メリエ編 13
港街サザネア。
海運の要所という事もあって多くの人で賑わっており、一見すると活気の満ちた街に見える。だが道の外れには浮浪者らしき者がチラホラと見え、嫌でも景気が悪い事を実感させられる。
人が多く集まるからこそ今でもある程度の経済力があり、なまじ人が集まるからこそ仕事を失った人が集まり治安が悪化している。豊かさと危うさの二面性がこの街から見て取れた。
メリエがチラリと裏路地に目をやると、そこにはガラの悪そうな連中がたむろしているのが見える。
(うーん…これは裏路地とか入ると危なそうだなぁ…)
なるほど、護衛が必要な訳だ。
「噂には聞いていましたけど、他の街は結構大変そうですねぇ」
メリエの言葉に護衛の一人が物悲しそうに答える。
「ここはまだマシな方ですよ。一応主要な都市の一つですからね。酷いところだと、廃墟みたいにとこもありました」
(色々と他所の話は聞いてたけど、やっぱフィレーゼって結構恵まれてるんだねぇ。独自のお金も流通しているし、なんかもう別の国みたいだ)
そして街を歩いて行くと、なにやら揉めている様子の声が一行の耳に入る。
「それ捨てるんだったらくれよ!」
「もったいない!」
「無駄に捨てることはねぇだろー」
「ダメダメ!食いてえならカネを出せカネを!」
パン屋が売れ残ってしまった廃棄のパンをゴミとして捨てようとしていた所、数名の浮浪者が群がって物乞いをしている様だ。
パン屋の店員は羽虫でも散らすかの様に手を振り回し、浮浪者達の要求を無視してパンをゴミ捨て場に放り込もうとしたその時、
「待ってくださーい」
フェルテが駆け寄って廃棄に待ったをかける。
突然何事かと思って捨てるのを一時停止させたパン屋の店員。その店員にフェルテは何枚かの銀貨と銅貨を見せ、
「そのパン、私が買います」
廃棄直前の交渉。
店員は捨てるはずだったものを売るのは如何なものかと一瞬考えるも、まぁ承知の上で買うのならと交渉に応じる事にした。
そして、廃棄される予定だった大量のパンを受け取ったフェルテは群がっていた浮浪者達の方を向き、優しく微笑んで言い放つ。
「皆さん。どうぞ貰ってください」
「良いのですか?」
「えぇ。苦しむ無辜の民を救うのはマルザ教の使命ですから」
そのフェルテの対応に浮浪者達は歓声を上げる。天から天使でも降りて来たかのような喜び様だ。
「おぉ!」
「ありがとうございます。修道女様!」
「この御恩は忘れません!」
そして浮浪者達は次々とフェルテが持つパンを手に取っていき、さっきまで持っていた大量のパンはあっという間に消え、フェルテは手ぶらになった。
(お人よしだねぇ。あんな事やってたら変に頼られて大変だろうに)
喜びパンを頬張る浮浪者達を背に、フェルテはこちらに駆け戻ってきた。
そんなフェルテにユーグは軽蔑の眼差しを向けている。
「なんですか?何か言いたいんですか?」
不満を込めたフェルテの問いにユーグは軽薄に答える。
「いや、余計な事をしてんなぁと思ってな。物乞いしている様な奴をいちいち助けてどうするよ」
「ほっとけませんよ。お金も私が何回か食べるのを我慢すれば助けてあげれるんですし、自分が助けれるのなら助けるべきです」
「一応言っておいてやるが。あんなやり方で一時的に助けても意味ねぇぞ。根本的な問題は何も解決してないんだからな」
「でも、今助けないと取り返しのつかない事だってあるじゃないですか。飢えて倒れてしまったり、病気に耐えられなかったり、今日食べられなければいけない人だって大勢居るんです。そして彼らは、仕事も無く行く当ても無く、明日生きていけるかも分からない、そんな不安の中で生きているんです。これから私達が助けていかないといけない人達なんです」
「ほう、そうか。お前はあっちの方が助けるべき人達に見えてんのか…」
「なんですかユーグさん。違うとか言うんですか?」
フェルテの言葉にユーグは言葉で返さず、フッと不敵な笑みで応えた。
「何ですかその笑みはー」
(まーたやってるよ、この二人は…)
そんなゴチャゴチャギャーギャーとしたやり取りをしながら進んで行き、一行は目的地へと到着した。
マルザ教回帰派のサザネア支部。歳月を感じられる石造りの建物。昔の役所といった雰囲気で、古いながらも造りがしっかりしているのでまだまだ現役といった感じだ。教皇派が昔使っていたお古の施設を回帰派が譲り受けた代物らしい。
護衛の二人とはここで別れ、ユーグとメリエとフェルテの3人は話し合いの場へと向かう。




