『双星のヴァルキュリア 外伝 白蛇の巫女と金色の鈴』 前編
プロローグ
「どうして……私だったのかな」
「眩しい……でも綺麗」
簾を指で少しずらす。
バン!
「キャッ」
雪玉が砕けて宙に舞う。
「当たった!白組の勝ちだぁ」
子供たちの声が飛び込んでくる。
「はぁ……」
ため息が白く凍りつく。
あの瞬間から全てが代わってしまった。
「痛い!」
「母様! 父様! 助けて!」
浮かび上がってくる。
白い何かが彼女の身体へ住み着いた。
いや、選ばれたのだ。
「さぁ、そろそろ行こうか」
「はい……父様」
シャン……
首もとの金色の鈴が鳴り響く。
本文
キィーン……
羽根飾りが哀しみに共鳴する。
女神が身に付けている衣装は
全て清らかな白で統一されていた。
白のミスト・ヴァルキュリア。
羽根のように柔らかく地上に舞い降りる。
「……悲惨だな」
折れた大木は地面に突き刺さり
土砂とともに転がり落ちた大岩。
何より目を惹くのは、長くうねる巨大な岩だ。
土砂を食い止め、先の村を守ろうとしているようだった。
シャン……
聞こえる、哀しい鈴の音色だ。
そっと手を大岩にあてる。
哀しみが微かに伝わってくる。
「村が好きなのだな」
岩の頂上に金色の鈴が木の枝に絡んでいた。
「この清らかさ……何者だ」
「哀しみよ、何があったのか教えて貰うぞ」
シュッ……
腕から神の糸が宙を舞う。
哀しみを切り取り浄化する。
結晶は哀しみで満たされ漆黒
蛇状の青白い炎が結晶を守るように取り囲んでいた。
ミストへ記憶と想いが流れ込んでくる。
「名は……しらゆき」
村の少し外れに住んでいた。
ひらり……
風とともに舞う花びらは少し悲しく、美しかった。
「きれい……」
両手を広げ、春を全身で受け止めた。
「父様!母様!早く行きましょう」
ドーン!
パラパラパラ……
夏の花火は、少女の瞳にが赤色や緑色に色鮮やかに染まった。
リーン……リーン……
「大きい……お月様にぶつかりそう」
秋は虫の声と満月を見上げた。
「キャー! 冷たい!」
雪だるまを作った手は赤くなった。
冬は雪で全てが白く覆われた。
幸せで何気のない村の一年はすぐに過ぎ去っていった。
そんなある夏祭りの日。
「父様、あれが欲しい」
屋台で赤い風車がカタカタと回っていた。
「しょうがないなぁ、しらゆきは」
そう言いながら風車を買って貰った。
「わー、ありがとう父様」
「ふぅー!」
カタカタカタ……
赤い風車がきれいに回った。
「見て、父様! きれいでしょ」
カタカタカタ……
風車を持ってしらゆきは、くるくると回って見せた。
シャン……シャン……シャン……
鈴の音が近づいてくる。
ドンッ!
「あっ!」
「うわっ!」
風車の羽根が曲がってしまった。
「風車が!」
目に涙が貯まって今にも流れ出しそうになる。
「あっ! ごめんよ。
急いでたからよく前を見てなかったんだ」
少年が謝ってきた。
「俺の鈴と風車を交換しよう」
キラキラと輝く金色の鈴を差し出す。
「しらゆきも周りを見てなかったんだから謝りなさい」
「ごめんなさい……私はしらゆき」
「俺はそうすけだ。交換しよう」
シャン……
しらゆきの顔が金色の鈴に写し出される。
「うわー、きれい。ありがとう」
「また今度遊びましょう。そうすけ」
「うん、またね。しらゆき」
手を振ってお互い別れた。
ドーン!
パラパラパラ……
花火が夜空に咲いて今年の夏は終わった。
「しらゆき、みんなと川へ行かないか?」
「うん、行きましょう! 母様ちょっと行ってきます」
そうすけたちと一緒に川へでかけた。
「待って」
そうすけを追いかけた。
ドクン!
「うっ……!」
痛みが身体中に広がっていく。
「痛い……痛い! 助けて」
しらゆきの首もとに白く鱗のような模様が見えた。
「しらゆき! 待ってろ、家までおぶってやるからな」
そうすけたちは急いで家まで運んで帰った。
「おじさん! しらゆきが大変なんだ!」
「みんなありがとう、とにかく今は安静だ」
しらゆきの首もとの模様を見て思わず息を飲んだ。
「……後は何とかする。今日は家に帰りなさい」
「しらゆきは大丈夫なんだよね?」
そうすけの声が震えていた。
「大丈夫だ、眠れば良くなる。
また元気になったら遊びにおいで」
「わかったよ」
その時、しらゆきは夢を見ていた。
たった一人で草原に立っていた。
「ここはどこ? 父様! 母様!」
声がこだまする。
何処からともなく一匹の白蛇が姿を現した。
「……」
しらゆきを見つめる白蛇は、何かを確かめるように
赤い二股に別れた舌を口からチョロチョロと
出し入れをした。
「あっ……」
目の前が暗くなっていく。
「あなたは……誰」
暗闇に飲まれていく。
「夢……私はどうしたの」
「!!」
「えっっ! こ、これ……鱗」
震えが止まらない。右腕を思わず布団に隠した。
「あぁ、しらゆき。目が覚めたのか」
「母さん! しらゆきが目覚めたよ」
「しらゆき……心配したのよ。痛みはない?」
しらゆきは夢で白蛇に会った話をした。
「これ……見て」
震えながら右手を見せた。
「あぁぁぁ……しらゆき」
「おいで」
ギュッ……
二人はしらゆきを挟み込むように抱き締めた。
「しらゆきは白蛇様に選ばれたんだよ」
「邪を喰らう力を持つ……蛇巫女として」
ゆっくりと昔話を語りだした。
内容はこうだ。
昔、神の使いとされる白蛇様が傷ついていた所を助けた。
その代わりに白蛇様の力を分けてもらった。
力の強い者は女性に多く
白蛇に姿を変えることもできたと言われる。
力に目覚める時
身体のどこかに白蛇様の姿が浮かび上がるという。
「しらゆきの婆様も力が強かったんだよ」
「見えないものが見えてくるかもしれない」
その夜、しらゆきは眠れなかった。
夜風に当たろうと立ち上がると
話し声が聞こえたので近づいた。
「……しらゆきに力が宿るなんて」
「力を使えば、あの子の寿命が吸われていく
……婆様のように」
父と母は泣いていた。
「私はどうなるの……そうすけ」
布団にもぐり込み、鈴を見つめた。
「もう……あの頃には戻れないのかな」
春は桜を……
夏は花火を……
秋は月見を……
冬は雪だるまを……
思い出が頭をよぎり、目頭が熱くなった。
「そうすけ……もう会えないのかな」
鈴を握り締めて眠った。
『双星のヴァルキュリア 外伝 白蛇の巫女と金色の鈴』 前編 Fin
エピローグ
蛇巫女としての運命を受け入れるしらゆき。
身体には首から背中に白蛇が浮かび上がり
右手の手首付近まで伸びていた。
その模様を好奇な目で見る者もいれば
恐れて遠ざかる者もいた。
少しずつしらゆきは孤独を感じるようになる。
シャン……
首にかけた金色の鈴が哀しく響く。




