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通貨革命  作者: キャズ
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メリエ編 5

「聞きたいんだが、メリエは俺の策をどれくらい理解してるんだ?」


「えーっと、紙のお金で融資をするとお金の量が増えるって話を聞いたくらいで、どうして増えるのかその理屈は分からないって感じです」


「ふむふむ、なるほど…」


 ユーグは少し考えて教える内容を整理し、メリエに仕組みを説明していく。


「まず、硬貨で融資をした場合と紙幣で融資した場合、その違いについてだな。融資を金貨や銀貨といった硬貨で行う場合、銀行はその分の金貨や銀貨を貸す訳だから、銀行が保有する金貨や銀貨は融資する相手に移動する事になる。だが紙幣、つまり同等の金貨や銀貨と交換できる小切手での融資であれば、小切手が融資先に渡るだけで銀行が保有する硬貨は減る事は無い。つまり銀行が持つ硬貨はそのままに、同等の価値の紙幣が行き渡る形となる」


 説明の途中だが、メリエはふと気になった。


「ん?あれ?でも小切手って、その分の金貨や銀貨との交換を保証しているから信用が成り立っているんですよね?どの道その分の硬貨がないといけないんだから、それでお金を増やせるって事にならないんじゃないですか?」


 予想通りの反応と言わんばかりにユーグはニヤリと笑う。


「まぁ、ただ小切手を流すだけだと銀行の負債が増え続ける事になるな。それだと通貨を増やせる仕組みにはならん。だが、融資という形だと話が変わる」


「ほぅ」


 メリエは興味深そうに身を乗り出した。


「紙幣を譲渡した場合、銀行はその分の金貨や銀貨を渡さなければならないという負債を負う事になる。だが融資の場合は違う。紙幣を渡した側ではなく、紙幣を渡された側に返済義務が発生する」


 ユーグの説明にメリエは納得した様子で手を叩く。


「あぁそっか。紙のお金をただあげた場合は銀行側が紙のお金と硬貨を交換しろって言われる立場になるけど、融資で紙のお金を渡した場合はこっちが貸した紙のお金を返せって言える立場になるんだ」


「そう。そしてこの仕組みは、負債と共に通貨が増え、負債の返済と共に通貨が減少する構造となる」


「負債で増えて返済で減る?」


 メリエは首を傾げた。


「状況を整理しよう。銀行が100万フィル分の融資を紙幣で行った場合、銀行の元にある金貨や銀貨はそのままに、100万フィルの紙幣が融資先に行くと共にその分の負債を融資先が負う事になり、100万フィル分の債権を銀行が持つ事になる。この時点で、銀行に100万フィル分の硬貨と融資先に100万フィル分の紙幣、計200万フィルが存在する状態になる。ここまでは分かるな」


 ユーグの説明にメリエは「はい」と言い頷いた。


「じゃあ、ここでは利子はないものとして、その100万フィルを融資先が紙幣で返済した場合何が起きるか、分かるかな?」


 ユーグの質問にメリエは顎に手を当て考える。


「えーっと、100万フィルを紙のお金で返した場合、流したお金を回収している訳だから…」


 メリエは頭の中でお金の流れを想像する。

 紙のお金で融資した場合、お金を貸した分だけ通貨の量が増える。借金の分だけ通貨の量が増えるのだから、逆にお金を返すと…。


「あー、なるほどねぇ。融資をした時にお金の量が増えて、返済で回収して量を減らす感じなんだ」


 ユーグは頷いた後言葉を付け加える。


「まぁ、実際に融資する際には利子だってあるし、硬貨での返済にも対応しなきゃならんからもうちょっと複雑にはなるがな。そして融資という形で流すのにはもう一つ意義がある」


「もう一つ?」


「融資先は負債の返済のために紙幣を求める様になる。つまり、融資先が供給している商品と紙幣を積極的に交換してくれる様になる」


「そっか。紙のお金が借金の返済に使える。それが紙のお金の価値になって、商人達が紙のお金で取引する理由になるのか。それで紙のお金で商品と交換できるって信用を作り出すって事ですね」


「あぁ」


 ひとまずお金の量が増える理屈は分かった。商人が紙のお金を欲しがる仕組みを作っているのも分かった。だけど、すこし引っかかる点がある。


「うーん…。すごいはすごいんですけど、管理とか大変そうですよね。この策って、自分達でお金の価値を守らなきゃいけないんですよね?すこし失敗しただけでも大事になりそう…」


 一見すると素晴らしい仕組みではある。上手く運用すれば、この街どころかこの国全体を救う救世主になりうると言っても過言ではないだろう。しかしこの策、とても危うい。通貨を増やせるのは確かだが、通貨を増やせるからこその問題もあるのだ。


「確かに、この策はお金が増えて全て上手くいくなんて都合のいい代物じゃあないな。自分で通貨を発行できるからこそ、やらなきゃいけない事も多い。紙幣を発行する際は、その紙幣と金貨や銀貨といった硬貨と交換できる状態を維持しなければならないのはもちろん、通貨を流す事で産業を守り、通貨で様々な商品を買う事ができる状態を守らなくてはならない。紙幣は所詮引換券、価値ある品と交換できなければたちまち信用を失ってしまう」


「いくら紙のお金を増やせても、それと交換できる物がありませんじゃあそんな紙切れいらないよってなっちゃいますもんね」


「さらに、この仕組みが下手に知れ渡るのも困る。通貨を増やせるというのが大衆に知られれば、もっとカネを寄越せもっとカネを増やせと大衆がせがんでくるだろうし、下手にこの仕組み真似をする奴が出てきて、いい加減な運用をして紙幣の仕組みを破綻させてしまうとこっちの信用まで連動して失ってしまうし、集団ヒステリーの様な想定外の事態にも弱い。とまぁ、ざっと並べただけでもこれだけのリスクがある」


 そんなリスクの話を聞いて、メリエはマダンに言われた事を思い出した。


(あぁ、だからか。マスターがユーグの策は絶対に口外するなって言ってたの)


 メリエはユーグと会う前にマダンに言われていた。ユーグの策は機密事項だと、部外者に知られると破綻する可能性があると。だからこそ、言いふらしたりしない様しつこく注意された。

 そして、そんな策だからこそ不安がよぎる。


「えっと…そんなにリスクだらけなのにやるんですか?紙のお金の流通」


 確かに今のこの街は通貨不足で困っている状態ではある。だけど、いくらお金を増やせるからと言って、ここまでのリスクだらけの策をやるべきなのかというと流石に疑問が沸く。期待よりも不安が勝ってしまう。

 そんな不安そうなメリエに、ユーグは気だるそうなため息を吐いて言う。


「面倒だが、この国の現状を考えればやらなきゃいかん。この国というより、金貨や銀貨や銅貨といった硬貨での取引にそのものに限界が来ようとしてるからな」


「えぇ!?金属のお金に限界が来てるんですか!?」


 突然の通貨制度限界宣言につい驚いてしまうメリエ。一方ユーグは淡々と話しを続ける。


「あぁ。通貨ってのは本来経済活動を円滑に進めるためにあるもんだ。だが、最近では通貨が経済活動のかせになりつつある。商品を欲する人が大勢居るのに、通貨が足りないせいで欲しい物を買う事が出来ない。必要とされている商品を皆に行き渡らせれるだけの生産能力があるにも関わらず、通貨不足で客が来ないからいくら求める商品を作っても稼げない。結果、通貨が足りないから商品を買うな作るなという状態になってしまっている。このままでは、この街はカネが足りないからという理由で産業を縮小しながらカネの奪い合いに精を出す、そんなどうしようもない街に成り下がってしまう。だからこそ、今やるんだ」


「なるほどねぇ。金貨や銀貨のままだと金や銀がある分までしか経済を成長させる事ができない。そして今その限界が来ようとしているから、その限界を超えるための仕組みに変えていこうって事ですね」


「そういう事」


 一通り話がまとまると、ユーグは再びだるそうなため息を吐き、愚痴る様な言葉を並べていく。


「本当なら紙幣の流通はもっとじっくりやりたかったんだがなぁ。国がちゃんとしてないせいで計画の前倒しをしなきゃならなくなった。有力者連中も予算が削られるって分かると、助け合って乗り切るための話し合いもろくにせず、すーぐに予算の奪い合いの話をし始める始末だし。ほんと、こっちの身にもなって欲しいよ、全く」


 これから紙のお金を使う様にするという突拍子の無い話が出てきて驚いたけれど、話を聞くに、きっとユーグは小切手での取引に慣らせてから策を実行するつもりだったんだろう。それが政府の決定のせいで前倒しを余儀なくされた。ユーグとしても急な変更は不本意だったに違いない。

 とりあえず、これでユーグのやろうとしている事ややらなきゃいけない理由はだいたい分かった。

 ユーグの提案した紙のお金の流通は前々から準備を進めていた事で、既にある程度の土台は出来ていた。しかし、本来であればもっと時間をかけて進めていく予定だったものを前倒しにしているもの。安心感と不安感の入り混じる中、紙のお金の流通が始まった。

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