【Episode M:Jealousy Looks Best from Above/嫉妬は、高所からがいちばん美しい】
<Chapter4> <72>
結城くんの行方不明から数日後、もちろんだが結城くんからの連絡はない。サクラさんもあの連絡以降、連絡はない。
ただ、あの連絡の時に結城くんの家の住所を聞いていたので休みの合間に向かう事にする。関係と言えるほどのコミュニケーションは取ってなかったし。義理立てする必要はないが、最後の結城くんとの電話でどうにか出来たんじゃないかなと自責の念に駆られる。
「ったくー。心配かけさせんなよな。」
サクラさんは直接は言ってこなかったけど、声のトーンで落ち込んでるのがわかった。だいぶ上手く行ってないのだろうと勝手な想像を膨らませる。
私としてはサクラさんのチカラになると言った以上、自分に出来ることを考え、有益な情報を提供することだと思っている。
地図アプリをしながら目的地、結城君の家に向かう。閑静な住宅街で住みやすそうだった。目的地の家に到着して確認すると、入場禁止の黄色いテープなどは無く訪問は可能だった。
呼び鈴を鳴らし在宅の有無を確認する。5分ぐらい待ってみるが応答はない。まあ、流石に出てきたらグーパンチだけど…すると隣の家から住人らしき人が出てきた。
「あら?お隣さんに用事かしら?残念ね。つい先日、引っ越したのよ。元々奥さんと息子さんだけで、旦那さんが家にはあまり帰らなかったけど、奥さんが言うには旦那さん?だったか、息子の仕事の都合?とかで急遽引っ越す事になったんだって、元々息子さんは下宿するって話だったけど予定がかわったとかなんとか…」
「そうなんですか…行き先とかは知らないですよね?」
「そーねー、流石にわからないわねぇ。急な引っ越しって聞いたのにその日のうちに業者が来てその日のうちに引っ越したから夜逃げとかではなさそうだけど」
たしかに、その日のうちにってのは奇妙な話だった。下宿するってのはサクラさんの所で間違いないけど、急遽からの当日引っ越しは何かありそう。お隣さんの報告が遅れるとかは十分あり得そうけど、下宿からの引っ越しまでのスピードが早すぎるのと時期的にはサクラさんから言われたみたいに結城くんが行方不明になったのと時期が被る。
「最後に1ついいですか?引っ越しの時に旦那さんや息子さんとお会いしましたか?」
「えーと、旦那さんは急遽過ぎて帰れなかったらしいけど、奥さんと挨拶来てる時に息子さんもいらっしゃったわよ」
「そうなんですね、ありがとうございます。」
情報を頂いた奥様にお礼を言ってその場から離れる。向かいのビルの前の路地裏に隠れて、考えを纏める。
「やっぱりおかしい。手際のよさと流れが家族でどうにか出来るレベルを越えている。しかも行方不明って言ってたけど挨拶に来てるなら本人の可能性が高いかも?存在が消えたって言ってたからダメかと思ったけど、存命なら安心…けど何でサクラさんや私に連絡がないのだろう。」
考えても考えを越えている以上、どうしょうもできない。さてどうしようかと上を見上げたときに監視カメラを見つける。その向きを目で追うと、大通りを挟んで結城くんの家の方に向いている。
「もしかして、カメラに写ってるかも…」
ただ、問題はカメラの映像を見せてもらえない可能性がある。一般人に見せてもらえない可能性…あっ!賭けにはなるけど…
ビルの中に入り、警備室に向かう。
「あのー、お忙しい所とすいません。無理なのを承知でお願いしたいのですが…表のカメラの映像を見せてもらうことは出来ないでしょうか?」
「理由はどのような事ですか?もちろん責任者には確認しますが?」
私はすごく申し訳ない顔をして
「実は妹がこの付近で痴漢に遭って、犯人を捕まえたいのですが証拠がないからと言って警備兵は取り合ってくれなくて…この方向に逃げてるのは間違いんで確認できれば…。あんな目に合わせた犯人を許せなくて…」
そんな大それた嘘を並べ、嘘泣きをして可哀想な物語を並べる。すると…
若い警備員が困っていると後ろから来た、年配の警備員が
「そんな事なら協力してあげるよ。確かに決定打がないと警備兵は動いてくれないからね。けど、身分証を控えさせてもらうのとカメラの操作は我々がするけどいいかな?」
「もちろんです!ありがとうございます」
「まあ、我々もそんな人を無下にするのは心苦しいですから…えーっとクロセ…ミコさんですね。身分証ありがとうございます。これで大丈夫です」
年配の警備員は提出した身分証を確認して返してくれる。てっきりコピーとかされるかと思ってたけど。名札には“梶原”と書いていて優しい声で
「カメラはね、何かあったときに見るためにあるんだ。見る理由があるなら使うべきだね」
すごく優しい言葉だけど、この人の何かが協力してくれているのだと思う。ただ、そう思ってしまうと梶原さんに嘘ついている事が心苦しくなる。
ただ、そうは言ってられないしチャンスなので気持ちを切り替える。隣に住んでいた奥様から聞いた日にちに日付と時間を設定して再生をお願いする。
「このまま再生お願いします」
「はい」
操作するのは梶原さん。後ろから私は事細かに早送りと停止をお願いする。ふと梶原さんの胸ポケットから銀色の懐中時計が見える。全体は見えないが、高価そうな代物だった。
聞いた話の時間になると、家から男女が出てくる。たぶん結城くんとお母さんだろう。隣の奥様に挨拶している風景が写し出されている。流石に顔や詳細までは小さくてわからないが“青髪の青年”なんて彼ぐらいだろう。
挨拶から数分後、大型トラックが来て20人ぐらい降りてくる。引っ越し業者にしては人数が多すぎる。手際よくトラックへ積み込んでいく。段ボールもあるが殆どは、梱包されていないので明らかに急遽引っ越しをしたのがわかる。
そして呼び鈴が鳴った事とこの急遽の引っ越しを考えるとまだ戻ってくる可能性が少しある。考え事をしてると梶原さんが
「“収穫”はあったかな?」
その声でハッとして慌てて
「あー、えーっと写ってないですね…もしかしたら手前で方向変えたのかもしれません」
「そうですか…犯人が無事に捕まればいいのですが…」
「ご協力頂いたのにすいません。」
「いえいえ…そうだ。隣のビルは“カメラと同じ方向で見れますよ”そっちのビルは上っても怒られないですね」
一瞬、何を言っているのかわからなかったけど、次の瞬間ハッとして“言いたいこと”がわかったのだった。
「そうなんですね。ありがとうございます。機会を見て確認に行きます。お仕事中にお邪魔してすいませんでした。」
「気を付けてお帰りくださいね。最近この辺りも物騒になってきたので」
「お気遣いありがとうございます」
私はビルから出て、隣のビルを見る。外階段で問題なく屋上まで行けそうだった。確かに監視カメラのビルと近くで勇気があれば跳び移ることができそうだった。ただ、昼間だと目立ちそうなので夜に来ることを考える。
シェルターの夜の時間は正確で時間通りに日没になる。私は一旦家に帰り。動きやすい服装、目立ちにくい色に着替えをして昼間のビルの隣の階段へ向かう。
鍵はかかっているが劣化していて、隙間から入ることが可能で、そのまま身を屈めながら屋上に向かう。数十分かけて屋上に着くと冷たい風が頬を撫でる。寒いと思い身を屈めると声をかけられる。
「こんな真夜中では寒いでしょう。季節はまだ温かくはないので、もう一枚着るべきでしたね」
ドキっとして顔を上げると隣のビルに昼間の警備員の梶原さんがコーヒーを飲みながら笑顔でこちらを見ている。すると梶原さんが不意に何かをアンダースローのようにゆっくり何かを投げる。慌てて受け取ると手の中にはブラックのコーヒーが
「すいませんね。私、甘いのは苦手なんです。安いコーヒーですが温まりますよ」
ブラックの缶コーヒーはまだ温かい状態で、私が来るタイミングを合わせたようにしか思えなかった。梶原さんは胸ポケットから懐中時計を取り出して蓋を開けながら
「詮索はしません。私はただ休憩時間で夜風に当たっていただけですよ」
そう言いつつも、私の行動は見抜かれていた。
「どうして、私があの家を気にしてると思ったのですか?」
「あの時、嘘をつくなら最後まで守り通すべきでしたね。大人はね、例え正しくない事でも知ってしまった以上、その人が守るべき心があるなら助けてあげないといけないんですよ。」
梶原さんの話は低く穏やかで、間を置いてゆっくり話すので心に染み込んでくる。
「私は別の理由なのは直ぐにわかりました。元警官なので仕草などでわかりますね。けど、貴女が悪事を働くような気がしなかったので要らぬ世話ですが、おチカラをと思って」
協力は喉から手が出るほど欲しかったが“こちら側”に巻き込む恐れもある…
「詳細は梶原さんの身の危険を考えて、お話出来ないのですが、あの、赤い屋根のお家で不審なこと知りませんか?」
「確かに監視カメラを見ていた頃に、大型のトラックがバタバタしてたのを知ってるぐらいですね。」
近隣に住んでいるわけでなければ、そのぐらいの情報しか得られないだろうと、ため息をつこうとしたら。梶原さんが持っていた懐中時計の蓋を閉じて
「けど、夜の時間になったら家に明かりがつくんですよ。誰も居ないはずなのに。ただ各日ぐらいですが…」
「え!?ちなみに前回はいつでしたか?」
「一昨日ですね、もちろん。確実ではないですが…でも…よかったです。信じて貰えそうですね。」
梶原さんが家の方を指差すと2階の部屋に明かりがついている。私はびっくりして手すりを乗り越えようとしてしまう。
「今からなら間に合うんじゃないかと思いますよ。電気がついて1時間はいつもそのままなので。」
「すいません!ありがとうございます。また、お礼をさせてください!」
梶原さんは笑顔で横に手を振る
「そんなの要らないですよ。けど、1つだけ約束してください。危ないことはしないようにね。会えるといいですね“青髪の少年”に」
私は深々と頭を下げて階段を降りる。梶原さんの洞察力には感服する。あの短い時間で理解をするのは元だけれども警察のそれだった。
私は慌てて、階段を降りて不在のはずの明かりのついた家に向かう。家の前に立って確認しても2階だけ明かりがついている。梶原さんが言うには1時間ぐらい長い時はいるってことだったので待つことにする。
数十分ぐらい経った時に不意に2階の電気が消える。私はアッと思い、裏口と玄関が見える位置で待機する。どちらから出てきてもいいように…
すると裏口から“青髪の少年”が出てくる。私は逃げれないように走って肩を掴む。男の子はビクッとして後ろに跳んだが私に気がつくと目を反らす。
「…クロセ…さん。お久しぶりです。」
「あんた一体どうしてたのよ?私もサクラさんも心配したんだから」
私は言いたいことが多すぎて、大きな声で早口で喋ってしまった。すると結城くんが
「ここだと、目立つのであそこの屋上で話しましょう。幸いあそこは廃墟で目立ちにくい。」
私が居た所と違うところを指差した。そこは3階建ての小さなビル。私は言われるがまま結城くんについていく。灰色の軍服の背中を見ながら…
私と結城くんは屋上に着くと私は距離を取る。結城くんは自分の家が見える位置に立って家の方を見ながら
「あの家は僕の生まれ育った家なんで、いずれは家族みんなでもう一度住みたいです。だから…」
結城くんは一瞬の間に胸ポケットから拳銃を取り、こちらに銃口を向ける。私は不安が当たってしまったことに、やり場のない嫌悪感を覚える。
「あんたが、その“趣味の悪い服装”してるけど、冗談だと思いたかったわ」
「すいません。でも、僕は世界の平和より僕の家族が大事なんです。だからヴォルガもノアスからも僕が守る。」
「あんたが会った“クレア・アグニ”はヴォルガなんでしょう?しかも“灰の巡礼者”をコントロールしてるって言うじゃない!監視塔どころか、このシェルターを掌握してたっておかしくない!そんなやつの所にいたら、かえって危険じゃないの!」
私がカッとなって結城くんに言っている時にバタンと扉が閉まる音がする。私はハッとなって屋上に来た扉を見たら扉は閉まっていて、その扉の前に“灰色の軍服”を着た男が立っていた。
「急に同行を言ってくるから、どんなのが現れるかと思ったら普通のお姉さんじゃん」
扉の前の男がため息をつきながら言うと結城くんが
「気を付けてください。コントロール出来てないですけど、能力者です。」
この状況は間違いなく罠だ…。私は釣られてしまったんだ。心情を察してか、結城くんが
「状況をわかっていただきましたか?けど、僕はクロセさんも救いたい。私たちと一緒に来ませんか?」
「…私?何を言ってるのよ…。何から救うのよ?」
「クロセさんの頭を一瞬よぎった…サクラさんですよ。もしかしたらあの人が今の状況を作り出してるとしたら?あの人が僕たちを利用して何かをしようとしてるのは知ってますよね?その目的が世界の崩壊だとしたら?」
話が飛躍していて訳がわからない…サクラさんが元凶?世界の崩壊を企んでいる?
「それは無茶があるわよ。都合のいいように言われて利用されようとしてるのよ!」
私もサクラさんの話を全部信じてるわけではないけど、流石に黒幕っていうのは無理がある。結城くんは洗脳とかされている?それはないか。行動に不自然な点はない、立場的に敵対する私に接触する前にサクラさんを襲うことができる。組織に言ってる感じもないから彼の単独行動なのだろう。
「信じる信じないはクロセさんにお任せします。今日は忠告に来ただけです。次にお会いする時は敵になるかもです。でも、もし…こちらに来てくれるのであれば僕から頼んでみます。」
「あんた、ずいぶんこの数日で偉くなったのね。情報でも売ったのかしら?申し訳ないけどお断り。私はサクラさんの味方」
「…そうですか。残念です。いずれ、サクラさんはクロセさんを…いえ。そうなったらクロセさんが止めてください。協力関係はまだ継続してると僕は思ってます。こちらに来るのをいつまでもお待ちしてます」
結城くんが出していた拳銃を胸に戻して、私の横を通りすぎる。その時にフワッとバニラの香水の匂いが鼻をくすぐる。扉の前の男の人に
「隼人さん、すいません。僕の私用に付き合わせてしまって…」
「かまわないよ。今回、俺は任務でもあの人に言われたからじゃない。ただのお節介だよ。だから、事を荒立てる気もない。から気にすんな。」
そう言って、男と結城くんが扉を開けて帰っていった。私は見逃してもらった悔しさより。心に残った疑念と不安に押し潰されそうだった。




