【Episode T :Love Was the First Contamination/最初の汚染は、愛だった】
<Chapter4> <65>
ノアスとの死闘から数日。事件現場に痕跡はあれども、証拠はない。ニュースでも一切取り上げられることはなかった。現場に戻り、聞き込みをするが近隣の人は首を傾げたり、知らないなどの答えしか帰ってこない。あれだけの戦闘や騒音で何事もないっていうのが不思議だった。
まあでも、それを起こした張本人なのだからバレても困るし、近隣の人に化物呼ばわりされるのも良くないな。あの時の姿は今思い出しても寒気がする。
「俺、虫嫌いなんだけど…」
自分の脚が昆虫みたいになってるのが…よし、忘れよう。その時、声をかけられる。
(なーに、現実逃避してんだよ。お前さんが自分でキモがってどーすんだよ。このチカラを見せびらかしてヒーローになろうぜ)
「こんなむっさいおっさんがヒーロー何て言ったら子供が泣くわ。」
(探偵でおっさんで変身できるって完全にかめ…)
「ヤメロ。色々なところからクレーム来るわ」
さっきからずっと話しかけて(?)頭のなかでギャンギャン言ってるのが謎の相棒。チカラを貸すって言うからには、こいつのチカラなんだろうと思うが、当の本人もわからんとのこと。自分の名前も自分自身も全くわからない。
(あん?俺の事バカにしたか?)
「してねーよ。そもそも話しかけてくんな。依頼の報告のメール送ってんのに、話しかけられたら文章を間違うだろうが」
そんなこんなで依頼人に報告書を送る。流石に化物の事は書けないし、個人を特定しそうなことを書いたら報復するやつもいるから詳細は送らない。依頼人さんも仕事が忙しいのか返事は少し遅めだが丁寧に返信してくれる。しかも俺の体調の事も気にして気遣ってくれる。天使なのか?天使に違いない。
(その発言は流石にキモイぞ?)
「うるせーなー!会話じゃない頭の中を覗くな!」
報告も済んで身体を伸ばす。元々、デスクワークは苦手で事務作業も放置するので領収書の紛失もしばしば…
立ち上がりキッチンへ向かう。料理なんてすることもないので買い物袋がそのまま置かれている。その袋からカップラーメンを取り出し、ヤカンでお湯を沸かす。男の一人暮らしなんてこんなもん、料理なんてする奴の頭の構造がわからん。
(なぁ、毎日同じのだと飽きねーのか?)
「ん?毎日同じじゃないぜ?昨日は味噌で今日は塩だ。」
(俺が言ってるのは種類の話だ)
「んなもん、食べれりゃ何でもいいぜ。」
(こんなにお皿があるのにか?お前さんお皿なんて使ったこと見たことねーけど、誰のなんだ?)
「出ていった奥さんと子供のやつだよ。流石にな探偵って不安定な仕事だって我慢してもらってたんだが、男作って出ていっちまった。それから以降は会ってないな。」
(ふーん、お前さん苦労してんだな。一攫千狙って金持ちになって奥さんと娘を迎えに行こうぜ)
「無理だよ。一緒に出ていった男と再婚して、新に子供も出来て今も幸せに暮らしてる」
(一応聞くけど、教えてもらった訳じゃねーよな?)
「うるせぇ」
(ハハッハー未練タラタラじゃねーか。しかも探偵スキルで調べて、いつでも戻ってこれるように道具も残してるとかお前さんなんて…)
「いいじゃんかよぉー。別に相手に迷惑かけてないし、調べたのだって別れてすぐだから数年も前だし、食器も置いてたら捨てれなくなったんだよ」
こんな訳のわからないやつだけど、何だかこいつと話してると悔しいが寂しさが紛れる。いつも家ではテレビだけが話してて自分が喋ることなんて無かったからな
ラーメンを啜りながら、パソコンで調べものをする。
(毎回だが行儀悪いなぁ)
「しかたねーだろ。探偵は情報を集めなきゃ始まらねぇ」
事件として不可解なものはチェックするようにしてる。この前の狗狼会のアジトの一件以降、大きな事件以外でも何かしら不思議なことが起きている場合、可能性があると考えていた。
「ん?○○アパートで集団失踪!?15人も?事件の規模、デカすぎるだろう。流石にこれはないな、隠蔽できてない」
そう。ノアスとか塔の関連の事件については間違いなく“灰の巡礼者”が隠匿しているのは間違いない。あいつらは証拠の隠滅をしていることは調査済み。
「次は各地のガス漏れの情報か、どちらかと言うとこの隠匿の仕方は灰のやつらが関与していることが多いからな」
ガス漏れ地域の周辺には高確率で灰の巡礼者が目撃されている。入ることは出来ないが確認はできる。
(他の住人は疑わねーのかよ?)
「それはそうなんだが、“誰一人疑わない”のが事実だ。俺の時もそうだった。」
「大爆発が2回も起きたところは警備が厳しそうだから無理そうだし、エリアが広いのは中を確認できないな。お?1つだけ家なのがあるな。これなら覗くこと出来るし、封鎖開始も少し前だから手薄だろう。よし、ここに行くか。」
車を走らせて数十分。目的地の少し離れた駐車場で車を停めて後部座席よりカメラを取る。いきなり近隣から行くと目をつけられやすいから、少しはなれた所から聞き込みをする。
「すいません。わたくし探偵をしてます“ミツナリ”と言います。少し伺ってもいいですか?」
少し恰幅のよいマダムが振り返って嬉しそうに
「なになに?不倫の調査?この辺で?」
「いえ、この先のガス漏れの家の事についてです。住まれてた方たちは何処へ?」
「ああ、あそこのお家ね。何だか床下に危険物が出たらしくて、住んでた人は引っ越ししたわよ。警備兵の人が来たけど対処出来なくて、専門の方が数日後に来るみたい。でもね、住んでた人がポロっと言ってたのよ。“光輝く結晶”だったんだって」
(それってまさか…)
「ちなみにその危険物ってまだあるんですか?」
「そうなのよー、怖いからさっさと取っ払ってほしいもんよ。私は爆弾とかじゃないって聞いてたから怖くはないけど、不安よね」
「その家族はどうなったんですか?」
「特別何とかプログラムかなんかで、新都に新居を貰ったみたいなのよ。研究対象か知らないけど、そんなんで一等地の家を貰えるだなんて私も見つけたいわぁ」
「ありがとうございます。参考になりました。よかったら和菓子ですけど食べますか?」
マダムは嬉しそうに「あらぁいいの?悪いんじゃない?」と言いながら申し訳なさそうに手に取る。けど有名菓子店の紙袋に最初から目線が追っていたのは知っている。自分は定型文を答えるように
「いえ、頂き物なんですけど、僕、甘いもの食べれなくて…親切にしていただいた奥様に食べていただければ、無駄にならずに済みますので。また良かったら、お話聞かせて貰えます?」
そう言うとマダムは口では申し訳なさそうに言っているが嬉しそうに頷いている。マダムと別れたら相棒が
(よくもまあ、口から出任せがポンポンでるな。なんで、お菓子なんで買ってるのかと思ったけど手土産か)
ツカサはコートの襟を正して
「そらぁそうだろう。最初に高級菓子の紙袋に持って話しかけたら警戒感は薄れるし、チラチラ視界に入ってる事によって欲しくなる。それを最もらしい言い訳で貰えたら印象は悪くなる事はないから、自分を探られる心配はない。いわゆる口止め料ってところよ」
(そんなんで心を掴めるのか?流石に短絡的では?)
「もちろん、そんなことで箝口令をすることは不可能だよ。あんなお喋りなおばさんは、いの一番に話すだろう。あくまでも保険の1つ。メインは今日の話の内容だから気にしないさ」
(めんどくさいね。偽名もその内の1つか)
「まあ、そんなことより、気になることが…」
(ああ、十中八九お前さんと考えが同じなら“カルマス”だろうな)
「気になるのは何故“回収しない”かだよな。触れさせたくないのなら早めに回収するべきだろうに」
(持ち主のいないカルマスが生まれることはまず無いからなぁ。基本は“お前らと共にあるもの”だからな)
「まあでも好都合だよな。俺の想像では“持ってない奴”が危ないけど持ってる奴なら大丈夫なんだろうと思うよ。今夜にでも回収するか!」
(場所はわかってるのか?)
「大体の想像はできるよ。キーワードは床下、専門の業者が来るだな」
(なるほど、そう言う事か。床下であるなら一階は確定で、業者が来るってことは現場はそのままか。これなら時間をかけずに目的地を見つけれる。)
「禁止区域の制限時間は5分それ以上は通報されるが入ったタイミングから“灰の巡礼者”が来るまでには逃げきれる算段よ。逃げる間にカルマスを隠すから捕まっても厳重注意で数時間の拘束でいけるし、ダメでも後日回収すればいいし」
(お前さんに珍しく妙案じゃねーか)
との事なので時計を見ると間もなく日没の時間、シェルターによって天候、時間などは全て管理されているので1分の狂いもない。天気予報と言うより我々の世界は天気予定ってのが正しい言い方かもしれない。
近くのファミレスで時間を潰し、その時を待つ。ただ問題はこの後に言われてる業者なるものが来ないかである。人目に付かないと言うことは、彼らも行動しやすいとのことである。こればっかりは運に頼るしかない。
日が落ち、人気が少なくなった頃。俺たち(?)家の前に立っていた。すると
(さて、いっちょ気合い入れますか。)
「と言うわけで気持ち悪いけど、このお前の“足”お願いできるか?」
(気持ち悪いは余計だろう。まあ、素早く行動するならこれが一番手っ取り早いからな)
すると太ももの辺りが光だしたと思ったら、足がみるみる変形していく。やっぱり虫の足にしか見えない。嫌悪感を抱くものの、仕方ないと決意を決めて窓に手をかける。予想ではリビングの辺りだろうと思っているので一旦一直線で向かう。この窓はリビングに近いわけではないが、禁止エリアに入らなくても触れるのでここに決めていた。
「じゃあ相棒、頼むぞ。目的地はリビングだ」
(ラジャー。ついてこいよ。)
その瞬間、窓に足をかけて踏み込む。割れる音よりも早く着地をして、落ちる大きなガラスを足で弾く。音よりも早いのでガラスの音は相殺する振動に負けて耳をすませば聞こえるぐらいに抑えることが出来た。そして反対の足に踏み込みのチカラを入れて廊下を跳んでリビングに向かう。この間の時間は数秒。
身体が風圧で飛んでいきそうになるが堪えて前のめりになりリビングの扉を開ける。しかし、目の前の光景に時が止まる…。
「お父さん?まだ探してるの?」
そこには見慣れた…いや…実際に見たことはない。笑うと柔らかいが、無表情だと年齢以上に大人びている。飲み込んでいた思いが溢れる…
「…灯。大きくなったな…元気だったか?」
灯と呼ばれた女の子は照れながら
「もー、なに言ってるのよお父さん。会いに来てくれたのはお父さんでしょ?どうせ、来ないでって言っても来るくせに」
「…流石に灯に来ないでって言われたら、流石に会おうとはしないよ。けどな、お前をひと目でも近くで見たかった。」
ツカサの目に涙が溢れる。怖くて聞けなかった言葉、伝えることも出来なかった言葉がようやく届いたんだ。自分のしたことを許して欲しいとかじゃない。けど、会ってもう一度話したかった。灯と呼ばれた女の子は
「それにしてもまた“こんな時間まで”仕事?それでお母さんが怒ったのにまだしてるの?」
「ごめんごめん。癖は中々直んないや。やっぱりダメかな?」
灯と呼ばれた少女はツカサの近くまで来て。
「私が会いたいって言った時に寝てるのは嫌だよ?」
「…会ってくれるのか?いや…会いたいって言っていいのか?」
「さあ、言われたら困る人もいるかもだけど、私もう14歳だよ?私が決めることだってできるよ。」
ツカサは嬉しくてつい、肩に手を置いてしまった。慌てて手を離すと、灯と呼ばれた少女はツカサの手を取り。
「されても嫌じゃ…ないよ。お父さんの手、久しぶりかも…」
ツカサは抱き締めてしまった。もちろん恋愛のそれではなく親子の愛情が…ずっとこうしたかった。
「ごめんな。お父さん、灯もお母さんも悲しませた。許さなくてもいいけど、お父さんの事を忘れないでほしい」
「なにバカなこと言ってるのよ。私がお父さんに事忘れるわけがないじゃない。許してって言うならそうだなぁー。じゃあ、今流行ってるシール買ってよ。小さくて、ぷっくりとしたシールあるの!」
顔立ちは母親の整った顔立ちでモデルでも通用する。仕草も話し方も凛としているのだけど、話の内容は“あの時の”ままだった。懐かしいな…
「シールか。ああ、良いともお母さんに内緒でいっぱい買ってあげる灯は昔っから集めるのが好きだな。」
「やったー!お父さんありがとう。」
ああ、自分が望むことが叶うなんて夢のようだ。あれ?自分は灯に会いに…こんなところまで来たのか…?良カッタ…、来テ良ッタ…。
(おい!何してる!?しっかりしろ!)
何処かから声が聞こえる…でも、灯がここに居るのに他の事を考えれない…
「あかりね。もう1つお願いがあるの?」
「何だい?言ってごらん?」
(意識をしっかり持て!目の前をしっかり見ろ!この状況を…)
「お父さんの“中の存在”が私たちの関係を邪魔しようとしてるの。だから…」
(おい!ヤバイ近づいている。逃げ…)
「そうか…それは良くないな。でもお父さんではどうしょうもできないんだけど、どうしたらいいかな?」
灯と呼ばれた少女はツカサにもう一度抱きつき、背中をトントンと叩く。
(ダ…ダメ…だ…。逃げ…)
ガラスが割れる音と共に“何か”が砕ける。すると、背中から黒い粘着質の物が床に落ちる。ただ、途端に1ヵ所に収縮して“黒い結晶”となる。
「灯?どうにかしてくれたのか?これでお前とずっと、一緒に居られるか?」
腕の中の子は優しく頷く。そして温もりを感じる。これは決して幻じゃない。これからはこの子の為に…
割られ、弾かれ、外に掘り出された。かつてツカサと共に歩もうとした“モノ”が見上げる。もちろん身体もなければ存在もない。ツカサによって顕現していた。偶然産まれた、カルマスの意識。
(ダメだ…アイツから引き剥がされてしまったら俺に何もできねぇ。しかも相手は“ティフ…”俺じゃ敵わねぇ。)
見上げる先にツカサが抱き締められている。ただ俺はアイツの娘を見たことはないが、“天使の羽のような物”が生えているはずがない。ツカサに抱きつく女性は人であれば心を奪われるであろう美貌。あの天使は人を癒す、慈愛を持って心の穴を埋める。まるで失ったものを補うように…そして、心に取り憑き、心臓のように無いと生きれない呪いをかける。
(そらぁ、コイツは灰のやつらは対処しないよな…。失敗したなぁ。俺はここまでか…あーあ、ツカサとの生活楽しかったのに…)
崩れて、まもなく砂になり消えかけるが、それを待たずに、結晶の前に美しい天使が立って、勢いよく割れた欠片を踏み、欠片も残さず壊す。ツカサは天使に手を引かれて目が虚ろになっている。
視界がブラックアウトになる。見えない視界の中で意識が消える前に、ツカサの声だけが聞こえる。
「灯…これからもずっと一緒だよ…」




