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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第57章 余白の外側

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白塔の輪郭

 再侵入は、静かに行われた。


 朝でも夜でもない時間。


 光はあるが、影が弱い。


 白域は昨日と同じ森の姿で迎えた。


 違うのは、空気だ。


 重くはない。


 むしろ軽い。


 軽すぎる。


 ***


 エルドが《戦域定着フィールド・ステイ》を薄く展開する。


 足元の感触が、わずかに安定する。


 それでも、土は“沈まない”。


 踏んだ跡が残らない。


 昨日設置した記録杭は――


 消えていた。


 リュカが即座に報告する。


「基準杭、未検出」


「座標照合、不能」


 昨日は確かにここだった。


 だが“昨日”が固定されていない。


 ***


 ミリアが前に出る。


 刀身を抜かず、柄に手を添える。


「昨日より、近い」


「何に?」


「中心」


 直感だ。


 だが全員が同意している。


 白域は今日、距離を縮めている。


 ***


 歩を進める。


 一歩。


 二歩。


 三歩目で、景色が揺らぐ。


 森の木々が、白い石柱に変わる。


 枝はアーチへ。


 葉は崩れた天井へ。


 地面は石畳に。


 そして今回は、消えない。


 都市形態が、固定される。


 ***


 エルフィナが小さく息を呑む。


「……昨日より、はっきりしてる」


 輪郭が濃い。


 影が落ちる。


 風が壁に当たり、反響する。


 “音が返ってくる”。


 これは森ではない。


 白い廃都だ。


 ***


 塔が見える。


 昨日は遠景だった。


 今日は、距離が測れる。


 石畳の中央通りの奥。


 白い塔。


 頂は黒く塗り潰されている。


 空に穴が開いたように。


 ***


 カイラが低く言う。


「空間選択が進行している」


 白域はランダムではない。


 形を選び始めている。


 リュカが補足する。


「都市形態優先」


「構造安定率、上昇」


 つまり。


 ここは“森ではなく都市として確定しつつある”。


 ***


 ノウンが言う。


「舞台が決まる」


 誰のための舞台か。


 言うまでもない。


 ***


 ピコがゆっくりと歩く。


 ぽよぽよ跳ねない。


 石畳を踏みしめる。


 足音が、返る。


 彼は止まり、塔を見上げる。


「きのうより、かなしい」


 エルフィナがそっと言う。


「どうして?」


 ピコは考える。


 言葉を探すように。


「えらんでるから」


 何を。


「ここを」


 ***


 レインの目が静かに細まる。


「都市を選んだ」


 なぜ。


 森ではなく。


 都市を。


 答えは明白だ。


 都市は“記録の場”。


 石は痕跡を残す。


 塔は記憶を保つ。


 森よりも、確定しやすい。


 アンレコードは、今。


 確定を拒む存在でありながら、


 “舞台だけは固定し始めている”。


 ***


 突然、石畳に亀裂が走る。


 音はない。


 だが亀裂は広がる。


 裂け目の奥は、白い。


 底がない。


 エルドが即座に前に出る。


 《破綻予告ブレイク・コール》。


「足場、三秒後崩落」


 全員が動く。


 ミリアが跳ぶ。


 カイラが軌道を補正。


 エルフィナが負荷を均す。


 リュカが崩落範囲を示す。


 レインは、裂け目を読む。


 だが。


 これは攻撃ではない。


 “選別”だ。


 踏み込むか。


 引くか。


 白域は、試している。


 ***


 崩落が止まる。


 裂け目は塔へ向かって伸びている。


 道だ。


 誘導路。


 まっすぐ。


 塔の正面へ。


 ***


 沈黙。


 誰も軽口を叩かない。


 ここから先は、もう偶然ではない。


 都市は固定された。


 塔は近づいた。


 そして。


 道が開かれた。


 レインが静かに言う。


「歓迎されてるな」


 誰も、笑わなかった。


 裂け目は止まっている。


 だが消えない。


 石畳を一直線に割り、


 塔へ向かって伸びている。


 偶然ではない。


 導線だ。


 ***


 ミリアが眉をひそめる。


「道、作ってるよね」


 エルドが低く答える。


「ああ。崩落は制御されてる」


 無秩序な破壊ではない。


 “通路以外を消した”。


 選別。


 通れる場所だけを残す。


 ***


 リュカが足元を解析する。


「亀裂縁、安定率高」


「意図的整形」


 自然崩壊ではない。


 白域は都市構造を操作している。


 カイラが続ける。


「誘導率、九十二パーセント」


「引き返し効率、著しく低下」


 戻れる。


 だが“戻りにくくなっている”。


 ***


 エルフィナが静かに言う。


「拒絶じゃない」


「……歓迎?」


 ノウンが否定する。


「観察」


 一拍。


「配置」


 配置。


 舞台に立たせる位置を決めている。


 ***


 レインは裂け目の奥を見つめる。


 白い。


 底は見えない。


 だが恐怖はない。


 あるのは、違和感だ。


 “崩落していない”。


 石は割れているのに、


 落ちない。


 白い空間が支えている。


 ***


 ピコが裂け目の縁に立つ。


 ぽよ、と跳ねない。


 じっと、塔を見る。


「まってる」


 誰が。


「うえ」


 塔の頂。


 黒い塗り潰し。


 穴。


 ***


 突然、都市の壁面に“窓”が現れる。


 閉じられていたはずの石壁に、


 長方形の影。


 次の瞬間、ガラスが嵌まる。


 内部が見える。


 空室。


 誰もいない。


 だが視線を感じる。


 ミリアが即座に刀を抜く。


「いる」


 いない。


 だが“いる”。


 ***


 エルドが戦域を強化する。


 《戦域定着フィールド・ステイ》が白い都市と拮抗する。


 足元は安定するが、


 周囲の建造物が微妙に歪む。


 都市は“触れられること”を嫌っている。


 ***


 レインが静かに言う。


「昨日は森だった」


「今日は都市」


 白域は形を選んだ。


 ならば次は。


 “内部”。


 塔の中へ入れと言っている。


 ***


 石畳の先端。


 裂け目が止まった場所に、


 階段が形成され始める。


 崩れた石が再配置される。


 積み上がる。


 音はない。


 だが確実に。


 塔の入り口へ続く階段。


 ***


 リュカが低く言う。


「演出」


 カイラが補足する。


「対面準備」


 白域は戦闘を始めていない。


 だが“準備”はしている。


 舞台を整えている。


 ***


 エルフィナが全員の鼓動を均す。


「今なら、まだ戻れる」


 ミリアが笑う。


「でも、戻らないでしょ?」


 レインは答えない。


 塔を見ている。


 その頂。


 黒い穴は動かない。


 だが“見ている”。


 ***


 ノウンが静かに告げる。


「確定が進む前に入るか」


「完全固定後に入るか」


 時間があるようで、ない。


 都市は少しずつ重くなっている。


 存在が濃くなっている。


 ***


 ピコが振り返る。


 全員を見て、


 小さく言う。


「いこう」


 迷いはない。


 悲しさはある。


 だが恐怖はない。


 ***


 裂け目の上に形成された階段が、完成する。


 白い塔の入口が、ゆっくりと開く。


 音はない。


 ただ、闇がある。


 吸い込むような闇ではない。


 “何も書かれていない空白”。


 都市は、準備を終えた。


 塔の入口は、音もなく開いていた。


 扉というより、切り取られた空白。


 中は暗くない。


 光源は見えないが、白く満ちている。


 影が落ちない。


 それだけで異様だった。


 ***


 エルドが先に踏み込む。


 《戦域定着フィールド・ステイ》を厚めに展開。


 床は石。


 だが踏んだ感触が一瞬遅れる。


 “今、踏んだ”という確定が、


 半拍遅れて届く。


「内部、構造安定」


 声は反響する。


 だが反響が一度で止まる。


 二重に返らない。


 ***


 ミリアが続く。


 刀は抜いていない。


 鞘のまま。


 都市は攻撃していない。


 それが逆に不気味だ。


 ***


 内部は広い。


 円形の空間。


 中央に何もない。


 壁面は滑らかで、継ぎ目がない。


 天井は高く、


 頂は黒く塗り潰されている。


 塔の外から見えた“穴”は、ここに繋がっている。


 ***


 リュカが解析を走らせる。


「内部半径、外観と不一致」


「内部空間拡張」


 カイラが補足。


「階層化未検出」


 塔は多層構造に見えた。


 だが内部は単層。


 外観と一致しない。


 都市は見せたい形だけを見せている。


 ***


 エルフィナが目を閉じる。


 精神波動を探る。


 生命反応なし。


 感情反応なし。


 だが――


 “圧”だけがある。


 優しく、しかし逃げ場のない圧。


「悲しい」


 ピコと同じ言葉が漏れる。


 ***


 レインが中央へ進む。


 床に紋様はない。


 魔法陣もない。


 ただの白い石。


 だが足を止めた瞬間。


 空間が、わずかに“濃くなる”。


 視界が歪む。


 全員の耳鳴りが一瞬重なる。


 ***


 天井の黒い塗り潰しが、ゆっくりと揺れる。


 穴ではない。


 影でもない。


 “未記入部分”。


 そこから何かが降りてくるわけではない。


 だが、重さが落ちる。


 存在圧。


 ミリアが歯を食いしばる。


「……これ、昨日より強い」


 エルドが戦域を押し広げる。


 床が軋む。


 都市が抵抗している。


 ***


 ノウンが静かに言う。


「観測強度、上昇」


 つまり。


 今、見られている。


 明確に。


 ***


 レインが上を見る。


 黒い未記入部分が、わずかに波打つ。


 次の瞬間。


 床に、影が落ちる。


 誰の影でもない。


 天井から垂れたような“形のない影”。


 それが、ゆっくりと床に広がる。


 攻撃ではない。


 接触もない。


 だが影の内側に立った瞬間。


 ミリアが息を呑む。


「……え?」


 レインが振り返る。


「どうした」


 ミリアが眉を寄せる。


「……何で、ここにいるんだっけ?」


 沈黙。


 空気が凍る。


 エルフィナが即座に精神同期をかける。


 《同調回復ハート・レストア》。


 だが、完全ではない。


 ミリアの目は、ほんの一瞬だけ、


 迷子のようになる。


 ***


 リュカが叫ぶ。


「短期記憶、干渉確認!」


 カイラが即座に演算補助。


「影内部、情報減衰領域!」


 影は攻撃ではない。


 “理由を削る”。


 目的を薄くする。


 なぜここに来たのか。


 それを曖昧にする。


 ***


 ピコが、影の中に入る。


 全員が止めるより早く。


 だが。


 何も起きない。


 ピコは振り返る。


「だいじょうぶ」


 影が揺れる。


 弾かれるように。


 ピコの輪郭は崩れない。


 ***


 レインの声が静かに響く。


「削るのは、動機か」


 存在ではない。


 記録でもない。


 “理由”。


 戦う理由。


 進む理由。


 それを削る。


 ***


 天井の未記入部分が、わずかに濃くなる。


 影が広がる。


 塔内部の空気が重くなる。


 まだ姿はない。


 だが。


 これ以上進めば、


 次は削るだけでは終わらない。


 ***


 レインが短く言う。


「ここが境界だ」


 塔の中心。


 影の内側。


 アンレコードの“手前”。


 都市は舞台を整え終えた。


 次に来るのは――


 干渉ではなく、対面。


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