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『双星のヴァルキュリア 外伝』 シリーズ  作者: タカジン
双星のヴァルキュリア 外伝 第十二話
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12/13

『双星のヴァルキュリア 外伝 戦乙女と歌姫のレクイエム』前編

プロローグ


冷たい……感覚が失われていく。

「私……どうなっちゃうの。身体がもう動かないよ」


誰?

「……フィア」


呼んでる?

「ソフィアおいで」


ぼんやりと黒い衣装の女性が呼んでいる。

「……シスター? 私、帰って来たの」

これは夢? 景色が変わっていく……


「私……歌うのが大好き」

屈託のない笑顔を見るだけで伝わってくる。

両手でハープを抱き締めた。


「ソフィア、好きって大切よ。

この歌声は神様が与えてくださったのね。

誰も真似できないわ」


「ハープを大事にしなさいね、ソフィア」

「うん!」

「シスターありがとう」


その歌声は迷える魂を天界へと導くだろう。

そう言われる程、聞く者を魅了した。

歌声を聞いた者は死をも忘れてしまうと言われた。

本文


「ハァッ…… ハァッ…… ハァッ……」

「ここまで来れば、大丈夫かな」

「これでやっと……歌わなくてすむ」


口元が僅かに弧を描いた。


ポトッ……


「あれ……私、泣いてるの? どうしてかな」

「これ以上みんなを不幸にさせないためなのに

……死なせないためなのに」


涙はソフィアの心を洗い流した。


「歌いたかった……本当はみんなに幸せになって欲しかった」

「でも! もうこんなの嫌」


バタッ!バタッ!バタッ!


「やっと追いついた。ソフィア!戻ってこい」

「そうだ、お前の歌を聞きたい奴が待ってるんだ」


ジリ……

兵士達が距離を詰めてくる。


「こないで……お願い」

一歩後ろへ下がった。


「さぁ、おとなしく来るんだ。何もしないから」

ジリ……ジリ……

距離が縮まった。


「嫌って……言ってるでしょ」

首を横に降りながら後ろへ下がった。


ガラッ!


「あっ……」

空が見えた、身体が軽い。


「飛べ……た?」

「アァァー……」

ハープを抱き締める力が強くなった。


「ソフィア!」

兵士たちの声が空しく響いた。


ドン! 

「ガァッ!」

激しい衝撃と痛みが走る。


ビーン!

ハープの弦が切れた。


ザブーン!

「ゴボボボッ……」


川の浅瀬にソフィアとハープは流れ着いた。


「……シスター」

懐かしい……教会の風景が広がっていく。


哀しみが生まれ、辺りを漂い始めた。

その時……風が止まった。


キィーン……

羽根飾りが共鳴して鳴り響いた。


光のルナ・ヴァルキュリアが地上にふわりと舞い降りた。

ゆっくりと目を開く。

その立ち振舞いは、柔らかな羽根のようだ。

長い髪は美しく舞い、その表情は哀しげな雰囲気で

ソフィアを見つめていた。


「哀しみよ……我が導こう」


スッ……

抜いた剣は弧を描き、瞬時に哀しみを切り取り

浄化する。


結晶は漆黒、内からは美しい歌声とハープの音色が

微かに響いて伝わってくる。


ルナへ記憶と想いが流れ込んできた。

「名前は……ソフィア」


一面雪で真っ白だ。町外れの教会に泣き声が聞こえる。


「オギャー……オギャー……」

今にも途絶えそうな弱々しい声。


ギイィィ……

扉がゆっくりと開かれる。


「こんな寒い夜に」

「可哀想に……大変こんなに冷たくなって」

「あなたも、お母様も苦しみ抜いてここまできたのね」


シスターは赤ん坊を腕の中にそっと包み込んだ。


「手紙?」

「名前はソフィアです。どうかお許しください。

この子が少しでも幸せになれますように

神の御加護があらんことを」


シスターは静かに手で十字を切った。


「ソフィア……神が導いて下さったのかもしれない」

ギイィィ……

扉は再びゆっくりと閉まった。


ゴクッ! ゴクッ!

赤ん坊はミルクを勢い良く飲んだ。


「こんなに小さいのに……ソフィア」

「あなたはきっと強くなるわ」

暖炉の側で冷えきった身体を暖めた。


教会にある孤児院でソフィアは育てられた。


「今日は近くの森まで歩くわよ」

「わーい!」

「お弁当持っていく!」

「早く行こうよ、シスター!」


右手をぐいぐい引っ張るソフィアから笑顔がこぼれる。


「はいはい、みんなつまずかないように気を付けてね」

「フフッ……元気ねソフィアは」


シスターは教会の前で弱々しく泣いていた

ソフィアを思い出していた。


「みんな、あんまり離れないでね」

「はーい!」


フワッ……

蝶が踊り、鳥たちが歌っている。

「きれい……」

子供たちは目を輝かせながら進んでいった。

森に入ると少し開けた草原があった。


パン! パン!

「みんなー! お昼にしましょう」

シスターが大きなシートを広げる。

「やったぁ!」

「お腹ペコペコ」


それぞれパンとチーズを手に取り、口一杯に頬張った。

あっという間にお弁当は無くなった。


「みんなで歌を歌いましょう」

「はーい!」


ソフィアは歌うのが大好きだった。

「歌はすっごく楽しいんだよ」

帰り道、シスターと手を繋いで教会へ帰った。

夕日が二人の影を長く伸ばした。


「ドーレーミーファー……」


ソフィアは、教会の庭園で練習をしていた。

すると、歌声に惹かれた鳥たちが集まってきた。

もうすぐ教会で行われる演奏会があるのだ。


「準備はいい?」

シスターは指揮者となって演奏が始まった。

「ラー……ラララララー……」

歌声が教会中に響き渡った。


「みんなとっても上手だったわ」

「お疲れ様」

シスターは夕食を囲みながら話した。


「実は、建国記念日を祝うために記念祭が来月あるの」

「この教会からは……ソフィアが選ばれたのよ!」


記念祭は各教会から歌の上手い者が選ばれる。

国王や宮廷の貴族たちの前で歌うのだ。


「えー! 良いなぁ」

「すごいな! ソフィアおめでとう」

「エヘヘ……みんなありがとう」


恥ずかしさと嬉しさが混ざりどうしていいか

わからなかった。

一瞬視線をシスターに向けた。

その瞳は喜びで満ちていた。


建国記念日の前日

ソフィアはシスターと一緒に出発した。

見る物全てがソフィアには新鮮だった。


「シスター、私あんなきれいなドレス見たこと無いよ」

「道だって、こんなに広いなんて……すごいね」

「そうね、世界はとっても広いのよソフィア」


シスターはソフィアの手を握った。

二人は会場を訪れた。


「うわぁー! すっごく広い!」

声が会場全体に響き渡った。

「ソフィア、明日はここで歌うのよ」

「私は裏で聞いているわね」

シスターはそっとソフィアの頬に手を当てた。

「うん! 私の声を聞き間違えないでね」


二人は会場の下見が終わると宿に向かった。

「ここね」

途中でシスターが立ち止まった。


カラン、カラーン

扉のベルが鳴った。


「シスター? どこにいくの?」

「荷物を頼んであったのよ」

カウンターで荷物を受け取ると、店を出た。


「フフッ、宿に着いたら開けていいわよ」

シスターはどこか嬉しそうだ。

「何? 何? 気になるよシスター」

宿に着くとシスターは机に荷物を置いた。


「ソフィア、あなたにプレゼントがあるのよ」

「プレゼント?」

「開けていいわよ」

包みを剥がすと、四角い茶色の鞄が現れた。


ガチャ……

「これは……ハープ?」

「ええ。ソフィアは歌が好きでしょ。

だからハープを頼んだの」

「記念祭に選ばれたあなたへのプレゼント」

「素敵……一生大事にするね!」


ギュッー!

「もうソフィア、痛いわよ」

力一杯抱き締めてくるソフィアをシスターは受け止めた。


「シスター見て」

ピン!

ピーン……

「素敵な音」

弾かれた弦からきれいな音が奏でられた。


「気に入ってもらえて良かった。

さぁ、明日に備えて寝ましょう」

二人はベッドへ向かった。


「明日はどれ位の人が来るのかな」

ベッドの心地よさにいつの間にか眠ってしまった。

「ソフィア……おやすみなさい。

あなたの人生はきっと明日から大きく変わるわよ」


シスターはやわらかな頬に手を当てて寝顔を見つめ続けた。

「私の大切な……宝物」


『双星のヴァルキュリア 外伝 戦乙女と歌姫のレクイエム』前編 Fin

エピローグ


星たちは静かに、二人を見守るように輝いていた。

歌う事が大好きなソフィアと見守るシスター。

記念祭の目的は国民に国という意識を植え付けていくこと。


だが、今回の目的はもうひとつあった。

それはラグナロク後、人の世は混乱の渦にあった。

それを乗り切るためにある計画が密かに

動いていたのだった

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