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【Episode K : The Heart Has No Backup/心に、バックアップなんてない】

<Chapter3> <50>


クレア・アグニと名乗る人外のヴォルガは驚くことに僕たちと同じ姿をしていた。会えば頭から飲み込まれるぐらいの悪魔を想像してた僕としては拍子抜け…する事はなかった。カイトと名乗った男から発せられる気迫は格段に違うと本能が記憶している。


そんなことよりもまさか交渉が成立したどころか、身の安全まで保証される立場になるなんて誰にも想像できないだろう。ただ、この件はサクラさんには話せない、話してしまうと家族の身の安全が保証されないという脅迫ではないが、枷のようなものに感じた。


カイトさんからは翌日に来てほしいと場所のメモだけ渡された。サクラさんと同居ではないが、近しい位置にいるので目を盗んで出掛けるしかなかった。


そっと2階から降りるといつもの席にサクラさんではなく、別のバイトが座っていた。そっと話しかける


「おはようございます。サクラさんは?」


「サクラさんでしたら行くところがあるって言って出掛けましたよ。数日は戻らないそうです。」


ナイスタイミング!変な言い訳をせずに向かうことができそうだ。慌てて自分の部屋に戻って、出かける支度をする。そして、そのまま1階まで駆け降りて


「すいません。自分も人と会う予定なんで行ってきます。すぐ帰ると思いますのでよろしくお願いします」


バイトの人は「りょーかい」と短く言って手を振ってくれる。


目指すは新都の会社?見たことのない名前の会社だった。まあ、と言っても会社に詳しいわけでも、調べたこともないが


サクラさんのお店、月灯堂げっとうどうから電車で20分徒歩で10分と気持、ちょっと遠出になった。そとから見たら何の変哲もないビルでエレベーターで3階に上がる。そこには【AshLink Systems Inc.(アッシュリンク・システムズ)】と会社の看板が置いてある。


呼び鈴を押したら、中から小柄の女性が出てきて、笑顔で


「どなたかと面会の予定はありますか?」


慌ててしまったが「カイトさんはいらっしゃいますか?」と短く聞くと、女性は奥の部屋に案内してくれるとのこと


扉を開けると小さな会議室で神父(?)が座っていた。自分に気がつくと手招きをする。


「あ、来たね。こっちこっちまあ座りなよ。コーヒー飲めるかい?よし、じゃあ用意してもらえる?」


案内してくれた女性は会釈をして部屋を出ていく。自分は聞きたいことが沢山あったので聞いていく


「ここは何の会社なんですか?そもそも何で神父なんですか?貴方はいったい何をしようとしてるんですか?」


「まあまあ、待て待て。聞きたいことが多いのはわかるけど全部答えてたら日が暮れるよ。君には先にしてほしい事があるんだ」


「はあ?して欲しいことですか?」


「この会社が管理している塔の近くのサーバールームに荷物を取ってきてほしい。塔には入らなくていいし、近隣には“灰の巡礼者”の支部もあるから安全だよ。」


カイトさんは地図を広げるとここから少しはなれたところに禁止区が隣接している、支部の場所が記されてた。


「そこに行けば、黒いフードをかぶっている者がいるから、ソイツから箱をもらってきてほしい。別に試験とかじゃないから気楽に行ってきてくれる感じでいいよ。」


そう言ってもらえるなら身構える必要はなさそうだった。


「わかりました、行ってきます。帰ってきたらお話してもらえますね?後それと、家族の件ですが…」


「家族の件は既に“灰の巡礼者”の庇護下のもとにある。これに関しては約束だからね。心配しなくてもいい。“君がどのような事”になろうが我々は全力で君も家族も保護することを約束するよ」


地図を受け取り、目的地に向かう為に立ち上がる。入れ違いに持ってきてくれたコーヒーを一気に飲み干し、オフィスから出ていく。


また電車を乗って数十分、第五区画にやって来た。禁止エリアが地図とは違って広がっていたので聞いてみると先日、未確認の怪物が暴れたとのこと。不安にはなったが、目的地に向けて歩く。


地図を見ながら来るとコンビニのような小さな店舗が現れる。この距離で天を突く塔を見ると強大な建造物であることがわかる。


恐る恐る、呼び鈴を鳴らすと中から「裏口からどうぞ」と言われ、裏口に回る。草が生い茂っていて、管理されていないような状態。サーバー管理が、ちゃんとされているか不安になるが扉を見つけたので扉に手をかける。ノブには鍵がかかっておらず中に入れる。


電気はついてなくて、暗いがパソコンのカリカリという音とパソコンが稼働しているので至るところで小さな光がある。


「あの…すいません…カイトさんの頼まれ事で来た者ですが…」


パソコンのサーバーが沢山あるのでメンテナンスルームで間違いないが、暗すぎて人がいるか不安になる。少し中に入りパソコンの所に向かう、すると背後から


「ユウキくんですか?」


急にビックリする。背後から声をかけられて飛び上がりそうになる。声が若い?振り向くとやはり小柄な黒いコートでフードを着けていて顔ははっきり見えない。と言うか暗すぎて顔が浮いてるように見えるぐらい。


「は…はい。カイトさんから物を取ってきてほしいと言われて」


フードの者は“左手で”目の前に赤い箱を出してくる。暗いけど赤いとわかるぐらいでメッキの箱なんじゃないかと思うぐらいだった。


「これだよ、“これに入れて”カイトの所まで運んで」


何を?と思いながら箱を預かる。開けて良いかと聞くと頷いたので箱を開けるすると…


“中身の無い空っぽの箱だった”


疑問が浮かんで聞こうかと思った瞬間、右の方から身の丈ほどのモノが身体を“真っ二つにする”


ブンッ…パァン!

身体の中で“何かが割れる音”から液体が飛び散る。


切られた反動で自分の身体が壁に当たる。その時、スイッチの電源が入り電気がつく。切られたと思い。傷口を押さえながら、相手を見ると三股に別れた2メートルはあるであろう槍とそれの半分ぐらいの身長の黒いフードをかぶっているものがそこに居た。


「あんた…いったい…何をするんだよ。消しに来たのか…」


黒いフードは「ないない」と言ってフードの前で横に手をふる。


身体からは液体が流れ“黒い水溜まり”ができる。ん?黒い?


「切られたのに切られてない?傷口はない?けど、何だこの黒いの?」


確かに槍は身体を通過して何かが割れて、液体が出た。それはもう殺されたのだと思うのが普通。


「流石に“僕は”殺したくはないよ。そもそもコレでは君を殺せない。」


そう言うと自身の下に貯まっている黒いの液体を身軽に槍を突き立てる。


「そうか、これが報告にあった“黒”なんだね。僕じゃ何かわからないな」


そう言って黒い液体を掬うように槍で持ち上げるとスライムのように槍の先に集まって飛び散った物が1ヵ所に集まる。するとスライム状が固まって黒い結晶になって床にゴンッと言って落ちる。自分は不思議になり問いかける


「何なんだこれは?」


「君が知らないのは意外だね。君が知らないものを僕が知ってるわけがないじゃないか。さて…」


そう言ってフードの者が黒い結晶を拾い、切られた瞬間に落としてしまった“赤い箱”に入れて、渡してくる。


「さあ、君の仕事はこれをカイトの所に届ける事だよ。」


何が何だかわからない。敵意がないのはわかるし、声からするとまだ子供?カイトさんがこれを見込んでここまで派遣されているなら、間違いなく


“仕組まれている”


「あんた、カイトさんの仲間か…母さん、いや家族に手を出したらこのチカラを使ってでもあんた達を消すぞ」


強い言葉は身を滅ぼすかも知れないが、言っておかないと、母さん達が被害にあうことになる。するとフードの者が


「心配しなくても、それは大丈夫だよ。カイトに聞いてないのかい?“2人とも”塔の保護システムに守られている。住んでた家は引き払ってもらったから転居はしてもらったけどね。場所はカイトが知ってるよ。聞いてみるといい。それに“これで君の安全は保証された”ここからは君が選択して進む道だ。どちらを選んでも家族の安全は変わらない」


カイトさんと出会った時も言っていた。選択とは何か?何が安全なのか聞いてみるしかないと思い差し出された赤い箱を受け取り、この場を後にする。後ろから切られるんじゃないかと警戒しながら振り向いたら黒いフードの者は手を振って見守っている。何なんだこの人…調子が狂うな。


元来た道、元来た電車で第三区画の会社【アッシュリンク・システムズ】に戻ってきた。戻る前に黒フードが言っていた家の件も気になって向かおうと思ったが本人に聞くのが一番早いし、何ならチカラを解放(解放の仕方は知らないが)して闇の鎧なる者を呼び出せばいい。気合いを入れて扉を開ける。


ギィ


扉を開けると最初に案内してくれたお姉さんがまたで向かえてくれる。情報も集めとかないと、と思い名札を見ると【西園寺】と書かれていた。


「おかえりなさい。奥の部屋にどうぞ」


そう言って案内してくれる。扉の先にあの人がいる。胸を押さえて呼び出せるようにしておく(呼び出せないかもだけど)


そこには何事も無かったかのように白衣を着たカイトさんが座っていた。そして僕をみて


「あ、おかえりなさい。その顔は疑心を持って帰って来たね。すまない。こうでもしないと、脅威が収まらないからね。まあ座りたまえ。今までの事とこれからの事を話そうか」


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