表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『双星のヴァルキュリア 外伝』 シリーズ  作者: タカジン
双星のヴァルキュリア 外伝 第七話
PR
7/13

『わたくしはアン姉様を待っているのです! お帰り下さい!ヴァルキュリア様 』――双星のヴァルキュリア 外伝――

プロローグ


「はぁ……アン姉さま。今日も帰ってこなかった」

一体どれ程待ったのだろうか。


春は桜が美しく咲いて散った。

夏はとても日差しが眩しかった。

秋は木々の葉が舞い、心が寂しい。

冬は息が白く凍り冷たかった。

刻の移り変わりを教えてくれたのは、大好きな姉だった。


「神様……どうか、アン姉さまが帰ってきますように」


はぁぁ……

「息が白く凍った……冬はまだ終わらないのね」


「寒いなぁ……アン姉さま」


ずっと……ずっと……待ち続けた。

本文


キィーン……


羽根飾りが共鳴した。

古びた屋敷に光のヴァルキュリア・ルナが

白羽根とともにふわりと舞い降りた。


月明かりがルナを照らす。

長い髪は美しく流れる。

その隙間から垣間見える横顔は

どこか寂しげな雰囲気を醸し出す。


屋敷の中は湿気った空気が溜まり

割れた窓ガラスの破片が散らばっている。

ふと、小さな視線を感じる。


古びたベッドに人形が一体、行儀よく座っていた。

髪は赤いリボンでまとめられている。

色褪せているが、ピンク色の愛らしいドレスを着ている。

孤独と寂しさで満ちた丸い瞳は、ルナを見つめていた。


「……人形?」


感じる……この人形には宿っている。

一人の少女の深い哀しみが。


「なぜ泣いている?

主人はお前を見捨てて何処かにいってしまったのか?」


ルナは優しく問いかける。


「あなたは……神様ですか?」


「私は、リリィです。アン姉さまの言ったとおり。

神様が来てくださった」


「私たち姉妹の願いを聞いて下さるのですね」


人形の声がルナに伝わる。


「姉妹?」


「確かに我は神だ。

だが……願いを叶えることはできない。

我は哀しみを狩るもの。

……戦乙女または、死神とも人は呼ぶ」


なだめるようにルナは伝えた。


「我とともに逝きるがいい。

天界で再び生まれ変わることはできるだろう」


そっと手を差しのべる。

すると、リリィは小刻みに震えだした。


「どうして……」


「私は、一緒には逝きません」


「……アン姉さまとの約束を守りたいのです」


リリィの周りから怒りのようなオーラが揺らぐ。


「この力……」


ボーン!ボーン!

止まっていたはずの柱時計が突然鳴り響き

屋敷全体が揺れる。


「シャー!」

ルナの影から、危険を感じて飛び出したルーンが威嚇する。


「やめて!」


怯えた声が部屋中に響いた。


「ルーン、待ちなさい。この子は何もしないわ」


ルナはルーンをなだめる。


「うぅぅ……」


「私は……私は、大事な約束をしたの」


小さな涙がこぼれ落ちた。

大きな柱時計は時間を刻むことを忘れた。

家具の埃は、雪のように降り積もっていた。


「アン姉さまが帰ってくるのをずっと待ってるの。

でも……いつまで待てばいいの」


ルナは歩み寄った。


「リリィよ……静かにするのだ」


「お前の中に姉上の哀しみが宿っている」


シュッ……

「キャ……」


瞬きぼどの瞬間。剣で哀しみを切り取った。

ルナは少女の哀しみを浄化する。

結晶は漆黒、深い哀しみが宿る。

内には生きたいという強い想いが込められており

赤い炎のように燃えていた。


ルナへ想いや記憶が流れ込む。

10才位の少女だろうか……名前はアンナマリー。

生まれつき体が弱くあまり外で遊べなかった。


「アンナマリー!誕生日おめでとう」


父と母から大きな箱が渡される。


「ありがとう!お父様、お母様。開けるね」


思わず目が大きく丸くなった。


「わぁぁ……なんて可愛いお人形なの」


「大事にするんだよ」


父と母は顔を見合わせて笑っていた。

ブロンドの髪、丸くて愛らしい青い瞳

ピンク色のドレスと赤い靴を履いている。

優しい雰囲気が漂う人形だ。


「名前は……マリア、エマ、うーん、イリス」


「あっ……リリィ!」


「あなたは今日からリリィよ」


「もう遅いから一緒に寝ましょう」


「ベッドで寝る時は靴を脱ぐのよ」


こうして、二人の生活が始まった。


「リリィご飯よ。

今日はフォークとナイフの使い方を言うわ」


「一番外側のフォークとナイフを持つのよ」


「レディの基本その一よ。リリィ、わかった?」


「髪の毛に食べ物が付くわね」


「レディの基本その二よ」


「髪は美しくまとめるの。私のリボンで結んであげる」


「リリィ可愛いわ。もう立派なレディね」


取り出した手鏡でリリィの姿を見て微笑んだ。

ずっと一緒だった。


「リリィいいかしら?あなたは私の一番大切な妹よ。

私はあなたのお姉さま。わかる?」


リリィの髪を櫛でとかしながらゆっくり話しかけた。


「お……ねえ……さ……ま」


「おねえ……さま」


「わたし……の……おねえ……さま」


少しずつ言葉の意味を理解していった。

それと引き換えに、アンナマリーの体調は崩れていく。


「大切な妹リリィ。

ねぇ……生まれ変わったら……本当の姉妹になるの」


「ずっと……一緒よ。約束」


「神様に……祈る……の」


そして、アンナマリーは眠るように息を引き取った。

大切にされてきたものへ、確かに『哀』が宿った。


「アン姉さま……約束です。

私は人間になって一緒になります」


「神様……」


人の死が理解できない。

刻が……残酷なほど過ぎていく。

ルナは目を開き、視線をリリィへ向ける。


「もう一度聞くが、我とともにくる気はない?」


「もしこの先、魂の器である人形が崩壊してしまったら

……リリィも消えてしまうのだよ」


「消え……る。……私が?」


その場の空気が静まりかえる。


「……」


「……ィ」


「リ……リィ」


結晶がルナの手から離れ、微かに語りかけた。


「この声、おねえ……さま?」


ブロンドの髪が赤いリボンでまとめられている。

青いドレスを着た少女がうっすらと浮かび上がった。


「あぁぁ……やっぱり」


「アン姉さま!」


トクン!

止まっていた刻が再び動き出した。

リリィの指先が赤身を帯びる。

目から流れた涙が月の光に反射して

宝石のように輝いた。


「アン姉さま」


「ずっと……ずっと……待っていました」


リリィの思念体が人形から飛び出した。


「リリィ……ごめんね。寂しかったわね」


「もう大丈夫、泣かないで。私の大切な妹」


アンナマリーが手を伸ばし、そっとリリィを引き寄せた。

「アン姉さま」

「リリィ」


二人は両手を握り合わせ、おでこが触れ合った。


「優しくて……温かいアン姉さま」


まばゆい光が包み込む。


「リリィ……まるで溶けていくみたいね」


少しずつ二人の境界が無くなっていく。


ポッ……

結晶から紫色の炎が燃え上がった。

雪が溶けるのかように、結晶は小さくなっていく。


「これは……新たな魂」


次第に紫色の炎は強くなり、ゆっくりとルナから離れていく。


「リリィの希望と……アンナマリーの哀しみ……」


ルナは驚きを隠せなかった。


「ありがとう……女神さま」


「私達は、もう二度と……離れることはありません」


そう言い終わると一気に夜空へ昇っていった。


「救えたのか……哀しみを」


美しく輝く星空をルナはしばらく見つめていた。


「死神とも呼ばれる我が、女神……か」


ベッドには人形が行儀よく座っていた。

もう誰にも……語りかけることはなかった。


これは……『哀』の物語だ。


『わたくしはアン姉様を待っているのです!

お帰り下さい!ヴァルキュリア様』

――双星のヴァルキュリア 外伝――

Fin

エピローグ


一つの命が誕生する。


「オギャー!オギャー!」


赤ちゃんの鳴き声が響き渡った。


「おおっ!生まれたぞ」


「元気な女の子だよ。よく頑張ったね」


「……ありがとう。元気に生まれてきてくれて」


女性は赤ちゃんを壊れもののように優しく抱き寄せた。


赤ちゃんの手には小さな赤いリボンの切れ端が

しっかりと握られていたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ