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『双星のヴァルキュリア 外伝』 シリーズ  作者: タカジン
双星のヴァルキュリア 外伝 第十一話
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『双星のヴァルキュリア 外伝 白蛇の巫女と金色の鈴』 後編

プロローグ


蛇巫女の誕生は村に広まった。


「しらゆきお姉ちゃん!」

女の子が駆け寄ってくる。


「あっ……」

しらゆきが話しかけようとした。


「だめだよ!巫女様は忙しいんだからね」

「すいません、うちの子が」

頭を下げさせた。


「……」

しらゆきは一礼するとその場を去った。


「私は……何なの? こんな力……」

右腕に食い込ませた爪跡から、うっすら血が滲んだ。

本文


「こんな文字読めないわ」

「鬼門は邪鬼の通り道……注意すべし」

筆が止まった。


「はぁぁ……」

寝ころがり、右腕を見つめる。


模様は少しずつ白い鱗に変化していった。

白蛇のようにキラキラと光に反射して美しい。


「あっ……」

意識が薄れてきた。

草原に一人ポツンと立っていた。

すると、再び白蛇が現れた。


「え……大きくなってる」

白蛇は舌をチョロチョロと出し入れし

何かを感じ取っているように見えた。


赤い瞳はじっと、しらゆきを見つめる。

「暖かい……」

右腕から心地よい熱を感じる。

熱は右腕から肩へ、そして背中から首へ伝わった。


右腕を螺旋状の青白い炎が包み込んだ。

「何! 私の身体どうなったの」

「……」

白蛇は何も答えない。


「ねぇ! 教えて……私は」

驚きと同時に意識が薄れていった。


「夢……何か変わったのかな」

目を開けると夕日が差し込んでいた。

右腕も特に変わった所はなかった。


夜、しらゆきは部屋に向かっていた。

ふと、庭の前で立ち止まった。


「何かしら」

わからない、でも足が庭へ向かった。


ヒタッ……ヒタッ……

耳を澄ますと微かに聞こえてくる。


ヒタッ……ヒタッ……

ゆっくりとこちらに向かってくる。


ロウソクの明かりを前に向ける。

ヒタッ……

止まった。


目を凝らすと見たことの無い生き物が立っていた。

しらゆきの半分もない身長に目は黄色くギラギラ輝き

口は裂け手足の爪が長い。

全身の皮膚は垂れさがり

お腹が異常に大きく膨れていた。


「邪鬼……なの?」

本でしか見たことの無いこの異様な者を前に

しらゆきは動けなかった。


ヒタッ……

距離が縮まる。


「ヒッ!」

思わず声が漏れてしまった。


ヒタッ……ヒタッ……

「ドン!」

バランスを崩して倒れてしまった。


「こ……こないでっ!」

必死に払い除けようとした瞬間

右腕から白蛇が現れた。


「キーッ!」

邪鬼は叫び声をあげ、白蛇に飲み込まれた。


辺りは静寂に包まれる。

「これが……白蛇の力?」

「父様! 母様!」

家に飛び込んだ。


「しらゆき、白蛇様の力を使えるようになったんだよ」

「お婆様と同じだ。

困った人がいたら、力を使って村を守って来たんだよ」


神棚に卵とお酒を供えて祈りを捧げた。

「後は白蛇様の力を上手く使いなさい」

「これからは、しらゆきにしかできないことが沢山あるからね」


布団の中で右腕を見つめた。

「私は……蛇巫女として生きていく……か」


次の日……

「目を閉じて……集中」

「えいっ!」

あの夜の感覚を忘れないために特訓をする。


夜になると現れる邪鬼をしらゆきは次々に滅していった。

集中すると邪鬼の姿が浮かび上がり

周りを感じ取れるようになった。


「邪鬼は生前、罪を犯した人の成り果ての姿」

少し、しらゆきは自信が着いたのだった。

ある時、しらゆきにお祓いをして欲しいと村人が訪れた。


ピチャッ……ピチャッ……

夜な夜な台所から聞こえる音。

だが姿は見えないという。


しらゆきは目を閉じ、右手を掲げる。

「隠れてる?……そこ」

「ギャー! 」

現れた白蛇は次々と二匹の邪鬼を飲んでいった。


「もう大丈夫です。玄関に御札を貼って下さい」

「後、台所はこまめに掃除をして下さいね」

しらゆきは御札を手渡した。

不浄な場所へ邪鬼が迷い込むのだ。


家の者たちがお礼を言いに来た。

「ありがとうございます。蛇巫女様」

その声……

にっこりと微笑むしらゆき。


「パサッ」

朱色の日傘を広げ、家を後にした。


「……」

突然、心の中がぎゅっと掴まれて

締め付けられるように痛かった。


「私だけ……こんなの特別なんかじゃない……呪いだよ」

しらゆきの頬を一筋の涙が流れ

ぐっと右腕に爪を食い込ませた。

じんわりと赤い血が滲んだ。


村人も巫女のしらゆきからはどこか距離を取る。

腕の鱗を見た者は、興味と恐怖を感じているのがわかるのだ。

それがしらゆきを追い詰め、辛かった。


「……しらゆき」

そうすけは小さくなっていく

しらゆきの背中をずっと見つめた。


あの日の事は良く覚えている。

「しらゆきは白蛇様に選ばれたんだ」

遊びに来たそうすけにしらゆきの両親がそう告げた。


「そんな……しらゆきが」

そうすけのこぶしに、ぐっと力が入って震えた。


「今はそっとしてあげておくれ」

「うん……夏祭りまた一緒に行こうって伝えてよ」

「わかった。しらゆきに言っておくよ」

あの時からまともに話したことはなかった。


ポツン……ポツン……

雨が降り始めた。

しらゆきは縁側でボーッと庭を眺めていた。


「今年の雨は異常に多いな」

父親が話しかける。

「もう三日目かしら?」

「何も起こらなければいいがね」

「あっ……」


目の前が突然暗くなった

「また……草原」

草原の中にしらゆきは一人立っていた。

目の前に白蛇が現れ、静かにしらゆきを見つめる。

すると、しらゆきの頭の中に村の様子が流れてきた。


「これは!」

「私はどうすればいいのです!」

しらゆきの目の前がまた暗くなってくる

「……」

白蛇は何も語らなかった。


目を開くと布団の中だった。

父親が運んできたのだ。

夢……大量の土砂が村に迫ってくる 。


「父様!母様!このままじゃ村が!」

しらゆきは必死に訴えかける。


「どうしたんだしらゆき。悪い夢でもみたのかい?」

「山が崩れるの!みんなに知らせないと」

腕を掴んで必死で訴えるしらゆきを見て父親も理解した。

「わかった。村長に話をしよう」


ザーッ……

雨足は強くなる一方だった。

しらゆきは村長に夢の出来事を話した。


「信じられんな。

確かに雨は降り続いておるが山が崩れるとは」

「お願いです村長!

どうかみんなを避難させるように伝えてください」

「皆に家を捨てろと……うーむ、どうしたものか」


ズーン……

不気味な音が鳴り響いた。

「わかりました。私がみんなに伝えます」

しらゆきは飛び出した。


「しらゆき!待ちなさい」

「村長、一先ず山に変化があるか調べに行きましょう」

「うむ、わかった」

村長は山へ捜索する者を集めた。


「ハァッ! ハァッ!」

しらゆきは一軒ずつ山崩れが起こる事を伝えた。

だが、皆は半信半疑だった。

「どうして! 信じてよ!」


ズーン……

また山が鳴り響いている。

「どうしたらいいの……」

ずぶ濡れのしらゆきは一人、山へ向かいだした。


「だめだよ!しらゆき」

腕をぐっと捕まれた。

そうすけだった。


「そうすけ……あなたも逃げて」

腕を振り払ったしらゆきは、白蛇の力を使った。


「何するんだよしらゆき!

今、山になんて行ったら死んじゃうだろ」

「死んだら……祭りだって一緒に行けないだろ!」

「来年……一緒に行こう。約束……そうすけ」

しらゆきは山を登っていった。


「あっ……こんな時に」

目の前が再び暗くなる。

「またこの場所」

草原にまた一人立っていた。


すると、今度は大きな白蛇が再び現れた。

「しらゆきよ……村を救いたいか?」

声は直接、心の中に響いてきた。


「はい、でもどうすればいいのです?

私には何の力もありません」


「儂と一つになる覚悟はあるか?

二度と、人間に戻る事できない」


「……」

他にどんな方法があるのだろう。

「……私は巫女です!」

「わかった。しらゆきよ、意思を強く持つのだ」


バクッ!

白蛇の大口は一気にしらゆきを飲み込んだ。

「……あぁぁぁ!」

しらゆきの瞳は大きく見開き、赤く染まっていった。


ドクン!ドクン!

身体の中で何かが身体中を駆け巡った。

「父様……母様……今までありがとう」

しらゆきの……赤い瞳から涙が散った。


「しらゆきー!」

薄れゆく意識……その声がしらゆきを奮い立たせた。

そうすけだ。


「ありがとう……そうすけ」

「もらった鈴は、ずっと大切にするから」

ギュッ……

鈴を握り締めた。


柔らかな唇は裂けていき、鋭く長い牙が現れた。

背中の白い鱗が全身に拡がり

巨大な美しい白蛇としてしらゆきは生まれ変わった。


しらゆきは流れてくる土砂を必死に受け止めた。

美しい身体を大岩が鱗を剥ぎ取り、大木が突き刺さる。


「私は……しらゆき……もう大丈夫」

意識を必死で保った

「お願い……村を!みんなを守って!」

天に向かって必死に叫んだ。


すると、身体が少しずつ固い岩となっていった。

長い巨大な岩となったしらゆきは村の手前で止まり

土砂は村を避けるように流れて行った。


「今ならわかる、私の使命が」

「だから!みんな……生きて!」


シャン……

鈴の音が響き渡った……哀しい音色。


「私……普通の女の子として生きたかったな」

しらゆきの……哀しみ。


ミストは目を開いた。

「ここ一帯の空気が清らかなのはそのためか」

結晶から、しらゆきが浮かび上がる。


「しらゆきよ、己を犠牲にし、多くの人の命を救った。

お前はエインへリヤーとして相応しい」

「我に仕えよ。邪を喰らう白蛇の力とともに」


ミストは白く美しい腕を伸ばし、手の甲を差し伸べた。

「我が右腕に宿るがいい」

「はい」

しらゆきは、白蛇に変化し右腕に巻き付くように姿を消した。


「我とともに逝きるのだ」

白蛇が蜃気楼のように浮かび上がり

螺旋を描きながら輝いた。


「それでいい」

ミストはその場から音もなく姿を消した。


村人たちは小さな御堂を建て、蛇岩を祭った。


「しらゆき……」

カタカタカタ……

御堂の側に赤い風車が回っていた。


シャン……

その村では風が強い日、鈴の音が哀しく鳴り響く。


これは……『哀』の物語だ


『双星のヴァルキュリア 外伝 白蛇の巫女と金色の鈴』後編 Fin

エピローグ


カタカタカタ……


「風車の音」

しらゆきの姿が浮かび上がった。


「そうすけ……夏祭り行きたかったな」


小高い丘から御堂を見つめる。


「しらゆきよ

これから数えきれないほどの哀しみを見ることになる」


「お前も我と哀しみの先にあるものを見届けるのだ」


「エインへリヤーとしてな」


ミストは歩みを止めた。


「哀しみの……向こう」


しらゆきは首をかしげた。


「哀しみは再び希望に生まれ変わるだろう」


「だが、その想いを利用する者もいるのだ。

我々はそれを忘れてはならない」


「その者たちと対峙する時が来るかもしれん。いいな?」


ミストは再び歩き出した。

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