封印の祠へ
『すまない、先に行っててほしい。』
翌日の朝、アルフと会って開口一番に言われた言葉。
なんでも父狼のアダント様に聞きたいことがあるんだとか。
「うん、わかったよ!といっても出発してあっという間に追いつかれそうだけどね!」
『そのつもりだ。』
『それじゃあお兄様、また後で会おうね!』
『…アルフ、さま。』
ユリアとアンジュは快く承諾したが、ルイシャは心細かったのか、小さな声でアルフの名前を呼んでいた。
ルイシャの気持ちを察したのか、アルフはルイシャの傍まで近寄ると、頭を差し出し、ルイシャは差し出された顔を優しく抱擁する。
『大丈夫だ、安心してくれ。聞きたい事を聞き終えたらすぐに追いつくよ。それに祠まではユリアにアンジュ、ウルティア。そしてラーナとリリが一緒に居てくれるから安全だ。』
『…はい。』
『それじゃ、また後で会おう。』
アルフは皆と別れ、ユリアたちはその場を後にした。
ラーナはリリの背に乗り、その機動力を生かして先行して周囲の安全を確認する。
要は斥候のような役割をこなしてくれていた。
ラーナ自身もそういった仕事は得意なようで、リリという機動力を得たラーナの斥候としての仕事ぶりはとても凄まじいものだった。
またウルティアの種族として持っている固有ユニークスキル≪武人奮域≫という、某ゲームの"虫よけスプレー"みたいな効果を常時発動しているので大抵の魔物たちはユリアたちに近づいてこなくなる。
またそのスキルの影響を受けなかった魔物が近寄ってきても、ウルティアやユリアたちがいるため、そうそう苦戦することはないだろう。
ユリアに限っては勇者としての力が覚醒しているため、魔王クラスの魔物、もしくは強力な侵蝕汚染体でもない限りは問題ない。
ユリアたちの行進は順調で、半日であっという間に祠まで後半分という所まで来ていた。
ルイシャは黒蜘蛛の背に乗って移動していたが、今後の事も考え、お昼を過ぎたあたりでルイシャの体調を気遣い、一旦休憩も兼ねて近くに流れている川に腰を据えていた。
ラーナとリリは川の中に入り、はしゃぐように水をばしゃばしゃと掛け合って楽しんでいた。
アンジュはルイシャに治癒魔法を掛け、ウルティアは周囲の警戒とリリのはしゃぐ姿を見守るように眺めていた。
ユリアはアダントからもらった祠の位置が指し示された地図と自分たちが今いる場所を照らし合わせ、今後のルートに頭を悩ませていた。
『どうしたの?』
「うーん…。それがね? この先の道のりがどうもこれまでとはいかない感じっぽいんだよね~。」
『ふーん?』
「どうにもこの先に崖があって、祠はその下にあるっぽいんだ。」
『崖を降りるの? もしかして壁を使って?』
「ううん、ちゃんと下に続く階段があるみたい。でも強い風が吹き荒れてるみたいで危ないよって書かれてる。」
地図には祠の位置と思われる場所に掛かれた赤丸の横に、"強風注意"と書かれてあった。
それがどれぐらい強いのか予想しづらく、場合によっては体重の軽いルイシャが簡単に飛ばされてしまうほどの強風である場合は移動ルートを変更せざるを得ない。
『それならば問題ない。』
「ウルティアさん?何か案があるの?」
『うむ。その場合は…』
黒い糸で体中を巻かれ、腹部に固定されたルイシャ。
そしてユリアたちも腹部にそれぞれ黒糸を巻き付けており、固定こそされてはいなかったがそれらの黒糸は全て繋がっており、たとえ1人が強風に飛ばされたとしても完全に飛ばされることはないようになっている。
「安全紐ってやつだねこれ…。」
『大丈夫?苦しくはない?』
『はい…、大丈夫です…。』
『お父さん、ありがとうね!』
「ありがとうございます、ウルティアさん!」
ルイシャの次に体重が軽いであろうリリとラーナは、ウルティアに固定されることで飛ばされる危険を回避できた。
ウルティア自身もラーナたちを担ぐように移動することになったが、さほど移動には影響はなさそうだ。
『それにしても、お兄様ったらまだ追いつかないなんて珍しい…。』
「うーん、さすがにルイシャちゃんの大事な用事だからすぐに追いつくと思ったんだけど…。まあすぐに来るでしょ!」
そう。
未だにアルフが追い付いていなかったのだ。
アダントに聞きたいことがあると言い、先に行くように促したアルフ。
すぐに追いつくと言っていたのに、祠まで後少しという所まで来た今になっても追いつくどころか、来る気配すらない。
そんなことを話しながら、ついに祠の入口にまで到達したユリアたち。
黒糸をほどき、一息つく。
だが未だに合流しないアルフに、ルイシャは不安の言葉をこぼした。
『アルフ様…もしかして、何かあったんじゃ…』
「大丈夫、ルイシャちゃん。アルフ君って結構強いんだよ?もし何かあったとしても問題ないよ!」
『そうだよ、ルイシャちゃん。どーせお兄様の事だから道に迷っているとか、どこかで魔物でも狩ってるだけだと思うよ!』
『…そうですよね。』
『そうなってるらしいな。』
聞き慣れた声が背後から聞こえ、振り返るとそこにはアルフの姿があった。
だが身体の所々が赤く染まっており、明らかに何かしらと一戦交えてきた様子だった。
「あ、やっとき…って、え、どうしたの!?それ血?大丈夫!?」
『お兄様!? 今すぐに回復するから待ってて!』
と明らかに尋常ではないアルフの見た目に動揺するも、
『ああ、これは全部返り血だから大丈夫だ。完全にしわ寄せが俺に回ってきたように魔物たちに襲われてな…もう少し早く合流する予定ではあったんだ。すまない。』
アルフの言った"しわ寄せ"という言葉に、ユリアたちはどこか納得した。
自分たちはウルティアのスキルで戦闘なく楽々祠まで来たのに対し、アルフは単独でここまできたのだ。
一時ウルティアのスキルの影響を受けた魔物たちが、ユリアたちが過ぎ去った後、元居た場所に戻ってきたところにばったりとアルフと鉢合わせしたということになる。
「…なんか、ごめんね。」




