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通貨革命  作者: キャズ
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メリエ編 1

 山間の街フィレーゼ。ブランツ王国にある街の一つで、豪華な服や美術品等の生産が盛んな街。景気が良かった頃は庶民もちょっとした贅沢品を買う余裕があり、フィレーゼは庶民が手を出せる程度の豪華な服や工芸品を多く生産し発展させてきた。しかし、今は景気が悪くなり、ちょっとした贅沢品を欲しがる人も減り、客足が遠のいてしまっている。街の人の多くは不安の中で生活していた。今はなんとか生活できているけれど、今後はどうなるか分からない。そんな淀んだ空気が街全体に漂っていた。

 そんな閉塞感に満ちた街。そこにある商業ギルドの事務室で一人の女性が出かける支度を進めていた。

 20代前半くらいの女性。体格は中肉中背、切り揃えられた短めの髪に小奇麗に整った服装と一見すると真面目そうな印象を受けるものの、どこかおちゃらけた雰囲気もまとっている。

 彼女の名はメリエ・リエラ。この街の商業ギルドに所属する職員で、この度通貨不足に対応するユーグ・リーデンの監査役に任命され、これからユーグの銀行へと向かう所なのだ。


「メーリエ」


「む?ルールゥにマニカ。どったの?」


 メリエに話しかけてきたのは同僚の二人、ルールゥとマニカだった。二人はニヤニヤと含みのある笑みをメリエに向けている。


「聞いたよーメリエー。ユーグさんとこの担当になったんだって?」


「いいなー。私もユーグさんのとこに行きたかったなー」


「えー?そう?」


 ユーグの監査役となったメリエを羨ましそうに見つめるルールゥとマニカだったが、当のメリエはどうにも気乗りしななかった。

 ユーグ・リーデンはこの街でとても人気がある人だ。強い立場の人に対して強気に接し、弱い立場の人には優しく対応するその姿勢。若くして銀行を経営し、この街の銀行としてお金を管理し、融資によってこの街の産業を支え守ってきたその実績からこの街のヒーローの様に扱う人も居るほど。

 そんな人気のあるユーグだけど、メリエはあんまり好きではない。弱い立場の人に優しいのは良いのだけど、強い立場の人に対する姿勢は単純に態度が悪い様にしか見えないし、彼の優しいとされる所も何か企みがありそうな感じ。実績はあるし、街のために貢献もしている。だけど信用はできそうにないというのがメリエの感想だった。


「ねぇねぇメリエ。機会があったらでいいからさ、ユーグさんに私の事紹介してくれない?」


「あーずるーい。私も、私もお願いね」


「はいはーい分かりましたよーっと」

(二人とも趣味悪いなー)


 メリエは二人の要求を軽くいなし、商業ギルドを後にした。


 活気のない街の中を歩きながらメリエは思う。


(ハァ…。なんで私があいつの担当なんだろ…。ユーグ・リーデンの担当を希望してた人はいっぱい居たのに、なんで希望してない私が…。いや、だからか。監査役なんだし、ファンになってる人を送る訳にはいかないよね)


 こうなるなら自分も担当に希望しとけばよかったと後悔しながらトボトボと歩いていき、今回ユーグが行う予定の紙の通貨というものについて思考を巡らす。


(…にしても。あの人、紙のお金を流してお金不足を解消させるなんて言ってるらしいけど、ホントに上手くいくのかなぁ。紙だよ?紙。金貨や銀貨みたいにそれ自体に価値あるものじゃないんだよ?それがお金として使われる様になるって言われても、いまいちピンとこないんだよねぇ)


 メリエとしてはユーグの案は半信半疑なものだった。一応小切手での取引はこれまでも行われてきた。だけどそれは一般的なものではなく、一部の資産家や信用のある商人が行うもので庶民が行う様なものではなかった。紙で物を買うのも、紙で物を売るのも、ほとんどの人が経験していなかったのだ。

 自分達は今まで金貨や銀貨や銅貨といったそれ自体に価値がある硬貨を取引に使ってきた。理由は単純、金属その物に価値があるからこそ安心できるからだ。だから、これから紙のお金を使える様になったとしても皆不安で使わないんじゃないかなとメリエは考えている。


 あれこれ考えながら歩いていると、メリエは目的地である銀行に到着した。

 ユーグが経営している銀行、リーデン銀行。この街フィレーゼを拠点とする銀行で、街の住民のカネを預かったり、資金を必要としている人へ融資を行ったり、何かを作る様な所ではないものの、この街を経済的に支える重要な施設だ。

 メリエは受付の人に監査のために来た旨を話し、ユーグの居る執務室へと通してもらい、メリエとユーグは対峙する。


「この度は商業ギルドから監査のために来ました、メリエ・リエラと申します。以後お見知りおきを」


 メリエはそう言ってお辞儀をし、営業スマイルをユーグに向けた。

 一方ユーグは椅子に深々と座り、不敵な笑みをメリエに向けている。


「どうもメリエさん。こちらこそよろしく」


「えーと。本日は紙のお金を印刷している所と融資の様子を視察したいと思っているのですが…」


 ユーグは頷き言葉を返す。


「既に手筈は整えてある。時間が良ければ今から向かおうか?」


「はい」


 既に視察の準備は出来ているとの事で、ユーグとメリエはさっそく目的の場所へと歩みを進めた。銀行を出て馬車に乗り、二人は目的地へと向かっていく。

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