が砕けるように沈む。


 ***


 エルフィナが

 最大域で繋ぐ。


生命線維持ライフ・ラインキープ

 全力展開。


 だが。


 繋いだ先が、

 “切断”される。


 接続が滑る。


 距離が意味を失う。


「……っ、保てない」


 負荷が跳ねる。


 魔力が焼ける。


 ***


 リュカの視界が、

 完全に白に沈む。


 観測不能。


 未来が存在しない。


 確率が消える。


「……未来が、出ない」


 予測ゼロ。


 分岐なし。


 確定断絶。


 ***


 カイラの演算が、

 強制停止する。


戦況最適化オーバードライブ》が

 弾かれる。


 式が崩れる。


 最適が、

 “存在しない”。


「……演算不可」


 初めて、

 言葉に迷いが出る。


 ***


 ノウンが静かに告げる。


「位相断絶確認」


 一拍。


「空間の一部が、切り離されました」


 深層域が、

 完全な戦場ではなくなる。


 断たれた部分は、

 存在していない。


 ***


 ピコが、

 刃の軌跡を見上げる。


 ぽよ、と跳ねる。


 だが。


 刃の軌道が、

 ピコを“避ける”。


 未定義に、

 断絶が触れない。


 ***


 レインが、

 膝をつく。


 《完全模写理解》が、

 強制的に深まる。


 断絶の理屈。


 確定を越えた、

 上位概念。


 “排除”。


 存在しなかったことにする力。


 ***


「……天界式」


 呟く。


 裁定ではない。


 断罪でもない。


 もっと上。


 存在の整理。


 削除。


 ***


 グラヴィエルが、

 空中で黒く燃える。


「未確定は、残さない」


 声に迷いはない。


 だが震えがある。


「世界は、整えられるべきだ」


 翼がさらに巨大化する。


 天界の残響が、

 深層域を飲み込む。


 ***


 ミリアが、

 瓦礫の上で立ち上がる。


 腕が震えている。


 剣先が揺れる。


 それでも。


「……まだ、いるな」


 自分を確認する。


 断たれていない。


 まだ存在している。


 ***


 エルドが盾を握り直す。


 半透明になった盾を。


「消えてない」


 それだけでいい。


 ***


 エルフィナが、

 かろうじて繋ぎ直す。


 浅い。


 だが残る。


「……切られて、ません」


 完全断絶ではない。


 未確定が、

 どこかに残っている。


 ***


 リュカが息を吐く。


「ゼロじゃない」


 未来は消えた。


 だが。


 “ゼロと断定できない”。


 それが希望。


 ***


 カイラが、

 再び目を開く。


「……最適がないなら」


 一拍。


「最適じゃなくていい」


 演算を再構築する。


 誤差を許容する。


 未確定を残す。


 ***


 ノウンが中央を見る。


「断絶は、完全ではない」


 一拍。


「未定義が、干渉しています」


 ピコ。


 ***


 ピコが、

 ゆっくり中央へ歩く。


「……きみ、」


 一拍。


「ほんとは、ぜんぶ、けしたくなかったでしょ」


 空間が、

 一瞬止まる。


 黒い翼が揺れる。


 ***


 レインが立ち上がる。


 理解が進んでいる。


 断絶は万能ではない。


 未確定を含むと、

 完全削除にならない。


 なら。


 削れない部分を、

 増やせばいい。


 ***


 グラヴィエルが、

 最後の力を溜める。


 位相断絶、

 第二撃。


 今度は広域。


 深層域全域を、

 消すつもりだ。


 ***


 レインが、

 全員を見る。


「……次で来る」


 一拍。


「崩れるぞ」


 全員が構える。


 これは、

 一度完全に壊れる。


 だが。


 未確定は、

 まだ残っている。


 翼が、完全に開く。


 黒が、白を呑み込む。


 天界の残響が、

 深層域全体へと降りる。


「――整理する」


 グラヴィエルの声は、

 静かだった。


 怒りではない。


 覚悟。


 ***


 第二撃が、放たれる。


 光でも闇でもない。


 “削除”。


 空間そのものが、

 線で区切られる。


 横断。


 縦断。


 斜断。


 深層域が、

 無数の層へと分断される。


 ***


 ミリアの視界が、

 割れる。


 自分の身体が、

 半瞬、存在しなくなる。


 剣が消える。


 足場が消える。


「……っ!」


 だが戻る。


 完全ではない。


 削除しきれない。


 未確定が残る。


 ***


 エルドの盾が、

 透過する。


 守る意味が、

 削られる。


 だが。


 消えない。


 盾は“まだ盾”。


 意味が残る。


 ***


 エルフィナの接続が、

 一度、完全に途切れる。


 全員との繋ぎが、

 切断される。


 孤立。


 だが。


 ほんの糸のような、

 曖昧な感覚が残る。


「……まだ、いる」


 完全孤立ではない。


 ***


 リュカの未来予測が、

 白紙になる。


 分岐ゼロ。


 確率ゼロ。


 だが。


 ゼロと断定できない。


「……断定できない」


 その一言が、

 残る。


 ***


 カイラの演算式が、

 完全崩壊する。


 最適解、

 存在せず。


 だが。


 誤差の山が残る。


「……未整理」


 削除ではない。


 未整理。


 そこに可能性がある。


 ***


 ノウンの輪郭が、

 一瞬薄れる。


 観測不能。


 だが消えない。


「未定義は、排除不能」


 淡々と。


 それだけ。


 ***


 深層域が、

 大きく裂ける。


 壁が崩れ、

 床が抜け、

 天井が消える。


 天界の残響が、

 直接降りる。


 円環構造が、

 巨大な光の輪として現れる。


 裁定より上。


 断罪より上。


 “存在整理”。


 ***


 ピコが、

 中央で揺れる。


 削除線が、

 何度も触れる。


 だが。


 触れるたび、

 歪む。


 未定義に、

 削除は効かない。


「……きみ、」


 一拍。


「こわくて、まとめちゃっただけでしょ」


 削除線が止まる。


 ほんの一瞬。


 ***


 レインが、

 膝をついたまま、

 理解を深める。


 グラヴィエルは、

 “全削除”を拒んだ。


 だから堕ちた。


 だが今、

 同じことをしようとしている。


 矛盾。


 恐怖。


 未確定への拒絶。


 ***


 深層域が、

 半壊する。


 巨大な空洞が生まれる。


 そこに、

 天界の円環が覗く。


 圧が、落ちる。


 視線。


 観測。


 干渉。


 ***


 レインの背後で、

 何かが軋む。


 見えない。


 だが確かに。


 “懐かしい圧”。


 強い。


 古い。


 裁定を越えた存在。


 ***


 グラヴィエルが叫ぶ。


「未確定は、滅びを招く!」


 削除圧が最大へ。


 深層域全域が、

 消滅寸前。


 ***


 その中で。


 ピコが、

 ぽよ、と跳ねる。


 円環構造へ、

 触れる。


 未定義が、

 天界式に触れる。


 歪みが走る。


 円環が、

 わずかに傾く。


 ***


 グラヴィエルの目が見開かれる。


「触れるな!」


 初めて、

 恐怖が露わになる。


 削除圧が、

 乱れる。


 ***


 レインが立ち上がる。


「……崩せる」


 未確定は、

 消せない。


 ならば。


 恐怖ごと、

 壊す。


 ***


 深層域は、

 半壊状態。


 全員が限界。


 だが。


 削除は、止まりきっていない。


 次は。


 核心。


 削除圧が、揺らぐ。


 円環構造が、

 わずかに傾く。


 未定義が、

 上位秩序へ触れている。


 ***


 ピコが、

 中央へ進む。


 半壊した深層域の、

 裂けた空間の上。


 足場はない。


 重力もない。


 だが落ちない。


「……きみ」


 一拍。


「ほんとは、けしたくなかった」


 声は小さい。


 だが、届く。


 ***


 グラヴィエルの翼が、

 一瞬だけ震える。


 黒い裂線が広がる。


「私は……」


 言葉が止まる。


 削除圧が、不安定になる。


 ***


 レインが《完全模写理解》を深める。


 天界式の中枢。


 削除の起点。


 そこにあるのは、

 “恐怖の記憶”。


 全域確定。


 可能性の消滅。


 静止した世界。


 呼吸のない秩序。


 その瞬間、

 グラヴィエルは見た。


 世界が、

 美しく死ぬ光景を。


 ***


「……だから、拒んだ」


 レインが呟く。


 グラヴィエルの瞳が揺れる。


「拒んで、堕ちた」


 円環構造が、

 再び軋む。


 上位観測が、

 強まる。


 ***


 ノウンが告げる。


「上位干渉、強化」


 一拍。


「確定圧が補強されます」


 天界の視線。


 整理を完遂させる力。


 ***


 ピコが、

 円環へ両手を伸ばす。


 ぽよ、と。


 未定義が、

 定義へ触れる。


「……こわかったんだよね」


 一拍。


「ぜんぶ、きまっちゃうの」


 削除線が、止まる。


 完全にではない。


 だが鈍る。


 ***


 グラヴィエルが叫ぶ。


「未確定は、混乱を生む!」


 声に、

 怒りよりも焦りがある。


「世界は整えられねばならない!」


 翼が黒く燃える。


 だが、

 燃焼が乱れる。


 ***


 ミリアが立ち上がる。


 震える腕で剣を握る。


「……お前」


 一歩。


「怖いなら、言えよ」


 踏み出す。


 逸脱。


 削除圧が揺れる。


 ***


 エルドが盾を立てる。


「全部守るなんざ、無理だ」


 短く。


「だから選ぶ」


 守るものを。


 確定ではない。


 選択。


 ***


 エルフィナが、

 細い繋ぎを広げる。


 揺らぎを含んだ接続。


「……全部繋がらなくていい」


 一拍。


「切れても、また繋ぎます」


 削除圧が鈍る。


 ***


 リュカが息を整える。


「未来が出ないなら」


 一拍。


「今を見る」


 観測が再起動する。


 断定しない観測。


 ***


 カイラが、

 演算を再構築する。


「最適がなくても」


 一拍。


「進める」


 誤差を抱えた式が、

 空間へ走る。


 ***


 ノウンが中央を示す。


「核心、揺らいでいます」


 天界式の支点が、

 未定義に侵食されている。


 ***


 その時。


 深層域の裂け目の奥で、

 何かが立つ。


 影。


 姿は見えない。


 だが圧だけがある。


 強い。


 古い。


 観測者。


 ***


 レインの背筋が、

 わずかに震える。


 知っている。


 この圧を。


 何度も、

 感じたことがある。


 だが今は、

 何も言わない。


 ***


 グラヴィエルが、

 円環を引き戻そうとする。


 だが。


 未定義が、

 核心へ入り込んでいる。


 削除圧が、

 完全収束しない。


 ***


 ピコが、

 核心に額を押し当てる。


「……きみ、えらかったよ」


 一拍。


「ぜんぶ、きめなかった」


 円環が、大きく揺れる。


 上位観測が、一瞬止まる。


 削除圧が、消える。


 完全ではない。


 だが。


 断絶は中断された。


 ***


 グラヴィエルの翼が、

 初めて大きく崩れる。


 黒い裂線が走る。


 白と黒が混ざる。


 天界の残響が、

 不安定化する。


 ***


 レインが前へ出る。


「……今だ」


 核心は揺らいだ。


 だが終わっていない。


 堕天は、

 まだ立っている。


 ***


 深層域は半壊。


 天界はまだ干渉している。


 削除圧は止まったが、

 崩壊は進行中。


 そして。


 影は、消えていない。


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