『双星のヴァルキュリア 外伝 星座になった親子の約束』後編
プロローグ
あぁぁ……神様……どうして
私たち親子を引き裂くのですか。
あの子は……マルコは一人ぼっちになってしまう。
どうしたらいいの……
いや、今は泣いている場合じゃない
私がいなくてもマルコがちゃんと強く生きて行ける
ようにしなければ。
「お母さん……何かあったの?」
マルコが心配そうに私を見つめる。
「……」
そう……私は今、悲しんでいる場合じゃない。
本文
キィーン……
哀しい音だ……羽根飾りが共鳴している。
光のヴァルキュリア・ルナは哀しみに導かれ舞い降りた。
火薬と油の匂いが辺り一帯に漂う。
「重いな……負の想いが強い」
ルナは眉をひそめた。
コツ……コツ……
ベッドに女性が丸く横になって寝ている。
「ゼェ……ゼェ……」
「マル……コ?」
乾いた呼吸とハンカチに吐血のあと。
個室なのは周りに病が拡がらないためだろう。
「あなたが……哀しみの主」
ルナはスッと剣を抜く。
哀しみを切り取り、浄化する。
結晶は漆黒だ。結晶の周りから波動が現れる。
内から守りたい想いがあふれ出ているのだ。
「切ないな。名は……エイミー」
ルナへ女性の記憶と想いが流れ込んでくる。
「……どうしたらいいの」
エイミーは手紙をクシャッと握りしめた。
夫は戦争で亡くなった。
今はマルコと二人暮らしだ。
一ヶ月後
エイミーも工場で住み込みで働くように通達がきたのだ。
「お母さん……どうしたの?」
マルコが声をかける。
「何でもないわ。さあ、寝る前に星の話をしましょう」
「うん!」
窓から星を眺めながら話をするとマルコは眠った。
次の日……
エイミーは工場へ行くことをマルコに打ち明けた。
「嫌だ!行かないでよお母さん。一人にしないでよ」
「ごめんね、マルコ。
お母さんではどうすることもできないの……」
「一年間よ、それが終われば帰れるわ。
それまでは親戚のおじさんの家で待っていて。
お願いよマルコ。いい子でしょ?」
じわっと目頭が熱くなるのを必死に我慢した。
「……ねぇ、お母さん……絶対だよ。
一年で帰ってきて。約束して」
「約束よ。お母さん、絶対に帰ってくるわ」
指切りを交わした。
エイミーは親戚たちの家を訪ねた。
「マルコをよろしくお願いします……」
「……うーん、うちも家族を養うので精一杯なんだが」
「困ったねえ……」
「……なぁ」
「……」
ジャラ……
「これで!お願いします……亡くなった夫の保険金です。
マルコを……一年お願いします」
「……わかった、いいだろう。ただし、一年だけだ」
「ありがとうございます。感謝します」
「私が出発する日に、マルコを連れてきます」
「わかった。マルコを預かろう」
エイミーは深々と頭を下げて帰っていった。
「マルコ!」
ぎゅー……
「お母さんどうしたの?苦しいよ」
「晩ご飯を済ませたら
たくさん星の話を聞かせてあげる」
「やった!」
「はるか昔、神様たちが川辺で楽しく宴会をしていたの。
そこへ悪魔が現れた。
驚いた親子の神様は魚に姿を変えて川へ飛び込んだの。二人は離ればなれにならないように
帯でつないで逃げたと言う」
「……」
エイミーは眠ったマルコのほっぺに口づけをして
愛おしそうに手を握った。
雨がポツリポツリと降り始めた。
「お母さん!お母ーさん!」
泣かないと決めたのに
マルコの目から涙が止めどなく流れた。
母親が見えなくなってもずっと、ずっと見つめ続けた。
「両手をあげて。何も待って帰ってないな」
ポン、ポン、ポン……
必ず仕事終わりは監視のチェックが入る。
「パンも固い……スープも薄いし、地獄ね」
「早く故郷に帰りたいわ」
「ハハハッ、みんな鼻の周りが黒いわよ」
工場での作業は長時間に及んだ。
住居は4人で一部屋、二段ベットで共同生活だった。
半年ほどたったある日。
「ゲホッ、ゲホッ……胸が……痛い」
目の前が急に暗くなった。
気がつくとベットに寝かされていた。
「エイミー大丈夫?」
部屋の同僚が心配そうに声をかける。
「ありがとう。ちょっと疲れたのよ」
ゲホッ……ゲホッ……
咳が止まらなくなり、熱が下がらない。
再び意識が遠くなっていく。
「エイミー!」
医務室で詳しく診てもらうと
肺の病でもう手のつけようがなかった。
エイミーは個室に移動させられた。
「マルコ……ごめんなさい。
帰って来たら星の話をする約束をして
今まで頑張ってきたけれど……」
ゲホッ、ゲホッ……
口にハンカチを当てると血がにじんだ。
「寂しかったでしょう……マルコ。
振り向きたかったわ」
「私が泣いたら、あなたはもっと悲しくなってしまう。
そう思って、我慢してしまった」
目から涙が流れる。
「お母さんも本当は胸が締めつけられて
痛くて……切なかった」
「やっぱり……一緒に泣いたらよかった」
「ごめんね……マル……コ」
ルナは目を開いた。
「……エイミーよ」
「人の死は……残される者が弱ければ弱いほど
哀しみは深いものになる」
トクン……
「この感覚……何だ」
結晶から伝わる波動が少し変化した。
まるで羅針盤がある方角を示すように。
「我に伝えているのか……」
トクン……トクン……
ドクン……ドクン……
「……何かくる……ルナ?」
「ミスト」
「なるほど……胸の宝石が騒ぐわけだ」
「……マルコよ」
結晶がミストの手に浮かぶ。
エイミーの波動がマルコを包み込んだ。
「ルナ……これは」
「ミスト、お願い」
結晶をミストの前に差し出した。
「……魂は二度と戻ることはできない」
「……」
コクン……
「マルコ……行くがよい」
「ミスト……さぁ、エイミー」
向かい合った二人は唱えた。
「我ら……ヴァルキュリアの名において
この迷える哀しみの魂を導かん」
「今……我らが鍵となり、天の扉を開け!」
ルナとミストは両腕を広げる。
天へ一筋の光の柱が延びていく。
「さあ……ともに永遠に逝くがいい」
二人は、確かめ合うように回ったり離れたり飛び回った。
光の帯が現れ、手を伸ばすようにお互いがつながった。
ゆっくりと天に登り始める。
エイミーがマルコの手を引き
夜空を歩いているようだ。
少しずつ上がる速度が早くなり
二人は並んで星座となった。
天の川のほとりで二ツ星は永遠に輝き続けるのだ。
これは……『哀』の物語だ。
『双星のヴァルキュリア 外伝 星座になった親子の約束』後編 Fin
エピローグ
ミストはルナへ視線を向ける。
「神である戦乙女が人にここまでするとは」
「ミスト……ありがとう。
でも、まんざらではないのでしょう?」
「ふん。ルナ、今回は特別だ」
ミストは腕を組み、ルナに背を向けた。
星座を見上げるミストの唇は
少し弧を描いているように見えた。




