第22話 最悪の展開
ゴーレムを倒した二人は警戒しつつも下の階層へ降りていった。ダンジョンではよほど特殊な例を除き下に行くほど難易度が上がってくる。
「さっきのゴーレムってやはり学術院が作ったものでしょうか・・・?」
「その可能性は高いな。これをギルドに報告すれば一発アウトだ。ダンジョン内でモンスターを放つ、罠を故意に設置するのは冒険者ギルドではタブーだからな。」
「足止めにしたってあれはやりすぎです。過去一強かったんではないですか?」
「いやそこまでではなかった。そろそろ解析頼む。」
二人はさらなる階層を目指して着々と足を進めていった。彼らに追いつくまでにあと一時間。
時は少し遡ること数時間前、ゼノ達が馬車を待っている時間帯にダンジョン前でレミスと学術院で治療していたはずのニーレと新たな仲間が数人並んでいた。レミスが月を背景にして高らかに叫んだ。
「君たち!俺たちは極彩色に選ばれた者たちなんだ!体を強化して対応できたのは才能ある者たちなんだ。ギルドが刺客を送ってくるようだけど俺たちはその才能で返り討ちにしよう!」
メンバーはおおーと雄たけびのような声を上げた。ニーレはレミスに近寄り
「マリは惜しかったね。素質あったのに他の国に行っちゃたんだから。サリーのことはもうどうでもいいしギルド側に寝返ってしまったし、頼りになるのはレミスだけだよ。」
「そう言ってもらえてうれしいよ。まさか君みたいな逸材が来てくれるだなんて俺もうれしいよ。だけどマリも他国から俺らに資金援助してくれているんだ。こういうのも学術院のおかげだね。」
「法の女王に栄光あれ!」
皆大きく声を上げるとダンジョンに入っていった。外には術漬けになった人間と被害を被った人間たちの嘆きが町の空にこだまするのだった。
一行は最序盤のコボルトとゴブリンに出くわしたがニーレがモンスターよけの香料を放ちながら先を進んだ。匂いで弱っているところをメンバーが腕試しといったところで次々と遊び感覚で撫で切りにしていった。
さらに進むと落とし穴がある地点までたどり着いた。ニーレは魔道具で罠を探知し避けていく。ニーレが使っているのは学術院が開発した最新鋭の探知系魔道具でまだギルドには卸されていない代物である。
「これ・・・便利だけどちょっと魔力使うのが難点ね・・・」
「探索お疲れ様少ししたらアレをやろう。」
氷の罠通路では皆違法魔道具の強化と改造のおかげか痛覚が麻痺しており足元が氷で覆われても引きちぎって抜け出したのだ。飛んでくる鋼の矢も当たると致命傷なのに一行は笑いながらそれを受けた。ニーレたちは痛みがないという恩恵を受けながら下の階層へと進むのであった。
大広間に着くとそこには赤い大きな蛇が一匹眠っていた。おそらくここを守護している存在なのであろう。赤い大蛇はゆっくりと目を開けレミスたちに言葉を投げた。
「人の子らよ。我が領域に何の用だ。我の眠りを妨げることは許さん。速やかに立ち去れ。」
赤い大蛇は静かに警告したが一行は鼻で笑うものが多かった。
「ごめんごめん。俺たちここの大広間に用があるんだ。だからさ?ここを譲ってくんない?」
「慈悲を与えたのにも関わらず、このような返答命を持って償ってもらう。」
大蛇は口を大きく開け魔方陣を展開し炎の矢を放った。それぞれ散り散りになったところに蛇の魔眼が光る。レミスたちが麻痺にかかったが体の状態が異常だったのがすぐに治りレミスは矢を放った。放たれた矢は身体を深く突き刺さった。痛みを覚えた大蛇はしっぽでレミスたちを一薙ぎしたがそれでもレミスたちは立ち上がった。
彼らは全身打撲や骨折しているのにも関わらず笑いながら立っていた。
「これが魔道具の力か!痛く感じない!最高だ!」
「力が沸き上がってきてるからこの蛇さっさと殺しましょう!」
ニーレが人間離れした跳躍力で蛇の目をナイフで斬りつけた。蛇がカウンターとして彼女を火だるまにしたがすぐに皮膚が再生しだしたのをみて大蛇はこの人間らに初めて恐怖を覚え始めたのだ。
剣を持った戦士と斧を持った戦士が力いっぱい大蛇の体をなます切りにしていった。
叫ぶ大蛇だったが一行は攻撃の手を止めない。しばらくリンチにしていると大蛇が息絶えたのが分かったのだ。
「このクソ蛇俺たちをボコボコにしやがってむかつくな。」
「どうするレミス?この死骸はどうするんだ?俺たちこの蛇食べたくないんだけど・・・」
「私も食欲ない。早く極彩色キメたいんだけど。」
普通の冒険者ならこの蛇を丁重に扱ってギルドに鑑定しに行くのだが彼らはその亡骸をストレス発散の為に何度も踏みつけ斬りつけていった。
レミスはリュックから大きな魔道具を取り出し大蛇の死骸を取り囲むようにおいて起動させた。光がでてそのままどこかに転送された。
「さっ邪魔な蛇は片付けたからみんなでアレキメよう!」
レミスは派手なカラーリングをした魔道具を起動した。魔道具から極彩色の光が出てきた。
「あ~これこれ気持ちいい体か回復していくの感じる~」
皆ダンジョン内であるのにも関わらず魔道具でラリってしまっている。皆極彩色の感覚に飲まれて気分が絶好調になっているところにレミスがまた大きな魔道具を取り出した。
大広間に設置するとこれも転送装置なのか巨大なゴーレムが二体現れた。レミスは火力を籠め起動したらゆっくりと起き上がった。
「これであいつらの足止めはできているからあとは瞬間移動の罠を設置しなければね。」
術漬けになっている三人を起こしながら次の階層へ行くのだった。
時を戻しゼノとミキが大広間の探索をしているとミキがあることを発見した。
「ゼノさん。ここもう痕跡が僅かですが転送用魔法が使われていました。これはログに残しておきますね。」
「ここまで来たんだが・・・休むポイントが少ないとはいえ煮炊きしていた痕が見つからないんだ。術漬けがひどくなると食事が喉を通らなくなるのか・・・?」
「そんなの・・・人間じゃなくなっているみたいで怖くなってきました。元に戻るんでしょうか?」
ゼノは何も言わずに食事の支度を始めた。いつの間にか買っていたのか白くて丸い柔らかそうな見たことのないお菓子が並べていた。
「ゼノさん、それはなんですか?」
「これは東洋のお菓子でな饅頭というんだ。甘くて力になるそ。俺のおすすめだ。」
「ゼノさんの好物いつも食べているジェノベーゼパスタだけじゃなかったんですね!」
ミキは饅頭を一口食べる。もちもちとした触感に噛めば噛むほど甘みが出てくる。中に入っていたのはあんこだった。何度も咀嚼するので頭がだんだんさえていくのがわかる。頭に糖分が戻りつつある中でミキは気合が入ったように感じた。
ゼノ達が大広間を出ると百メートル先に人影が複数見えた。ミキが声をかけようとしたがゼノが彼女の口をふさぎ慎重に歩いて距離を詰めた。ゼノは小声で
「ミキ危険と感じたらすぐに障壁を自分だけでいいから張るんだ。ここからは自己判断で撤退してもいい。俺のことは気にするな。」
ゼノにそう言われても帰り何があるかわからないし、なによりさっきのゴーレムの件でゼノさんが頼りになるのだからと思いながらミキは静かにうなずいたのだった。
連中は先の方で何やら動かないでいたがゼノは罠を張っている最中と捉え、彼らに突撃した。
「そこ何やっている!ギルドからお前らの身柄を渡すように言われているんだ!」
ゼノが声を張り上げた。そこにいたのはやはりレミスたち一行だった。
「これはお久しぶりです。ゼノ試験官?」
わざとらしくレミスが恭しく頭を下げた。ゼノは彼らの雰囲気がタダならぬものを感じて刀を構えた。敵は四人、しかも身体が強化されている鎮圧に時間がかかりそうだと思いながらレミスたちに寄ってきた。次の瞬間ゼノは身体から闇を放出させ四人を捕まえようとしたが彼らは素早く避けた。剣士と斧使いが同時に攻勢を仕掛けてきた。ゼノは二人の攻撃をいなしながらレミスの方へ顔を向ける。レミスも弓矢でゼノの動きを封じていく。人間離れした二人の攻撃たいしてゼノは無傷で生け捕りは無理と考え刀に闇を走らせた時だった。
「動かないで!」
ニーレがミキの首元にナイフを当てる。ミキの魔道具は壊されており、彼女のほほには殴られたような痣があった。
「ミキ!そいつから手を放せ!」
「それはできない。この子を助けてほしくば刀を捨てて。」
ゼノは言われたとおりに刀を置いた瞬間剣士と斧使いにレミスから激しいリンチを受けたのだ。彼らの足がゼノの顔や身体のあちこちまで蹴られ白いスーツが黒ずんでいった。ゼノはなつかしい痛みに耐えながらミキの心配をしていた。彼女はゼノが暴行を受けているところを見て止めようとしたがニーレが彼女の三つ編みの片方を切り落としてしまったのだ。そしてそのまま壁にぶつけられた。
(すまない・・・ミキお前だけでも必ず助けるからな・・・)
ふとレミスが泥だらけになっているゼノを引き上げて近くの穴に近寄った。
「ここ中には毒蜘蛛の住処となっているんだ。こいつをここに放り込めば俺たちは晴れて真の選ばれしものとなるんだ。その女の子は学術院の制服を着ているからみんなで仲間になろう。」
ミキは首を横に振って拒絶しようとしたがニーレにナイフを向けられてしまった。
「まだ極彩色の感覚体感したことがなんでしょ?大丈夫気持ちいいものだから怖がらないで。」
レミスは刀を取り上げるとゼノを毒蜘蛛の穴に突き落した。
「法の女王に栄光あれ!」
そういってミキを連れ去ろうとしたその時だった。




