第2話 ギルドの高給クエスト
冒険者ギルドから少し離れた小さな宿『太陽の石』にゼノは寝泊まりしていた。
ゼノはギルド本部に来るときここの宿をとっていた。なぜなら料金が安いうえ、出される料理も美味い。なにより宿の主人である女将さんが異形のゼノに対し優しく接してくれるのだ。
朝ゼノが起きると下からいい匂いがしてきた。ベーコンの焼けるにおいだ。
身支度を済ませ階段を下りた。食堂に着くと女将さんが他のお客に朝ごはんを出していた。
「あら、ゼノさん。おはよう。これから朝ごはん出すわね。」
席に着くと女将さんはゼノによく焼けたベーコンと丸パンを載せた皿が出された。
フォークでベーコンを刺す。脂の匂いが食欲をそそる。口に入れると肉のうま味と塩気が効いててパンがすすむ。朝から肉体と精神を酷使する冒険者たちにとって、必要な栄養だ。
食べ終わると女将さんがいつものアレを持ってきた。
「女将さんいつもすみません。」
「いいのよ。ゼノちゃん。今日も自信作だから持って行って。」
渡されたアレというのはお弁当だ。ここの宿に泊まるとき女将さんがお昼ご飯にってくれるのだ。最初は断っていたが、女将さんの熱意とおいしさに負けギルドに行くたびにもらっているのだ。
「今日は自信作なの。開けたら楽しみにしてて。」
この国いやこの世界に転移者や異世界の記憶を持つ者転生者のおかげで文化のみならず文明はかなり発展していった。その中でもニホンから来た者の知識が大いに影響していた。この世界にお弁当という文化ができたことは喜ばしいことだった。
お弁当をカバンにしまい込みギルドへ向かった。
ギルドに着くと朝から冒険者が依頼状が張られているコルクボードの前で賑わっていた。人ごみに慣れないゼノは併設されている酒場兼集会所に避難した。ゼノは朝から営業している酒場からコーヒーを頼み、人が少なくなるまで待った。
「白金さんよお、行かねえのかい?早くしないといいやつ持ってかれちまうよ。」
「いいんだ。余りものでも構わないさ。」
「さすが白金は余裕あるねえ。コーヒーおまけしてやるよ。」
一時間もすると冒険者たちが出かけて行って数がまばらになった。ゼノは残っていたコーヒーを飲み干し、二杯分の代金を置いてコルクボードへ向かった。
冒険者ギルドの仕事は多種多様である。人探しからペット探し、ダンジョン攻略からモンスター退治に貴族の護衛の増員などもはや何でも屋になっている。依頼のことは『クエスト』と呼ばれクエストごとにランクが決められている。
冒険者にランクが決められているように青銅級なら青銅級の掃除の仕事、金級なら危険なダンジョンの調査など自分に合ったランクの仕事を探すのがセオリーだ。
「お・・・おはようございます!ゼノさん。今日もいい天気ですね。」
昨日入ったばかりだというアリアという受付嬢が話しかけてきた。
「ああ、おはよう。」
「クエストをお探しでしょうか?白金級の依頼はまだ来ていないですね・・・」
クエストの難易度によって変わるのは金額だけではない。金級クラスの依頼は金ランクのパーティーにしか振り込んでこない。いやそもそも金級なら仕事がギルドに来ずとも依頼が舞い込んでくる。しかしゼノの場合はパーティーに属していないし住処を定期的に変えているため、仕事が舞い込んでくることが滅多にないのである。
そのためほかの冒険者と同じように自分でクエストを見つけないといけないのである。
ざっとボードを見るとスライム退治に薬草摘み、ダンジョン一階から二階までの探索ぐらいしかなかった。
「青銅級と銅級の依頼しか残っていないですね・・・」
「いや今日はダンジョンの探索にでも行くとするか。昨日はスライム殺したし。」
ゼノが銅級のクエストを受けようとしたとき、受付カウンターの奥から初老の人間の男性が飛び出してきた。
この男性はギルドマスターでありゼノもたびたびお世話になっている。
「君まだいてくれたのか?頼む緊急のクエストを受けてほしい!」
ギルドのクエストにはボードには張り出されていないものも存在する。一つは緊急の依頼。もう一つはギルドマスター直々からの依頼この二つは冒険者ランクが高くかつマスターに信頼されていないと受けることが出来ない案件である。その分報酬は破格の物である。
「ちょうどいい。暇なんだろ来てくれ!」
急かされるように所長室に入っていった。室内は応接間も兼ねているのか机には山積みになっている書類が目にはいった。マスターは軽く片付けてからある紙をゼノに見せた。
『ダンジョン:闇の月探索一階から三階まで 青銅級パーティー請負』
「闇の月に青銅級駆け出しじゃないですか・・・」
闇の月国内最難関のダンジョンである。中堅の銀や熟練が集まる黒鉄パーティーでも一階で一瞬のミスで壊滅するというほどの難易度だ。
駆け出しが行ったなら生存は絶望的だ。
「パーティーメンバーの中には侯爵家の四男が参加してその時家宝の王から賜った剣を持ち出してしまったらしいんだ。」
「つまり機密にしてパーティーの冒険者証の回収と生きてたら保護、家宝の剣を回収ということか。」
「金はこれだけ出すこういうのはお前しか頼れないんだ。」
提示された金額は都内でお店を立てても余るぐらい用意されていた。
「宿屋のおばさんにお土産にちょうどいいな。わかった受けよう。」
「ありがたい!前金はいくら払う?」
「いやいつも通りの後払い一括にしてくれ。俺はこの後アイテムをそろえに行ってくる。」
ゼノは扉を開けるとアリアが声をかけてきた。
「お仕事ですか?行ってらっしゃいませ。」
「ああ、行ってくる。その前にアイテム揃えてくるがな。」
場所は最難関ダンジョン、増援はなし。アイテムはたくさん買い込む。次に資料からパーティーのメンバー構成を調べる。
『不屈の剣』
リーダー:剣士 (青銅) 男十五歳
サブリーダー:戦士 (青銅) 男十五歳
メンバー:魔術師 (青銅) 女十五歳
メンバー:神官 (青銅) 女十五歳
ーーー
数時間前、青銅級パーティー『不屈の剣』が闇の月前に集まっていた。
「おまえら準備はいいな!俺たちはこのダンジョンを制覇して名を挙げるんだ!」
剣士が宝石が付いた豪華な剣を空に掲げた。ほかのメンバーも前向きな気持ちでリーダーを見る。しかしサブリーダーの戦士が
「そうはいっても最難関ダンジョンに挑むんだぞ?アイテムとか大丈夫なのか?なんか俺たちだけじゃなんか不安になってくるし、せめて黒鉄級のパーティーと一緒にいたほうが・・・」
「あーあーあーお前は考えすぎなんだよ。俺たちはゴブリンを倒せるんだ。戦いの中で強くなっていくんだからそんなに気にするなよ。」
剣士は戦士の背中を強くたたいた。
「そうよ。闇の月にあるアイテムってガラクタでもすごい高値で売れるんでしょ?
これで奨学金返せるかかかってんだから士気を下げるようなことを言わないで。」
「戦士さん大丈夫ですよ。もしケガしても私が治します!大船に乗った気持ちでいてください!」
「ほらーみんなが大丈夫だって言っているからお前は気にしすぎさっさと行こうぜ。」
戦士の父親は冒険者だった。だが彼が子供のころダンジョンで利き腕を失ってしまい冒険者を引退せざるおえなかったのだ。その後父は酒浸りになり自分と母に迷惑をかけ続けた。父がこさえた借金返済のため皮肉にも大金が稼げるチャンスのある冒険者を選んだのだった。
だが闇の月でアイテム一つでも拾えれば借金は返済できる。これが戦士をつき動かず原動力になった。
「しっかしおっさん連中も受付のねーちゃんも俺たちのダンジョン行きに反対しやがって今は実力不足でもやってみなきゃわかんねえんだよ。それに家から持ってきたこの剣があれば敵なっしてなあはははは!」
剣士の高笑いとともにパーティーは闇の月へと吸い込まれるように入っていった。




