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『双星のヴァルキュリア 外伝』 シリーズ  作者: タカジン
双星のヴァルキュリア 外伝 第十四話
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『私は守れなかった……暗殺者の大切な人と帰る場所』 双星のヴァルキュリア 外伝 前編

プロローグ


大切なものを守る時、人は心に鬼を宿す。

全てを失った時、深い哀しみが生まれる。


そうだった……人なんて信じてはいけなかったんだ。

忘れていたよ。

私はいつの間にか、甘くなってしまった。


いや、あの子たちが信じることを教えてくれたのか。

でも、信じてみたらこんなことになるなんて

私のせいで、巻き込んでしまった。


痛かったよね……怖かったよね……


みんな……ごめんね。

本文


「エリー……」

今にも途切れて消えてしまいそうな女性の声。


キィーン……

響いてくる……頭の羽根飾りが強い哀しみに共鳴した。

スッ……

柔かな白羽根のように地上へ舞い降りた。

白のミスト・ヴァルキュリア

純白で統一されたその衣装と甲冑は美しく神秘的で

流れる髪は炎でより輝いていた。

その瞳は冷たさを感じさせる。


視線の先に、絶命寸前の女性が倒れていた。


「みんな、私の……せいで」


口が小刻みに震え、哀しみが漂い始めている。

背中から肩に刺さっている矢が痛々しい。


「哀しみよ、もう誰も憎む必要はない」


シュッッ!


振り上げた腕から神の糸が放出され

哀しみに絡み付いた。

腕を引き下げると瞬く間に、哀しみは切り裂かれ

浄化されていった。

生まれた結晶は漆黒だった。

内部から闇が霧のように漏れ出ていた。


「深いな……哀しみが。人に絶望もしていたせいか」


ミストは目を閉じる。

彼女の想いと記憶が流れ込んできた。


「名前は……ニコル」


ゴォォー!


火花が舞い散り、炎が赤く闇夜を照らした。


「ここなら見つからないだろう」

「ニコル!

ここから絶対出てはいけないよ。いいね?」


浅い枯れ井戸に身を隠す。


「怖いよ! 行かないで」

「お父さんとお母さんが朝になったら

迎えに来るからね。静かにするんだよ」


そう言い残すとその場から離れた。

何が起こったのだろう。


「お父さん、お母さん。暗いよ……早く来て」


穴から見える空は少し赤く染まっていた。

一体どれ程時間が過ぎたのか。

辺りは静まり返り、空は青くなっていた。


「展開して村を捜索しろ!」


太く低い男の声が響いた。


「何が起きてるの?」


待ちきれず井戸を少し登ってみる。

鼻に焼けた匂いが絡み付く。


「みんな……壊れてる」


煙が立ち込め、建物は焼け落ちていた。

もはや見慣れた風景は無かった。

馬に乗った男達が何かを探しているようだ。


「ん? 何か今動いたか?」


そばを通りかかった男が呟いた。


「はっ!」


思わず隠れるが、井戸の小石が崩れた。


カラン……


「何かいるな。気を付けろよ」


ザッ! ザッ!

足跡がゆっくりと近づく。


「ごめんなさい!」


耐えきれずニコルは飛び出してきた。


「子供! びっくりさせる。一人か?」

「殺さないで」

「団長のところへ連れていくか」


ニコルは傭兵団の団長の前に連れていかれる。


「生き残りか? どこに隠れていた」

「井戸の中……」

「お前以外は全滅だ。運が良いなぁ」


その口調は少し楽しんでいるように感じる。


ガリッ!


「つっ……!」

「クソガキが! 勘違いするな!

俺達は命令で村を守りに来てやったんだぞ」


ドカッ!


ニコルは飛ばされた。


「噛みやがって。まあいい」


手からうっすら血が滲んでいた。


「お前のその根性、気に入った。連れていく」

「いいんですか? 足手まといになるのでは?」


不満げに部下が割って入った。


「死んだらそれまでだ。名前はなんて言う?」

「……ニコル」

「来い、ニコル。生きるか死ぬか

これからはお前次第だ。ここにはもう誰もいない」

「両親のことも忘れろ」

「……」


ニコルはただ唇を噛み締めた。


「戻るぞ! ニコル、お前は俺の後ろに乗れ」


砂煙が舞い、傭兵団は村から撤退した。


「お父さん……お母さん」


流れる涙は、風に乗って散っていった。


「止まれ!」


団長が手を上げるとそこは傭兵団の夜営場だった。


「降りろニコル。今日はここで休む」

「これからは団の一員として働くんだ。いいな」


ニコルに選択の余地はなかった。


カン! カン! バキッ!


「遅い! 今のが本物の剣だったら死んでるぞ」


どなり声が響く。


「ハァッ……ハァッ……くそっ! まだだ!」

「甘いんだよ! ニコル!」


ドカッ!


「グハッ……」


みぞおちに木刀が当たりうずくまった。


「今日はこれで終わりだ。さっさと立って飯だ」

「覚えてろ、いつか倒す」


土を払いながら食事に向かう。

地獄のような団長、シローの稽古は続いた。


「ニコル、次からこれを使え」


シローから剣と革製の鎧を受け取る。


「迷わず敵は斬れ! 死ぬぞ」


木刀と違い、ずっしりと手に重みが伝わった。


「集まれ! 次の任務が決まった。作戦を伝えるぞ」


作戦は小さな砦を奪うことだった。


「集まれ! 次の任務が来た。説明するぞ」

「国境付近の砦を奪う。ざっと五十人程度の規模だ。

だが、油断はするなよ」

「俺達は三つに別れて砦を包囲する。出発は明日だ。

それまでは準備を怠るなよ」


皆慣れているのか武器の手入れに余念がない。


「ニコル、お前は初陣だ。俺の後ろに着いてこい。

いいな?」


シローが声をかけてきた。


「は、はい」


思わず剣を握りしめた。


「戦いたくない……怖いよ」


寝床に入っても胸の高鳴りは止まらなかった。


「神様どうか……お助けください」


ニコルは目を閉じた。

移動を開始し三日目、砦前で三つに別れた。


「霧で前が見えないよ」


手に汗が滲み、胸がドクドク脈打つ。


「好都合だ。合図で一斉に仕掛けるぞ。離れるなよ」


ピュー!

合図の鏑矢が放たれた。


「いくぞ! ニコル」


バキッ!

 

「ギャー! 腕が! 腕がぁー!」


敵兵の片腕が飛んでいった。


「おらおらおら!」


シローは圧倒的な強さを見せつけた。


ピッ!


「なに? 血が!」


切っ先から血が跳ね飛び、ニコルの頬っぺたに

付着した。


「嫌だ! 死にたくない」


剣先が恐怖で震える。


「グエッ!」


矢がとなりの味方に刺さった。


「ヒィィ! もう無理よ」


即死だった。


ドカーン!

砦の門が壊された。


「よし行け! 一気に制圧しろ!」


返り血で染まったシローが叫ぶ。

次々と各部屋を制圧していった。


「頼む! 殺さないでくれ!」


降伏の白旗を振っている。


「もういいだろう。ここで一番偉いやつを連れてこい」


しばらくして、縛られた男達が数人連れてこられた。


「ニコル、一人切れ」


シローが一人の男を指差した。


「や、やめろ! もう抵抗はしない。お願いだ!」


男は涙を流して懇願した。


「私は……できない」

「お前は今日誰も殺っていない。さあ! 殺るんだ」

「それともニコル、お前が代わりに死ぬか?」


シローの目は本気だった。


「……ご、ごめんなさい」


ニコルは剣を握りしめ、振り上げた。


「やめろー! ガァァー!」


床に鮮血が広がっていく。


「う……うぇー!」


生々しさに思わずニコルは吐いてしまった。


「ははははは! 

まあ、上出来だ。お前も少しは成長したな」


シローと周りの者は肩を叩き合いながら笑った。


「よし、情報も手に入ったことだ。

今日は大いに騒ぐぞ!」

「おぉぉー! さすがシロー団長!」


皆は盛り上がっていたが、ニコルはそんな気分に

なれるわけがなかった。


「ガハハ! あいつらは俺が怖かったんだ」


宴会の騒がしさからニコルは逃げてきた。


「私は……一体何をやっているんだろう」


砦から見える月は、何も答えてくれなかった。

ニコルの初陣はこうして終わった。

この依頼を皮切りに

傭兵団は少しずつ名が知られるようになる。


シローの勇猛果敢な戦い方と

与えられた任務を確実にこなしていくからだ。


その姿を見てきたニコルも

初陣の頃の姿はもはやなかった。

今では五本の指に入るほどの腕前になっていた。


「大きい依頼がきたぞ! 集まれ! 早速作戦会議だ」


国王軍からの依頼状を読み上げた。


『シロー殿、敵軍の補給路を完全に断つため

拠点となる村全てを壊滅して欲しい。

方法は貴殿に任せる。

また、必要な物資はこちらで調達し用意する。

報酬は直接、国王との謁見の時に伝えて欲しい』


「依頼内容は以上だ。村を全て破壊し、壊滅させる。

村人も一人残らず生かすな。いいな?」

「要は全て消してしまえばいいと言うことだな。

簡単じゃないか」

「そうだ、何も考えることはない。

終われば好きなだけ報酬が手に入る」

「ここに入って正解だったぜ!」


一気に指揮が高まった。


「夜になったら村を襲撃する。

今回は四つに分けて包囲する。

誰も逃げられないように村への入口を全て塞ぐんだ。

建物には火矢を使え」

「……」


ニコルだけは違った。


「シロー団長、無抵抗な村人を殺めるのは

私はあまり賛成できない」

「そう言うと思ったぞニコル。お前らしいな。

今回は国王からの依頼だ。断る理由はない」

「汚い仕事をさせているだけかもしれない」


必死に訴えかけた。


「嫌なら、着いてくるだけでいい。もう決定だ」

「……シロー団長」


ニコルは愕然とした。

国王軍が村人を殺したとなると

民衆の反乱が起きかねない。


「だから傭兵団を利用したのか」


ニコルだけでは何もできなかった。

作戦当日、四つに別れて合図を待った。


「私はどうすればいい」


ピュー!

ニコルに迷う時間はない。鏑矢の合図だ。


「よし、火矢を放て!」


ザク! ザク!


ボワッ!

少しずつ赤く村全体が染まっていく。


「出てきたら順番に切っていけ!」


シャッ!


剣が抜かれ、村人が出てくるのを待つ。


バタン!


「早く出ろ!」


村人が出てきた。


「よし今だ! 行け!」

「キャー!」


惨劇が始まる。


「逃げろ! 早く!」

「逃がすかよ!」


バタッ!


「ゲホッ! ゲホッ! 助けて下さい」

「ここに武器や食べ物を蓄えてないか?」

「そんな事聞いたことないです」

「そうか」


バシュ!


「ギャー!」


人の血で村が赤く染まっていった。

焦げた匂いが鼻を突き、炎が熱風となって

村中を駆け巡った。


「お母さん……起きてよ」


倒れた母親を起こそうとする子供。


「や……やめて。同じじゃない」


ニコルの脳裏に記憶が甦る。


「お母さん……お父さん」


崩れ落ちる村を見てニコルはもう限界だった。


「もう……嫌!」


走り出したニコルを見たシローは仲間に追わせた。


「団を抜ける事は許されん! 追いかけろ!」

「もし抵抗するなら、殺して構わん!」


弓矢を持った追手が迫る。


シュッ! シュッ!


ニコルの耳元で矢が風を切る。


ズンッ!


「クッ! まだっ!」


左肩に矢が命中し、ニコルはよろけた。


「ハァッ! ハァッ! まだ死ねない」


木陰に身を隠し、追手を待ち伏せた。


「血の跡がなくなった。どこだ!」

「グァッッ! ニコル……お前」


ドサッ!


追手が背を向けた瞬間、ニコルの剣が光った。


「うぅぅ……ここまでか」


森を抜けたところでニコルは気を失って

倒れてしまった。


ガタン! ガタン!

ニコルへ灯りが近づいてきた。


『私は守れなかった……暗殺者の大切な人と帰る場所』 双星のヴァルキュリア 外伝 Fin

エピローグ


焼け落ちた村が朝を迎えた。

もうそこには、動く人影も何もない。


「逃げられだと! 探せ!」

「団を抜けるということは死を意味することだ! 

それをわからせてやる!」


シローの横顔が怒りに歪んでいた。

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