【Episode S:Festival of Noise /ノイズの祝祭】
<Chapter4> <57>
すももさんと同居が始まってから1週間が過ぎようとしていた。すももさんとの約束があるので数日でパソコンの操作を覚えた。と言っても起動や文章の打ち方、メールの対応、返信など。すももさんは夜勤もあるのでメールの対応は私がして、詳細をまとめてすももさんと誠司院長にメールで送っておく。
今の現状、探偵さんからの連絡だと、製薬会社が流通に関与の疑いと狗狼会と呼ばれる半グレの集団が仕切っているとのことだった。
半グレが関与しているのは、驚くべき事はないのだが、あの製薬会社が関与しているとなると話が変わってくる。流通している薬の大半はその製薬会社が製造していて、多くの病院は製薬会社にお世話になっている。これに関しては流石の誠司院長も困惑していた。目下の問題は治療法なので、どうにかして現物を手に入れたいと言っていた。
この件に関しても探偵さんには連絡済みで、無理かもしれないけど現物を手に入れてもらうようにお願いしている。そっと、パソコンの画面を閉じてサエは目頭を押さえる。
「ようやく、貯まっていた探偵さんとの連絡と、こちらの追加の要望を伝えることができた…みんなすごいなぁ…こんなことを毎日してるなんて」
寝たきりだった少女は自由と言うなの不自由に直面する。あの時1人で病院を飛び出していたのなら、野垂れ死んでいたのだろう。すももさんや誠司院長には感謝してもしきれない。
ぐー
朝から何も食べてなくてお腹が鳴く。時間を見ればもうお昼。まだ流石に料理はできないので、すももさんが作り置きしてくれている手作りパンをメインに卵とウインナーを焼く。少しづつだが、簡単な調理は出来るようになってきた。
最初はホントに大変だった。数日はすももさんと料理をしていたのだがキッチンで火柱が上がったり、爆発したりとカオスで、片付けをしようとしたら水を撒き散らすなどをして、家主が帰ってきたら怒られそうなレベル。でも、サエにとっては全てが新鮮で楽しかった。
すももさんのパンを食べながらカレンダーを見てると今日の日付に丸印が付いていた。その印は誠司院長との約束のご飯の日で夜に家にお呼ばれしているのだった。
「夕方ぐらいにはお家に行かないと。それまではなにしようかなぁ」
すると、鍵の音がして扉が開く。すももさんが帰ってきたみたいだった。
「ただいまーサエちゃんおはよー。いい匂いするね。今日はなに食べたの?」
夜勤終わりで髪の毛がボサボサな、すももさんが食卓に座る。
「ウインナーと卵ですけど、すももさんも食べます?パンも温めますよ」
「食べるー!サエちゃんお願いしまーす。ご飯作ってくれるのありがたいよぉ」
すももさんは元気良く手を上げたかと思うと空気が抜けた風船のように食卓に倒れこむ。私は立ち上がって冷蔵庫を漁りながら
「んもー、すももさん。まずは手を洗って来て、着替えてきてください。看護師さんが不衛生なのはだめですよ。その間に用意するのでちゃちゃっとしてきて下さい。」
「はーい」と目を擦りながら洗面所に向かう、すももさん。日勤も夜勤もしてるので疲れが貯まってるのだろう。そんな、すももさんには尊敬をする。毎日、気をはってみんなの為に仕事をしている。そのため、休みの日や仕事終わりは死んだように寝ていることがしばしば。
だから私が家事ぐらいして、すももさんのサポートしていきたいと思っている。料理はすももさんの足元には及ばないけど…
私がキッチンで準備していると、可愛いうさぎさんのパジャマ(うさぎの耳付き)でひょっこり覗いてる。それを見た私は
「もうじき出来るのでもう少し待っててくださいね」
それを聞くと、すももさんは嬉しそうにピョンピョン跳ねながら食卓に向かう。2人で食卓でご飯を食べながらテレビを見て、他愛のない会話をする。食べ終わったら、すももさんは限界みたいで吸い込まれるように寝室に向かう。
私は自分のと一緒に、すももさんの食器を片付ける。夜勤明けは次の日休みのことが多いので、すももさんは起きることはない。起きて小腹が空くだろうと思いご飯を炊いて、漬け物を切ってお皿に並べてラップをする。まだ私が出来ることはここまで。
洗濯と洗い物は済ませてパソコンの電源を入れる。私がわかる事をネットワークで調べる。事件、事故。不可解な事が何かのヒントになるかもと思い。
ふと目にしたサイトが気になったのでクリックしてみる。【不思議現象まとめ】というサイト。投稿型のサイトで不思議な出来事が投稿されていた。新都での事件。星屑の蔓延。ガス漏れ地域の封鎖。
ん?ガス漏れ地域多くない?場所はバラバラで規則性は無いものの見た限りでは数ヶ所ある。しかも、一番近いガス漏れ地域の場所で最近、黒い大きな鳥の目撃情報。
気になったので、書き込みをしてみることにする。
【どなたか、その黒い鳥の詳細ご存知ないですか?】
書き込みをするといくつかの追加の書き込みが
【元々ガス漏れって聞いてたんですけど、実際はガス漏れてないみたいですよ?】
【噂では黒い鳥の目撃の前に黒い獣みたいなのが暴れまわって封鎖されたとか】
【新都の方でも夫婦揃って行方不明になってる事件があるとか】
【あれって先に奥さんが行方不明になったとかじゃなかったっけ?】
【何か惨殺事件だったらしいよ。旦那が消えたのなら犯人じゃね?】
【塔の監視を掻い潜って怪物が侵入してるんじゃないかって言われてるな。あいつら警備兵はなにしてるんかね?】
ネットワークと言うものは不思議である。私たちがコミュニケーションを行っているが近くにいなく、離れた場所でもコミュニケーションをとることが出来る。別の世界、電脳空間と言っても過言ではない。ただ、この世界は悪意を出しやすい。
証拠がないのに犯人の断定や非難。悪態などや自分が優位に立っているかのようなコメント。普段口に出せない本音や思いを電脳空間に乗せることによって世界に発信されてしまう。怖いところである。
情報を得ようとしたが、ついに私が女性であることを知ったコメント者達が自分の利を見せつけて。【詳しく教えるから会おう】【場所に案内するよ】【どこに住んでるの?】などと悪意を向けてくる始末。
嫌気と悪寒が出てきたので退出しようかとサエは思ったのだが、気になる文が
【ガス漏れ地域で女性を目撃。金髪ショートボブで行方不明の女優ではないか?】
金髪のショートボブ?もしかして?サエはサイトを出て検索をする。そこには病院の屋上で出会った女性の写真が
「間違いない…あの人だ。有名な人だったけど行方不明?あの話からしたら、この人は望まないのにチカラを手にしてしまったのかな?好きな演劇も捨てて…」
けど私と話したときの仕草などは観客を魅了する演技だったのだと思う。知らない私だったからあんまり良い反応出来なかったけど。また、会えるだろうか…今度は色々聞かないといけないことがたくさんある。
人の悪意に当てられてしまって、ノイズのように耳鳴りがする。時計を見ると夕方前になっていて、そろそろ出掛ける時間になっていた。テーブルには、すももさん宛の書き置きをして出掛ける。食事会の後少し、あの女優さんの目撃のところに行こうと思うけど、禁止区域は中に入ることは出来ないし下手したら、灰の巡礼者に捕まるらしい。
まあ、誠司院長に禁止区域に行ってくるなんて、言えば怒られるから言わないけど、気になったので帰りに向かうことにする。
ご飯会も無事に終わり帰路に着く。誠司院長も奥さんもとても優しくしてくれて、家族の暖かさを感じた。奥さんも私の事を実の娘のように接してくれて、またご飯会以外も遊びに来ていいとのことで今度、料理を教えてもらう約束もしたのだった。
お腹も心も満たされた帰り道、行き先はガス漏れの禁止区域。進入禁止の黄色いテープが貼っているので中の様子はわからないけど、微かにだがカルマスの波動、残り香のような物を感じ取った。もちろんあの金髪の女性かはわからないが、何者かがここで戦ったのはわかった。そんな時…
「そこの女ぁ、妙な気配をしてるな!何者だ!」
背後より大きな声で怒鳴られたのでビックリして振り向くと皮のジャケットを着た男がこちらを向いていた。男からは威圧感と共にチカラの波動を感じる。
「貴方からカルマスのチカラの波動を感じます。何者ですか!」
「面白いことを言う小娘だな。質問してるのは俺だぜ、あと、お前は危機感が足りねぇ」
男はそう言うと目の前から姿を消す。消えた?いや、高速で動いただけ。周りを見渡すと私の周りをやはり高速で動いて距離を詰めてきている。
「ハッ!見えるのか面白い。これならどう、だっ!」
男は手に何処からか刃物を握りこちらに振り下ろす。私は咄嗟に避けようと思ったけど、真っ二つにされてしまうイメージが浮かんでしまって、瞬時に止めるイメージをする。もちろんそんなこと出来るはず無いのだけど…
と思ってたけど、皮ジャケットのエモノは私の元々居た場所で空を斬る。それだけでなく男の腹部にキズが入り、腹部より銀の結晶が溢れる。
「小娘やりやがったな…避けるだけじゃなくて“爪”で反撃しやがった。ノーヴァのくせにチカラをコントロールしてるな。しかも“複数持ち”か」
良くわからない事を言っているけど、確かに避けるとお腹に手が当たったのはわかる。驚いて見ても切り裂くほどの爪は伸びていない。複数持ち?ふとあの金髪の女性の会話を思い出す
“それだけあれば【ノアス】如きでは死なないでしょ”
「そっか!そう言うことなのね!貴方いえ、“ノアス”相手では私は負けない!」
男は握った鎌をプルプル震わせ、何かぶつぶつ言っている。よほど私みたいな子供に反撃されたのが気に入らないのかな?
「お前…俺様が…あんな知性のない残りカスの獣だと…舐めるな!お前らこそ、ただの喰われるだけの突然変異だろうがぁぁ!借り物のチカラでずいぶん大口叩くんだなぁ!もういい、てめぇは消す!消えな!」
「「天を切り刻め…オル…」」
怒鳴った後に姿が消える。先ほどとは比べ物にならないぐらいのスピード。気がつけば両腕から血が流れていた。切り落とされてはいないが斬られている。痛みがじわじわ身体に流れてくる。気がつけば男が背後に立っていて、両腕の鎌を振り上げ背中の所で停止していた。
「…ド…。」
何かを唱えようとしている刹那。目では追えているが逃げることも避けることも不可能と感じる時間。時間にして1分以内の出来事。
パンッ
振り下ろす瞬間に皮ジャケットの更の後ろに赤髪の男が振り下ろそうとしてる鎌を片手で2本とも握る。殺伐とした雰囲気を壊すかのように笑いながら
「おいおい、真名まで出して本気過ぎるぞ。焦る気持ちはわかるが少しは落ち着けよ“ジン”」
私はギリギリのところで急に現れた男性に救われたのだった。
…誰?
やっぱり、2人のやり取りは癒されるので好きです。




